4: 弥次郎 :2018/10/11(木) 20:03:05 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
大陸SEED支援ネタSS「B-Day」 epilogue:Side T
Main Staring:
<Lagrange 1 Defense Forces,Z.A.F.T.,PLANT>
Max・Pellini
Selena・Trivia
Original:Mobile Suit Gundam SEED
Arranged by:ナイ神父Mk-2氏
Written by:弥次郎
レイヤードの制圧および指揮官を含めた上位の人員の拘束は滞りなく行われた。
元より、L1宙域に存在するザフト戦力はほぼ主力を決戦で使い果たしており、残る戦力は文字通り敗残兵ばかりで、実働に耐える戦力など雀の涙ほどしかなかった。
あとはL1宙域の各所に点在している監視所などの戦力がいるのだが、これも既に遊兵となっており、まともな作戦行動をとれる状態ではない。現在はレイヤードから各拠点に対して、連合への降伏が通達されており、ユーラシア連邦と東アジア共和国の宇宙艦隊が虱潰しに制圧していくだけである。
その制圧は短くとも半日、長ければ2日はかかると予想されている。
むしろ連合にとっての大仕事はこのレイヤードにいる負傷者や降伏した兵士などの対応である。
重傷者は急ぎの便で月面へ送られることになるし、そうでない者もひとまず月に送られることになる。
また、レイヤードの残存兵器については東アジア共和国宇宙軍が主体となって鹵獲して運用することになり、これまた後方へ一時的に輸送しなければならなかった。
そして、激しい戦闘をほぼ半日行っていた艦艇やMS、パイロット達も休息や整備に追われていた。
繰り返すようだが、デブリの多い宙域での激しい大規模戦闘が行ったのである。当然、損傷機が大量に発生してもおかしくなかった。
今頃核母艦では損傷機のメンテナンスが大規模に実施されていることだろう。まあ、設備的にも限界があるので、当面の稼働機を確保するためのメンテナンスや補修がメインで、中破・大破のMSなどは後回しになる。
そんな騒がしいレイヤードを窓の外に見ながらも、セリーナ・トリウィアは輸送艦の個室で静かに過ごしていた。
レイヤード直属艦隊の指揮官代理、という地位を短いながらも拝命していた彼女は、士官待遇で輸送艦に乗せられ、月へと移送されることになった。思わぬ同乗者もとい隣人と共に、だったが。
「はぁ…」
丁度その時、ノックの音が来訪者の訪れを告げる。
誰が来たかなど、分かり切っている。ため息とともに、許可を出せば、思った通りの人物が入って来る。
「よう、元気かぁ」
少し草臥れたような、覇気に欠ける声。よく言えば、肩の力の抜けた、リラックスした声。
「総司令…」
マックスの姿が、扉をくぐって入室してきた。
本来ならば色々と尋問を受け、その上で移送されるはずの彼が何故ここにいるのか。
「俺、L1の指揮系統の上ではトップだけど、重病者だからな」
精神疾患、睡眠障害、記憶障害エトセトラ…仕事が出来ない人間と思っていたマックスは、実のところ仕事をこなしているのが奇跡のような病人だったのだ。
それが明らかになると、連合はやむなくマックスを月送りの最初の便に乗せ、集中治療の後に尋問を行うことにした。
そして、参謀であったウォルティが代役として残り、連合からの聴取を受けている。
「夜間時間は眠れないし、仕事もやる気が出ねぇ…それでいて妙に頭がさえるときもある。
それでも頑張ってたんだぜ、俺ってば」
偉いだろ?と自慢げに語るが、その目は真剣だった。
常人ではとても耐えきれない状態でも、ちゃらんぽらんを装い、他者に悟られずに職務をこなしていた。
精神というべきか、信念というか、そういったものが常人離れしている。意思だけで自分の体の不調をねじ伏せ、軍人として活動し続けるだけのコンディションを維持していた。
5: 弥次郎 :2018/10/11(木) 20:03:58 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
「でも、話の内容からするとウォルティさんも手伝っていたみたいですね?」
「ん?ああ、まあな」
マックスは、トリウィアの指摘に何ら臆さず肯定を示す。
服用する薬の管理、どうしても体調が不調な際のフォロー、口裏合わせなど、多くのことをウォルティはこなしていた。
「精神系の病気ってのは、どうしてもそうなっちまうからな」
「……一体、何時から罹っているんです?」
つい、口をついて疑問が出てしまう。
精神を患う、というのは人によってかなり差がある。
その発端、原因、罹患した時期、程度、どれも千差万別。
だが、素人のウォルティでも、マックスほどの重症になるのは早々にあるものではないと知っている。
事実、彼の服用していた薬は多種にわたり、一部にはかなり強力なものも混じっていた。
「…俺さ」
失言だったか、と思わず視線を泳がせたトリウィアは、暫くの沈黙を破ったマックスの言葉に耳を傾ける。
「父親がコーディネーターじゃないんだよな」
「…つまり」
「ハーフって奴さ」
すっと、その手は首に下がる古びたネックレスに伸びる。どこか懐かしむように、しかし、同時に悲しむように。
そういえば、L1に駐留することになったその日からマックスと顔を合わせていたが、マックスは毎日それを軍服の上からつけていた。服務規程違反だと言われても、それをつけ続けていた。
思い出の品なのだろうか、よく見ればかなり古びていて、年代物だとわかる。
「親父はな、地球でお袋にであったらしい。一目惚れって奴でさ。最初は軽くあしらわれたらしい」
「それはまた…」
「で、お袋がプラントに働きに出るって聞いて、数年かけて勉強して、プラントにまでお袋を追いかけてきて結婚したんだそうだ。
で、親父は告った時に言ったらしい。コーディネーターのお袋を見ていたんじゃない、そこにいる人間が好きになって、動いたんだ、と」
惚気話になってきたな、と笑うマックスだが、言葉によどみはない。
「で、その後、喧嘩したり、ぬちょぬちょしたり、ごたごたあった後に俺が生まれた」
「ぬ、ぬちょぬちょって…」
「けどま、俺も親父も、少数のナチュラルでさ。嫌われたよ。
親父は別段遺伝子が優れているわけじゃない。ただ、努力して学力と知識をつけて、プラントにやってきた労働者だ。
遺伝的に見れば、親父から半分くらいは貰っている俺も似たようなもんだ」
「……」
「それから、気が付けば……だな。親父は早死にしちまったし、お袋はお袋でそれでショックを受けて病院送り。
俺もそうだったし、周りは俺をのけ者扱いしてた。出来損ないってな」
「ですが、総司令は白服をもらうほどの人材だったはずでは?
優秀さという意味では間違っていないはずです」
「ん、まあ、そうだな。だけど、いろんな奴がいたよ。俺を邪魔する奴、俺を敵視する奴、俺を不当に評価しない奴、俺に同情する奴。
ま、お陰で人を見る目と世の中を渡っていく方法は学べた。
だから、お前がレイヤードに来たときに一発で分かった。こいつは、何か腹に一物抱えてやがるってな」
「そんな心を読むようなことって、本当にできるんでしょうか?」
6: 弥次郎 :2018/10/11(木) 20:04:44 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
ウォルティは懐疑的だが、マックスは無理もないか、と肩をすくめる。
「こいつは理性じゃなくて、本能でわかるようなものだからな。
人間は直感的に、本能として自分にとって恐怖の対象になるものを選び出す。
よくわからないモノなんてのは、恐怖の対象にしかならない。プラントのコーディネーターにとってはな、ハーフのコーディネーターなんてのは未知の対象で、どう接すればいいかわからねぇんだ」
「ただ、それだけの理由で…」
絶句するトリウィアに、マックスは悲しげに笑う。
「コーディネーターの理性なんてのは、所詮そんなもんだ。
本能に由来する行動の方が人間の行う行動の大半を占めている。だから、ある意味自然(ナチュラル)なんだ」
ともあれ、とマックスは話を戻すことにした。
「俺は病気と付き合いながら生きてきた。
で、病気のこともあって上は俺をL1へと放り込んだわけだ。
俺以外にもいたんだろうけどな、お前に役目を負わせる都合上、俺が一番問題ないと思われたんだろうな」
「……ですが、総司令は私の目論見を最初から見破ってしまった。
おまけに、阻止までしてしまった。予想外だったんでしょうね」
自分の事だったが、どこか他人事のような口調になってしまう。
実際、もう終わってしまったことであるから、他人事といえば他人事だ。
もう、余計なことを、神経をすり減らしてまでやる必要はない。
それに連合の捕虜ということは、ある意味身の安全と最低限の生活が保障されているということであり、報復などを受けることもないということ。自分を殺すなり粛正するということは、ある種連合を破るのと同じくらいの労力がいるのだ。
「ま、所詮は人間の考えることだからな。人間は案外馬鹿だ。
理論理屈を並べ立てても、どこかしらに穴がある。
大体、そんなに世の中簡単だったらザフトは地球全土を制圧してのけているぜ?」
「……ですね」
現実は、そう甘くない。
序盤戦は宇宙で勝利し、地球へと降下し、勢力圏を広げ、現地勢力を取り込んでいった。
いけいけ押せ押せと勢力を広げていく快進撃を止める者は、当初はいなかった。
理屈で言えば、そのままザフトの優位は決まっていて勝利となっていただろう。
だが、そこまで世の中は簡単ではなかった。抵抗され、逆転され、追いやられているのはザフトの側となっている。
「ま、俺達の戦争はこれでおしまいだ。
あとは結果が出るまでのんびりと待つしかない。そうだろ?」
その言葉に、すとんと肩の力が抜ける。
もう、何も背負うものが無い。あるとすれば今後の身の振り方だが、それもゆっくり考える時間がある。
それはマックスも同じだろう。眠れないのを、夜間時間に騒ぐふりをしてごまかさなくてもいいし、ゆっくりと自分の病気と向き合うことができる。仕事に追われることも、部下に叱られることもないのだ。
「じゃ、俺はもう戻るぜ。しっかり休めよ」
「総司令官に言われたくありません、まったく…」
ふぅ、とため息をついて出ていく上司に、軽口を叩く。
思えば、こんな力の抜けたコミュニケーションをしたのはいつ以来だろうか。
そんなことを思いながら、トリウィアは暫し宇宙の景色を楽しむのだった。
7: 弥次郎 :2018/10/11(木) 20:05:26 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
例によってエピローグが長くなるパターンですね。
大洋、大西洋連邦、ザフトそれぞれのSideでもエピローグを書こうと思います。
一話あたりは短いでしょうが、時間かかりそうです…
それでは次をお楽しみに。
最終更新:2018年10月13日 11:27