911: 弥次郎 :2018/11/20(火) 23:39:01 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
大陸SRW IF GATE 自衛隊(ry編 「ドラゴン・スレイヤーズ」4
炎龍討伐の完了後も、シュネーヴァイス・レギオンの仕事は続く。討伐だけでなく、仕留めた炎龍を持ち帰り、ダークエルフの一族に依頼が完遂されたことを報告がてら鱗や骨などの希少価値のある部位を一部引き取ってもらい、さらに報酬であるダイヤ原石を受け取ったうえで、大洋連合がゲート付近に設置した拠点へ戻って炎龍の遺体を大洋連合に引き渡さなければならない。
炎龍の討伐自体は、全体から見ればほんの一部にすぎないのである。
幸いにしてSTROKによる運搬が可能ということもあってダークエルフの里への移動と炎龍の遺体の引き渡しなどはスムーズに終わり、依頼の完了報告も簡潔に済まされ、傭兵たちは念願のダイヤ原石を報酬として受け取ることが出来た。
その際にはダークエルフの一族からどうやって炎龍を倒したのかと質問攻めを受けたり、戦闘映像を見せたらさらに質問の嵐を受けたりと、歴戦の傭兵たちをしてなかなかにない経験をする羽目になった。まあ、ヤオの様子から察するに相当苦しめられたようであるし、自分達が操るACも始めて見るし、そもそも映像というものを始めて彼らは見ているのだ。これもしょうがない、と傭兵たちは呑気に彼らの反応を受け入れた。
一方で傭兵たちを歓迎したダークエルフ達も、暇ではない。
まず炎龍から希少価値のある鱗を剥ぎ取らなければならないし、状態の良いものを選別して売りに行く準備が必要になる。
さらに、炎龍の被害を受けた集落の復興も進めなければならないのだ。それを受けて、暇を持て余した傭兵たちが手伝いを申し出たのだから、大変なことになった。主に、ダークエルフ達にとって。
VACのパワーを以てすれば、木を根っこごと引っこ抜いて運搬することも、必要な岩石を運ぶのも、あるいは重量を利用して地面を固めるのもお手の物。
また測距装置をうまく活用すれば採寸や測量までもこなすことができるわけであって、ダークエルフ達だけでやるよりも格段に作業は楽になる。
さらにSTROKという輸送ヘリまで4機もいるのだから、その運搬作業などはさらにはかどった。
ヤオをはじめとしたダークエルフ達は恐縮してばかりだったが、傭兵たちにとってはこの程度はボランティアでやっても良いことだ。
彼等の心証をよくしておけば、もしまた炎龍のようなものが現れた際に彼らの方からシュネーヴァイス・レギオンに指名で依頼が来る、そういう宣伝活動の一環でもあるのだ。そう嘯くのはマエストロであったが、実際のところ、彼もダークエルフには若干同情していた。
徹底してビジネスに徹しろというわけでもないし、この程度は上からも目を瞑ってもらえるような仕事だ。
斯くしてオットーをはじめとした傭兵4名は思わぬ作業に従事することになったのであった。
『全く、ここにきてから飽きることが無いぜ…』
『そういわないの、01。これも人助けなんだし、ウチの利益にもつながるってマエストロも言ってたじゃない』
『そうは言うけど、あの人は結構情に厚いところがあるし、見過ごせなかったんだと思うぜ。
家を一見建てるだけでもこの世界だと途轍もない労働みたいだしな。出来るだけ手伝ってやっても悪くないだろ」
『同感です。一度炎龍に破壊された分、新しく作る空白も大きいですしね。
貯水池に、集落の周囲を囲う空堀、見張り台、新しい住居……これらがスムーズに作ることが出来れば、彼等も相当楽でしょう。
我々も気分よく帰還することができます』
『……まったく、しょうがない。戦闘用の兵器で土木工事とはね』
『ほい、そっちのワイヤーヘリにつなげてくれ』
『了解……よし、固定した。釣り上げて良いぞ!』
こうして、ACとダークエルフ達の奇妙な共同作業はしばらく続けられることとなったのであった。
912: 弥次郎 :2018/11/20(火) 23:40:07 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
一方、平成世界から観戦武官として派遣されてきた日米の軍関係者と自衛隊の第三偵察部隊の面々は、STROKから降りて、傭兵たちから借り受けたテントの中で会議を行っていた。当然、議題となるのは先程炎龍との戦闘を行っていたACについての評価だった。
改めて、ということで先程まで炎龍とVACの部隊との戦闘映像が流されていた。何度見てもSF映画のようである。
しかし、それが現実を移したものだということは彼ら自身がよく知っている。だからこそ、感嘆するような、あるいは呆れるようなため息が漏れていた。
ファンタジーな世界にやってきて、ファンタジーの象徴のようなドラゴンに襲われて、それをSFの権現のようなロボットが退治する、一体誰がこんな展開になることを予測できたのだろうか?創作物として売りに出されていたら、酷評されること請け合いのシナリオだ。
だが、現実はそんな滅茶苦茶な創作を飛び越えていた。ゲートを抜けた先、特地には別世界からも来訪者がいたのだ。
そしてその別世界からの来訪者たちは、人型機動兵器、即ちロボットを多数そろえた、これまたSFチックな軍隊を引き連れていた。
正直、話の展開というか現実の事態の進行にとてもではないが追いつけていないし、もうなんというかお腹いっぱいである。
「えーっと、それではよろしいでしょうか?」
そして、観戦武官たちの前、ACと炎龍の戦闘映像を移し終え、新たな画面を移すスクリーンを脇に置いてやや緊張した面持ちで立っているのは、何を隠そう日本国自衛隊の特地派遣軍の第三偵察部隊の隊長を務める伊丹陸尉であった。
なぜめんどくさがり屋であるはずの彼が司会進行役兼レクチャー役として日米の観戦武官たちの前に立つ羽目になったのか。
それは偏に、彼が異文化交流と称して(というかそちらがメインだったのだが)大洋連合やその傭兵たちとの交流を深めた結果、大洋連合とその傭兵たち、そして人型機動兵器であるACについて一番理解のある人間になってしまったのである。
事実彼の手元には大洋連合についての、そして大洋連合の属する世界についての書籍などが集まっていたし、傭兵たちから聞き出した情報もあった。
元々は炎龍と対峙した人間ということで今回の会議というか話し合いにはオブザーバーとして参加するつもりでいたのだが、事情に詳しいということを自衛隊機甲科の所属であり、日本側の観戦武官たちのトップを務める間宮透二佐に知られたのが運のツキだった。
確認をとると、日米の観戦武官たちは頷きを返す。同時通訳の人間も準備は良い様だった。
アメリカ側からはウィリアム・スコット・リー陸軍中佐を筆頭に、日本からは間宮二佐を中心に、情報に飢えた武官たちが勢ぞろいである。
一度天井を見上げ、少しばかり現実逃避をした伊丹は、咳ばらいを一つしては口火を切る。
「ではまず、今回の炎龍討伐で投入された機動兵器について、判明していることを整理し、得られた資料を基に補完して説明します」
一挙手一投足に視線が集まることを自覚しながらも、伊丹は喋るしかない。
「今回の炎龍討伐において、異世界--仮称C.E.世界から派遣されてきたPMCが用いた人型機動兵器は、通称をAC、正式名ではアーマードコアと呼ばれる機動兵器です。そして、今回使用されたのはそのACのカテゴリーの中に属するVACと呼ばれる機種でした」
スライドに映るのは、録画された戦闘映像から引っ張ってきた4機のVACの姿。
いずれもが、独特の姿を持ち、それぞれの役目を果たして炎龍を討伐した人のつくりし巨人たち。
その巨人たちの名前を改めて口の中で転がす参加者たちを見ながらも、伊丹の解説は続く。
「このVACは全長が5mから6m前後とACの中でも比較的小型なタイプで、頭部、コア、腕部、脚部をアセンブリ…構成するパーツを、戦場や搭乗者の好みに合わせて自由に組み合わせることができます。このアセンブルによる汎用性は一般的にACに見られるので省略します。
一般に脚部とその重量によってカテゴライズされており、採用したパーツによって大きく特性の変わるのが特徴と呼べるでしょう。
実際、役割ごとに適切な装備をアセンブルすることが重要だと、シュネーヴァイス・レギオンのパイロットは証言していました」
913: 弥次郎 :2018/11/20(火) 23:41:48 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
「地上を主体とするというと、まるで戦車のようだが、重戦車から軽戦車まで自在に変えられる、というのはできないが…ACではそれができるのか」
「まるでフィギアをくみ上げるようだよ。本当にSFだ」
「VACは主に市街地や他のACでは運用が難しい地域での投入や、民間軍事企業での採用が見られております。
その大きさならば狭いフィールドでも問題なく活動ができ、またサイズの小ささは量産におけるコストや材料費の抑制につながっています。
その結果はこちらの資料にもある通り、現代の兵器とは思えないかのような低コストを実現しています。
ランニングコストや整備性についても他のACよりも優れており、参入のハードルを大きく下げています」
「ふむ……」
「さて、VACの性能に関してですが、サイズ故に馬力の限界などはありますが、今回の炎龍討伐で見られたように、十分に実戦に耐えうるものとなっています。
通常の炸薬を用いた銃火器のほか、光学兵器---レーザーブレードやレーザーライフルなどを使用することも可能で、また、防御性能に関しても至近距離から戦車砲を浴びたとしてもその装甲で弾いてしまうほど頑丈であるとされています。
コストが安く、頑丈で、尚且つ扱いやすい。よってVACは民間軍事企業に浸透し、彼らの主戦力となってC.E.世界の防衛力として稼働しています」
スクリーンに映る映像は、スキャナーで取り込まれた雑誌のページへと切り替わった。
そこに映るのもやはりACであった。ただ、説明にあるようにあらゆる武器を、ライフルやブレード、シールドなどを装備している姿があり、一部ではSF顔負けの、付属する文章の説明によればレーザーライフルを構え、発射している姿も映っている。
光学兵器など、未だに研究室の中でしかないようなものである。勿論工業分野などでは使われてはいるレーザーだが、未だに創作物に登場する兵器でしかない。だが、彼らは、C.E.世界の技術はそれを実戦投入レベルにまで仕上げているのだ。
その威力は観戦武官たちもその目でも見ている。炎龍の鱗を食い破り、切断したのだから。戦車の装甲並と評されていたそれが、あっけなく破られていたのは衝撃的だった。実際に見た炎龍の首は、鋭利な刃物で切られたようでありながらも、出血などがほとんど見られず、断面がキレイに焼けているという何とも奇妙で恐ろしい切断面を持っていた。
「攻撃力という面では、戦闘中にも見られましたが炎龍の鱗を突破して破壊するだけのスナイパーキャノンをはじめ、多種多様な火器の運用が可能だそうで、その組み合わせは何千通りにも及ぶそうです」
「何千…恐ろしい汎用性だな」
「実際には、適切な組み合わせパターンというものがあるので実際には数十から数百パターンに絞られるそうですが、このように多目的に、汎用的に使えるというのがACの共通する特徴だそうです。VACの場合、役割を分業させる傾向が強く、それによって効率的な運用を行うようです」
「なるほど、今回の討伐のように、か」
機甲科に属する観戦武官たちは先程までの討伐とACのアセンブリを思い出したのか深く頷いていた。
実際、役割分担のおかげで極めてスムーズに討伐が進んでいたのは確かだ。それは誰もが理解得きた。
914: 弥次郎 :2018/11/20(火) 23:42:22 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
「ですが」
一息入れ、伊丹は観戦武官たちを一度見渡してから、自身も驚いた事実を告げる。
「ですが、あくまでVACというのは一つのカテゴリーに過ぎず、さらに言えば純粋な性能では最も低いACとされています」
「なんだって…!?」
「あれだけの性能で、主力じゃないっていうのか?」
「その通りです」
スライドには、ACと書かれた枠から棒線が何本か伸びて、それぞれ「V」「ノーマル」「ハイエンド」「ネクスト」とそれぞれつながっている図が映り、その力関係を示すように、不等号がいくつも並んでいく。当然「V」が最も低く、「ネクスト」が一番上に来ている。
「跳躍ができるとはいえ、基本的に地上で高機動戦闘を行うのがVACでして、空中戦闘などは基本的に不可能となっています。
それに対し、ノーマル、ハイエンドノーマル、そしてネクストと呼ばれるカテゴリーのACはアセンブリによっては縦横無尽の飛行も可能であり、特にネクストにいたってはアセンブルによっては上下左右前後に自在に極超音速で飛行することが可能だそうです」
「うわぁ…」
「なお、ネクストにおいては慣性制御機関によるパイロットと機体負荷の軽減、さらにあらゆる攻撃を弾く防御フィールドを標準搭載。
そしてAMSで人の思考をダイレクトに操縦へと反映するシステムによって通常では出し得ない反応性を獲得しています。加えて…」
「もういい、十分だ。
まったく、とんでもないものを作り上げている世界なのだな、あちらの世界は…」
間宮は伊丹の説明を遮り、深いため息とともに漏らす。
敵ではないことが何よりの安心感をくれる。技術レベルが違い過ぎて話にもならない。
戦えと命じられる可能性が低いことだけが、彼の安心材料であった。
「映像を見る限りだと、炎龍を翻弄するほどVACは機動性に優れているし、旋回性なども良いとわかる。
おまけに防御力は炎龍の炎をまともに受けても全く支障をきたさないレベルで、戦車砲も弾く。
……遮蔽物が無い平野部なら戦車に分があると思っていたが、これはダメだな」
では、と手を挙げたのはリー中佐だ。
「では航空攻撃は?対戦車ヘリや対地攻撃機ならばどうだろうか?」
「生半可なヘリや航空機は火器によってたやすく迎撃できるらしいです。
機動力に加えて強引に包囲を崩すような突破能力にも優れているようなので、逃げ切られる可能性も…
まあ、対地攻撃機なら多少の被害は出るかもしれませんが、効果があるかもしれません、確証はありませんが」
「そうかね……とすれば、空爆などで何とかするしかないが、対空装備を持たれていたらアウトだろうな」
そう、リーも理解しているように、汎用性というものがとてつもなく広いのだ、ACという兵器は。
おまけにだが、実際の運用にあたっては航空支援をおろそかにしている、ということもないだろう。今回はあくまでも炎龍退治、極論を言えば人間が猛獣を狩るに等しい行為であって、そこまでの装備は必要ではない。もし軍事的に使われるならば、当然エアカバーも入ることだろう。
「それに、だ。彼らはあくまでもサンプルを採取することに注力していた。
仮に彼らが全力になれば……我々では歯が立たないだろう」
「しかし、中佐……」
「事実に近い、これは認めるしかあるまい。彼らは本気どころか、その力の一端を示した程度に過ぎないのだとな」
さみしげに、しかし呆れるように笑っているリーは、肩をすくめてお手上げだ、という顔をしている。
「ともかくそれだけの差があるとわかっただけでも大きな収穫だ。さあ、伊丹陸尉、続けてくれたまえ」
915: 弥次郎 :2018/11/20(火) 23:43:32 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
「はい。ところで、いったん質問の時間を挟みますが、何かご質問のある方は?」
そう問いかけると迷ったようにいくつか手が上がる。指名されたのは間宮二佐の副官の隆島陸尉だ。
「奇妙な点が一つ。そこまで兵器がコストダウンして手に入りやすくなったからと言って、PMCがそこまで増えるのでしょうか?」
「そういえば……確かに。ACを用いた犯罪が増えているならばともかく、そこまで需要があるとは思えないな」
もっともな疑問だが、その答えを伊丹はPMCの面々から聞いていた。
「C.E.世界に嘗て襲来した敵対的異星人による侵略は、所謂ワープを使用したため、たやすく防衛線を突破され、安全な後方を攻撃されることが多かったそうです。よって、国軍でカバーしきれない防衛力を補うために、この手の民間軍事企業が大きく成長し、また、大企業は国軍に匹敵する自社防衛軍を整備する必要に迫られたとか。
また、国軍を動かすよりも比較的コストが安く、国軍よりもスピーディーに活動できる傭兵は、国家群からの需要も大きいそうです」
「民営化された防衛力、か」
「はい。ワープを用いた奇襲戦術は被害が大きくなり、どうしてもカバーしきれない。
だからこそ民間レベルで自らを守るしかない。そうした結果だそうです」
国家と国民を守るべき軍としては、ある意味あってはならないのだろう。
だが、そんなことを言っている暇がないほど、敵も脅威だったのか。
ワープによる後背地への強襲攻撃。なるほど、前線と後方と後背地という境目を飛び越える、これまたSF技術ならば、そういうのも可能なのだろう。
「それに、エイリアンの映画はおふざけじゃなかったってことか…」
「かもしれませんね」
少し、背筋に冷たいものが伝う。
地球を振興する宇宙人という恐怖は、アメリカ映画の中では鉄板ともいえるものだった。所詮は娯楽で作り話、早々にあるまいと笑われていた。
だが、大洋連合の世界では実際に宇宙人から侵攻を受けたというのだから、もう、笑うに笑えない。
「まったく、SFを見せつけられたと思ったら今度は母国どころか母星の危機か…笑えんな」
「我々の世界にはいないのか、それともまだ現れていないのか…これも政府に報告しておくべきでしょうね」
「ああ。まったく、地球内部だけでも問題だらけなのに、地球の外まで考えなくてはならないのか…」
だいぶスケールが大きな話になったなぁと、伊丹はリーたちの会話をどこか他人事のように聞くしかなった。
実際、一自衛官が考えるにはあまりにもスケールが大きすぎてどうにもならない。まあ、上が考えるならいいか、と伊丹は割り切るしかなかった。
916: 弥次郎 :2018/11/20(火) 23:44:21 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
それから二時間余りの情報共有のための会議が完了し、伊丹はようやく解放された。
まだ観戦武官たちはおいてきた資料にかじりついて情報を得ようとしているようだったが、伊丹としてはもうオーバーワークも良いところだった。
趣味のために働いているというのに、何でここまで過剰労働しなければならないのか、伊丹の頭には哲学的疑問さえ湧いていた。
「んぅー……肩凝ったなぁ…」
腕を伸ばし、肩甲骨を動かしてみるとゴリゴリといい音がする。相当緊張してしまったようだ。
まあ、自分が吐き出せる情報はもう吐き出し切ったので、あとはもう偉い人に任せたかった。
「あの、伊丹耀司様でしょうか?」
「ん、あ、はい。自分が伊丹陸尉であります」
声を掛けられ振り返れば、そこには眼鏡をかけ、ジャケットを羽織った細身の男がいた。
「私、今回の討伐で指名を頂いたシュネーヴァイス・レギオンのアイザックと申します。
伊丹様に置かれましては、今回の炎龍討伐においては仲介役を務めていただいたと聞き及んでおります」
「え、あ、はい」
差し出された名刺を受け取りながら、アイザックに相槌を打つ。
アイザックの言っていることは事実だ。炎龍を退治してくれ、と頼まれ、自分達ではどうにもならないので、大洋連合の傭兵たちに依頼を流したのだ。大洋連合の外交官を経由したとはいえ、確かに自分が依頼を仲介した、と言えるだろう。
「今回は仲介をしていただき、本当にありがとうございました。
そこで伊丹様には、我が社から仲介料を支払わせていただくことになっておりまして、それをお持ちしたのです」
「仲介料を、自分にですか?」
「それが契約ですので。本来ですと、金銭による支払いが良いかと思われるのですが、残念ながらそれが出来ません。よって現物での支払いとさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「現物ってまさか…」
アイザックが合図すると、脇に控えていた男二人が抱えていたケースを開いて見せる。
「炎龍の鱗と爪、それと血液、肉片。これらを仲介料としたいと思っております。
金による支払いも考えたのですが、流石に問題があるということもありまして、このような判断とさせていただきました。
申し訳ありませんが、このようなものでよろしいでしょうか?」
「え、でもこれをもらっても…」
「記念品としてもらうか、あるいは政府の方に個人の資産を買い取ってもらうという形にしてもらえばよろしいかと存じます。
大洋連合の方でも炎龍の遺体は遺伝子資源として貴重なものと目されており、弊社の報酬も大洋連合政府から支払われることになっております」
いかがでしょう、と言われると、途端に目の前の鱗などの価値が頭の中ではじき出されてしまう。
とてつもなく貴重なものだ。一体どれほどの価値になるだろうか。少なくともPMCが競い合ってでも勝ち取りたがるほどの報酬を大洋連合は払うつもりだ。
(じゃあ、ウチの政府は…?)
文字通り、喉から手が出るほど欲しがること間違いなしである。伊丹の脳内では、ちょっとしたボーナスだと思え、と悪魔が囁いていた。これほど苦労したのだから、当然の報酬なんだと。一方でなぜか天使は沈黙している。ガッデム。
「いかがでしょうか?」
伊丹はほんのちょっとした善意から降ってわいた報酬を前に、決断を迫られていた。
なんでこうなったと、自分の軽率な判断を恨みながらも、伊丹は自然とうなずいていた。
「ではこちらに受領書がありますので、サインを頂きたいと思います。よろしくお願いします」
言われるがままにサインをし、控えを受け取った伊丹。もはや現実味を感じ取れない。
「それでは伊丹様、また日本国政府や自衛隊に何かありましたら、シュネーヴァイス・レギオンにご指名のほど、
どうかよろしくお願いいたします」
「あ、はい」
気がつけば、アイザックという男は去っており、自分の前には仲介料を治めたケースが鎮座している。
「どうしよう、これ……」
伊丹は一人、換金すればとんでもない額になる代物を前に、黄昏るしかなかった。
917: 弥次郎 :2018/11/20(火) 23:45:07 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
炎龍討伐、完了でございます。この後彼らがどうなったのかは…まあ、御想像にお任せしますw
とりあえず書きたいことは書き切りましたので、あとはどうしようかなぁというところです。
最終更新:2018年11月22日 11:13