224: 陣龍 :2018/11/01(木) 15:56:54 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp

【馬がUMAでUMAが馬で……】

「これは酷い」
「流石に変人揃いの夢幻衆とやらも、これは予想外だったかの」
「……変人が居る事は否定しませんが、普通の常識人もちゃんと居ますよ?例えば今回我々の料理を作ってくれているあの人とか」
「墨汁に清水を垂らそうとも墨汁しか人は見えぬものじゃ。諦めよ」
「否定出来ないのが何とも……」


 フランス某貴族発案にて執り行われた対仏交流団が、ルーブル宮殿大広間を舞台に織田信長とアンリ四世をその武技で驚かせ、最早虐めに思えるレベルでフランス側選手のガラス細工なプライドを清々しいまでに粉微塵に打ち砕いたりしていた頃。


『あの……フランスの馬が怯えてどうしようも無いので、どうにか出来ませんでしょうか……』
「もう暫し待たれよ。さすれば、あ奴らも飽きて戻ってくるだろう。異国の土は新鮮な感触なんじゃろ、何とも楽しそうでは無いか」
「……今の言葉、分かられたのですか?」
「否。じゃが、何となく顔を見れば察しは誰にでも付くであろう?」
「まぁ、はい……そうですが……」


 フランス王国パリ郊外のとある馬場。此処にはゲートを通じて日本から持ち込まれた十数頭の馬がそれぞれ思い思いに異国の大地を駆け回っていた。……本来この馬場の使用者であるフランスの馬達を、全部隅っこへと意図せず追いやっていたが。



 『異国の蛮族共に我がフランスの威光を見せ、そしてマウントを取る』と言うある意味時代相応の…、後世から見れば極めて
浅はかな考えで始まった今回の日仏国際大会により、戦国時代と言う魔境で頭角を現しそれぞれの技量を磨き上げられた日本の剣豪たちが大挙してフランスへとやってくると言う喜劇が起きた訳だが、そんな日本人たちも余り予想して居なかった小さな事件が起きていた。

 端的に言えば『連れて来た日本馬をフランスで走らせたい』と言うフランスに来た日本人馬乗りの要望を、特に深く考える事も調べる事も無くフランス側担当者が受け入れた結果の出来事であった。要はフランスに居る一般の馬とは違って、ゲートからやって来た極東列島大陸産の馬は桁違いに『凄かった』のだ。


「日本馬は特に虐めようとする感じは無く、と言うか挨拶でもするかのようにゆったりとした軽い足取りで向かってもフランス馬は全力で逃げ出してますね……」
「実際客分じゃから挨拶しようとしとるのじゃ。言う通り本気で逃げられとるからしょぼくれとるが」
「何か空とか風景を眺めて黄昏てる様に見える日本馬が居るのは気のせいですかね……」

225: 陣龍 :2018/11/01(木) 15:57:50 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp


 フランスと言う国家の地形は、基本的に平坦で起伏に乏しい方である。南方にはピレネー山脈が有り、東方イタリア半島との間にはアルプス山脈と言う世界的に見ても最大級の山脈が存在しているが、フランス馬がそう言った山岳地帯を日常的に通過する事は殆ど無い。使役しているフランス人が普通通らないのだから、当たり前の話であるが。わざわざ危険な山岳を突破するくらいなら、穏やかな地中海を通れば良いだけの事なのである。


 一方の日本であるが。この国は世界的にも珍しい【島嶼型大陸】を国土、文明圏としている。地形は端的に言えば、『広大かつ平原、丘陵、山岳全てが揃った起伏に激しい地形』である。また季節の変化も大きく、毎年襲来する台風や降雪、そして強力かつ複雑な海流と言う海上移動は自然と危険で陸路選択するのが多くなる国土環境。この環境では、丘陵地帯は当然の事で場合によっては山岳地帯も通商路として構築されるのが自然である。日本大陸の彼方此方を歩き回り交易や戦闘を十数世紀以上に渡って繰り広げる日本人と共に生きて来た日本馬たちが、その環境に適応しない筈がない。第一このとんでもない魔境を、この馬たちは人間より先にかつ長く生きて繁栄もしているのだ。平原だけ、山岳だけしか生きられない軟弱な馬又は馬に類する生物はとっくに消え去っている。

 例え祖先が同じであったとしても、長らく平原だけを生活環境として生きていた欧州馬と、過酷な地形変化を物ともせずに人と共に十数世紀以上駆け回り続けた日本馬とでは、自ずと馬格に耐久力や速度等で格差が付くのは自然であった。加えて、日本馬と欧州馬の違いは、単純な身体能力の差だけでは無かった。

226: 陣龍 :2018/11/01(木) 15:58:41 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp



こんな御伽噺が有る。

『とある国の、とある場所に、一人の男が居った。その男はとても立派な馬を飼っていた兵士で有ったがとても怖がりであり、周囲の者達からは身の丈に合わない馬を飼っている男を馬鹿にしていた。喧嘩も出来ないのに何が出来る、と』

『ある日、戦の御触れがあり、その臆病な男は自分の大切にしている馬を村に置いて共に戦に出たが、運の悪い事に味方の部隊が奇襲を受けてしまい、自分の居る軍の大将の場所まで敵の兵士が押し寄せて来てしまった』

『男は、なけなしの勇気を振り絞り、自分の軍の大将の前に立ち、敵の兵士を喰いとめようとした。実はこの男、大将に過去飢えに苦しんでいた時に助けられた恩が有ったのだ。だからこそ、この無謀な行動に出た』

『行き成り出て来た男に、敵の兵士達はその無謀な行為を嘲り討ち取ろうとした。その時、一陣の風が吹き叫び、目の前に居た筈の敵の兵士は全て遠くに吹き飛ばされていた。驚いた男は更に驚いた。目の前に居たのは、村に置いて来た筈の自分の馬だったのだ』

『唖然とする男を尻目に、男の馬は男を咥えて自分の背に乗せた。そして狐に包まれた様な状態の男を乗せたまま、敵軍の真ん中を駆け抜けて敵総大将の眼前まで飛び込み、我に返った男が無我夢中で振り抜いた槍が総大将を打ち倒したのだ』

『その後、大金星を打ち立てた男へ授けられた褒美によって、男は多くの物を手に入れる事が出来たのだが、男はそうしなかった。その村では、人間と馬と言う垣根を越えた、本当の友達の姿を見る事が出来ると言うお話であった』

227: 陣龍 :2018/11/01(木) 15:59:21 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp

 御伽噺と言う体になってはいるが、これに類するお話は日本各地に幾つか残っており、また元となったと推察される歴史的事実も一部資料に残って居たりする。欧州馬と比べても日本馬の方が賢いと現代でも言われる事が有るのだ。しかも日本馬は昔から剣虎と共に過ごして居たりもするのだ。度胸やらの点でも欧州馬とは色々と違いが有り過ぎた。この点欧州馬が臆病だの弱いだのと言う批判はちょっとズレている。世界的に見ても、特殊過ぎる環境に適応し、進化した日本馬だけがぶっ飛んでいるだけなのだ。



「……ところで、コレどうしましょうか」
「まぁ中止するしか無いじゃろ。相手の馬が怯えていたら競争も何も有った物で無かろう」
『あのー、ホント、もう勘弁して頂けませんでしょうか……』


 そう言う顛末も有り、この後執り行われる予定だった日本馬とフランス馬による競争大会は敢え無く中止となった。それでも一度、数名のフランス人が自己責任で日本馬との競争に挑んでみたが、自分の馬が威風堂々と佇む日本馬に完全に怯えて騎手の言う事を聴かずに全てが遁走してしまい、競争すら出来なかったと言う。最早滑稽を通り過ぎて哀れですらあった。

228: 陣龍 :2018/11/01(木) 16:01:09 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
以上に御座る。以前日本の馬はUMAで何かヤバい体格や風格を誇っていると言う話も有りましたので
そこらへんを風船の様に膨らませて見ました。地形とか進化とか馬とかの考察は全部適当ですので
まあ違ってたら……許せ(逃走)

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最終更新:2018年11月07日 12:57