588: 弥次郎 :2018/10/05(金) 00:10:00 ID:8vhcOEwE


大陸SEED支援ネタSS 「B-Day」8




Main Staring:
<Lagrange 1 Defense Forces,Z.A.F.T.,PLANT>
Max・Pellini
Selena・Trivia
Elizabeth・Walti


Original:Mobile Suit Gundam SEED
Arranged by:ナイ神父Mk-2氏
Written by:弥次郎



      • 地球・月間ラグランジュポイント1宙域 ザフト要塞「レイヤード」


「これは…どういうことでしょうか?」

セリーナ・トリウィアは、何とか平静を保ちながらもそう問いかける。
いきなりの展開に、正直理解が追いつかない。

バッセルβ回廊会戦は大西洋連邦によるデブリミサイルの飽和攻撃が止めとなり、ザフト側の敗北となった。艦艇の多くがその機能を失い、戦闘続行が不可能になったためだ。
いや、それがなくともやがてはその戦力差から敗北することは明らかだっただろう。

悔しいことだが冷静に戦力比を比較し、戦闘能力を比べた場合、ザフトは圧倒的に不利だった。
ただ、勝ちを拾えるかもしれない、という可能性にかけて戦闘に臨んだのだ。
勝機は0ではなかった、と信じたい。だが、相手はより大艦隊を揃え、MSもMAも揃え、押し潰してきた。
結果的にそれに抗うことが出来ず、自分達は敗北を喫したのだ。

レイヤード直属艦隊もまた被害を受けた。だから唯一航行能力が無事だったシャングリラ級に避難し、戦場からホームベースたるレイヤードに負傷者などを引き連れて、バッセルβ回廊からレイヤードへと帰投した。
あの場にいても良かった。だが、それはできなかった。負傷者が多くシャングリラ級にあるものだけでは対処しきれず、無事であるはずのレイヤードに縋るしかなかった。そしてもう一つの理由は---

(それはともかくとして…)

そして即座に司令部に呼び出されてみれば、出迎えたのはMPを引き連れた総司令官と参謀。
自分へと突き付けられているのは、多数の銃口と総司令官の、今まで見たこともないような鋭い視線。
普段のふざけたような態度は鳴りを潜め、真剣な表情を浮かべている。

「まあ、その、なんだな。セレーナ・トリウィア。大人しく縛についてもらおうか」

その口から発せられた宣告は、トリウィアが密かに進めていたプランの終焉を告げるものだった。

589: 弥次郎 :2018/10/05(金) 00:11:08 ID:8vhcOEwE


      • 2時間ほど前 レイヤード内 CDC



ウルド3の陥落、そして残存艦艇を糾合した艦隊の降伏。
この二つの報告は、当然、レイヤードに届けられていた。
司令室と繋がる巨大なCDCでは少なからずショックを受けてうなだれるザフト兵の姿が見られた。
無理もない。艦隊が壊滅したということは、それだけ多くの死傷者が出たということ。
レイヤード直属艦隊からの人員を送っていたので、未帰還ということは、そういうことである。

一方で、あきらめがついている、ある種のあきらめの表情の人員もいた。
元々戦力には差があり、いずれはこうなることは読めていて、それが訪れただけであるということ。
悲しみが無いということはないが、覚悟があれば少しはマシである。それに、序盤戦を除けば人員を失う一方のザフトは、良くも悪くも失うことに慣れ切ってしまっていたのだ。少なくとも機能不全に陥って、降伏に向けた仕事が全く進まない事態は避けられた。

そんな中で、総司令官であるマックスと参謀であるウォルティの二人もまた、忙しく仕事をこなしていた。
執務室にこもり、各部署への指示書へのサインと確認を行い、誤りがあれば訂正し、問題なければそのまま処理させる。
人の出入りは最低限。故に、自然と二人の会話は始まった。

「やれやれ…さぼる暇もなし、か」

「総司令、体調の方はよろしいので?」

「問題ないさ。今は気分もいい。薬も程よく効いている。だけど、いざとなったら頼むぞ」

「はい」

ウォルティはちらりと机の上に無造作に置かれた注射器に視線を送る。
それは、警告文とマークが並ぶ、少々強めの薬だった。
度々使っているその薬に一度視線を送ったマックスは、しかし一度首を振って話を続ける。

「元々上層部はここを時間稼ぎのためとしか考えてなかっただろうしな」

「総司令…」

歯に衣着せぬ物言いのマックスに一言言おうとしたが、ため息をついてまくしたてるマックスに口をつぐんだ。

「いいだろ、別に。
 失っても惜しくない程度の人材を固めておいて、時間を稼げってんだからな。
 扱いの悪い連中の、体のいい厄介払いだ。人身御供って言ってもいいかもな。
 連合がここに注目してくれた方が、本国の連中にとっちゃ都合がよかったんだろう」

しばしの沈黙。
厄介払いというのは同意できることだ。
傷痍軍人の戦線復帰の試験という名目で、手足などに欠損を抱えたパイロットが送り込まれ、棺桶同然の機体に放り込まれて戦線投入されていることは知っている。
ジン・レヴェナントのように機動戦ができるならばまだましだが、それ以外のMS、事実上の砲台とかしたMSを宛がわれたパイロットの生存率は考えるまでもない。
一撃で相手を倒せなければ、反撃で撃墜される。パイロットでなくともわかることだ。

「否定はしません。しかし、勝機にかけた人員がいたこともまた確かかと思われます。
 彼らの意思を無碍にすることはあまりよろしくはないかと」

「…まあ、そうだな。真面目に、悲観しながらも必死になった奴らもいたんだろうな」

590: 弥次郎 :2018/10/05(金) 00:12:09 ID:8vhcOEwE

そこだけは、マックスも否定できない点だった。
僅かな勝機にかけ必死に戦ったパイロット達が、そのパイロット達を支えたメカニックたちが、艦艇で彼らを前線へと送り込んだ艦艇クルーたちがいた。彼等はそうとは知らず、ひたむきに戦いに挑んだのだ。

「だけどな、俺にとっちゃ、そんな必死になった連中さえも利用して、取り返しのつかないことをやろうとした連中を赦せんよ。
 そんな奴は真っ先に地獄に落ちてしかるべきだ。義務や命令に忠実に従った、というのは正しいだろうが、やることがゲスすぎる」

口は悪くとも評価をしている、ということに気が付いたウォルティはそれをふときいてみる。

「官僚については否定しないのですか?」

「理想的な官僚とは、憤怒も不公平もなく、憎しみも愛もなく、激情も熱狂もなく、ひたすらに義務に従う奴らしいぜ。
 まさにザフトにとっては理想的だろう?ま、ナチュラルに対する憎悪や恐れ、怒りなどが大きすぎるから問題あるが」

「マックス・ウェーバー気取りですか?」

「俺と同じ名前だ。これでも物知りなんだぜ、俺」

ため息を一つこぼしたウォルティは自慢気なマックスに指摘をする。

「それは官僚の話でしょう。兵士の、軍に関わることとは言いにくいのでは?」

「軍隊だって組織だ。そして組織に官僚のような存在は必須だろう。
 多分、このプランを練った奴もそういう官僚かそれ以上の地位の持ち主だ。
 おまけに頭が回るし、他人の過去を洗いざらい調べて利用できるような、そんな奴さ」

「それがプラントのためになると判断して、実行に移したと?」

「だろうな。それが義務だからな。よしんば失敗しても、いいプロパガンダにはなるだろう。
 無能な上司に代わって必死に国防に殉じる少女。決死の作戦。ま、糞ッタレなシナリオなのは確かだがな」

それで、と雑談を切り上げ、報告を要求する。

「で、例の奴はどうなってんだ?」

「既に該当箇所の処理、および通信設備の解体は完了しています。
 すでにスイッチを押そうが何をしようが、動き出すことはないでしょう」

「始末は終わってんのか。なら、後は口裏合わせかね」

「はい。また、今回の下手人の捕縛というのも忘れてはならないかと」

「下手人、ね。本人の前では言ってやるなよ?奴も被害者みたいなもんだ。
 まあ、そういう面を見せたら生身で宇宙遊泳だけどな」

しかし、とマックスは手でスティック状の情報媒体をくるりと回し、呟く。

「ケスラーシンドロームを月で起こす、か。よく考えたもんだぜ。
 確かに艦艇戦力が劣る俺らでも、最悪加速装置さえあればできるんだからなぁ」

「もう、それはできません。関係者も拘束済みです」

「あと一人を除いて、だな」

今回の戦力の派遣は渡りに船だった。
主犯たる彼女、セリーナ・トリウィアが不在となったことで、レイヤード内で動きやすくなった。
あとは、必ず戻ってきてレイヤードの設備を利用するであろう彼女を捉えるだけだった。

591: 弥次郎 :2018/10/05(金) 00:13:18 ID:8vhcOEwE

      • 時間は再び現在に戻る。



「ケスラーシンドロームによる月そのものの封鎖。悪くない。
 だが、当然だがそれを実行するにはL1にやってくる艦隊と月面の艦隊が邪魔だ。
 少なくとも…そうだな、L1にやってくる艦隊はどうにかして消耗させないといけない」

一度加速されれば艦隊では追いつけない。
だが、加速する前ならばなんとでもなる可能性がある。
質量が大きければ加速するまでの時間は長くなるし、その間にMSがとりついて阻止することも容易いのだ。
そんなことをされてはたまらない。だからこそ、徹底したゲリラ戦が最適であった。
艦隊戦に持ち込まれたのは、相手の戦力が予想以上だったためだ。まあ、それでも消耗はさせることが出来た。

「L1に現れた連合の艦隊の消耗を誘うのは、大本命である大型デブリの加速を阻止する能力を奪うことが目的だった。
 一度消耗している艦隊が移動を始めた大質量物体の移動を阻止することが難しいのはボアズ要塞…東アジアの『新星』で確認済み。
 まして、必ずしも原形をとどめていなくて、大量の細かいデブリになっていたとしても、一度月軌道上にばら撒けば、よしんば月の重力にとらわれて落下しようが、ひょっとすると連合の基地なんかに隕石として降り注ぐかもしれない…なるほど、いい作戦だ」

「……」

「そうすれば、連合は月軌道上のデブリの除去を行うしかない。少なくとも航行に支障をきたさないレベルまで。
 そうさな…不休でやったとしても、まとまった量が突っ込めば半月近くは時間を稼げるだろう。
 半月も月面への航行に支障をきたせば、立派な妨害工作の成功だ。更なる時間を本国は得るだろう」

ふぅ、と息を吐いたマックスは無言でトリウィアに問いかける。
間違いはあるか?と。トリウィアは、無言を返すしかない。

「この宙域だけでなく、月周辺宙域までを作戦展開地域としてとらえた二段、三段構えの作戦。
 考えたのがお前か、それとも上層部の誰かなのか、そんなことはどうでもいいが、相当悪辣だ。
 さぞかし連合は頭をひねっただろうな、どうしてここまでL1に執着したのか、と」

L1でなければ、それだけのデブリを手に入れられないからな、とマックスは嘯く。

「ある意味ここはおあつらえ向きだったわけだ。
 ゲリラ戦を仕掛けるのも、艦隊をおびき寄せるのも、必要なデブリを集めるのにも、な。
 それにここは本国を除けば、宇宙でまともに制宙権を握ることが出来ている唯一の宙域。
 おまけに月面にも近いと来たもんだ。これでやらないわけがない」

表向き時間稼ぎということしか連合には伝わってはいない。
大西洋連邦の諜報部も、その意図を測り兼ねてはいたのだ。
唯一の例外を挙げるとすれば、大洋連合の夢幻会が「どうせジェネシスの完成までの時間稼ぎだろ」と神の視点を無駄に利用し、完全にプラントの目論見を看破して、おまけに対抗馬としてソーラー・レイまでも準備していることだろうが、ここではあまり関係の無い話だ。

そして、とマックスは司令部の一角を指出す。
そこには通信装置が並べられて設置されており、その中の一つには、NJで影響を受けにくく、L1に浮かべられている中継衛星を経由することで遠距離まで指示を飛ばすことができる赤外線通信装置が据えられていた。

「赤外線通信で各所にある加速装置やフレアモーターを起動させるにはどうやっても大規模な設備が必要だ。
 少なくとも、L1宙域内に届かせることができるような規模の奴がな。それはこの宙域に、レイヤードしかない」

「私が最前線に送られたのは…」

自分でもびっくりするほど、トリウィアは弱弱しい言葉しか出せなかった。
そう、自分は艦艇を率いて最前線に、艦隊戦の一角に赴いた。
それは、自分の目論見を阻止せんとするマックス達にとってこの上ない無い好機だったに違いない。

「最適な人材だったのは確か。だが同時に、主導者がレイヤードからいなくなっている間にあれこれと始末が出来た。
 証拠は何一つ残っていないし、口裏も合わせた。設置された奴についてもほぼ排除したから、証拠にはならん」

その言葉に、うなだれるしかない。
もう全部見破られ、暴かれている。抗弁の余地など、ほとんど残されていない。
恐らく3名の部下たちも拘束されているのだろう。自分がまかせた仕事を実行に移す前に。

592: 弥次郎 :2018/10/05(金) 00:14:26 ID:8vhcOEwE

ちなみに、とマックスは続ける。

「計画の全貌は、こいつが全部吐き出してくれたぜ?」

すっと取り出した情報媒体に、思わずトリウィアは顔を驚愕に染めてしまう。
そんなバカな、常に携帯しているはずのそれを、なぜ。
思わず胸ポケットに入れてあるそれを服の上から抑えてしまう。
すり替えられたのか?それとも、偽物か?こちらを欺くためか?

「ピンと来たのは、着任してからしばらくしてだな。
 私物かと思ったんだが、どうにも違うものを仕事中に使っている。
 で、ちょいと拝借してみたわけだ」

どういうスキルだ、と再度驚愕するしかない。
気配を殺し、痕跡も残さず、自分からそれを奪取してのけたというのか。
一体いつなのか。かけられていた厳重なプロテクトをどう破ったのか。
疑問は尽きない。

「ま、そこはちょいとな。ここに着任してから妙に様子がおかしいんでな、それで調べた。
 重要なのは、お前がろくでもないことを指示されて、それを実行しようとしたってことさ」

「だ、だとしても…」

ようやく絞り出せた声は、ひどく頼りの無いものだった。
だが、何とか続きを絞り出す。

「だとしても!総司令官の行動は、上層部からの作戦への妨害行為に他なりません!」

「作戦妨害なのは確かだろうなぁ。けどよ、こいつはいけないぜ」

言い返すが、それはマックスを止めるには至らない。
言葉に、力がこもっていないのだ。

「報復で、同じことをされる。恐らくプラント本国目がけてな。
 L1を制圧すれば連合は大量のデブリを手に入れることになる。
 処分に困るコイツを同じようにぶつけられたら…流石にヤバイだろ?」

「…それは」

「このタイミングで漏れてみろ。勢いに乗った連合が頭に血が上って、最悪の選択を選ぶかもしれん。
 一時的には優位になるだろう。だが、その後のことを考えれば止めるべき作戦だ」

「それは、総司令官が判断することでは…」

「だが、お前やお前に指示を出した人間がすることでもない。平等に意味がない」

MPに合図しながら、マックスは肩をすくめて止めを放つ。

「これはエゴでの阻止だ。だから恨んでも構わん。
 だが、月面にいる人間を苦しめて、その報復でプラントを苦しめることになるのは看過できねぇよ。
 少なくとも、復讐を理論武装して実行させるわけにはいかないのさ」

「!?」

その言葉を最後に聞かされ、トリウィアはMPに引っ立てられ、司令部から出て行かされた。
最後に見た総司令官の背中は、何故だか、小さく見えた。

593: 弥次郎 :2018/10/05(金) 00:15:08 ID:8vhcOEwE

    • レイヤード 独房

「……」

随分殺風景だと、独房に留め置かれているトリウィアは思う。
それ以上に、自分がこれまで必死に積み上げたことがあっけなく崩れ去ったことで、留置所内の風景にに負けない虚無感が、トリウィアの胸中を満たしていた。もう、全てが終わってしまった。何もかもを投げ捨てる覚悟のそれが、もう終わってしまったのだ。
自分の使命、とまでは言わないが、マックスが指摘したようにそれに縋っていたのは確かだ。
ナチュラルへの、連合への復讐。
それが消え失せてしまった。

正直に言えば、ちゃらんぽらんで、情けないと思っていた大人であるマックスに真っ先に感づかれ、阻止されてしまったのは痛恨の極みだ。
背景までは知らない、と言われた。それは恐らく事実。
彼等は知る由もないだろう。だが、知る人は知っていた、ということか。

(父さん、母さん…)

第一世代のコーディネーターには、ナチュラルの両親が必要となる。
それはもちろんトリウィアも同じだ。弟だっていた。自分よりも5歳年下の、ナチュラルの弟。
農学博士だった両親は、ナチュラルだったがプラントにいた。そう、あのユニウス7に。
コーディネーターだけではない、ナチュラルだってプラントにはいた。自分の両親のように。
そして、コーディネーターを忌み嫌うブルーコスモスによって、ナチュラルの両親は殺されてしまった。

(……)

遺体さえ残らない死は、弟にはショックが強すぎた。
親族がおらず、孤児となったトリウィアと弟は、孤児院に引き取られた。
そして弟は、見る見るうちに衰弱し、精神を病んで、自ら死を選んだ。
その原因が両親の死であることは明白だった。同時に、コーディネーターに混じった『異物』と見られたことも。

(そうか…)

すとんと、胸に落ちるものがある。
自分が報復したかったのは、両親を奪ったナチュラルであり、弟を奪ったプラントだった。
だから、報復でプラントのコロニーがどういう目に合うか理解してもなお、実行をためらわなかったのだ。
ずっと実行にかまけることで、ずっと目をそらしていたこと。それを今、ようやく認識した。
どっちも滅んでしまえばいい。どっちも苦しめばいい。そんな思いが、自分の中にあったのだ。

既にコロニーの残骸や残っていたコロニーである「ペルウス」に取り付けられた加速装置は取り払われており、痕跡も残っていない。勿論、自分でもこの作戦を実行に移し、実際に被害が出た場合の連合の報復が予想できなかったわけではない。
だが、それでも。それでもなのだ。MSに乗れない、MAにも乗れない、非力な自分が復讐を行うにはそれしかなかった。
渡りに船とさえ思っていた。この話を打ち明けられ、実行役として選ばれたときには。

『結局お前もまた手駒に過ぎなかったわけだがな。その復讐心と、その実行力に目を付けられたんだろう。
 まあ、ご愁傷さまって奴だ。お前は悪くないさ、悪いとすれば、それを利用した頭の切れる奴だろう』

(……ッ!)

マックスの言葉がフラッシュバックし、ギシッと歯ぎしりしてしまう。
自分が選んだ、自分が望んだ、自分が動かした---そう思っていた。
だが結局、自分もまた盤上の駒に過ぎなかった。
挙句、それを慰められてしまった。

悔しくて、苦しくて、悲しくて、嬉しくて、辛くて、感情がもつれ合って自分の中にあった。
自分はどうしたいのか、よくわからなくなってしまった。
一つ分かるのは、もう一つ許せなかった人間がいたことだ。
それは自分だ。

594: 弥次郎 :2018/10/05(金) 00:15:59 ID:8vhcOEwE

結局のところ、全ては自分に返ってきている。
両親が死んでしまい、残った弟を守れず、挙句に唆されて暴挙を犯そうとした。
そして、その暴挙はもはや明かされることなく、闇に葬られようとしている。
それが一番であると、頭では理解している。だが、過去を振り返り、指摘を受け、今になってみれば、耐えきれるものではない。
自分が甘言に乗らなければ、と思わなくもない。多くの人を欺いて、利用した。利用したつもりになっていたのは確かだが、
それでも事実は事実に違いはない。消しようがない、過去だ。そんな自分が許せないくらいの倫理観は、よみがえってきている。

これからどうなるのかもわからない。
ただ、自分の始末は出来ない。監視の目があるし、しっかりと手錠を付けられ、道具類は全て取り上げられている。
レイヤードの降伏に合わせて、おそらく連合の捕虜となるのだろう。そうすることで、一番安全が保障される。
おめおめとプラントに逃げ帰って咎められるよりはマシだ。

だが、生きて、どうすればいい?
連合の捕虜になって、戦後には解放されることになるだろう。
その後は?この戦争の後は?

「どうしたら…」

考えてもいなかった。
このL1へ来ることが決まる前は、少なくとも祖国のために戦おうと、復讐心を抱きながらも思ってはいた。
だけれども、その後のことを全く考えていない、覚えていないことに、自分でショックを受けていた。

自然と、目から涙がこぼれ堕ちる。
この感情は何だろうか。怖いのか、悲しいのか、悔しいのか、嬉しいのか、分からない。
ただ、胸からこみ上げるものがある。もう泣かないと、弟を失ったときに誓ったのに、どうしても止まらない。

    • そんな自分が、どうしようもなく憎い。

あと数時間もすれば、連合の艦隊がレイヤードを抑えることだろう。
そうすれば、どうしようもなく終わり。自分達が実行しようとした「月の涙」作戦は闇へと葬られ、全ては消されることだろう。
自分はもう、どうにもできない。どうしようもなく、止められてしまったから。

「どうしたら…いいんだろう…」

問うべき、縋るべき縁を失った少女に戻ったトリウィアは、静かに慟哭するしかなかった。

595: 弥次郎 :2018/10/05(金) 00:16:55 ID:8vhcOEwE
以上、wiki転載はご自由に。
殆ど会話ばっかしでした。一番地味な話になってしまったかもですね。

ケスラーシンドロームを月に起こす。これによって連合が月を経由することを妨害する。
これが、ザフトが、ザフトの一部が最後の最後まで残していた切り札でした。
これをやったら最後、ザフトも報復で同じことされてしまうんですよね。
過激派の多い東アジアはともかくとして、プラントを取り戻すことがもはや確定状態の各国が選ぶわけもないのですが、
それが選択されないという保証は全くありません。

あっけないかもしれませんが、これにてL1をめぐる戦いは終結となります。
後日談を書いて、でブリーフィングファイルでも書いて、B-Dayシリーズは簡潔となりそうです。

それでは続きをお楽しみに。
感想返信はまた明日、というか今日ということで…
可能な限りはやろうと思いますが、もう眠気がね…

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最終更新:2018年10月08日 09:05