838: ham ◆sneo5SWWRw :2018/08/14(火) 22:46:24
この作品は『日本国召喚』と『提督たちの憂鬱』のクロスものです。
原作の平成日本は転移していません。
俺TSUEEE系が入っています。
オリ設定もあります。
以上に留意してお読みください。



提督たちの憂鬱×日本国召喚クロスネタ ロデニウス沖大海戦 後編



パーパルディア皇国の観戦武官ヴァルハルは震えていた。
自分が乗っている帆船は、運よく撃沈されなかった。

彼にとっては、この戦争について記録することが任務であった。
蛮族どもが原始的戦法でどう戦うのかと内心バカにしていた彼であったが、今は違う。

パーパルディア皇国には、帆船を増速させる「風神の涙」と呼ばれる魔石があり、指定供与制限技術目録で輸出が制限されている。
しかしそんなものを使っていないどころか、そもそも帆が無い。
にもかかわらず、敵船は圧倒的に速かった。
しかも、遠目で見てもその船が、重く、水に沈むはずの鉄で出来ているという事実は、彼を余計に混乱させた。

蛮地に無いはずの大砲があり、それも驚くほどの命中率で当て、しかも砲撃でワイバーンの波状攻撃を防いだ事も驚愕である。
パーパルディアであれば、竜母を使用し、ワイバーンにはワイバーンをもって対抗する。
そもそも大砲は、空を飛ぶ物に当たるはずが無いため、それが常識だった。
しかし、彼らはワイバーンにさえ命中させた。

こんなことが有るはずが無い。
しかし、現実である。
いったいどう報告すればよいのか・・・。
そう悩んでいた彼であったが、その思考は一時中断される。

「東の方角から黒煙!
 あの旗は・・・クワトイネの船だ!!」
「な、なんだあれは!?
 さっきの船ほどではないが、速いぞ!!」

乗っている帆船の見張り員からの知らせに、艦長ら乗員がざわつく。
先ほどの艦に掲げられていた太陽を模した赤と白の旗とは違い、今近づいてくる敵艦には緑色の下地に紋章のようなものが描かれた旗を掲げている。
伝え聞く、クワ・トイネ公国の国旗で間違いないだろう。
しかし、その船もまた、帆を張っておらず、蛮地に無いはずの大砲が甲板上にその存在をアピールしていた。

839: ham ◆sneo5SWWRw :2018/08/14(火) 22:46:59

「日本艦隊から『敵艦隊は撤退した』と聞いてどうしようかと思ったが、こんなところで敵艦に出くわすとはな」

クワ・トイネ公国の第2艦隊提督パンカーレは、艦橋でそう言葉を漏らす。
彼らが乗る出雲型装甲巡洋艦は、クワ・トイネがそれまで持っていた帆船とは速度差が大きすぎるため、艦隊行動は不可能であった。
そのためパンカーレは、艦隊に先んじて2隻でアウトレンジから砲撃を行い敵艦の数を減らすことで、後続する味方艦隊の移乗戦闘を有意に進めようと考えて、2隻を先行させていた。
しかし日本艦隊からの無線通信(『出雲』に最初から備え付けられている)で、「ロウリア艦隊が撤退を開始した」と報告を受け、当てが無くなり、
仕方なしに日本艦隊と合流してブルーアイら観戦武官を回収しようかと考えていたその矢先であった。

「見る限り、損傷している艦もいるし、統率が取れているようにも見えません。
 どうやら、闇雲に撤退して、我々と遭遇したとみるべきでしょう」

艦長のミドリがそう推測する。
原作では日本国の『いずも』の臨検を行い、日本人とファーストコンタクトを取った彼は、この世界線でも同じく日本人とファーストコンタクトを取っていた。
その経歴から、供与された出雲型装甲巡洋艦の艦長に選ばれることとなり、日本から派遣された軍事顧問らの指導を受け、初めての蒸気船の指揮に四苦八苦していた。
なお、原作でもこの世界線でも『いずも』に縁があるが、偶然にも使用できる装甲巡洋艦で新しいものを選んだら出雲型であったため、作者が意図したものでないことをここに記しておく。
現にここで書いていて気付いたし・・・ゲフンゲフン!

ともあれ、接敵した彼らは戦闘準備に入る。
彼らの常識からして、亜人殲滅を掲げるロウリアが自分たちに降伏をするわけがない。
撤退するならば、如何せん拍子抜けするが、それでもなお良し。
だが、彼らが取る手段は始めから決まっていた。

「敵艦隊、向かってきます!」

敵艦隊は隊列を整えず、バラバラに向かってくる。
やはりロウリア艦隊は戦闘を選んだ。
事前に予想していたパンカーレはそう心に思った。

「顧問殿。右に回頭して、左舷方向に砲戦を展開しようと思うが、どうかな?」

2隻の運用等の指導要員として同乗している日本の軍事顧問に自身の戦略について訊いてみる。
彼としても、蒸気船での実戦は初めてであるからだ。
日本人顧問は、彼の戦略に問題は無いと答える。

「良し。ミドリ艦長、面舵20度。左砲戦用意!」
「了解しました!面舵20!左砲戦用意!」

『出雲』は右に回頭しつつ、主砲を左舷に向け、左舷側に並ぶ砲も砲撃準備に入る。
後続の『磐手』もそれに続く。

840: ham ◆sneo5SWWRw :2018/08/14(火) 22:47:34
この『出雲』と『磐手』は、史実では重油専焼缶に換装されたが、
憂鬱世界ではそこまで旧式艦を大事に使う気もなく、どうせ練習巡洋艦が完成すれば廃艦にするのだからと、兵装の換装のみに留めていた。
このため、未だ石炭専焼缶を使用しているが、武装はこのロデニウス大陸では強力であった。

主砲の四五口径20.3cm連装砲はそのままであり、副砲の四〇口径15.2cm単装砲は4基にまで減じられており、四〇口径7.6cm単装砲や魚雷発射管は撤去されている。
だが、対ワイバーン用に旧式であるが、四〇口径八糎単装高角砲が4基、エリコン20mm機関砲が艦中央部の舷側の至る所に設置されていた。
それに、竣工時からそのままである20.3cm砲と15.2cm砲も非常に強力であった。

機関室では機関員たちが、クイラ王国産の日本ではなかなか産出しない高品質の無煙炭を次々とボイラーに入れていき、缶圧が上昇させる。
速力を15ノットに増速した両艦は、イの字を描くように相対する。

「砲撃開始!」

パンカーレの命令一下、20.3cm砲8門、15,2cm砲4門、八糎高角砲4門が火を噴いた。
忽ち、数隻の帆船が被弾し爆発が起きる。
2隻に積み込まれている砲弾も、やはり榴弾がメインであり、木造帆船ではその威力に抗えることは出来なかった。
数回も砲撃を行うと、残存艦は半分近くに陥っていた。
先ほどの蛮勇はどこへやら、ロウリア艦隊は退却を始めた。

「なんとまぁ、あっさりと・・・」

戦闘が忽ち終わってしまったことに、パンカーレはいささか拍子抜けする。
自身が知る水夫の切り込みで終始する帆船の戦闘でもこのように短時間で終わることは無い。
改めて大砲の威力を実感するとともに、これらを有する日本への畏怖がさらに強まる。
そしてやはり安堵する。
彼らが友好で接してくる国であり、祖国が敵対の意志を示さなかったことに。



海に投げ出され、漂流するヴァルハルは最早全身が恐怖で染まっていた。
これまで魔法力が弱く、魔法技術が低い文明圏外の国々は、第一・第二・第三世界それぞれの文明圏の列強の魔法技術に遠く及ばないのが常識だった。
その常識が完全に打ち破られ、それどころか、文明圏列強すら凌駕している。
このような事実は認めたくないが、現実がそれを物語っていた。

『出雲』と『磐手』が近付いて来るのを見て、我に返った彼が取ったのは泳いで逃げることだった。
幸い、南に陸地が見えており、岸まではそう遠くない。
もし自分が捕まれば、パーパルディア皇国の関与がクワトイネ側に発覚してしまう。
列強に挑む愚を犯すとは思えないが、我が国の関与を知って激昂すれば、そうなるかもしれない。
祖国が負けることは無いだろうが、それでも少なくない損害を被ることは間違いない。
それだけの軍事力をあの軍艦は物語っていた。

彼は必死に泳いだ。
そして誓う。見たまま、ありのままを本国に報告することを。

あれほどの軍艦を作り上げ、あまつさえそれらをやすやすと供与する国。
これまでパーパルディア皇国は、その高い魔法技術に指定供与制限技術目録という形で輸出制限をかけ、周辺国を支配してきた。
属国は皆、その高い技術力による支援を受けるために、パーパルディア皇国の支配を甘んじて受け入れざるを得ず、それによって皇国の支配体制が確立された。
しかし、パーパルディア皇国よりも優れた技術を有した国の存在が知られれば、その支配体制が根底から崩されてしまう。
彼の国について一刻も早く知らせなければ・・・。
その後、彼は無事に岸に辿り着き、すぐに内陸に逃げ、魔伝で本国に報告を行った。

841: ham ◆sneo5SWWRw :2018/08/14(火) 22:48:10
ロウリア王国王都『ジン・ハーク』 王城『ハーク城』

34代ロウリア王国大王、ハーク・ロウリア34世は、ベッドの中で震えていた。
先刻発生したロデニウス沖大海戦で大損害を被った味方艦隊が帰還し、空前絶後の大敗北を決したという報告がもたらされた。
しかも、大日本帝国と名乗る新興国のたった2隻の軍艦によってだ。
帰還途中に沈没、あるいは漂流する等して未帰還になった船を含め、最終的に艦船2800隻余りが撃沈され、200隻余りが修理不可能と診断された。
実質、4400隻中3000隻以上を失い、残っているのは1400隻にも満たない。
艦隊だけではない。
ワイバーン350騎が全滅したのだ。
先の陸軍の侵攻で投入された150騎も失ったのだから、今回の戦争に備えて用意した500騎全てを失ったため、事実上、我が国にワイバーンは1騎もいない。
これでは侵攻どころか、防戦において制空権を取ることすらできない。
逃げ帰った船団には上陸戦のために多くの陸兵を乗せていたため、その損失も大きい。
しかも、こちらからの攻撃による被害は一切確認されていない。ほぼ皆無である。

報告には荒唐無稽な部分が多い。
曰く、敵は一発でこちらの船数隻を一度に破壊する魔導を連続して打ち出した。
どれほどの魔法力が必要か、想像も付かない。
ワイバーンもこれにより10騎単位で墜とされた。
神話に登場する古の魔法帝国でも復活したのか?
いったい我々は何を相手に戦っているのかが解らない。

6年もの歳月をかけ、列強パーパルディアに服従と言っていいほどの屈辱的なまでの条件を呑んで支援を受け、ようやく実現したロデニウス大陸を統一するための軍隊。
錬度も列強式兵隊教育により上げてきた。
資材も国力のギリギリまで投じ、数十年先まで借金をしてようやく作った軍。
念には念を入れ、石橋を叩いて渡るかのごとく軍事力に差をつけた。
圧倒的勝利で勝つはずだった。
これが、日本とかいうデタラメな強さを持つ国の参戦により、保有している軍事力のほとんどを失った。

最初、国交を結びに来た彼らが「ワイバーンというものは初めて見ますが、欲しいとも思いませんね。我が国にはワイバーンよりも優れた飛行機械が有るので」と答えていた。
ワイバーンのいない蛮国のくだらぬ虚勢と見下し、足蹴にして追い返したが、それが大間違いであることに気づかされる。
とんでもない!ワイバーンが全く必要の無いほどの超文明を持った国家ではないか!
当初、国交を結ぶために訪れた日本の使者を、丁重に扱えば良かった。
もっとあの国を調べておくべきだった。
国交を結びに来た時、きちんとした対応をとるべきだった。
くやんでも、くやんでも、くやみきれない。
しかし、過ぎたことを後悔しても最早手遅れである。
彼に出来ることは侵攻軍3万と4400隻の艦隊を打ち破った敵軍の逆侵攻に備えることだけだった。
特にロデニウス大陸の戦闘において、陸戦は数がものを言う。
そのため、逃げ帰った艦隊から生き残った陸兵のみならず、水兵の半分も投入して、防衛線を展開するしかなかった。
王は、その日、眠れない夜を過ごした。


結局のところ、彼の努力は無駄に終わることになる。
数日後、ロウリア艦隊を撃破した日本海軍とクワトイネ海軍の連合軍の合わせて100隻余りが、王都の北の港付近の海岸線に展開。
上陸作戦において日本一を自負する第五師団と海軍連合特別陸戦隊、さらに旧式装備ながら日本軍事顧問が直接指導して鍛え上げたクワトイネとクイラの精鋭部隊が艦隊の支援の下、上陸。
王都を直ちに占領し、ハーク・ロウリア34世以下王都に残っている首脳陣のほとんどが捕縛されてしまう。

かくて、日本がこの世界で最初に加わった戦争は、終わった。




おわり。
以上です。
ようやく完結した・・・
あれもこれもと加えたらここまで増えてしまった。
自分のアイデア力と想像力と欲求が怖い・・・
原作では空挺作戦が実行されましたが、憂鬱日本ではヘリコプターは初期のレシプロヘリですので、
わざわざ空挺作戦をするよりも堅実な上陸戦で制圧する手段を選択しました。

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最終更新:2018年08月19日 16:58