650: yukikaze :2018/11/14(水) 23:51:45 HOST:185.227.150.220.ap.seikyou.ne.jp
神はおっしゃった。汝、英国面を顕現せよと。
FV103ウォーリア装甲兵員輸送車
全長: 6.82m
全幅: 3.20m
全高: 2.49m
全備重量:42t
乗員: 3名+7名
エンジン:レイランドL60Mk.4B 2ストローク水平対向6気筒液冷ディーゼル
最大出力:650hp/2,100rpm
最大速度:48km/h
航続距離:500km
武装:12.7mm×1
装甲厚:最厚140mm
時に1960年代。イギリスは完全にやさぐれていた。
まあそれも無理はない事であった。
半ば消化不良で終わってしまった第二次大戦は、英国の最前線をドーバーからライン川まで押し上げることには成功していた。
だが、19世紀後半以降、基本、迷惑なことしかしていないドイツに代わってイギリスの相手をするのは、強欲さでは並ぶ者なしのスラブ人である。
そして味方はと言えば、ワーテルローの敗戦で軍事的才能を完全に枯渇させただけでなく、ヘタレ、裏切りの限りを尽くした蛙食いと、これまたアルマダが全滅して以降、生きた死人であるスペインと、死肉漁りに関しては、スラブ民族ですら一目を置くイタリアである。
勿論、こいつらに比べればはるかにマシな、極東の守銭奴と分家のドラ息子もいたが、前者は極東からは絶対に出ようともせず、後者は内心こちらを小ばかにしていて碌なものではなかった。
つまり、欧州の正面に立たされているのはほかならぬイギリスなのである。
日没するなき帝国の誇りはあるとはいえ、実情はと言えば、その栄光は過去へと過ぎ去り、病み衰えた帝国である。
その負担に対し、彼らが内心本気でうんざりするのは当然であるし、だからこそ、彼らはフランスやその他の欧州の国の中東やアフリカでの権益を合法的に取得することで、多少の溜飲を下げていた。(無論、イギリス基準の『多少』である。)
さて、ラインにて欧州の防波堤となることを義務付けられたイギリスであったが、彼らはソ連相手に機動防御戦をやることを端から捨てていた。
無論、彼らとて
アメリカがドクトリンとして採用したエアランドバトルが優れていることは認めていた。
だが、それを成し得るには、強力な空軍と無数の機甲戦力を必要としており、それを達成できるのは全世界ひろしと言えどアメリカだけであった。
故に、イギリスにしてみれば、可能な限りの遅滞防御を取ることによって、ソ連機甲軍の突進を防ぎつつ、アメリカ軍の金床として対応するしかなかった。
だからこそイギリス軍は、機動力よりも防御力と火力の高いチーフテンを生み出し、対戦車火力と砲兵の火力を高めることに注力していた。
そうした中で、彼らはあることで不満を抱いていた。
それが何かというと装甲兵員輸送車の問題であった。
当時の西側諸国は、アメリカ製のM113が量産しだされ、日本やロシア共和国でも、量産効果による取得単価の逓減を目論んで、同車両の採用に踏み切っていた。
勿論、イギリスも導入したのだが、彼らはすぐにその性能に見切りをつけていた。
成程確かに安価で信頼性のある車両ではあった。
だが、彼らの想定する戦場においては、この車両はあまりに脆弱に過ぎた。
まあその想定する戦場とやらが、戦車砲弾が鼻歌交じりで飛び交うような場所という時点で、日米ロと言った国々は「言いたいことは分かるが、ちょっと落ち着いて考えよう。ブリテン」と、説教を始めたかもしれない。
651: yukikaze :2018/11/14(水) 23:52:26 HOST:185.227.150.220.ap.seikyou.ne.jp
だが、彼らは真剣であった。
彼らにとって、欧州の派兵部隊は最精鋭中の最精鋭であり、二度とあのバカげた被害を受ける訳にはいかなかったのだ。
第二次大戦の記憶が薄れていない状況において、兵達の命を粗略に扱うような姿勢を見せれば、それこそトラファルガー広場に革命の群衆が押し寄せかねない程の微妙な状況であったのだ。
さて、そんな背景を受けて新型装甲兵員輸送車を開発しようとしたイギリスであったが、現実は非情であった。
この時期の英国は、チーフテン戦車を筆頭に、大口径自走砲や大口径ロケット砲の量産。この他にも戦闘爆撃機開発などに予算を取られるなどして、新型装甲兵員輸送車を一から開発するだけの余力に乏しかった。(ついでに言えば、翔鶴級やユナイテッドステーツ級(史実ミッドウェイ)に対抗して、意地で作り上げた4万5千トン級空母『アイアンデューク』級(勿論、フランスへの盛大な嫌味である。なお二番艦はフランシス・ドレークであり、これまたスペインへの嫌味であった。)2隻の改装費用も財政を圧迫していた)
何より、装甲兵員輸送車という特性上、必然的に車体は大きくなり、それに重装甲を施すとなると1台あたりに係る単価が加速度的に増えるのである。
イギリス陸軍の要求は、予算の前に潰えるかに見えた。
そんなイギリス軍の前に、一つの車両が目に留まることになる。
アーチャー対戦車自走砲。
原型は、日本から高いライセンス料金を支払って導入した37式中戦車に、これまた日本が開発した51口径105mm砲を搭載した車両である。
センチュリオンの105mm砲搭載型と並んでライン軍団の中核と言っていい存在であったのだが、イギリスが完成させた対戦車ミサイル『カリバーン』によって、二線級兵器へと追いやられた代物であった。
そしてそんな車両を見たイギリス陸軍はあることを思いついた。
『こいつ装甲兵員車両に改装すればよくね? 何だかんだで3,000両近くあるし』
普通ならば『維持費用どうするんだ』とか『改装費用考えろ』というツッコミが入るのだが、時代は冷戦。
しかもイギリスの政治的事情が、この無謀とも言える改装作業にGOサインを出すことになる。
とはいえ、予算にも限りがあることから、同車両に対して、原型をとどめないような改修は不可能であった。
せいぜいが105mm砲とその弾薬庫等を撤去し、代わりに上部構造物を設け、車体中央部の戦闘室を兵員を収容する兵員室に改装するものであった。
その上部構造物は密閉式となっており、上面には車長および機関銃手用に視察ブロックを備えた背の低いキューポラが装備されている。
武装については、車体上面に12.7mm機関銃1丁備えており、全周囲に向けて火力を指向することが可能であるが、あくまで対人及び軽装甲車両にしか通用せず、日米が取り組んでいた戦闘装甲車と比べると火力は劣っていた。
一方で、防御構造の強化は徹底していた。
車体前面装甲だけでなく、他の部分にも増加装甲を付与。
無論そのままではチーフテンに追随することはかなわないことから、レイランドL60Mk.4B 2ストローク水平対向6気筒液冷ディーゼルに換装することによって、何とか速度の確保に成功している。
ただしベースとなった37式中戦車と同様に車体後部にパワーパックを搭載しているため、M113APCのように車体後部に兵員の乗降に用いるランプドアを設けることができず、兵員は敵に狙撃される危険を承知で車体上面のハッチから乗降しなければならないという欠点を有している。
この欠点を聞いた時、ある日本陸軍の将官は「英国はいかなる時でも英国面を発揮しないと我慢できない人種なのだろうか」と、呆れたとされるが、当時の英国のドクトリンでは、下車戦闘ではなく乗車戦闘を重視されており、英国上層部においてはそれほど問題視はしていない。
実際、車体左右側面後部と車体後面にはそれぞれ2基ずつのガンポートが設けられ、それぞれに独立したペリスコープが装着されているので車内からの射撃が可能であり、歩兵を含めた乗員が戦場で48時間連続行動するのに必要な装備の全てを輸送することができるようになっている。
同車両は、1960年代前半以降、急ピッチで改装が進められ、その重装甲ぶりは、ソ連陸軍をして『鉄壁』と呼ばれ、注意を払われることになる。
もっとも、車両自体は1940年頃に作られた車両であるため、大規模なレストアをしてもなお、不具合が生じることがあり、1980年代前半ごろは、経年劣化によるトラブルが無視できないレベルに達していた。
それでも同車両は、この手の車両としては重装甲であったことから、再レストアされて戦闘工兵車に改装されたりもしており、この眷属が退役するのは、実に21世紀を超えてからになる。
652: yukikaze :2018/11/14(水) 23:57:14 HOST:185.227.150.220.ap.seikyou.ne.jp
投下終了。元ネタはみんな大好きイスラエル謹製魔改造重APCから。
ぶっちゃけこの世界、イスラエルがああいう車両を投入する可能性はゼロと言っていい状態。(何しろ海南島である)
ではあの中二病をくすぐるイスラエル製車両は消えてしまうのか?
否。断じて否。あれをなくすなんてもったいない。(メルガヴァは生き残れんかもしれんが)
ではあの手の車両を作るような国はあるのか?
いたわ。ソ連の大機甲軍団をラインのほとりで防がされる羽目になったイギリスという国が。
なので、めでたくイギリスに作ってもらう事にしました。
維持費? 冷戦だから仕方がないね。(むしろ冷戦じゃなけりゃ作らんだろうなあこんな車両)
最終更新:2018年11月17日 14:22