312: 弥次郎 :2018/09/05(水) 23:45:08
大陸SEED支援ネタSS 「牛刀割鶏」
『うひゃぁ、フレミング少尉は流石だな』
『あぁ、あっという間に見失っちまった』
デブリ帯を進むのはサンダーボルト師団のMS隊。
カタパルトから射出された彼らは、速度をそのままにデブリ帯へと突っ込み、ウルド1を目指し侵攻していた。
イオとFAガンダムの活躍に飲み込まれがちであるが、一般兵であっても彼らはデブリを恐れず突っ込む猛者たちなのだ。
FAガンダムの潜む領域まで妨害をかけて誘導したり、逆にFAガンダムが輸送艦などを追い立てて彼等が対処したりと、彼等は他の一般兵達から見れば十分高度な作戦に従事してきたのだった。
その証拠に、彼らの速度は彼等の乗機であるマラサイが、何もない宇宙空間で直線で発揮できる速力とあまり変わっていない。
無論デブリの回避のために細かく進路調整やAMBACによる回避運動をしているために全速力とはいかないが、それでも十分異常な速度で、尚且つデブリの配置を即座に把握して操縦にフィードバックしている。
もしそれを他の国の兵士や将官が見れば目を疑っただろう。だが、これこそが、高密度のデブリ帯の中で機動戦を仕掛ける技量こそが、サンダーボルト師団の持ちうる圧倒的なアドバンテージであった。
上に、下に、右に、時に加速と減速を織り交ぜる。
二本の操縦桿とフットレバーでMSという巨大な人型を制御するのだから、その動きは当然激しい。
シーリングなどをして防御しているとはいえ、細かなデブリ一つでも致命傷になりかねないというのに。
『と、見えたぞ!』
『おうよ!』
『先に仕掛けます』
4機1個小隊の彼らの眼前、デブリに紛れた基地が見える。
破棄された艦艇を利用した哨戒基地。MSやMAが最低でも2機は駐留している、目であり耳であり、このL1における通信の中継点でもある。これらが複数合わさることで、死角を補い、尚且つNJ強度の強いL1でも、ザフトはある程度の通信体制を維持し続けているのだ。故にこそ発見の可能性を下げるためにもカモフラージュもされていたのだが、彼等の目には通じなかった。
一機のマラサイがサブアームで構えたシールドを機体前面からどかしつつ、フェダーインライフルで狙い撃ちにする。
それは、的確に通信用のアンテナとレーダー設備を破壊した。既にあちらはこちらを捉えているだろうが、兎も角、周囲を見るための目と周囲に呼びかけるための喉は奪っておかねばならないという判断だった。
後衛の射撃はそれにとどまらず、こちらを向いていた防衛用の砲塔も的確に吹き飛ばす。
『お見事』
『どうも』
短く称賛しつつ、前衛のマラサイはビームサーベルを抜き放っている。
砲台などが無くなれば、気兼ねなく基地そのものに接近して破壊が行える。
デブリの一部のように同化しているので、破壊にはより収束させた武器が必須だ。
最後の抵抗のように対空機関砲が放たれるが、マラサイの構えたシールドを抜くには至らない。
『おらよ!』
最初は切り裂くように、ついで、出力を上げて一気に貫く。
そして、強引にそれを引きずるようにして傷口を広げていく。
内部で連鎖的に爆発が起こり、基地は崩壊していく。
存外、デブリ内部にまで拡張されていたのか、それは広範囲に広がって爆発の連鎖となる。
そしてその中から飛び出してくるものが複数あった。
『敵機が出てきた!注意しろ!』
314: 弥次郎 :2018/09/05(水) 23:46:05
基地に突貫したマラサイのパイロットの声に、残る前衛2機が身構える。
そして爆炎と煙をかき分け、機動兵器が飛び出してきた。
<よくも…!>
<撃て!撃ち落とせぇ!>
転生者が見れば既視感を覚えるであろうMA「ボール」が2機。
そして、MSのジン--と思いきやそれは微妙に装甲の形状が違う。
それは武装と装甲を無理やり強化したワークスジンなのだが、大洋にとってはもはや差異はない。
重突撃機銃や脚部のミサイルが放たれ、ボールが砲撃を開始するが、それは稚拙過ぎた。
『これで抵抗するのかよ…!』
即座に散開、あるいはミサイルを撃ち落としながら、マラサイ隊は対応する。
やや直線的なきらいのある動きに対し、マラサイは軽やかに回避をし、的を絞らせない。
ボールの方は危うい動きでデブリを交わし、急ターン。砲撃と銃撃を織り交ぜて再度攻撃を図る。
が、そんなものにあたるほど鈍間ではない。
スライドするように射線からそれ、放たれたビームの弾丸が砲塔を打ち抜いた。
誘爆するかに思われたが、砲塔が破壊されて軽く爆発が起きたが、それでもなお行動を継続してこちらに迫って来る。
『案外頑丈なのか…?』
『感心している場合かよ。こんな奴らあしらって終わりにしてやれ!』
『了解だ…』
相手にするパイロット達の間にも、少しやるせなさが混じる。
彼我の戦力としての格差を、まざまざと感じるのだ。
ジンはともかくとして、ボールなど動きが単調で攻撃そのものもちゃちな物。
反撃のビームライフルをろくに回避もできず、ボールは直撃を受けて文字通りの火の玉となって破壊される。
『もう一丁!』
ジンの方はビームライフルを危うくかわすが、それを見越し、置き撃ちされたフェダーインライフルまで避けることは叶わない。
1発、2発と撃ち込まれて無事でいられるほどジンは頑丈ではない。一発目を胴体の右に、もう一発を腰にくらい、ビームライフルの弾丸に押され、奇妙な踊りを踊ったジンは一瞬で形を失い、爆散した。
元々小さな基地だったのか、吐き出された戦力はそれだけだった。
一応の警戒はするが、形を失った基地からそれ以上の戦力は出てこない。
『やれやれ…』
戦闘が終了し、ため息をつく。
自軍にもオッゴというMPがあるのをマラサイのパイロットは思い出した。
あれはあれで宇宙作業用のMPから派生したもので、先程撃墜したものと似通ったものだ。
オッゴが長らく使われているモノに対して、あの文字通りボールのようなMPは見たことが無い。
となると、こんなものを作る理由は一つしかない。
『砲塔と機関砲だけつけて生産性の高いボディに乗っけたか』
『まさに末期戦だな。MAでもいいから数を揃えたいんだろうよ』
嘆息と共に予測が吐き出される。
オールMSドクトリン、とまでは行かないがMSを自らの英知の象徴として誇っていたコーディネーターも、戦局の悪化とMSパイロットの育成が間に合わなくなっていることによって主張を曲げざるを得ないらしい。
勿論、下手なMSよりもデブリの密集宙域ではこのようなMPが活動しやすいということは確かだ。
しかし残念なことに発揮できる戦闘力などたかが知れている。
『残骸の回収だけは一応しておく。けど、損傷が激しいみたいだから期待はしないでくれ』
『了解しました。完了次第、次のターゲットを探しましょう』
ウルド1周辺の基地も、着々と破壊され、能力を失っていく。
牛刀を以て鶏を切り裂くが如く、大洋連合はその国力差を力任せに叩きつけていた。
それは、自然の摂理。強きが弱きを蹂躙する、とても当たり前な、それでいて残酷な現実だった。
315: 弥次郎 :2018/09/05(水) 23:47:20
以上、wiki転載はご自由に。
B-Dayを書いている最中に没になったシーンだったのですが、死蔵するのももったいないので投下してみました。
プラント争乱末期にマラサイが既に主力でハイザックを追い出しつつあるとか大洋連合が牛刀すぎる(白目
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最終更新:2018年09月08日 09:41