196: 弥次郎 :2018/10/01(月) 18:21:08
大陸ガンダムSEED支援ネタSS 「B-Day」7
Main Staring:
<Lagrange Point 1 Atack Fleet,Federation Atlantic Space Corps,Federation Atlantic,O.M.N.I.Enforcer>
Green・Wyatt (Vice admiral)
Christopher・Lennox (Commander)
<22th Special Unit,Federation Atlantic Forces,Federation Atlantic,O.M.N.I.Enforcer>
Terence・Siward(Rear Admiral)
<23th Special Unit>
Richard・V・Nortwest(Rear Admiral)
William・"Old”・Hunter (Captain)
Gerard・H・Eckert(Lieutenant)
Clara・“Private”・Juno(Second Lieutenant)
Rick・Simons(Enign)
<24th Special Unit>
Brandon・Menteith(Rear Admiral)
Duncan・Graham(Captain)
<Lagrange 1 Defense Forces,Z.A.F.T.,PLANT>
Selena・Trivia
Angus
Original:Mobile Suit Gundam SEED
Arranged by:ナイ神父Mk-2氏
Written by:弥次郎
197: 弥次郎 :2018/10/01(月) 18:22:01
- 月・地球間ラグランジュポイント1 中枢宙域 バッセルβ回廊
- C.E.71 8月13日 グリニッジ標準時午前8時48分
- ナスカ級ガレノス 白服用個室
「まったく…」
レイヤード直属艦隊の指揮官代理ということで、白服用の個室を割り当てられたトリウィアは、しかし、一般兵に比べれば広く、過ごしやすい個室でため息をついていた。
艦隊指揮官代理。お飾りに近いが、現状では各艦の艦長にも命令を出せる、上位系統の地位にある。
それを繰り上がり卒業の自分にホイホイと渡してしまうのはどうなのか、とあまり納得がいっていない。
(確かに、人材としては私しかいないのは分かっているけれど…)
総指揮官であるマックスが前線に出るわけにもいかないのは納得できるし、その補佐役に誰かが残らないといけないのもわかる。
実際マックスとの仕事は大変で、悪い意味ではないが自分にはストレスになるというか、あまり一緒には、と思ってしまう。
勿論上司であるマックスが心底見下げ果てた人間ならまだ楽だったかもしれないが、そこまで悪い人間でないのが逆に困る。
もう少しやる気を出してほしい、正直なところそう思う。
「トリウィアさん、アンガスです。入室してよろしいですか?」
「え、ええ、いいわよ…」
失礼します、と入ってきたのは副官のアンガス。
年齢よりさらに若く、というか幼く見える彼は、携帯端末の他にも紙の資料をいくつも抱えていた。
「先程届けられた追加の資料です。あと、指揮系統について確認がしたいそうなので、後で通信室の方に来てほしいと伝言が」
「ありがとう、アンガス」
「どういたしまして」
ぺこりと一礼したアンガスは、部下というより弟という認識が強くなってしまう。
どうにもアンガスの素直で、子供らしい振る舞いが毒気や緊張感を抜いてしまう。
軍人としてはあるまじき、と分かってはいる。それに、アンガスと同年齢の兵士がザフトには多くいることも知っている。
だから、彼だけを特別扱いは出来ない。だというのに---
「? どうかなさいましたか?」
「いいえ、何でもないわ」
思考を打ち切り、アンガスが持ってきた書類に目を通していく。
レイヤード直属の艦艇は総数としては多くはない。1つの隊を構成する分+αといったところだ。
ナスカ級1隻、ローラシア級3隻、付随するシャングリラ級輸送艦が1隻。
MS戦力とMA戦力の両方がおり、特にシャングリラ級は輸送艦というよりは空母としての面が強い。
合わせれば一つの戦闘単位となるのは間違いない。そのことを艦隊司令部も把握していたのか、こちらに対してある程度のフリーハンドを与えてくれた。それらを通達する書類に確認のサインをし、あるいは各部署が目を通しておく書類に分けておく。
「よし、いいわ。それじゃあ、これ、各部署と各艦に回しておいて頂戴。下がっていいわよ」
「はい、それでは」
アンガスが退室し、扉が閉まった瞬間、吐息と共にトリウィアの体はデスクへと伏した。
退室していくまで堪えるのが、意外とキツイ。もう思い出さないと誓ったが、記憶は否応なくよみがえって来る。
特にアンガスのような少し年下の兵を相手にするのがつらい。否応なく思い起こされてしまうのだから。
「駄目ね、私は…」
こんなことでは、と自分を叱咤する。
もう、戻らないのだから。失われてしまったのだから。
だから、自分はここにいる。
「……ッ…!」
感情を抑え込むのに、しばらく時間がかかってしまいそうだ。
その事にも悔しさを感じながらも、トリウィアは歯を食いしばって感情の奔流に一人耐えていた。
まるで、夜の孤独の恐ろしさに耐える幼子のように。
彼女を支えるものは、彼女以外にはなかった。
198: 弥次郎 :2018/10/01(月) 18:22:52
バッセルβ回廊。
ウルド4のある宙域とレイヤードを結ぶ、耐電しているデブリ帯の隙間に存在する、血管のように形成されているルートは、そのようにザフト側に呼称されていた。他にもルートはいくつか用意されているのだが、回廊の幅が広く、艦隊が安全に航行するのに最も楽なのがこのバッセルβ回廊であった。その幅の広さから艦隊戦を行うにも申し分ないという判断から、ザフト側はここに主力の残存艦艇を集め、大西洋連邦の艦隊を待ち受けていた。
ウルド4から回収した情報がダミーであることも考慮し、特務隊ごとにルートを検証あるいは事前に偵察させていた大西洋連邦は、コスモグラスパーやストークス・ダガーによる偵察情報を元に戦力を結集、このバッセルβ回廊へと差し向けた。
第22特務隊、第23特務隊、そして後詰めとなる第24特務隊を加えた本隊は、万難を排して決戦に臨むべく、多数の哨戒機を周辺に放ちながらも前進。これに応じる構えを見せた。
しかし、その内情、少なくとも戦闘方針が簡潔にまとまり一糸乱れぬ動きが取れていたのは大西洋連邦側であった。
ザフト側は攻勢か防御重点にするかで内部で意見が割れていた。特に艦艇において、砲艦及びMS空母を十分な数揃えた大西洋連邦に対し、ザフト側は頼りとなるナスカ級が少なく、MSの輸送にリソースを割いたエミール級の割合が多く、真っ向からの砲撃戦に置いては不利となることが予想された。陽電子砲試験型ナスカ級の存在もあったが、その射程や威力はともかくとして一隻しかいないことで逆に砲撃力で浮いてしまっており、扱いの難しさが指摘された。
このことからMSによるアウトレンジ攻撃が案として上がるものの、MSの性能差や連合の防空能力の向上から反対意見も出た。
ナチュラルのMSなど鎧袖一触と鼻息の荒い派閥と、実際にウルド4やウルド1で目撃された性能差から危険視する派閥は対立。
結果として、相対的には劣っていることからとれる戦術が少なく、「状況に合わせて柔軟に判断する」という玉虫色の結論に落ち着くこととなる。
また、本隊と特務隊3つを糾合している大西洋連邦が柔軟に指揮系統を分けて戦闘継続が可能なのに対し、ザフト側は各隊ごとの艦隊指揮はともかくとして、全体を糾合しての艦隊指揮については指揮系統の上下が定められず、これもまた現場の判断に丸投げされるという問題の先送りしかできることはなかった。
ともあれ、レイヤードの制圧による制宙権の完全な確保を目指す大西洋連邦と、それを阻止せんとするザフトの思惑は一致。
双方は準備を整えながらもその宙域を目指した。ついにL1の最終的な決着がつくのだという予感と共に。
そして、C.E.71 8月13日 グリニッジ標準時午前11時09分。
バッセルβ回廊に集結した艦隊の双方の指揮官が戦闘開始を指示。
ここに、L1宙域攻防における最後の艦隊決戦「バッセルβ回廊会戦」が勃発した。
大西洋連邦・ザフト双方が初手として選んだのは、やはりロングレンジでの攻撃が可能なミサイル攻撃であった。
比較的戦力が多い大西洋連邦はその数の差を生かして飽和攻撃を実施。対するザフトは少ないことを逆に生かし、防空範囲を狭めることで的確に迎撃を図り、その被害を抑えていた。
大西洋連邦のワイアット中将はミサイル攻撃を継続させながらも、二つの特務隊、第22特務隊と第23特務隊を両翼へ展開、立体的なミサイルによる十字砲火を開始しつつ、戦艦の砲撃の射程に収めるべく前進を選択。
狙いを集中できないザフトはどうしてもミサイル攻撃の密度を下げざるを得ず、逆に数の優位をさらに生かされる状況に陥る。
199: 弥次郎 :2018/10/01(月) 18:23:32
ここでザフト側は砲撃戦に置いて一歩優位を持つ陽電子砲搭載型ナスカ級の投入を決断。
アウトレンジ砲撃によって大西洋連邦の艦艇を狙う策に出る。
第一撃は完全に不意打ちであったために、ワイアット中将率いる本隊の護衛艦2隻が大破、さらにMS搭載用に改装された輸送艦1隻が中破という被害を受ける。このアウトレンジ砲撃を恐れ、大西洋連邦は艦隊をさらに散開させつつ、前進速度を速め、ザフト艦隊を射程に収めるのを速めんとした。
陽電子砲による砲撃は以降も一定間隔で発射されるが、警戒されていることからこれ以降は目立った戦果を挙げられず。
とはいえ、迂闊な密集をゆるさない牽制の一撃としては間違いなく本物であり、大西洋連邦の意表を突くことが出来た。
グリニッジ標準時11時48分。
遂に大西洋連邦はその主砲の有効射程圏内に敵艦隊を捉えた。
ここでワイアット中将は各特務隊および本体のMS隊に出撃を命じる。
特に第22特務隊及び第23特務隊は、敵艦隊に捕捉された特設砲艦--陽電子砲搭載型ナスカ級の撃沈を命じられた。
その前段階として、大西洋連邦艦隊は砲撃をザフト艦隊の中央部へと集中させ、艦隊の分断を図った。
アンチビーム爆雷などによる防御もあるが、そこは数で押し切る構えの大西洋連邦に対して、ザフトは徐々に艦隊の分断を赦してしまう。
ザフト側も大西洋連邦側のMS発艦を捉えたか、迎撃のためにMS隊を出撃させる。
ゲイツを含むMSの集中投入は、数に勝る大西洋連邦のMS隊に対して何とか拮抗状態に持ち込むことに成功。
しかしながら、攻撃隊を送り出す余裕に欠いている状態での迎撃はいずれはじり貧となることは間違いがなかった。
ザフト側は予備戦力として用意していた試作機を中心としたMS隊を糾合、後詰めのための部隊と共に臨時の攻撃隊へと再編し、大西洋連邦艦隊へと放つことを決断。予備戦力をすべて出すに等しいこれは、ある意味でザフトにとっての背水の陣であった。
また、ザフトの艦隊防空には比較的練度の低く、数で対処する方針のMA隊の投入が開始され始め、大西洋連邦側のMA隊との交戦が開始。
大西洋連邦艦隊にもザフトのMS及びMAがとりつかんと激しく直掩のMS隊との交戦を始め、MSもMAも、敵も味方も入り乱れての激しい混戦が展開されることとなる。
戦局が動いたのは、MS同士の戦闘が開始されてからおよそ50分余りが経過したグリニッジ標準時午後12時43分。
大西洋連邦が温存していた第24特務隊を前線へと送り出し、MS同士の交戦で発生しているラインの押上げを図ったことで発生した。
一時的に前線のMS数が増えた大西洋連邦側は数に任せてザフト側のMSを強引に撃破し、MSによる防空ラインに楔を穿ち始めたのである。
そして、息切れが先に見えてきたザフトはついに砲艦の一部が砲撃の嵐にからめとられ、撃沈されてしまう。
護衛艦艇を投入して穴埋めを図るも、余力に事欠くザフトの艦隊では十分な穴埋めが出来ずにいた。
ここで、補給の完了していた第22特務隊及び第23特務隊のMS隊が前線を強行突破、一気にザフト艦隊の懐へと飛び込んでいった。
果たしてこの突破がどのような結果をもたらすのか、それはまだわからない。
200: 弥次郎 :2018/10/01(月) 18:24:48
特務隊から放たれたMSの攻撃隊は、ザフトの決死の防空の中にあった。
確かに砲撃力に置いて大西洋連邦に有利を赦しているザフト側だが、輸送艦艇や補助艦艇はむしろ近距離から中距離での防御火力に優れており、防空隊のMSと連携し、濃密な対空砲火を放っていたのだ。
《くそったれ、全方位から対空攻撃を受けている気分だ…!》
手近な艦艇にビームライフルを打ち込み、対空砲を何とか黙らせながらハンターは叫び声をあげる。
対空砲だけではない、直掩のMSやMAが押し寄せてくるので、散開している部下たちと連携しながらも迎撃しなくてはならない。
文字通り動くのを止めたら対空攻撃にからめとられる、そんな状況だ。
だが、一方でこちらの反撃が届いているところもある。
対空砲や艦艇にビームライフルなどで反撃し、接近して来るMSやMAに適宜対処さえすれば良いのだから。
だが、まだ足りない。
《あともう少し…あと少し踏み込めれば…!》
《あちらも必死ですね…!》
抜かれれば艦隊に被害が及ぶ。その理解からか、ザフトの勢いが強い。
対して、休息を挟んでいるとはいえ、連戦になっているこちらはやや動きが鈍い。
だからこそ、注意力が散漫にもなり、対応が一歩遅れる。
それが微妙に積み重なり、今の状況となっているのだろう。
《大尉!下方です!》
ハンターはトーマスの声に応じ、そちらにビームマシンガンを向けて乱射。
MAの撃破をちらりと確認し、再度周辺の状況把握に努める。
ハンターの小隊は現在、ツーマンセルを組みながらMSの対処に当たりつつ、敵艦艇への攻撃を行っている。
懐に何とか飛び込んでいるので、効率こそ悪いが撃沈や戦闘力を奪うことに成功していた。
ウィルキンスの小隊も少し離れたポイントで戦闘中らしい。一機が戦闘継続不可能となって、スリーマンセルで対応しているとのこと。
このままでは、いずれ脱落者が出てしまう。その予感がハンターの中で膨らみつつあった。
地上と違い、やはり意識を配る方向が全方位というのがつらい。
情報量は実質2倍以上で、それをモニターとセンサー系で見張り、アラートや目視確認を合わせて行わなくてはならない。
《くそ……喰らえ!》
大胆に踏み込んできたMSの重斬刀をシールドで咄嗟に受け止め、左に逸らす。
姿勢を崩して背中を晒したところに両肩の機関砲を近距離で乱射し、止めとばかりにサーベルを突き立てる。
力を失い、漂っていくジンを荒い息で見送り、次に飛んできたミサイルに頭部バルカンで対処する。
ついでに、ビームライフルでレールガンをリックのロングダガーへと放とうとしているメビウスに牽制射撃を入れてやる。
《っ…!助かりました、大尉!》
《構わん、周りに注意しろ!》
叫びつつ、ユノーと共に弾幕を張る。
こちらに迫っていたMAの群れが一度散開し、再度攻撃のチャンスを窺うべく離れて行った。
重武装のユノーのEXストライクLはその持ちうる火力をいかんなく発揮し、艦艇やMS相手に打撃を与えている。
だが、そろそろ弾薬が減ってくるころのはずだ。ガトリングとガンランチャーとアグニ、さらにビームライフルと、縦横に放つ彼女も負担が肉体にも来る頃の筈。他の隊員も言うに及ばず、だ。
信号を送って一度部隊を下がらせつつ、密集態勢で周辺警戒を行う。
《ふう…各機、状況報告(コンディション・レポート)!バッテリーと弾薬は大丈夫か!?》
《ユノー機、だいぶ派手にばら撒いたので弾薬は残り40%を切っています。バッテリーには、…こちらは問題ありません》
《こちらサイモンズ機…!バッテリー残量38%!推進剤も心もとないです…!》
《トーマス機、どちらも問題ありませんが…少し体力が続くかどうか…またメインウェポンをロストしています。
今はビームライフルショーティーで対応しています》
《了解だ。トーマス、俺のビームマシンガンを使え。少しはマシなはずだ》
201: 弥次郎 :2018/10/01(月) 18:26:39
感謝します、とトーマス機がシールドから取り外されたビームマシンガンを受け取るのを見ながらも、ハンターは、あまり良くないか、と口の中で状況を反芻する。
特に第二小隊のウィルキンス達も、かなり消耗が激しいようだ。こちらよりも1機少ない分、負担がさらに増している。
前線での指揮及び判断については、ノースウェスト准将から任されているので、ここで撤退を選ぶのは簡単だ。
しかし、今の状況では拮抗状態から自分達が抜けることで押し切られる可能性がある。
一方で弾薬やバッテリー消耗も激しいのも確か。
無理に継戦すれば小隊全員の命が危険だ。
あと一歩、何か相手を押し切る何かがあればこの戦闘の流れは変わるだろうというのは分かる。
だが、それはMSだけでは不可能だ。もっとMS以上のなにかで押し切らなくては、この戦況は打開できない。
歯がゆさに眉をしかめながらも、次の敵機が迫ってきていることを確認する。兎も角、迎撃しなくては。
それを友軍に伝えようとしたとき、レーダーに新しい反応があった。
《…!?友軍だと》
振り返ってみれば、自分達から見て後方、自軍艦隊の方向から迫るのは、MSとMAの推進光。
予想だにしない増援だ。こちらからの要請はまだ送っていないということは、本隊の方から何かしら指示があったのか。
《こちら第24特務隊MS隊のダンカン・グレアム大尉!第23特務隊の援護に来た!》
デュエルダガーを先頭としたMS隊は、第23特務隊のMS隊をかばうように展開。
ザフト側の戦力の迎撃を開始した。第24特務隊。つまり、後詰めの戦力として温存されていた隊の筈だ。
確かにもうひと押し欲しいところだったが、司令部はそれを投じることを選んだのだろうか。
兎も角として、こちらの頭数が増えたことはザフトにとっては予想外であり、負担が分散する結果となった。
明らかにザフト側からの圧力が減り始めた。こちらの弾幕の密度があがり、相手が回避に徹し始めたことも影響しているだろう。
《ありがたい!そろそろ戦闘継続が厳しくなっていたところだった!》
《密林の狩人様にそういってもらえるとはな!ハハッ!》
《密林の狩人…?それは一体…》
聞き覚えの無い二つ名にハンターが眉を顰めるが、グレアムは慌てたように通信を続ける。
《おっと、こうはしていられん!
悪いがハンター大尉!一時後退命令だ!本隊の方からMS隊を巻き込みかねない攻撃が来るらしい!
その間に簡易の補給を済ませておけ、との指示だ!母艦の方がこっちに来てくれたらしい!》
それは何だ、と聞く間もなく、グレアムは脚部ミサイルポッドの一斉放射と弾幕に合わせ機体を下がらせた。
ザフト側の追撃もあったが、余裕のある第24特務隊のMS隊が矢面に立ってくれたことで、ハンターたちもそれに続く。
《急いでくれよ、ハンター大尉!巻き込まれちゃ、流石にやばいからな!》
《了解した!》
追いすがるMSモドキのジン・レヴェナントをビームライフルで撃ち落とし、他の小隊機を急かしながらもハンターは急ぐ。
必死に「MS隊を巻き込みかねない攻撃」の範囲から逃れる。一体どういう攻撃なのか。単なる砲撃ではないのか?
兎も角、ハンターたちは一時戦線から離れ、補給艦へと向かっていく。
《来るぞぉー!》
疑問を浮かべるハンターは、しかし、グレアムの視線の先を見て、驚愕する。
彼方から、友軍艦隊の方から襲い来るそれらは、自分の予想をはるかに超えて、膨大で、圧倒的で、暴力的だった。
202: 弥次郎 :2018/10/01(月) 18:27:28
- 戦争とは、ある種鼬ごっこ、物まねごっこの繰り返しという面がある。
相手が用意した戦力が猛威を振るえば、それと同じものを、より改良し、大量に用意してぶつける。
相手が先進的なものを作ったと聞けば、自分達も同じものを作る。
このプラント争乱に置いて言えば、代表的なものとしてMSが真っ先に上がることだろう。
NJと組み合わせることにより、長距離での艦砲やミサイル攻撃を無効化し、有視界戦闘において機動性が勝るMSを集中運用する。
艦艇戦力に劣るザフトにとってはこれこそが兵力の差、あるいは艦艇の数の差をひっくり返す切り札であり、国力差を埋める秘策であった。
翻ってL1宙域に置いてはどうであったのだろうか。
トラップ、デブリに潜んでの奇襲、デブリに隠れての狙撃兵など、ザフトは多くの手を打っていた。
それに対抗して大西洋連邦も大洋連合も、哨戒機の展開やデブリの除去、工作隊の活用などで手を打っていた。
そして、デブリミサイルというものがある。
L1宙域には、世界樹コロニー群が崩壊したことによって生じた大量のデブリがある。
これに加速器を取り付けて、標的に向かって飛ばす。要するに、簡易の質量弾頭ミサイルである。
投射はほぼ目測に頼るので命中率は期待できないのだが、強行偵察する艦艇に対してはまとめてぶつけることで、相手の進路を妨害したり、奇襲効果を発揮したりするだけの効果があった。
「友軍機、射線上より退避完了した模様です!」
「よろしい。では投射開始!こちらの砲撃でうっかり砕くなよ!」
大西洋連邦宇宙軍L1攻略艦隊の本隊の前にズラリと並べられたデブリ。
そのいずれにも、ミサイルなどに使われる推進機関が取り付けられており、発射の時を今か今かと待ち受けていた。
そして、ワイアット中将の号令と共に、それらが一斉に点火され、推進力を得て、前へと進み始める。
おまけに、輸送艦や艦艇のカタパルトからもデブリなどを固めたコンテナが射出され始めた。
一定距離推進したそれらは、固定していたベルトなどが時間経過で外れ、その中身を散弾のように拡散させながら突き進む。
それだけでない、時間をおいて、ミサイルの斉射が始まった。
低速で放たれたそれは、時間差でザフト艦隊へと突き刺さることだろう。
やられたら、やり返す。
それも、何倍にもしてやり返す、報復するのだ。
そうでなくては舐められておしまいなのだ。
大西洋連邦はそういう意味では、極めて通常通りの反撃を繰り出したと言える。
〈迎撃ぃぃぃぃいいいいい!〉
その声が、ザフト艦隊に飽和したのはひどく当然のことだった。
元々デブリを打ち砕くような火力を持つ砲艦が少ないところに、艦隊戦と対MSで損害が重なっていたのだ。
状況としては最悪と言っていい。砲撃で砕き、決死の思いでMSやMAが攻撃を加え、艦艇の機銃やミサイルで破壊する。
だが、一度加速したデブリは早々には止まらないし、その破壊力は質量と加速度に比例する。
細かく砕いたところで、思わぬところに潜り込んで被害を出すかもしれないし、艦艇はともかくとしてMSなどでは致命傷となることもある。
だから、必死になった。
MSが機銃や重突撃銃を放ち、MAも機銃で砕いて回り、ミサイルを放つ。
艦隊は互いの距離を開け、何とか隙間をくぐり抜けようと必死になる。
だが、現実は非常だった。その程度の火力でどうにかなる物量ではないし、第二派にミサイルまであったのだ。
全面に立っていたナスカ級などの戦艦、護衛艦艇はほぼ潰されるようにして壊滅状態に陥り、艦載機たちも同じ運命をたどる。
後方に控えていた輸送艦艇などは比較的損害は抑えられたが、それでも航行に支障をきたしたり、戦闘継続困難になった艦艇が多い。
終わってみれば、あっけの無いものだった。
L1宙域からかき集めたザフトの艦艇群のうち、大西洋連邦側に割り当てられた艦艇は大打撃を通り越した被害を受けた。
辛うじて陽電子砲搭載型ナスカ級などは無事であるが、高々一隻で覆せる状況ではない。
そして、これまで鬱憤をためていた大西洋連邦のMS隊はここが好機と殺到した。
203: 弥次郎 :2018/10/01(月) 18:28:25
短いながらもバッテリーの充電と弾薬の補給を終えた第23特務隊のMS隊の目標は、陽電子砲艦となった。
多くの砲艦が沈黙しており、機動兵器も巻き込まれているのか数が大きく減っている。
《迎撃は激しいが、だいぶ落ちているな…!ん!?》
咄嗟に飛んでくる飛翔体---ランスのようにとがったそれをシールドを以て防ぐ。
高初速のそれを何とか防げはしたが、シールドには大きな穴が見事に穿たれてしまった。
毒づきながらシールドを投げ捨てると、上方から奇襲してきた異形のMSと相対する。
地上戦線で見た、両腕が武器となっているタイプのMSだ。
それは一瞬で分かったが、驚いたのはその脚部だ。まるで鳥のように関節が後ろに向いている。
そのせいか、少しアンバランスで、見慣れたMS像と異なって異形のイメージがさらに増している。
他のMS以上の、少なくとも追従するジンよりは機動性や速度が上らしい。
相手もこちらのアクションに気が付いたのか、3機で弾幕を張りながらこちらを包囲しようとする。
《ユノー!トーマス!》
《了解です!》
《させるか!》
声を掛ければ、僚機の2名がカバーに入る。
実弾しかないジンと鳥脚のMSではストライク相手の戦闘は厳しい。
だがそれでも恐れずに攻撃を続行して来るとは、相手も肝側座っているようだ。
銃撃の嵐を二人がシールドで受け止め、ハンターのビームライフルが的確に相手のウィークポイントを、シールドでカバーできない右下半身を貫いた。連続した3発でジンが1機脱落。
止めとばかりにトーマスのビームカービンの弾丸の嵐がジンを爆炎へと変える。
《残り2機…!》
ユノーはその間にガトリング砲とガンランチャーでうまくけん制を入れている。
だが、ついに弾切れを起こしたのか、コンボウェポンポッドはパージされ、アグニではなくビームカービンとビームライフルショーティーの2丁持ちへと切り替える。
《大尉!》
《任せろ!》
その意味をすぐに察すると、一気に間合いを詰める。
こちらにも銃撃が飛んでくるが、左右に機体を振り、強引に切り抜ける。
そして、ユノーの射撃の合間を縫い、トーマスの狙い澄ませたビームカービンの一撃が、鳥脚のMSの背中のバックパックを溶かすようにして破壊する。
《オオッ!》
もたついた一瞬を、逃しはしない。
その間にホルスターからビームライフルショーティーを引き抜いて、一瞬でバースト。
追加された装甲を食い破り、シールドを穿ち、そして、丸裸にして---
《止めだ!》
突き出したビームサーベルが容赦なく機体を蹂躙した。
カウンターでこちらに突きだそうとした銃剣を備えたシールド内蔵の重突撃銃の銃口が、ゆっくりと力を失う。
《来ますか…!》
残った一機は、ユノーのEXストライクLに向かっていた。
逃げるかどうか迷ったが、最後は攻勢に出ると覚悟を決めたようだ。
頭部のイーゲルシュテルンで牽制を入れながらも、ユノーは疲労した体に喝を入れ、相手との機動戦に入る。かなり腕はいいようだ、宇宙という立体空間を活かし、距離をつかみにくくさせるため、上下左右前後に機体を振り、惑わそうとしている。だから、ユノーは無駄に撃たない。
じわりじわりと距離を詰め、追いつめてやればいい。後方からトーマスの援護射撃が来るので、距離を詰めていくのは簡単だ。だから、そこから先が重要だ。
相手が左手で引き抜いたのは重斬刀---と思いきや、そこにはレーザーの刃が形成された。
驚きはしたが、動きは止めず、こちらもサーベルを抜いて牽制する。
前に詰めるか、後ろに下がるか---駆け引きだ。
意図的に深く呼吸し、ユノーは間合いを静かに図る。
204: 弥次郎 :2018/10/01(月) 18:29:28
こういう時は、焦って迂闊な行動に出た方が負けだ。
格闘戦はその隙が大きいので、一撃で決めるか、反撃を許さず連撃を繰り出すしかない。
(逃ガサナイ…!)
一瞬、相手の怯えのような、そんな挙動が、逆にユノーの攻撃性を誘う。
瞬間、ユノーは間合いを詰めた。完全な不意打ち。生身で言えば相手が思わず視線を背けた、そんな隙を突いたのだ。
彼我の距離が唐突に迫り、ジンは咄嗟にレーザー重斬刀を繰り出す。PS装甲でもダメージが通るその刃を、ユノーは機体の上半身をひねらせることで強引にかわし、左手で逆手に持ち変えたビームサーベルを斜めに突き刺した。
驚愕するように、あるいは死の恐怖におびえるようにジンのモノアイが震え、そして、消える。
《……!》
じりじりと破壊が伝播していくのを眺めたユノーは、爆散する直前にジンから遠ざけた。
一瞬の攻防が終わると、途端に夢から覚めたかのように現実が押し寄せてくる。
嫌な汗を体中に感じた。命の奪い合いが、ここまで濃密なのは久しぶりだからかもしれない。
そして押し寄せる、被現実感。まるで夢から覚めた直後のような自己の頼りの無さ。
《行くぞ、少尉。敵艦は目の前だ!》
《はい!》
だが、それを覚ましてくれる人がいる。
ハンターの声に、ユノーは急速に現実感を取り戻し、前進するハンターを追いかけた。
飛んでくるミサイルを迎撃しつつ、ハンターは眼前のナスカ級の弱体化を見てとった。
機銃やミサイル発射管などが不具合を興せば、それだけ死角が増える。
現に、目の前の、これまで陽電子砲でこちらの艦艇を苦しめていたナスカ級は著しく戦闘力を落としていた。
装甲にも穴やへこみが見られ、まるでショットガンや機関銃で撃ち抜かれたようだった。
それでも動き続けている当たり、相当頑丈に作られているのだろうか。
《うおおお!》
だからというように、ビームライフルを連射し、各所にダメージを与えていく。
基本として機銃などを破壊すれば懐に潜り込みやすくなり、MSの独壇場となるのだ。
ハンター以外にも、第24特務隊のMS隊までも群がるようにして攻撃を加えている。
《斬り込む、援護を!》
《任されました!》
そして、ハンターはついにビームサーベルを引き抜いた。
邪魔な機銃を切り裂き、ミサイルをイーゲルシュテルンで叩き落とし、無理矢理据えられた陽電子砲本体に接近する。
振り被ったビームサーベルを、一閃。さらに突き立てて、強引に引きずりながら傷口を広げていく。
変化はすぐに表れた。陽電子砲というのは威力も破格だが扱いは危険で、かなりデリケート。
そこにビームサーベルなどというものを突き立てて切り裂けば、当然爆発が起こり、誘爆していく。
それがナスカ級全体を包み込むまで、十秒とかからない。
《ハァ…!ハァ…!》
荒い息のまま、ハンターはおのれの成した破壊を見届けていた。
艦艇の撃沈という戦果を挙げた興奮と達成感、そして、多くの命を奪ったのだといううしろめたさ。
そして、激しい戦闘から来る疲労感。すべてがカオスのようになった自分の体が、どこか遠くに感じる。
《見事だ、ハンター大尉!
ん、見ろ!ザフトの連中、相当堪えたようだな!》
グレアムに言われて見上げてみれば、ザフト側からは降伏を伝える信号弾が打ち上げられている。
MSやMAも母艦の甲板上に着艦して武装を解除し始めており、戦闘はほぼ止まり始めていた。
まあ、無理もない。不意を打たれ、膨大な質量弾をぶつけられれば意気も挫けるだろう。
205: 弥次郎 :2018/10/01(月) 18:30:37
一部艦艇は宙域の奥へと、恐らくだが、ザフト側の最後の拠点であるレイヤードの方へと撤退していく。
だが、それを追いかける必要はなかった。もはやザフトの戦力の過半はここですり潰されているのだ。
これ以上は戦闘ではなく、残敵掃討に過ぎなくなる。ゆっくりと追い詰めて行けばいいだろうという判断なのか、
司令部の方からもそのような指示が出ている。
「なんとか、終わったか……」
バイザーをあげ、ゆっくりとシートに身を預けたハンターは深く深く息を吐き出す。
時計を見れば、戦闘が始まってからおおよそ3時間が過ぎていた。
休息と補給を挟みながらも戦っていたのだが、そんなにも短かったのか、と驚く。
《お疲れさまでした、大尉》
《おう、ご苦労だったな》
《各員、無事だな!》
《もちろんです、大尉》
《損傷はありますが、生きていますよ》
《ウィルキンス、そっちは?》
《同じ轍は踏みません、全機無事ですよ》
よかった、と再び安どの意気が漏れる。
オーブ以上の激戦を、オーブの時以上の時間続けていて被害が0。
彼方を見やれば、黄色のカラーリングのコスモグラスパーを駆るサンダーバード隊と、赤いカラーリングのレッドバード隊が航行している。こちらも脱落機は見えない。
《よう、大尉。ご無事で何よりだ》
《そちらもな、エッカート大尉》
コンバットハイになっていた身体が、徐々に冷めていく。
ようやく長い戦闘が終わった。その安心感というか、安ど感がその場のパイロット達を包んでいた。
戸惑い、混乱、焦り、怒り、興奮。戦闘に付き物の感情が抜けていき、ようやく達成感を感じ取れた。
- C.E.71 8月13日 グリニッジ標準時午後1時44分
バッセルβ回廊を防衛していたザフト艦隊は、質量弾攻撃により大きな被害を受けて降伏を宣言。
大西洋連邦宇宙軍L1宙域攻略艦隊の総指揮官ワイアット中将はこれを受諾し、生存者を捕虜として捕縛、後方への移送と戦闘の舞台となったバッセルβ回廊における生存者の救助活動を開始した。
同時に、L1宙域最深部の要塞「レイヤード」もウルド3の陥落と艦隊の降伏を確認し、事前に通達していた通りに降伏。
以降の対連合の戦闘行為のすべてを放棄し、敗戦処理に移った。
ただし、ごく一部を除いては---であったが。
206: 弥次郎 :2018/10/01(月) 18:32:16
以上、wiki転載はご自由に。
やっと大西洋連邦サイドも終了、駆け足でしたが何とか終わりです。
やはりストーリーの侵攻を優先すると戦闘描写が淡泊になっちゃいますね…
ある種トレードオフと割り切るしかないのでしょうかね…?
次でザフトサイド、そしてエピローグとできそうです。
長くなりましたが、いよいよ「B-Day」
シリーズも完結が見えてまいりました。
もう暫しお付き合いいただければ幸いです。
今回も少しばかりですがナイ神父Mk-2氏発案のMSを登場させてみました。
アイディアを頂きまして、ありがとうございます。この場を借りてお礼申し上げます。
最終更新:2018年10月03日 10:19