630 :ひゅうが:2012/01/11(水) 06:59:22

軽めのネタ――瀬戸の花嫁


――西暦194X(昭和1X)年 戦後ちょっと経った頃

「どうしよう・・・。」

「いや、どうしようか、じゃないか?」

都内のとあるラーメン店で夢幻会の面々が頭を抱えるのを、鬼頭千万太は冷や汗をかきながら見つめていた。
まさかこんなことになるなんて・・・という思いはある。

「あー。斎藤君。いや鬼頭くん、そうかしこまらずともいいよ。」

「いえ神崎先輩。仮にも帝国宰相を筆頭にした方々の前ですから。」

鬼頭千万太のそんな姿に、嶋田繁太郎は「変わらないな。」と苦笑した。
もう年齢は何十年も離れてしまっていたが、彼は平成世界での彼の後輩だった。
といっても、入社時期が2年ほど違うだけだがなぜかウマがあい、個人的にもよくの飲みに行った仲だった。


「しかし、身内としては嬉しいのですが、本当にどうしましょうか?」

「そうだなぁ。」

「あの金田一探偵がまさか鬼頭早苗さんとくっつくとは・・・。」

「獄門島が原作崩壊しただけならまだしも・・・これからの展開がどうなるのやら。」

そう。夢幻会の面々が頭を悩ませる理由。それは、鬼頭の親友の存在にある。
なぜかこの世界には名探偵金田一耕助が存在していたのだ。
しかも鬼頭は、名作「獄門島」のキーパーソンである。
彼が生きているなど、原作とそもそも歴史自体が変わっているために生じた齟齬。
それは、「獄門島」事件において彼が想いを寄せた女性、鬼頭早苗の兄である鬼頭千万太が生存していることにある。

そもそも憂鬱世界では南方侵攻作戦やニューギニアの地獄絵図が発生しておらず、また勝ち戦であったたうえに日本陸軍自体が防疫や兵士の衛生面にかなり気を使っていたために「復員途中でチフスにかかり死亡」という事態が発生していなかったのだ。
しかし、歴史の修正力かどうかは分からないがハワイ占領部隊から交代で日本へ帰還する途中に千万太は病気にかかり、親友である金田一に手紙を預けていた。
防疫上の観点から彼は横浜郊外の病院の隔離病棟で2カ月あまりを過ごすことになったためであった。
結果として事件は展開を大きく変えながらも発生――そして千万太が帰ってみれば、二人は出来ちゃっていた・・・とまぁこういうわけである。


「もっと前に挨拶に伺えればよかったのですが・・・」

「それはどうしようもないよ、鬼頭君。君だって嶋田さんが『それ』だと気付いたのは――」

「あの同人誌のタッチを見なければ気付きませんでした。無理してフシミンのサークルのを買ったから運よく分かったようなものです。」

嶋田はひきつった笑みを浮かべた。
この後輩は人当たりがいいが、平成世代かつ転生者の御多分にもれず、ヲのつく趣味を持っていた。しかも本格的な。
後輩の頼みを断り切れなかった前世の彼は、ペン入れなどを手伝っていたのだ。
      • このとき培った技術をまさか転生後も使うとは思っていなかったが。

そして、入院中の病院で同胞の存在に気付いた千万太は首相官邸宛てに手紙を書き、今回の事態が発覚したのであった。

「まぁ、平成に入って出た続編(?)では孫もいますから、不思議ではないのかもしれませんよ?」

辻がそうフォローする。

「となると、ジッチャンはともかく孫の代にはあんな殺人事件が多発するのか?」

「というか、この分だと江戸川コ○ンも実在しかねんな・・・」

「その場合、黒の組織って我々になるのか?」

一同は頭を抱えた。

「まぁ――金田一にとっても、早苗にとっても、とりあえずはめでたい・・・とは思います。」

鬼頭はそう言って頭を掻いた。親友というだけあって、そのしぐさは映画やドラマで描写された名探偵のしぐさにそっくりだった。

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最終更新:2012年01月25日 21:14