58: 弥次郎 :2018/10/11(木) 23:45:06 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
大陸SEED支援ネタSS「B-Day」 epilogue:Side V
Main Staring:
<612th Special Task Unit:Traning & Technical Evolution Unit,Z.A.F.T,P.L.A.N.T.>
Ronald・Virta
Egil・Rosser
<FAITH:Special Forces,Z.A.F.T,P.L.A.N.T.>
Jonathan・Smith
Original:Mobile Suit Gundam SEED
Arranged by:ナイ神父Mk-2氏
Written by:弥次郎
- C.E.71 8月16日 グリニッジ標準時14時23分
- L5宙域 プラント マイウス・フォー
ヴィルターがエギルと共にジョナサンのオフィスに呼び出されて入室した時、丁度ジョナサンの手元にはL1宙域で起こった戦闘についての戦闘詳報があった。
相変わらず疲労の色が痩身から漂うジョナサンは、しかし、きびきびした動作で着席を促した。
「お久しぶりですね、ヴィルター隊長」
「2週間ぶりだが、あっという間だったような気がするがな。ともかく、壮健で何よりだスミス隊長」
二人は2週間ぶりの再会ににこやかに握手を交わす。
普段は戦技指導や報告書の作成などに忙しいためヴィルターは2週間に一回ほどしか顔を合わせていない。
その代わりとして多くの場合はエギルが代行している。だが、やはりこうして顔を突き合わせて話し合うことは、非常に有意義で、情報交換以上の意味を持っていた。互いの意見を戦わせることでより良い案を導きだしたり、互いの意見の穴を見つけ合えるのだ。
早速第612STUの最近の状況についての報告書を取り出していたヴィルターが、目ざとくそれに気が付く。
「それは?」
「お察しかもしれませんが、L1宙域での戦闘についての報告書です」
既に何度も目を通し、めくったことで草臥れている紙の書類の束を、ジョナサンは無造作に差し出す。
「譜面上の戦力はそれなりに揃えてはいましたが…連合はそれ以上を容易く投入してきました。
しかも、オーブ攻略戦から1カ月ほどでこの戦力を揃えています。予想以上に、連合は力を取り戻しています」
書類には、連合側が投入してきたであろう戦力の予想も書かれている。
想定ではあるが、補助艦艇を含みで100隻以上の艦艇、それらに詰め込まれたMSやMAなど、そのリストに並ぶ数字は相当なものだった。彼我の戦力差、特にMSの性能差や数の差から言っても、ザフトが仮にこれだけの艦隊との戦いになれば相当な被害を受けることは間違いがないと予想できる。
一方で、戦闘そのものの結果については、やはり憶測がみられる。
どれだけの被害を与えたのか。どの程度戦術は通用したのか。当初の目的である時間稼ぎはどの程度果たせたのか。
少しばかり抽象度が高い。そのようにヴィルターは感じる。
(まあ、これもあくまで可能な限りでの情報を受け取った、断片的なものだから仕方がない、か)
本来ならばまともに情報を得ることも敵わなかったはずなのだ。
しかし、危険を承知で情報回収の艦隊が赴いて、情報を受け取ってくれた。
その事には感謝しなければならない。
それはともかく、憂慮すべきことはこのL1宙域に派遣された艦隊というのは連合の全力ではなく、保有している戦力の一部にすぎないということだ。今L5宙域にあるプラントには地上から引き揚げてきた人員を含め、かなりの戦力を、少なくとも保有する戦力を一極集中させている。それでもなお、連合の総数に及ぶことが無い。
そしてコーディネートの有無による彼我の優位さなど、既に形骸化して久しいのはヴィルターも身をもって経験していることだ。
近いうちに両者がぶつかり合って勝つ方がどちらであるかなど、考えるまでもない。
59: 弥次郎 :2018/10/11(木) 23:46:21 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
ヴィルターの目は、戦闘が終結した後についての状況報告のページにたどり着く。
宙域全体を包囲していたことで、幸運があれば抜け出せるだろうが、どうやら確認はできなかったようだ。
おまけに、2,3日かけて連合は宙域内を掃除したらしく、制宙権を奪うに十分な作業を終えたらしい。
故に、報告書には---
「駐留部隊は全滅、か…」
「報告に上がる譜面ではそうなっていますが、おそらく現地の司令部が降伏を選択したのでしょうね。
野蛮なナチュラルが降伏を受け入れるはずがない、とある種の強迫観念を刷り込んでいるのですから」
報告書の書き方に肩をすくめつつも、ジョナサンはL1についてバッサリと切り捨てる。
「遅かれ早かれ、L1は堕ちる宙域でした。むしろ無理な抵抗を選ばずにいた方がよかったのかもしれません。
ですが、何らかの意図を持ってL1宙域の死守は命じられ、それが実行に移された……それだけの価値のある時間を、彼らが稼いでくれたと信じたくはあります」
「その時間を稼いだ部隊は、おそらく無事なんだな?」
「ええ、恐らく。既に連合は戦後を考えています。プラントの再稼働、というね。
情報を捻じ曲げた本人たちは、逆に無事であってほしくないと願っているのでしょうね。
そうでなければ、自分達がひたすらに隠してきた事実が表に出てしまうのですから。
追い詰められた人間に見られる、ある種の自己一貫性ですね」
「今さら嘘がばれたところで、と思うが、そうじゃない連中の方が多いのか?」
「プライドや感情の問題ですから。
この戦争も、プラントの側から仕掛けていますが、既に戦わされている戦争に代わっていますし、そう思い詰めてしまうのも当然の事でしょう」
「戦わされている戦争、か」
「序盤戦はともかく、もはや形勢は逆転。連合がストップをかけるまで、否応なく我々は戦争を継続しなくてはならない。
外交部からの情報ですが、最低限ヤキン・ドゥーエを落とし、継戦能力を奪うまで連合は戦争を続けるつもりだそうで」
これは、アイリーン・カナーバ議員からの情報ですが、とジョナサンは付け加える。
アイリーン・カナーバ、最高評議会の一人であり、地球連合との間の外交を担当する人物だ。
正直、そこまでジョナサンの手は伸びているのか、と驚くしかない。
だからこそ、ジョナサンは戦争全体を、政治を含めて俯瞰していたのか、と納得もできる。
「停戦交渉でさえも、こちらが負け同然にならなければ始められもしない、か…」
「中立のスカンジナビアとの交渉でも、引き出せるだけ引きだせてもこれだけしか条件を示せなかった。
いえ、スカンジナビアもNJの被害を受けたことを考えれば、これだけの条件を示しただけ温情ある態度といっていい」
その断言に、ヴィルターも、エギルも、落胆を隠せない。
戦争の終わらせ方、というものをジョナサンとの話し合っているのだが、やはり現実は厳しいようだ。
もはやプラントに継戦能力は搾りかす程度しか残っていない。だが、その搾りかすをさらに絞るようにして時間を稼がねばならない。
だが、それはプラントの首を自ら絞めるものだというのは身に染みて理解している。
「話はL1の方に戻りますが、新しい戦訓についてはFAITH内部でも活発に議論されて、実験がなされています」
例えば、と報告書の束をめくり、該当ページを開いて見せる。
「連合の飽和攻撃に対して、MSだけでの対処には限度がある。
ならば適性の低いパイロットでも乗りこなせるMAなどで弾幕の展開やアウトレンジのミサイル攻撃への対処が出来ないか、と」
「MSがMS戦に集中できるようにするということか」
「連合と行きつくところは同じになりそうです。
少なくとも、艦艇をうまく守ってやらねばMSの運用は厳しくなりますからね」
60: 弥次郎 :2018/10/11(木) 23:47:36 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
エギルと共にざっと書面に目を通せば、立体的な陣形を組んでMAが防空網を作り上げ、MSを補佐する体制の試案がいくつも書かれている。ミサイルの迎撃率など具体的な数字があるあたり、既にFAITH内部でも演習などを行っているのかもしれない。
確かにこれまでの艦隊戦でも、アウトレンジから迫るMSに対してはミサイルや精密さには欠けるが艦砲による迎撃があった。
だが、これまでの戦訓の蓄積から連合はMSが近寄れないようにより濃密で立体的な防空に切り替えつつある。
少なくとも進化した連合の防空から帰還したMSから得られた映像を見たことのあるヴィルターは、そのように感じている。
それを連合が選んだ理由は一つ。MSを運搬する空母をいかに守るかを求めた結果だ。
これまでならばMSで死角や射角限界に潜り込むことで対処できたが、MSや直掩のMAとあわせることで、その隙間を埋め、MSを絡めとるようになっているのだ。つまり、迂闊に攻撃隊を繰り出したところで返り討ちに遭う可能性が高い。
逆に、こちらも押し寄せる連合のMSに対して防空網を敷いて対処しなければ数で押し切られる可能性が高いということ。
だからこその効率化。MSを如何に対MSに回せるか。そして、MSが抜けた分をどのようにカバーするのか。
MAやMP、宇宙戦闘機など、MS以外のミニマムな戦力をこれまで嫌っていた節のあるザフトが、少しずつでも変わろうとしていいる。それは自分たち以外の場所でも進められているのだろうが、
その一助となることが自分たちの仕事だ、とヴィルターは直感する。
「如何にMSをMSの対処に効率的に割り当てるか…そこが焦点だと、FAITHの方では研究がされています。
ヴィルター隊の方でも、念のためデータ取りの方をお願いします」
「了解した」
「すいませんね、いつもいつも……」
「言わなくてもいいさ、お互いさまって奴だ」
ヴィルター隊、第612STUは研究部隊という側面もある。
FAITHが考案した戦術や運用などを実践に向けて研究・検証するというのも重要な仕事なのだ。
戦訓が導き出されるたび、ヴィルター達は教導任務の傍らで検証も行っているということである。
「そちらはどうですか?発足からかなり駆け足で教導をしてもらっていますが」
その問いかけに、ヴィルターは少し考えてから答える。
「そうだな…もう前線に行けるだろうって腕前の奴はまだ5人くらいだ。
対MS戦闘の技術を仕込めるだけ仕込んで、実戦でも発揮できると思われるのはそれくらい。
あとはもう少し時間が欲しいところだな」
そういえば、とヴィルターは隣のエギルに問う。
「おい、エギル。映像ファイルは持ってきたよな?」
「はい、こちらに。最初の頃に比べれば雲泥の差ってことが見ていだければ分かりますよ」
「そうですか…こちらも教材やらMSやらを準備した甲斐があったというものです」
「パイロット達の筋がいいんだ。俺はそれを少し手伝ってやっているだけだ」
「謙遜せずともいいですよ。さて、見せてもらいましょうか…」
それから2時間あまり、3人は濃密な議論を戦わせた。
少しでも兵士たちを活かすために、知恵を持ちより、研究を重ねて。
L1宙域の次は、いよいよボアズだ。局地戦ではなく、大規模な戦闘となる。
その時に備えた準備は、いくらしてもし足りることなどなかった。
61: 弥次郎 :2018/10/11(木) 23:48:47 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
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ザフトもL1宙域での戦訓をいくらか得ております。
それがフィードバックされる光景を少しばかりと、あとはこの戦争の終わりについて。
久しぶりにヴィルター隊の様子も少しばかり。
新型機を用いての教導はかなりスパルタですが、少しずつ努力が実を結んでおります。
最終更新:2018年10月27日 10:04