71: 六面球 :2018/10/28(日) 04:57:32 HOST:ipbfp004-030.kcn.ne.jp
あれ、いつの間にかコテハン外れてた。取り敢えず中編その2完成しましたんで貼ってから寝ます

フランス側も頑張ってんですよ、フランス側も……


【ネタ】日仏世界・武術交流事情中編その2

「こりゃ貧乏くじを引いちまったな」

 ガストン・ブランは灰色がかった胡麻塩頭を撫でながら、そんな事を呟いた。
 五十半ばのこの男は、五番手である東郷重位と対戦するチームの実質的な主将であり、今回の交流試合で最年長でもある。
 当然ながら騎士として参加した戦の経験も決闘の経験も数知れず、皺の深いその顔にいくつも刻まれた傷が物語るとおりの人物であった。

「奴ら、黄色い肌の蛮族と思っていたが……人の皮を被った人食い鬼でしたか」

 同じチームの男が応えるが、ガストンは何も言わない。
 17世紀に入ったばかりのフランスである。
 (夢幻衆のいる大陸日本は別として)史実で望遠鏡が欧州で生まれるのはこれから数年後の事だし、物理学に名を刻むニュートンが生まれるのは数十年後、物質観に至っては未だ地水火風の四元素の理解に頭の先までどっぷり浸かっているのが現状だった。

 デカルトも生まれていないし、オランダでグロティウスが国際法の先駆けとなる戦争と平和の法を著述するのも四半世紀後、フランス最古のアカデミーであるアカデミー・フランセーズが誕生するのも三十年以上後の事である。

 当然、現代のフランス語のように言語の文法なども統一されておらず、ゲート開通当初はフランス語に堪能な夢幻衆も細かい意思の疎通に苦労する一面もあった。
 構成する者達の殆どがカトリックやプロテスタント、忌々しいイスラムの教えどころか聞いたこともない神を信仰している国など、この時代の一般的な価値観の持ち主からすれば不気味な異物でしかない。
 この時代の彼らの価値観を現代から貶める事は簡単であるが、未だ統一された教育カリキュラムもなければ科学知識もそれを伝達する手段も未発達であり、教会のミサぐらいでしか知識人と接する機会もない者も多い社会では仕方のない事でもあった。

 無論、知識階級ではゲートの開通によって大陸日本の情報が少しずつ知られるにつれ価値観が二転三転する混乱具合であるが、庶民を始め知識に興味を示さない者からしたら一年やそこらで変わるものなど無かったのだ。
 これは騎士や傭兵などの軍人達にも当てはまり、家柄と教育に恵まれた者や好奇心の強い者であればそれなりの知識や教養を持っていたが、この時代のフランス人の日本人観は想像するまでもなく、今となっては言い出しっぺが逃亡済みのこの交流会も、そんな無知と偏見から来たものであった。

 野蛮な異教徒共にキリスト教徒の武威を示してやろう

 酔っ払いがどこかの席でのたまった、その程度の気軽な思いつきと無知から来る無邪気な宗教的正義感を、何かしら策謀したがる癖のある者が乗った事で実現したものであったが、非キリスト教徒に過去に散々に痛い目を見てきた歴史を振り返る知識があれば、そこまで考えなしに振る舞えたかどうか。
 フランス側の名誉のために記すが、日本と交流するという国王の決断を多寡はあれど気に入らぬと感じても受け入れた者達は、異教徒であろうと歩を進めていく相手がどんな者であるか一度剣を交えてみねば分からぬと考え、お調子者の思いつきに乗っていた一面もあった。
 ガストンを始め日本人への理解こそ浅いものの弱い蛮族と見なしていない者は、日本側の代表が半ば老人だけである事に不平を言う者がいる中で、冷静にその姿を観察してもいたのだ。

 彼らとて歴戦の武人であるから、景兼を始めとする日本の代表者が見ただけで実力を見てとらせない巧者であるのはすぐに分かった。
 だが、その実態は……

「ここまで特大の猫をかぶられているとは思わなんだな。人食い鬼? そんな生易しい相手ではないぞ。奴ら、人の皮を被った竜であったらしい」

 そう苦笑し、同僚の言葉を訂正する。
 十代で戦場に出て以来、数々の敵や剣客と剣を交え、高名な剣の師を訪れて来たガストンであったが、ここまで実力差を見せてのけた人物はいなかった。
 相手に反応すらさせず一撃を与え、さらには無手で見る暇すら与えずに取り押さえてしまう。
 ヨーロッパの武術と言うと現代人からすると想像しにくい一面もあるが、この時代での技術はかなり発達しており、剣取りを始めとするありとあらゆる武器に対し、素手で奪い取り押さえる技は珍しくない。
 無刀取りとも言える技術を見た者、経験した者は少なくないが、一切の無手で相手に好きに打たせ、まるでカエルが潰れるように一瞬で抵抗不能にしてしまうなど、見た事も聞いた事もなかった。

72: 六面球 :2018/10/28(日) 05:04:49 HOST:ipbfp004-030.kcn.ne.jp
 なるほど、相手が五人しか来ず、こちらに好きに来いと言う訳だ。

「もしも異教徒を軽く一撫でしてやろうとまだ思っているなら、その考えは捨てておけよ? 今日、獲物になって罠に飛び込んだのはこちらだぞ」

 そう同僚たちに告げるガストンの視線の先に、日本側の二番手である小野忠明の姿があった。




【第二試合・小野忠明】


 言わずと知れた、史実でも新陰流と肩を並べる名門・一刀流の継承者である。
 史実ではこの時代、徳川家に仕えている身であるが、織田幕府が成立したこの世界での彼は織田家に仕えていた。
 名前の由来も主君である秀忠から一文字をもらってのものだが、こちらでは信忠から一文字をもらっている。

 これは剣豪マニアの夢幻衆が色々と時期をずれてでも踏襲したいという努力の甲斐あっての事であり、どうも織田家の空気が合うのか、史実より忠明の行状もおとなしくなっていた(この手の人物の扱いに凄く慣れてた、と言ってはいけない)。
 史実を見ると、この時の忠明の年齢は諸説あるが長じていても三十半ば過ぎ、若く見れば半ばにも達していない年齢で、日本代表で最年少である。
 無論、彼もこの事を考慮してか師である一刀斎でないのか?と言い出しっぺである疋田景兼に何度か問うたようであるが肝心の一刀斎が姿を消したまま、夢幻衆の間でも死亡説が流れるほど捕まらず、景兼の強い要望で忠明が参加する事となった。

 なお、この頃の忠明はまだ一刀流を称しておらず、名乗る流派名も時期によって変わっており、将軍家への指南にしても散発的なものだった。
 諸説あるが、この時期の一刀流はまだまだ未整備だったとする話もあり、忠明が師である一刀斎から受け継いだのは、一刀斎が鐘巻自斎より学んだ五点と呼ばれる極意の技と、一刀流の基本にして極意である切り落とし、払捨刀、刃引き、相小太刀、越身、夢想剣ぐらいであろうと考えられ、人へと指導するには不整備な部分も多かったとされている。

 初学者に学びやすいよう原理をまとめ、段階的に学べるように技の数を増やして型を整備したのは史実では彼の息子の忠常からとされており、この時代の一刀流は洗練されていない分、剛直な気風漂うものであったようだ。
 本人は「見るもののない田舎剣法」と評していたが剛直さを気に入ったのか織田家では良く遇され、先輩格である景兼からも何かにつけて目をかけられていたため、今回の交流試合は断り切れるものでもなかったのだった。


「さて、引き受けた以上は面白くせねばなるまいて」

 そう嘯いた忠明は現代で言えば肉体的にピークを迎え、衰える寸前のギリギリのバランスを保っている段階であり、技術的な老成はともかくとして現役で戦う剣士としては絶頂期であるとも言える。
 気風そのままに岩石を削りとったような荒削りな風貌と頑健そのものな体躯は、フランス側の剣士たちと比べても何の見劣りもなく、これが本人にとっては「そのまま試合っては当たり前過ぎて面白くない」となる。

 そんな人物であるから

「ふむ」

 何事か思いついた忠明は一つ手を打つと、通訳である松田を呼び、こんな事を言ってのけた。

「さて、この忠明、面白みのない者であるが故、フランスの御仁たちが退屈せぬよう提案したい事がある」

 日本語がわからないが、忠明の朗々とした声が響き渡るのをフランス人達の目が集中するのに合わせて、続いた言葉が

「ただ試合をするだけではそちらも退屈であろうから、某の相手をされる場合は挨拶など不要、好きにかかって来られるが良い。一対一でなくとも結構、どこから出てくるのも結構。好きな時に好きな人数で、好きなところから来られよ」

 言って、ひどく人の悪い笑顔になった。


「おやおや、忠明殿も遊び心が分かってきたようで」
「続く者の事を考慮せねば面白いのは確かですな」

 楽しそうな景兼に、甚助が困ったように言う。
 何せ忠明の次は甚助の出番であるから、彼がやらかした後始末をやらされかねない。

「面倒ですかな?」
「いや、年寄りにはこのような面白き事、覚えれば癖にならぬか心配でして」

 笑った甚助の口元に犬歯が見えたように錯覚したのは、近くにいた夢幻衆だけではないだろう。
 だが、そんな笑い方をしたのは日本側だけではなかった。


「へへっ……日本人てのは気前が良いんだな」

 そう言って忠明の前に立ったのは、野卑な雰囲気のする三十前後の男だった。
 顔中に濃い髭を生やし、離れた場所からでも風呂に入っていない獣臭が漂ってきそうだ。

 名をアランと言い、姓はほとんどの者が知らない。
 騎士でなく、彼は名もなき村から出てきた傭兵だった。

73: 六面球 :2018/10/28(日) 05:10:46 HOST:ipbfp004-030.kcn.ne.jp
 この時代、傭兵が活用されることが盛んなのは史実世界と同じで、彼のように傭兵稼業を送るフランス人は少なくない。
 時代や地域によってはロクに戦わず、もっぱら略奪や盗賊稼業に精を出すのが傭兵と陰口を叩かれる存在だが、アランが率いる傭兵団は略奪も盗賊まがいの事もしないとは言わないが、雇われた場所での仕事はこれまで怠った事が無いのが自慢だった。
 また、忠明と立ち合うチームもまた彼の傭兵団の者達であり、そこらの騎士のお坊ちゃんよりはるかに戦慣れしている。

「挨拶付きとは礼儀正しい。好きに来て良いと言ったぞ」
「オレもそう思うんだけどな。頭としちゃあ、やらんとあかん事があんのよ」

 言って、自身の木剣を忠明に向けると、自然と彼の方もいわゆる正眼の構えを取った。
 今の剣道の正眼と違い、真剣を相手に制空圏を大きく取るために腕が少し伸び、懐を広く取った構えである。

『遠いな』

 大して学もなく、剣もなけなしの金をはたいて基本を少し学んだ程度のアランであるが、忠明の正眼構えが気楽に構えているようで容易に打ち込めないものであるのは経験から見て取れた。
 遠いだけでなく、怖い。
 自然と背中に汗が伝うのを感じ、アランは目の前の異教徒が怪物であるのを心から認めた。
 無知であるが故に、本能で理解できてしまう。
 普通は防御に走りがちだと批判されがちな正眼の構えなのに、まるで今にも食い殺されそうに感じてしまうのは決して錯覚ではない。
 もし、これで仲間との打ち合わせが出来ていなければ、剣を置いて逃げ出していただろう。

 そんな事を考えながらアランも、西洋では突き構えと呼ばれる正眼に近い構えを取り、ジリジリと忠明との間を詰めていく。
 囁き窓と呼ばれる技で、バインドと呼ばれる鍔迫り合いの状態から相手の意図を感じ取り、それに対応した技をとっていくのが主旨である。
 こういうところは教育を受けていなくとも、歴戦の傭兵や渡世人であれば考え方は似ているようで、有名な渡世人である清水次郎長は「刀でガンガン打ってくる奴は怖くない。
こちらの刀にすっと合わせてくる奴は怖い」という旨の言葉を残している。

 二人の木剣の切っ先が擦れ違うか、触れるか、バインドの状態へと入ろうとした。
 したが、

「……っ! へ……ぇえ?」

 気づいたら、両膝から来る強烈な衝撃にアランは呻き声を上げ、いつの間にか自分が跪いている事にようやく気づいた。
 眼の前には最初からそこにあったかのように、忠明の木刀が突きつけられている。
 何があったというのか。

「一体……何が……」

 フランス側の選手たちからも、そんな呻きが聞こえてくる。
 彼らにしても信じられない光景だった。
 横から見ていれば、ただ二人の木剣が触れ合った瞬間、アランはその姿勢のまま跪き、前進を続けた忠明の木刀がそのまま彼の前に突きつけられた。
 ただ、それだけの事、信じられない魔法のような光景だった。




「まず初手は切り落としから来ましたか」
「景兼殿が一刀両断から行きましたからな、そりゃ忠明殿も初手は切り落としでしょうて」

 景兼と甚助の言葉通り、忠明は特に言うほどの事をしたつもりはなかった。

 切り落とし。

 打ってきた敵の剣を微妙に角度を付けた自身の剣で撃ち落とし、軌道をずらすと同時に相手の正中線を攻め崩す事で体勢を潰し、そのまま小手を斬ったり水月や喉を突いてしまう一刀流の基本にして極意の技である。

 忠明がやったのはその応用で、現代では最初の組太刀で習う技で乗突、迎突、向突と呼ばれる技であり、一刀流では珍しい技法ではない。
 実際、似たようなエピソードは多く、史実の幕末でも山岡鉄舟が稽古をした際、この技を用いると剣を交えた相手はそのまま真下に潰されてしまったと言われている。

「さて、負けを認めるか……」
「っ!?」

 忠明がアランにそう告げようとした時、横合いから一人の男が飛び出した。
 騎士身分の男たちからすればみすぼらしい胴着姿の男は無論、アランの傭兵団の一人であるジャックと言い、手に持つは二メートルはありそうな手槍だ。

「ほう」

 一気にこちらに距離を詰めてくるジャックに目を細めた忠明は、何を思ったか剣を後方にやる脇構えで迎撃に入っていく。
 二人の間合いが一気に近づき、

「喰らえっ」

 腰を低く忠明に駆け寄るジャックが、まだギリギリ槍が届かない間合いからグイッと槍を捻り出すや、穂先がビュッと伸びて忠明へと打ち出されていく。
 柄の中が二重になった仕込み槍で、実戦でも鉄の穂先を付けて戦場でも用いるジャックの商売道具だった。

74: 六面球 :2018/10/28(日) 05:15:11 HOST:ipbfp004-030.kcn.ne.jp
 普段は短槍として用い、手強い相手に奇襲をかける際に頼りになる彼の相棒で、これまでに何人も手強い剣客を仕留めてきたのだ。
 ただでさえ木刀より遠い間合いから、しかも思っていなかった瞬間に穂先が繰り出されてきたら、如何様な使い手でも幻惑され、一手を許してしまう。

 が、

「ん……ぁなあっ!?」

 次の瞬間、木が破砕される音が大広間に響き渡るや、尻もちをついたジャックの眼前に突きつけられていたのは、忠明の木刀だった。
 信じられない面持ちで手元の槍を見ると、飛び出した二重の部分がへし折られ、消え去っている。
 飛ばされた穂先と仕込まれた部分は、彼から遠く離れたところに打ち飛ばされていた。

 一刀流・龍尾返(りゅうびがえし)。

 後の分派である甲源一刀流などでは水車とも呼ばれる、一刀流の大技である。
 技法自体はシンプルで、脇構えの刀線を右回りに円を描いて廻し、その円から離れた切っ先が相手の太刀を撃ち落とす豪快な技だ。
 刀の回転運動が生み出す遠心力で加速を付け、敵の刀を打ち落とすと同時に、体勢すら崩してしまうとも言うが、忠明は相手の仕込み槍を叩き折ると同時に、使い手のジャックの重心まで打ち崩して転倒させてしまったのだった。

「仕込み槍は悪くなかったが、踏み込みと踏ん張りが早すぎたな」

 眼前に木刀を突きつけながら、忠明が告げる。
 どんな武器にも必殺の間合いと呼吸があるならば、本来と違う間合いや呼吸で来られれば警戒して当然というもの。
 槍を突き出しにかかる僅かな気配のおかしさから忠明は、何かしら遠い間合いから仕掛けてくると判断し、敢えて繰り出させてから潰してのけたのだった。


「さて、とどめを刺すのも何だ。負けを認めるなら…「危ないっ」…!?」
「参ったって言っちゃいねえぜ!」

 松田の声が聞こえた時には忍び寄っていたアランが一気に忠明の足元に食らいつき、ジャックも手槍の残りを持って襲いかかる。

「行くぞ!」
「おおっ!」

 その時には二人の男……傭兵団のラザールとマルクも、それぞれの木剣と棍棒を手に飛び出していた。
 これがアランの立てていた作戦だった。
 ルールでもそうだし、景兼が無刀取りを披露した以上、武器を無くしても負けを認めていなければ敗北にはならない。
 ましてや忠明は何人が不意打ちしてきても良いと言い放ったのだ。

 勝機が来たと素早く頭を巡らせたアランは仲間たちに指示すると、まずリーダーである自身が忠明の剣の間合いを知らせるべく囮となったのであった。
 ほんの僅かな指示であろうが、すぐ頭の意思を了解してアドリブで合わせられるのは歴戦の傭兵団の強みである。
 アランが脚をすくい、忠明が転倒しようとするその瞬間に三人の仲間が殺到し、得物を叩きつけていくが、彼らはまたも信じられない物を目にする事となった。


「「「「なっ?!」」」」


 一瞬であるが確かに目の前にいた忠明の姿が消えたようになるや次の瞬間、くぐもった呻き声が連なり、木剣や槍の残りが大広間に落下する音と重なった。
 見ればフランス側の傭兵四名は呻き声をあげながら大広間の床に転がり、黙然と立つは忠明一人である。

 ここまで来ると、フランス側も、また日本側も魔法を見ているような気分になってくる。
 何せ、転がろうとした忠明がもう片方の足でアランを蹴り飛ばして離れたかと思ったと同時に、フランス側の四人が吸い寄せられるかのように衝突し、そこに忠明の木刀が順番に一閃していったのだから。

 人数の差も、倒された不利も何も意に介さず、ただ同士討ちをした者達を一人ずつ各個撃破したようにしか見えないが、それがどれほどの不可能ごとであるかは、ここにいる者の大半がよく分かっている。


 現代で言う、一刀流極意・払捨刀の技が一つ「八相」。

 先程用いた龍尾返しも本来はこの払捨刀の技の一つであり、多数の敵に囲まれた際に用いる極意中の極意であった。
 アランから離れるや、忠明はギリギリまでフランス側を引きつけるや一気に気配を消して同化し、彼らを同士討ちに追い込むと同時に一人ずつ討ち果たしたのである。


 だが、悠然と佇む忠明の姿に違和感を感じた者も少なくないだろう。
 いつの間にか彼の手から木刀の姿が消え、フランス側四名のところにもない。

 それは……

75: 六面球 :2018/10/28(日) 05:20:03 HOST:ipbfp004-030.kcn.ne.jp

「すまんな。驚かせたようだ」


 フランス側の者達が立っている場所へ歩いていった忠明が呆然とする彼らを掻き分けると、一人の男が泡を吹いて倒れているのが見えた。
 傍らには忠明の木刀が転がっている。
 忠明は知らなかったが彼の名はルイといい、傭兵団の代表最後の一人であった。

 元が盗賊稼業の方に精を出していた男であり、相手に気配を読ませず暗殺するのが得意という、汚れ仕事の多い傭兵に打って付けの技能を持っている男だ。
 念には念を入れ、アランは残りの彼が飛び出すタイミングを遅らせるよう指示し、万が一の時に飛び出すよう言い含めていたのだが、飛び出す瞬間に人混みを縫うように飛来した木刀に頭を打たれ、そのまま伸びてしまったのである。

「なぜ、この男が敵だと分かった?」
「知らん」

 思わず尋ねてきたフランス側の質問を松田から通訳され、忠明はあっさり言った。

「気がついたらこの男が倒れていただけだ」

 そこまで言った後、少し考えて

「危険を察知してから動くでなく、気づいた時には敵が倒れ、己が斬った事に気づくが我が流故に」

 そう答えて踵を返すと、日本側代表のベンチへ戻っていく。
 後には、魔法どころ聞いてはいけないものを聞いたような顔になっているフランス人達が残されていた。



 一刀流の極意にして境地と呼ばれる夢想剣。
 流祖である伊藤一刀斎が鎌倉八幡宮で無意識の内に敵を斬って開悟したとされる技であるが、忠明もまた、払捨刀でアランたちを打ち倒した時、無意識にルイ目掛けて木刀を投擲していたのであった。

 投げた後で、敵がそこにいたのに気づいた次第である。


「さて、この程度だと食い足りぬが」

 一気に五人を打ち倒し、頭をかきながら物騒な事を言う忠明であったが、温和な笑顔で迎える景兼に苦笑すると

「ま、今日は遊び故、この程度でよかろうかなと」


 そう言って片眉を釣り上げて見せ、ベンチにどかっと座ったのだった。

76: 六面球 :2018/10/28(日) 05:23:56 HOST:ipbfp004-030.kcn.ne.jp
以上、中編その2でした。
小野先生がやらかしましたが私の責任ではありません(本当に
短編の筈だったのになあ、何でこうなった

それでは次も頑張ります……wiki転載の方はご自由に

77: 六面球 :2018/10/28(日) 07:16:45 HOST:ipbfp004-030.kcn.ne.jp
あ、ちょい読み間違えそうなとこの追補

小野先生の将軍家への指導が散発的にというのは、大陸日本の織田幕府での話です
この時期は、色々とバタフライな事があった結果、流派の内容の整備に色々と尽力していて「多少、お見せするには
構わないが、流派として指南できるものでは」状態だった感じです

まあ、多少やらかしても信長様とかが「森家のあいつより可愛いもんじゃん。へーきへーき」で、史実よりは居心地
良さそうになってそうですが

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最終更新:2018年11月07日 10:42