794: 弥次郎 :2018/10/19(金) 22:25:11 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
大陸SEED支援ネタSS「B-Day」 epilogue:Side H
Main Staring:
<23th Special Unit,Federation Atlantic Forces,Federation Atlantic,O.M.N.I.Enforcer>
Richard・V・Nortwest(Rear Admiral)
William・"Old”・Hunter (Captain)
Gerard・H・Eckert(Lieutenant)
Clara・“Private”・Juno(Second Lieutenant)
- C.E.71 8月21日 グリニッジ標準時21時29分
- 月-L1間航路 イングランド級宇宙巡洋戦艦グリーンランド 将官用個別オフィス
オペレーション・バーナム、完遂。
L1宙域中枢にあったザフト拠点である「レイヤード」の制圧と全戦力の降伏を以て、L1宙域奪還を成し遂げた。
制宙権は連合の手のものとなり、後詰めとなる艦隊の駐留を以て完全に制圧がなされた。
今後は地球と月を結ぶ補給ラインをわざわざ迂回させる必要もなく、かなりスムーズに進ませることができるだろう。
加えて、宇宙におけるザフトの拠点となるような宙域が、プラント本国の存在する宙域以外ほぼクリーンな状態にある。
つまり、ザフトは地球からだけでなくラグランジュポイントのような宇宙の要衝からも叩き出され、本国以外から囲まれた状態にある。
これまでは協力関係にあった月面都市である「コペルニクス」もここにいたっては態度を翻すしか他はなく、大月宮、フォン・ブラウン、アルザッヘル、プトレマイオス、新因幡の各理事国の月面都市もようやく安堵できる状態となった。
さらに、今作戦の成功というのは、連合が宇宙においてもザフトに勝利できる、MS戦で勝利できるということが証明されたのだ。
勿論ザフト側が戦力をある程度惜しんでいたとはいえ、それでも宇宙でザフトに勝利した、作戦を完遂した、というのは大きな事実であった。
長らく持久戦に徹していた宇宙軍にとっては久しぶりの大勝利であり、大いに士気を高めることとなった。
この勝利を、連合理事国は大きくプロパガンダで取り上げた。
宇宙軍の勝利、地上から続く連戦連勝、ザフトのMSを圧倒する連合のMS。
さらに艦隊戦での勝利も上乗せされる。序盤戦、MSとNJといいう奇策があったとはいえ、連合は一度は敗北していたのだ。
それに対して同じくMSを擁して艦隊戦で勝利し、雪辱を果たした。これで盛り上がらない方がどうかしている。
既に勝利の報は月面に、そして地球へと伝えられている。
そしておそらく、各国政府の発表がなされていることだろう。
故に、このアルザッヘル基地への帰路についているグリーンランドの艦内も心なしか明るいムードだ。
グリーンランドを旗艦とする第23特務隊はその特務隊の名に恥じぬ働きをし、艦載機部隊にいたっては被撃墜及び死亡者0を叩きだしたのだ。
運がよかったことや援軍が駆け付けたことなどいくつもの要素はあるだろうが、兎も角そういう記録を打ち立てたのだ。
「ハンター大尉、それにエッカート大尉、よく来てくれた」
将官用のオフィスに招かれたハンターとエッカートは、ノースウェスト准将の歓迎を受けた。
敬礼に返礼しつつ、ノースウェストは二人に応接用のソファに座るように促す。
「本当は母港に戻ってからにしたかったけど、それだと時間が取れそうにもないからね。
個人的にもお礼を言っておきたかったんだ。オペレーション・バーナムにおいて君達はよく働いてくれた。
本当に感謝するよ」
「いえ、ノースウェスト准将閣下の手配によって、我々が力を発揮できたおかげかと」
「確かに。准将閣下、我々を支えて下さり、あまつさえ指揮系統にご配慮いただいたのは本当にありがたい限りです」
部下二人の言葉にいやいや、と手を横に振りつつ、ノースウェストはなにやら箱を取り出す。
「今回の作戦の成功祝い…少し気は早いけどね。用意しておいた。
私の秘蔵の酒だ、みんなで分け合ってくれ。あと希望者には葉巻を送るつもりだよ。
最も、艦内だと楽しめそうもないけどね」
「ありがたく…頂きます!」
ラベルに書かれたブランド名や醸造の時期などを見て思わずハンターの手が震える。
一体どれほどの価値がこの酒にあるのだろうか。それに、NJによるエネルギー不足で悪くなった酒も多いと聞く。
だが、目の前の酒はそれをくぐり抜け、この場にもたらされた。もし好事家たちの前に置けば奪い合いになること間違いなしだろう。
そこまで酒豪というわけではないが、これの持つ価値くらいは分かる。
795: 弥次郎 :2018/10/19(金) 22:26:09 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
「流石准将殿、気前がいい!ビンテージ物をボトルでポンと弾むとは!」
反対に、無類の酒好きなのかエッカートは上機嫌そのものだ。
早速飲むことを考えているのか、笑みを浮かべている。
「喜んでくれて何よりだよ。NJによるエネルギー不足は痛くてね…私のコレクションも犠牲になったよ。
これはそれを生き延びた秘蔵の一品の一つでね。何かと苦労を掛けた君達には、これくらい弾んでも罰は当たらないはずだ」
特に、とノースウェストは哀れみさえ込めてハンターの方を見る。
「オーブ攻略戦からこっち、ハンター大尉たちは訓練漬けだったから、まともに休めなかっただろうからね。
アルザッヘルに帰投したら、間違いなく休みをまとまって与えられるから」
本当にすまないね、と頭を下げる上司に、ハンターは何とも言えない表情だ。
実際、ハンターのオーブ戦以降のスケジュールはひどいものだった。
最低限の休みはもらえてはいたが、一月で本来は数カ月はかけるという訓練を詰め込まれたのだから。
ある意味で原因はノースウェスト准将を含む宇宙軍のせいでもある。最も、彼等とて地上軍との共同作戦を命じられた、言わば被害者ともいえる立場なのだ。
「休暇についてはありがたく頂きます。部下の一部は若干グロッキーになっていましたので…」
連戦に次ぐ連戦。そして宇宙に慣れるための慣熟訓練。自分だってMAのパイロットとしても忙しく、おまけに部隊指揮官としての勉強まで行う必要があり、文字通り目が回りそうだった。
「それについては…あー、本当に申し訳ないね。その分だけボーナスや休暇については待遇をよくさせているので、どうにか許してほしい…」
「とはいえ、一時の休暇に過ぎないのは分かっているんだろ、大尉?」
エッカートの言に、ハンターは頷くしかない。
宇宙の勢力図を頭に入れているハンターは、残るタイムスケジュールも当然のこととして記憶している。
ザフトが有する防衛拠点となる要塞は残り二つ。そこを抜ければ、プラント本国があるのだ。
「残るはボアズ、そしてヤキン・ドゥーエが残っていますからね。
我々も、そこに参戦するのはほぼ確定と考えていますが、あっていますでしょうか?」
「そう、そうなんだよ。
ザフト側も戦争を終わらせるための外交に力を入れてはいるけれど、こっちとしてはその二つも落としておきたい。
パナマの一件もそうだけど、こちらが譲歩する理由は何処にもない。容赦なく要求を突きつけるらしい。
それに、この後の戦争を如何に進行していくのか、どうけりをつけるのか。そこが今後の課題なんだ。
上層部は既に戦後を見越した体制で残りの戦争を行っていくつもりになっている。だからこそ、気が抜けない」
「戦後を見越す体制…」
「もうザフトに勝利の余地はほとんどない。だからこそ、ザフトが降伏したらどうするのか、あらかじめ決めておかなきゃならない。
政治的なものを持ち込んで無粋と思われるかもしれないけど、終わらせるからこそ政治が必要なんだ。
まあ、君達にはあまり関係の無い話になるね。
君達に関係があるとすれば、今後の編成や所属がどうなるか、だと思うよ」
「編成や所属ですか」
「現体制のままではいかない、ということでしょうか?」
エッカートの問いに、ノースウェストは少し考えて答える。
「それに関してはいくつか案はあるんだけど、まだ最終的な決定は先になる。
後続の地上軍の錬成を待ったうえで、尚且つ連合理事国との折衝もあるのさ。
多分、そう長くはかからないだろうけど、人員の練成なんかを待つ必要もある。
それまでの間が、最後の休みだと思ってくれ」
だから、と一呼吸入れたノースウェストは宣告した。
「それが終わったら、君達にはノンストップでまた働いてもらうことになる。
私の麾下か、そうでないか…それについては分からないけれど、よろしく頼むよ」
「はっ」
「全力を尽くします!」
二人の部下は、それに応えるだけであった。
796: 弥次郎 :2018/10/19(金) 22:26:47 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
無重力区画の格納庫では、多くの整備士が群がるようにして整備を続けている。
眼前、自分の乗るEXストライクは、追加装甲やオプション兵装の類をほとんど取り払った素の状態に近い。
オーバーホールとまでは行かないが、これまで酷使してきた分の状態確認の意味があるらしい。
PS装甲がディアクティブ状態で灰色のボディを晒しているストライクは、眠っているかのようだ。
少し前まで、これで激しく戦闘を行っていたことが信じられないほどの、静かな姿。
装甲の一部は取り外され、グロテスクとも取れる内装パーツが露わになり、チェックが行われている。
隣には、同じくディアクティブ状態のEXストライク---ユノーの搭乗する重武装のEXストライクが同じようにメンテを受けている。
彼女のEXストライクの方は自分よりもよりメンテに力が入っているのが人員の数で分かる。
まあ、あれだけの重武装で激しい戦闘を今まで続けていたのだから、当然と言えば当然だろう。
(でも、こんなもので戦争をするってのは、考えもしなかったなぁ…)
少なくとも、2,3年前の自分ならば想像もしなかっただろう。
一介の航空機パイロットであったはずの自分は、こうしてMSという人型兵器に乗らされ、地上でこれまでとは全く違う戦いを繰り広げて、さらに宇宙にまで来て戦闘を続けている。
自分は特務隊のMS隊とMA隊を率いる立場にまでのし上がっている。
僅かな期間であまりに多くのことが変わってしまって、少し非現実的な感覚が付きまとっている。
「すぅ…」
「ん?」
ふと隣を見上げると、腕を組んだ状態のユノーが浮かんでいる。
文字通り浮かんでいる彼女は、静かに目を閉じたまま、ただただ無重力に漂っていた。
どうやら自分と同じくMSの整備の光景を眺めていたようだ。そしてそのうちに、眠気に負けてしまったようだ。
静かな呼吸音が、整備士たちの作業の音に混じって届いてくる。
(…しょうがない)
起こしてやってもいいが、無重力状態でいきなり起こせば驚いてバランスを崩すかもしれない。
なので、彼女の方へとゆっくりと向かい、肩と膝の裏に腕を回してしっかりと支えてやる。
そして、くるりと向きを変えると、出口の方へと向かう。
「お、お嬢様を連れていく王子さまですか、大尉?」
「ばっか野郎、大尉は少尉のお父様だぞ!」
「彼女は疲れているんだ、少しは静かにしてやれ」
当然、その姿は整備士たちに見られており、冷やかしの声が飛んでくる。
むずがゆさを何とか堪えつつ、出来るだけ揺らさず、静かにユノーを運搬する。
(まいったなぁ…こんなの、柄じゃ無いんだが)
「んっ…ぅ…」
ユノーをそういう対象として見ることは、実際のところない。
だが、何というか彼女は戦場以外では保護欲をかきたてられる。
生活感が薄いというか、どこか私生活が抜けているようなのだ。
これが、整備士たちが言うように父性というものなのだろうか?
(分からんな…)
ともあれ、彼女を私室まで連れて行ってやるのが一番だろう。
途中で女性兵に会えれば、彼女を預けることもできるかもしれない。
自分がやるよりも、同じ女性がやった方が都合がいいこともあるだろうし。
「んー…」
「お、おい、少尉」
そんなことを思うハンターの腕の中で、ユノーはわずかに身をよじり、そして大胆にもこちらの体に腕を回してきた。
外そうとするが、意外と強い力だ。それでいて、寝顔は小動物のそれのように穏やかで、かわいらしいもの。
(しょうがねぇ…)
数瞬逡巡するが、あきらめた。
彼女も疲れているんだから、しょうがないのだ、これは。腹をくくって、彼女の面倒を見るしかない。
だが、ハンターはまだ知らない。そういう感情や意識こそが、父性そのものだということを。
797: 弥次郎 :2018/10/19(金) 22:28:55 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
これにて、「B-Day」
シリーズは一区切り、ですね。
大洋連合サイドも書こうと思いましたが…ちょっと思いつかないので諦めました。
あとはちょっとメタなところの解説でも入れようかなと思います。
またメタメタブリーフィングファイルでもやろうかなと考えております。
しかし、今
シリーズはオーブ攻略戦よりもだいぶ長くなってしまいました。
メインカメラを入れ替えたり、描写を変えたりと、なかなか物語のコントロールが大変だったのが印象的ですね。
その分楽しんでいただけていたら、作者としては幸いです。
最終更新:2018年10月27日 09:54