681 :第三帝国:2012/01/16(月) 23:12:53

宇宙暦796年  帝国元帥府

ロココ調の豪華絢爛な装飾が為された部屋の一室で男たちは集まっていた。
黄金が多用された部屋に詰襟式の黒い軍服、さらに男たちが醸し出す武人の空気が部屋の空気との間に釣り合いが取れていなかった。

しかし、その事に誰一人たりとも気にせず。
金髪の友人とその姉一筋な赤髪の男や、平民出身の愛妻家などは、
装飾の黄金を削ったら一体幾らの現金に変換できるのかと、実に現金なことを考えていた。

「帝国情報部からの報告がある」

金髪の、おろか20代で元帥に上り詰めた青年が一同を見渡す。

「日本帝国に関するものだ」

ざわりと、空気がゆがむ。
自由惑星同盟とは違う難敵の名に周囲に動揺が走る。

「オーベルシュタイン、報告しろ」

「は、報告します。全員手前の書類とモニターを見るように」

何処からか現れた影の薄い男がモニターを操作し映像を映す、
映ったのは自由惑星同盟のニュースチャンネルらしい、映ったレポーターの麗しさに見惚れる暇もなく男たちは映像に食いついた。

「これは・・・造船所か?」

種なしの愛妻家が呟く。
にしては随分と大きい気がするなと考えた所で、参謀長が言葉を続ける。

「これは叛徒どもが経済番組としてニホンテイコクの造船所、シンクレ(新呉)に取材したさいの映像です」

「ふん、たかが造船ごときでどうしたった言うのだ参謀長殿!」

淡々と説明するのに腹が立ったのか、
薩摩脳ゆえに回りくどい話に腹が立ったのか、あるいはそもそもオーベルシュタインが嫌いだからか、ビッテンフェルトが吼える。

「・・・単刀直入に申しますと、ニホンテイコクは3個艦隊を一カ月で生産可能であると判断します」

文字通り空気が凍りついた。

「ほお、月刊空母ならぬ月刊艦隊か。それも、2つおまけつきで」 

ロイエンタールが冗談を飛ばすが依然、空気は凍ったままだ。
先ほど吼えていた黒イノシシも口を開けた状態で思考を停止させている。

「参謀長、その理由は?」

ただ一人冷静に思考するラインハルトが質問する。

「は、奥の生産ラインに並んでいるのは戦艦<ヤマト>級の船体です。
 映像ではボヤけていますが修正すると見える限りで200あまり、しかし造船所の敷地面積を考慮すると、
 同時に400の戦艦を一日で生産可能と考えられます。艦隊の基本定数は1個艦隊につき1万5千ほど。
 内、戦艦と称される軍艦は3000隻、ひと月30日ならば4個艦隊分の戦艦が生産されるでしょう。
 補助艦艇につきましては他の工廠で生産されていますが、情報部の分析では搬入される資材の量から4個艦隊分の生産が可能であると確認しています」

輪切りにされた船体、砲塔、などが列をなして並んでいる映像が映る。

「だが、練度は?
 いくら生産したところで動かす人間がいなくてはどうしようもないのでは?」

キルヒアイスが頭を抱えながら問う。

「お忘れか、キルヒアイス中将?
 帝国と叛徒を合わせてもなお差がある人口の厚さを?
 予備役の動員、さらに異形ともいえるほど発展した電脳技術を合わせればそのような問題などなくなる
 現状ニホンは常設6個艦隊編成だが、戦時動員ならば最低10個艦隊、さらに人口比率に合わせて増強すれば20個艦隊はできる計算だ」

いやなくらい常識に沿った正論に周囲はさらに沈黙した。
数を以て押しつぶす、勝つのに実に単純明確で逆に相対する方は無理難題な問題だ。
自身の実力には根拠がある、しかし帝国叛徒を合わせた艦隊数に立ち向かえとなれば話は違う。


武人の奮闘も無意味な程の差でもなお戦うのは――――。

682 :第三帝国:2012/01/16(月) 23:13:25
「ふむ、つまり将来は我々が負ける可能性があると?」

ラインハルトの何気ない呟きに将官たちはぎょっとする。

「御意。いいえ必ず我々は負けます、閣下」

「オーベルシュタイン!貴様ぁあ!!」

「よい、ビッテンフェルト。参謀長、続けよ」

納得がいかない顔をしたビッテンフェルトだが、
ラインハルトの顔を見て気付く、その瞳には決して「諦め」の言葉がなく、
宇宙の覇者であらんとする黄金の獅子がそこにはいたことに。

「覇者の道を歩むならば、短期決戦以外ありません」

淡々とした口調で言葉を綴る。

「それも門閥貴族を打倒し、
 叛徒を下すという条件がつきます。
 ――――それでもなお閣下は覇者の道を歩むおつもりですか?」

「無論だ」

ラインハルトは立ちあがる。

「俺は宇宙を手に入れる。」

短くだが力強く、黄金の獅子は宣言した。
そしてこれが数年にわたる戦乱の始まりを告げた一言で、
とあるセイバー似の少女が本物のチートを相手に対して、胃を痛める日々の始まりを告げる一言だった。

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最終更新:2012年01月26日 20:33