529: 弥次郎 :2018/09/07(金) 20:14:39
Main Staring:
<Lagrange Point 1 Atack Fleet,Federation Atlantic Space Corps,Federation Atlantic,O.M.N.I.Enforcer>
Green・Wyatt (Vice admiral)
<23th Special Unit>
Richard・V・Nortwest(Rear Admiral)
William・"Old”・Hunter (Captain)
Gerard・H・Eckert(Lieutenant)
Clara・“Private”・Juno(Second Lieutenant)
Rick・Simons(Enign)
<Lagrange 1 Defense Forces,Z.A.F.T.,PLANT>
Max・Pellini
Selena・Trivia
Elizabeth・Walti
Original:Mobile Suit Gundam SEED
Arranged by:ナイ神父Mk-2氏
Written by:弥次郎
- L1 大西洋連邦担当宙域 L1攻略艦隊 総旗艦「デュナミス」
デュナミスの、そして艦隊全体の指揮を部下に一端任せ、休息室に入ったワイアットは、非常に満足げな表情であった。先程彼はウルド4への攻撃隊の発進を指示し、補給中だった第23特務隊と丁度補給の終わっていた第22特務隊の2つのMS隊が稼働状態にあり、ウルド4へを目指して進発していった。成果が出るのは長く見積もっても1時間後になるだろうと思われた。
既にウルドの機能の大半は失われており、周辺の制圧には殆ど手間取らないのは間違いない。
あとは、後詰めの制圧部隊と陸戦隊を向かわせるのみだ。
故にこそ、ワイアットはひどく上機嫌であった。MS隊の錬度はよく知っているし、ここまで御膳立てされてしくじる筈がないと知っている。
ウルド4の場所の特定、そしてそこに向けてはなった猟犬(パスカヴィル)の成果が予想通りだったためだ。
「猟犬というには、いささか正体不明で異形をイメージさせるところだがね…」
「ジャバヴォック、あるいはキメラでしょうか?」
「H・G・ウェルズのThe Invisible Man、では直球過ぎるだろうから、そちらの方がいいかもしれない」
ともあれ、とワイアットは笑みを浮かべて紅茶をゆっくりと飲み干していく。
ミラージュコロイドを利用したステルスMSであるブリッツ、その改良量産型と言えるストークス・ダガーは、ステルスを利用した隠密偵察機という面の他にも、戦術的な破壊工作を行うステルス機としても開発されていた。
そして、ウルド4の配置が特定され、周辺状況の観測が完了した時点でそれらは放たれたのだ。
決して火力が優れているわけではないが、ワイヤー射出式の吸着爆弾や人間が持ち込むサイズの高性能爆薬などを持ち込み、
工作員を用いて各所に設置させて、時限式で一斉に起爆させた。
勿論センサーなどは働いていたことだろうが、ミラージュコロイドというのは現行のステルスシステムの中ではトップクラス。
捉えることなど難しいし、宇宙要塞が一々対人センサーまで備えているとは考えにくかった。第一、NJの影響で光学に依存する監視網など、ごまかそうと思えばいくらでも誤魔化しが効くのだ。人員がこちらより乏しいと思われるザフトの脆弱な監視網もそれを後押ししたのかもしれない。
そして、唯一のネックはデブリで一杯な宙域を機体に設けられたワイヤーアンカーとAMBACによる機体制御だけで突破するという、最高難易度の壁であったのだが。
「宇宙軍MS隊の精鋭たち…彼らの働きに感謝しかないな」
彼等は、精鋭6機は見事にその任務を果たし、全機が無事に帰投することが出来た。
彼等の働きで、実質ウルド4の制圧までは事実上の消化試合に終わることだろう。
初の実戦投入ということで極めて不安要素の大きなものだったが、大成功だ。
今回得られた実績・データ・評価は今後の宇宙軍の戦略・戦術において大きなものとなるだろう。
530: 弥次郎 :2018/09/07(金) 20:15:18
「…」
そして、もう一つ。
手元の専用端末に表示されているのは、同時に進行していた任務についてだった。
その結果は、成功を収めていた。だが、それを表だって言うことはない。
非公式秘匿任務(ノンオフィシャル・カバーミッション)。
それが、ストークス・ダガー隊に課せられていたもう一つの任務の特性だ。
公式記録には一切残らず、参加者はその事を一切漏らしてはならず、存在さえもしなかったことになる任務。
それは、最前線に出てくるであろう大洋連合のMSの情報を回収し、帰投するという偵察任務だ。
たかが偵察と侮るなかれ、MS運用における戦術や戦闘技術は勿論のこと、練度や技量などを比較する材料を得られる。
また、偵察に乗じて投棄されたMSの武装やパーツも回収することが出来れば、大洋連合のMSについて情報を得られるのだ。
勿論、両軍の間では暗黙の了解となっているが、互いの軍事機密については配慮しあうことになっている。
それをやぶったらどうなるか、どれほどからがアウトなのか、その範疇についての規定は全くない。
文字通りの不文律。
ワイアットはだからこそ、そこに大胆に踏み込み、情報収集を敢行した。
勿論、わざわざ大洋連合の本陣にまで偵察を行うなどはしていない。
警戒が薄くなり、しかし、MSを直接拝める最前線、居場所が判明していたウルド1をターゲットとしたのだ。
結果は上々、感づかれた様子もなかった。
戦後の仮想敵となる大洋連合がどのようなMSを扱っているのか。
宇宙での通商破壊を積極的に行うだけの戦力があるということは分かってはいるが、その具体的な戦術や戦力についての評価を行わなくてはならないのだ。
殊更、ワイアットは所属派閥からもせっつかれていたし、これは大西洋連邦軍内部においても、大きな材料となり、武器となることだろう。
「ともあれ、我々は目的を果たした。
さあ、次の譜面へ移るとしよう」
戦局は動く。外縁部を守る要塞が力を失えば、ザフトはそれをリカバリーしなくてはならない。
多くの思惑を秘めたL1の動きはなおのこと激しくなり始めていた。
- L1宙域 大西洋連邦担当宙域 第23特務隊旗艦「グリーンランド」
帰還したMS隊の補給のために騒がしいグリーンランドの格納庫。
多くの整備士が戦闘を終えて戻って来たMSに取りつき、作業と整備を行っている。
宇宙戦闘、特にデブリ帯での戦闘を行うために戦闘以外での損傷は多く、対応装備や付属品の異常がないかを調べるだけでも、相当な手間がかかっている。だからこそ、メカニック班は地上以上の仕事を強いられていた。
どこか一カ所でも気密が漏れていればやがて機体内の空気が無くなるし、どこかで推進剤のメーターが狂っていれば十分量が無いままに出撃し、やがて機体が宇宙で動けなくなる。そういった事態に備えた訓練を重ねたからこそ、今こうして作業を行うメカニックたちのありがたみをウィリアム・“オールド”・ハンターは噛み締めていた。
これだけ多くのスタッフと機材に支えられて、自分達はMSという兵器を動かしているのだ。
空軍でもそうだったが、宇宙軍ではなおのこと。宇宙が地上よりも極限環境であるということもあってなのか、スタッフたちは互いに気を使い合い、またパイロット同士でも気を使い合っている。
何というか、具体的に言いにくいのだが、手厚いのだ。
最初こそ大げさと感じてはいたが、宇宙での訓練を重ねる中で体で理解できた。
窮屈で、身動きに制限があり、何かと不便な宇宙だからこそ、互いをカバーしあうのだと。
「ありがとう」
礼を言いつつもメカニックの一人から補充用のドリンクチューブをしっかりと受け取り、コクピットの冷蔵庫へと突っ込んでおく。ついでに受け取った空気ボンベで新鮮な空気を補充しながらも、ハンターの目は微調整されつつある機体のコンディションの確認に余念がない。微妙なバランスの変化、スラスター出力やコンディションの確認、さらに武装のチェック。
呆れるほどに情報が多い。これに飲み込まれることなくさばいていかなければならない。
だが、ハンターは自分の部下たちがこれをこなせると信じていた。伊達や酔狂で地上をくぐり抜けたのではない。
詰め込まれたカリキュラムをくぐり抜け、ここまでたどり着いていたのだから。
531: 弥次郎 :2018/09/07(金) 20:16:16
賑やかな格納庫内の音を超えて、耳に呼び出しの音が届く。
上部の通信用モニターに表示してみれば、そこにはノースウェスト准将の姿があった。
やあ、と軽く挨拶をしたノースウェストは、一つ咳ばらいを入れてから切り出す。
《今、大丈夫かな?補給や休養は十分とれたかな?》
《はい。補給ももう間もなく完了します》
それは良かった、と安堵するノースウェストの反応で、なんとなく言わんとすることを察する。
《ウルド4の座標が特定できたのですか?》
月面が分から侵攻した大西洋連邦宇宙軍の目標の一つである、L1外縁部の防衛要塞「ウルド4」。
ブリーフィングに置いては攻略対象とされながらも、具体的な場所についてはまだ特定が出来ていないとされていた要塞だ。
故に戦闘中にも偵察機を飛ばしたり、通信の傍受などを行って探索を行っていると聞いていた。
そして、ノースウェストはハンターの問いに肯定を示した。
《そうだよ。本隊直属の偵察部隊が座標を完全に特定したらしい。予想以上に早く見つけられたようだよ。
火急速やかに、とまで言ってきていることから考えると、何かしらの攻撃も加えて混乱させたってところかな?》
ともかく、と憶測を交えながらも指揮官であるノースウェスト准将は、指示を下す。
《MS隊及びMA隊は直ちに発進。ウルド4の制圧に向かってくれたまえ。
シーワード准将の第22特務隊の戦力とは現地で合流だ。
道中はきっと穏やかじゃない、気を付けて》
《お心遣いに感謝いたします》
それから数分後、第23特務隊のMS隊はL1宙域の密集したデブリ帯の中にあった。
EXストライクLを操るハンターが先頭に立ち、ライトニングユニットで前方の情報を収集、後続に伝えるという方式で、第23特務隊のMS隊計12機とサンダーバード隊4機1個小隊の16機は、比較的スムーズにデブリ帯の中を通過していた。別ルートからは第22特務隊のMS隊が侵攻し、現地で落ち合うこととなる。役割的には第22特務隊がMSの排除、自分達が護衛戦力--艦艇や防衛装置などを破壊する役目だ。
《放電現象の予兆無し、進路クリーン…改めてだが、すごいものだ》
宇宙戦闘用にモニターの拡張を行ったために、だいぶ視界は広い。
さらに、各種センサーやバランサーの情報も逐次表示されるので、機体制御がかなり楽だ。
ここまで機体を構成するPS装甲やその上に被せられた追加装甲が大きなデブリとの被弾もなく進行できているのも、ハード・ソフトウェアの双方で改良が重ねられたからというのがかなり大きい。
《宇宙軍の努力のおかげですね》
《全くだな…》
一番の重武装のEXストライクLのユノーでさえも、滑らかな機動でデブリを回避する。
神の視点から見てOSや操縦系統の機械的な面で大洋連合に劣る大西洋連邦でも、大洋連合に劣らない機動が可能だった。どこにどのように機体を持っていくべきか、それをマニュアルではなくアシストありで判断できるのだから、当然だろう。
これがさらに洗練されて、後続の宇宙に上がってきたパイロット達が扱い、戦っていく。
《コーディネーターでなくても、か》
《隊長?》
《なんでもないさ。ただ、俺達も一歩一歩進んできたんだなと、そう思っただけだ》
コーディネーターはナチュラルに対して優位である。
その事実は、正しくもあるのだろう。だが、常にその差は変化しつつある。
これまでの歴史がそうであったように、ナチュラルは日進月歩、常に進展を続けようと努力する。
宇宙に初めて出て、それをさらに強く感じたのだ。
532: 弥次郎 :2018/09/07(金) 20:17:16
その時だった。
先頭を行くハンターのEXストライクLのセンサー系が敵影を捉え、アラートが鳴り響いたのは。
《敵影を捕捉、全機警戒しろ!》
ハンターの声に、後続の空気がかちりと切り替わる。
ライトニングユニットが捉えた敵影は不鮮明を含めて18機。それがすぐさまデータリンクで共有される。
かなりの数。だが、ハンターは直感的にそれらの半数近くがデコイであると理解した。
あまりにも稚拙過ぎる接触(エンカウント)であるし、補足された敵影は熱源こそあるがあまりにも動きが鈍い。
MSがワイヤーで牽引するタイプの、非常に安価なものだ。だがこれに騙されるケースがあったことも確か。
それも宇宙軍からの情報。となれば、考えられるザフト側の戦術は一つだ。
《半数はデコイだ。後方注意(チェックシックス)!死角を取られるなよ…!》
恐らく半数は死角に回り込んでいるか、あるいはデコイであると見破られることを前提の配置についているはず。
《半数もデコイならば、確実にだな。後方は任せとけ!》
少し後方を飛行するサンダーバード隊が、編隊をほどき、MS隊の後方へと展開する。
また、後方のMSはハンターから見て背面飛行に移り、死角を減らす。
そして、総員が武器をチェックし、戦闘態勢へ入る。
《エンカウントまでおよそ20セコンド》
リックの野太い声と共に、視界にMSの推進機と思われる光が見え始めた。
ハンターの予測通り、動きが単調な光が半数近く混じっている。
《先制攻撃を仕掛ける。カバーしろ!》
今回のハンターの装備には試作型のビームライフルがある。
取り回しはよくはないが、射程と威力は折り紙付き。
慣性飛行のまま、ライトニングユニットとセンサー系が拾う情報を受け取りつつ、構える。
ジンの改造型、見るからに装甲が増設されたタイプ。それにシグーだ。
《……そこだっ!》
トリガーと同時に、銃身内で収束されたビームが遅滞なく放たれる。
着弾を待たず、次弾を放った。アウトレンジからの攻撃で先手を取るのが一発では、少々心もとない。
《追撃します》
一発目と二発目は命中。爆発と閃光が起こり、しかし、残りはすぐに散開されて命中を得られなかった。
それを見越し、ユノーの砲撃とミサイルが放たれていた。
こちらも命中こそ得られなかったが、敵の連携を乱すくらいの効果はあったと思われる。
そも、練度的に見ても密集を崩されると困るのはザフト側だ。分断して一機ずつ落としてやれば勝てるという自信がある。
《予想通りだ、デコイを捨ててこっちに向かって来る!》
《大尉!少なくとも合計6機が後方上方と下方から接近中だ!MSモドキもいるが、どうやら挟み撃ちにされているぞ!》
アッカードの報告と彼我の戦力を考慮し、すぐにハンターは割り振りを決め、叫ぶ。
一瞬の遅滞も許されない。戸惑った方が負けるというのが、MS戦の基本だ。
常に先手を打ち、手数を放って相手を封殺する。
《ウィルキンスの隊はサンダーバード隊と共に後方で迎撃しろ!
敵は一撃離脱に徹してくるはずだ。深追いせず、足止めされるなよ!》
《了解!》
《任せときな、大尉》
《ケイの小隊は俺達と来い。前を切り開くぞ。こんなところで足止めを喰らっちゃ堪らんからな!》
言いつつも、エールストライカーMod.2の推力を解放する。重たくなった機体を強引に推進させる推力は圧倒的。
ぐっと体に負荷がかかるが、コンバット・ハイの体はそれを喜々として受け入れる。
クールダウンで冷えていた肉体が急速に熱くなり、新たなビートを刻む。
反撃のビームライフルと重突撃銃が放たれるが、もはや慣れ切った攻撃だ。即座に回避に移り、遅くすら感じるそれを脇に置き去りにして、ビームライフルの射撃を応戦として放つ。
そして、叫ぶ。
《各機散開!食い破れ!》
散兵戦術。各個が個人の判断で、しかし、全体の状況を把握したうえで連携して戦う戦術。
宇宙に出ての訓練で少しは学べているという自負はあるが、どこまでいけるだろうか。
全力でそれを試しにかかった。
533: 弥次郎 :2018/09/07(金) 20:18:24
対するザフト側は、ハンターとユノーの放つ遠距離攻撃により隊が分断された状態でのエンカウントを余儀なくされた。
威圧効果という意味でも、高威力のビーム兵器は威力を持つ。殊更、若年兵が多いザフト側には、最初に撃墜された一機のようにわけもわからないうちに撃墜されるのではという恐怖が蔓延してしまった。
〈接敵するぞぉ!〉
〈やだ、死にたくない……!やだぁ!〉
近づかなければ狙撃される恐怖と、近づけば敵が近づくという二つの恐怖のアンビバレント。
だが、否定しても敵はそこにいるのだ。
ジンにとっては一撃必殺になりうるビームライフルの弾幕。
決して濃い弾幕ではないが、視界(モニター)を占拠するようにビームの光が満ちれば、それだけ人の処理能力を占めてしまう。
ザフト側は必死に分散。デブリの影や敵機の正面から逃れようとする。それは戦闘判断としては正しい。
だが、戦闘経験の少なすぎる彼らに選べたのはそれが限界で、先制攻撃で数を減らし分散した彼らは、逆に孤立しつつあった。
《FOX2!FOX2!FOX2!》
《敵は分散した、各個撃破に移れ!》
それを逃さないハンターたちは、更なる追撃に出る。
ユノーの短距離誘導ミサイルを援護に、8対7の戦闘は始まる。
〈撃て、近寄らせるな!〉
〈うわあああああ!〉
弾幕を張り、包囲されるのを阻止する動き。
しかし、些かに隊が分断され過ぎていた。
また、ザフトの小隊長の指示に従えても、それ以上ではなかった。
《堕ちろ!》
容赦のないビームカービンの連射。
シールドでの防御も装甲での耐久も間に合わず、1機が形を失い、爆散する。
撃破したロングダガーは動きをそのままに自分を狙う隊長機へと牽制射撃を放ち、防御に入る。
その切り替えは、敵ながらも見事な切り替えだった。自分のシグーが放つ銃撃は凌がれ、回避される。
〈なら…!〉
銃撃を加えつつ、ヒート機能のあるバトルアックスを抜き放ち、格闘戦の間合いに詰める。
勿論相手も反撃して来るが、機体を大きく左右に、翻る鳥のように操って的を絞らせない。
《やらせません…!》
〈くっ…この!〉
咄嗟の判断で、大きく下方に舵を切る。
一番重装備だったGが、こちらに砲撃を放ってきたのだ。
丁寧にも回避先にガトリング砲とガンランチャーから放たれたロケット弾を置き撃ちしており、対艦用と思われるビームの砲撃を至近距離で回避する羽目になった。
ちりちりと、機体表面で嫌な音がする。ビームの余波でさえこれならば、直撃はもっとおっかないだろう。
〈隊長!〉
〈迂闊に動きを止めるな、こいつはヤバい…!〉
先程のビームの砲撃を見ていたのか、部下の動きは慎重だ。
決して距離を詰めさせず、ミサイルを放って牽制しながら銃撃を織り交ぜる。
重荷となるミサイルポッドはすぐさま排除し、バトルアックスは迷ったが捨てる。
それだけで機体はかなり軽く感じるようになった。そして、牽制射撃を行いながらも状況を確認する。
〈状況は!?〉
〈既に3機が落とされています!撤退しましょう、隊長!〉
〈ああ、そうだな!後ろに回った奴らは!?〉
まぐれか放った銃弾が命中するが、Gには効果が見られない。追加装甲とPS装甲による絶対的な防御。
バッテリー消費を誘いはするが、生憎とEXストライクLはライトニングユニットによる膨大な蓄電量と、新型バッテリーへの置換によって長続きするように調整されていた。如何にザフトの製造した対MS徹甲弾でも相手が悪すぎる。
PS装甲のことはおぼろげながらも知っていた小隊長は大きく舌打ちをし、
〈後方の部隊はMAとMSの足止めを受けてます!…っつ!さっき小隊長機連絡がそれで途絶えたので…!〉
534: 弥次郎 :2018/09/07(金) 20:19:38
最悪だ、と小隊長は臍を噛む。
デコイで目を引き付け、後方から奇襲し攪乱、乱戦に持ち込んで最低限の足止めを図るつもりだったが、これでは駄目だ。
相手が強い。初手の攻撃からして、最初から見破られていたか。
〈撤退命令を出せ!ひよっこどもを先にな!〉
〈しかし、隊長は…!〉
ふっ、と自嘲気味に笑う。
会敵したこの状態で、逃げ出せば当然追撃が来る。それを抑えるのは必然的に発生する役目だ。
〈何とかしてやるさ。いいな、これは命令だ!〉
〈りょ、了解!〉
ザフトの小隊長が発した撤退命令。
それは後方からの奇襲を目論み、サンダーバード隊とウィルキンスの隊とぶつかった奇襲部隊にも伝わった。
回転砲塔を的確に使って思わぬ一撃を放つコスモグラスパーと、自在に宇宙空間を利用した機動戦を仕掛けるMS隊に、奇襲部隊は完全に足止めを喰らっていた。いや、逆に次々と撃破されつつあったといってもよい。
《そら、そこだ!》
コスモグラスパーのビーム砲がジンの構えていたシールドを破壊する。
反撃の機銃が襲って来るが、この程度は怖くない。速力を挙げて一気に振り切り、離脱する。
防御が薄くなったところへ、MSが格闘戦を仕掛けるのがちらりと見える。
シールドの有無は近距離戦闘での、格闘戦での立ち回りにも大きく影響する。ビームサーベルを持った相手に対しては、さしもの重斬刀などは役に立ちにくく、アンチビームコーティングをした格闘兵器で一時的に凌ぐか、シールドを腕に割り込ませることで阻止するしかない。だが、そのシールドが無ければ、臆病なほどに逃げ回るしかないのだ。
そして、くるりとターンを決め、アッカートはこちらへの注意が散漫になったジンに照準を合わせる。
《貰っときな》
的確に放たれた機銃は、バックパックの一部を食い破り、姿勢を崩させた。
その隙を逃さず、ビームサーベルを構えた105ダガーは一気に接近、胴体をサーベルで切り裂く。
《ヒュー、やるねぇ》
そも、この世界に置いて序盤戦の宇宙での戦闘を無事に切り抜けた連合の兵士は本来の歴史よりも多い。
アッカートもその例にもれず、MSとの交戦を経験し、無事に逃げおおせたパイロットだ。
そんな彼等歴戦のMAパイロットと新規精鋭のMSパイロットが連携すればどうなるか。
それが今の連合側の圧倒という形で示されていた。
《ん、撤退してくな、どうする、小隊長サン?》
半数が脱落し、こちらが損傷軽微に終わったのを見たのか、ザフト側は撤退を選んでいた。
ウィルキンスはそれを見て、戦闘後の荒い息を何とか落ち着かせつつ判断を下す。
《はぁ・・・はぁ・・・相手に、継戦の意思がないなら、このまま隊長たちを追いかけよう。
俺達は、ウルド4が目的地なんだからな…ふう》
《だな。俺達はこんなところで足止めを喰らうわけにはいかないしな…》
幸い、ウィルキンスの隊は損傷軽微で、サンダーバード隊も脱落はいない。
消費した分の弾薬なども許容範囲だろう。ウィルキンスは点呼の後に遅れを取り戻すようにウルド4へのルートを進む。
結論だけを言えば、ハンターたちは前方に展開した部隊を無事に退けており、支障なく侵攻を再開。
ウルド4の異常に気が付いて防衛のために集まっていたザフト側の戦力はシーワード准将麾下の第22特務隊と交戦しており、彼等の奮戦もあって優位に進行していた。そこに第23特務隊が止めとばかりに到着したので、結果は明白だった。
なんとか準備を整えて出撃したウルド4の戦力も、すでに包囲状態にあるということもあって降伏を選ばざるをえず、大西洋連邦の圧倒的優位のままにウルド4をめぐる攻防は終結したのであった。
単にザフトが連合に負けたというだけでなく、被害の差からも、そして戦力の質からも、既にザフトの優位が崩れたことを示すものだった。
《よし、いくぜ。サンダーバード隊は周囲を警戒だ。MS隊に負荷をかけすぎんなよ?》
《了解です、大尉!》
535: 弥次郎 :2018/09/07(金) 20:21:58
ウルド1とウルド4の陥落。それは、少なくはない動揺をザフト側へともたらした。
総司令部のあるレイヤードを覆う外郭の防衛の要である重要な拠点が落ちたということは、それだけ防衛線がレイヤード側に対して後退せざるを得ないということである。
「ウルド4が落とされましたか…」
「はい。断片的情報ですが、突然として通信設備が破損。ついで出撃ハッチなどもまとめて破損し、周辺基地との連携が寸断。状況確認を行い、増援が駆け付けた際には既に連合のMS隊が周辺を包囲しています」
「そんで増援も恐らくやられちまったか、糞が!」
「ついでに、遊撃隊と思われる部隊によって周辺の監視所なども電撃的に破壊されています。
これでは通信網も寸断されているはずです」
大きなモニター上、ウルド1と4を示す光点は連合の占拠のもとにあることを示す状態に入れ替わっている。
また、ウルド4の周辺は背景の色が変更されていた。それは通信や交信が途絶えていることを示すもので、
その領域は、ウルド4が通信のハブを務めていたこともあってかなり広範囲に広がっていた。
「これでウルド4周辺の兵力は遊兵化…各個撃破は免れませんね」
「撤退命令を出さないとやばいぞ、おい。味方が死ぬのを見てるわけにはいかねぇぞ」
「もう出してあります。通信網の寸断もおきているでしょうから、発光信号と信号弾の両方で行っています。
それに、上位系統に位置する拠点が陥落した際の対応マニュアルも各監視所や中継基地に配置されております」
ですから、と落ち着きを促すようにウォルティはマックスに言う。
「総司令官が案じるまでもなく、各員は独自判断で動いています」
「そ、そうか…すまん」
(もっとも、どこまで実行できるかは不明ですが)
それだけが気がかりだ。各人の判断にゆだねられる以上、その判断が必ずしも賢明とは限らない。
無謀な突撃や何処に撤退すべきかを判断するのは現場の兵士となるのだから。
彼等が客観的にも合理的な行動をとることができるかどうかは全く未知数だ。
ウォルティにできることは、孤立した彼らがマニュアルに従ってくれることを祈るばかりであった。
ザフトは各所の監視所や中継点を破棄しつつ後退。
最後っ屁とばかりに機雷の敷設やワイヤー式のトラップを仕掛け、無人砲台を置いて引いていく。
やはり制宙権を実質維持するためには母艦となる艦艇が必須であり、それらを集中的に狙うのは自然なものであった。
一撃離脱のスナイパーもピケットMSやMAに少なくはない被害を与えつつ、地道に時間を稼ぐ。
元々、ウルド1と4は陥落してもしょうがないという諦めもあったのだ。
テリトリーであるL1のデブリ密集帯の中でこそ、少数戦力しかないザフト側が有利になれる。
それを想定してバトルフィールドを設定したのだから、ここからが本番と言えた。
だが、遊兵化の影響は小さくはない。
独自判断と称して無謀な攻勢に出て撃退される兵力がいたことも確かであった。
NJの存在によって連綿とした、一体化した行動がとりにくい状況に加えて通信ネットワークの破断、そしてコーディネーター特有の全能感や独善的行動の傾向。
一方の連合は順次トラップを払いのけつつ、戦闘で消耗したMSへと補給と整備を重ねながら前進していく。
やはり慣れぬ宇宙という戦場での戦闘は消耗と被害を生んでいたし、無重力空間でのMS整備はやはり地上とは勝手が違う。
またザフト側の必死の抵抗を踏み越えるのにもかなり苦労していた。続く攻撃は連合側をうんざりした疲労へといざなう。
それらを踏まえての休息や人員の交代もまた時間を必要としており、次の攻勢はしばらく時間を置かねばならなかった。
そうして、ザフト 連合の双方が時間にしておよそ8時間余り。長いとみるとか、短いとみるべきなのか。
だがそれは、全体の予定スケジュールから見れば大したずれの発生ではなかった。
確実に、L1の制宙権の要であるレイヤードを囲む包囲網は狭まりつつあったのだ。
じわりじわりと、見えぬ宙域で連合の艦隊は前進しているのだ。
「総司令、次の行動指針についての伝達を」
「わかってるって。えーっと、対艦攻撃の連中はまだなのか?」
「対艦攻撃隊…試作されていた大型モジュールの集中投射ですが、まだです。
すぐにでも送り込みたいところですが、逐次投入は避けるべきと判断しました」
「連合の艦隊が思った以上にゆっくりと前進してきます。
効果的な対艦攻撃を行うには事前の調査で決めておいたポイントに差し掛かるまで待たなくてはなりません。
ここからが正念場です。時間稼ぎに徹したいところですが、決戦です」
536: 弥次郎 :2018/09/07(金) 20:22:46
決戦しかない。
そう、もはや逃げ場はなく、包囲網は小さくなっている。
強行突破すれば何とかなるかもしれないが、プラント本国まで無事にたどり着ける保証はない。
だが、まだ自分達には連合の艦隊に打撃を与える手段が残っている。
レイヤードを舞台とした最終戦の前に、如何に相手に被害を与えるか。
要塞の制圧に必要となる艦艇を如何に減らして、対要塞戦で不利になるMSに依存させるか。
いや、艦艇さえ撃退してしまえばL1を仮に放棄をするとしても、連合の宇宙での活動を制限できる。
それがL1防衛隊、ひいてはレイヤード司令部が下した目標であった。
「先程の連絡で準備が整ったことは伝えられました。
また、特命隊についても同様に」
「気ぃ進まないが…しょうがないか」
「総司令、これは遺憾ながらも決定事項です」
でもよぉ、とマックスは手元の資料を眺めてため息をつく。
そこには、明らかにザフト系とは異なる宇宙艦艇とMSの写真とそれに関する文言が並べられている。
連合のそれにも似ているが、決してザフトの敵対勢力というわけではない。むしろ、現段階では味方である、一応。
多くがコーディネーターであるし、元々軍人だったということもあって規律も整っている。それは認めるべき点だ。
しかし、それでも。
「実質的な囮部隊。考えることをやめているような嫌われている連中を使うにしても、後味悪いぜ」
「ですがそれが必要、そうですよね?」
女性の、というより少女というべきスタッフを3名連れてCDCに入って来たトリウィアがマックスの論に反論した。
若干あきらめの声が混じっているということから、トリウィアとて歓迎できる選択肢でないことは明白だったが。
そのトリウィアの言に、ついに諦めたようにマックスはため息をついた。内にこもる感情や憤りを吐き出すように、深く。
そして、総司令官としての命令を下した。
「特命隊…オーブ同胞団に連絡だ。出番が来た、とな」
苦虫をまとめて噛み締めたかのようなマックスの命令。
少し思うところがあったのか、反応が少し遅れたが、レイヤードの人間はそれに了承を示し、行動を開始した。
外縁部は破れた。しかし、こちらのテリトリーはまだまだ広く、活用の方法がいくつも存在している。
切られるカードは3枚。砲艦、対艦攻撃隊、そしてオーブ同胞団だ。
これでどれだけ戦果を得られるか---マックスはそれが分水嶺になると直感していた。
修理と補給を進めながらも、連合の艦隊は旗艦級の大型艦艇とその護衛を除いて徐々にL1のデブリ帯へと踏み込んでいく。
デブリは回収可能であるし、どのみちトラップを回避する必要もあるので、一石二鳥だ。
しかし、相変わらず視界は良好とはいえないし、何処に敵が潜んでいるのかははっきりとしない。
そんな戦場で、連合とザフトの間で一時的に攻守が交代する瞬間がある。
ウルドを落とした連合は、これを中継点とすることによってL1デブリ帯の奥地、レイヤードを目指す。
そのウルドを制圧するにはMSだけでなく、人手が必要であり、陸戦隊が必要となる。それだけではない、MSが消費する物資などもまとめてここに運び込み、仮の基地としての体裁を整えなくてはならない。
それを行うために何が必要か?
答えは単純。宇宙艦艇である。
連合は一時制圧した宙域にある宇宙コロニーに何隻もの艦艇を送り込まねばならない。
これは今後のL1での活動で必須のものであり、失ってはならないものだ。
対するザフトは、ウルド4などを失ったとはいえ、まだ自軍戦力に余裕がある。
特に、対艦攻撃に特化したモジュールを装備した対艦攻撃部隊を揃え、促成とはいえ練度のましなMS部隊もそろっている。
また、連合側よりもL1宙域の地理については把握しており、アドバンテージは大きい。改めて言うまでもないことだが、
地理の優位は勝敗にダイレクトに影響する要素となる。
ウルド1およびウルド4の完全な支配権をめぐる攻防。
その第二局面は、艦艇を守る連合と、その艦艇を落とさんとするザフトという構図へと移り変わったのであった。
537: 弥次郎 :2018/09/07(金) 20:23:33
以上、wiki転載はご自由に。
やっと形にできましたB-Dayの5話。
次は対艦攻撃隊VS連合の防空、そしてザフトの砲艦の脅威って感じですね
ちゃっちゃと終わらせて決着に持っていきたい…(小並
仕込んでいた導火線に火をつけるような感覚…
次はブリーフィングファイルが1話分挟まるかもです。
そうすれば文章量が減ってペースアップするはず(グルグルおめめ
誤字誤変換修正
最終更新:2018年09月08日 10:10