523: 弥次郎 :2019/01/08(火) 23:40:37 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
大陸SEED支援ネタSS 短編集5
Main Staring:
<23th Special Unit:MS Comond,Federation Atlantic Force,O.M.N.I.Enforcer>
William・“Old”・Hunter (Captain)
Clara・“Private”・Juno(Second Lieutenant)
Arthur・Thomas(Chief Warrant Ofifficer Five)
Rick・Simons(Enign)
Clark・Wilkins(1st Lieutenant)
Gerard・H・Eckert(Lieutenant)
Original:Mobile Suit Gundam SEED
Arranged by:ナイ神父Mk-2氏
Written by:弥次郎
Part.11 狩人の酒宴
- C.E.71 8月15日
- 月面 大西洋連邦 アルザッヘル基地
低重力の月面に帰って来た時、ウィリアム・“オールド”・ハンターは少し体に違和感を覚えていた。
身体が下に引っ張られるという感覚に、身体が少し反応しなかったのだ。なるほど、これがエッカート大尉が言っていた重力酔いという奴だろうか。
久しく重力が無い空間での訓練を続け、さらに宙域での大規模作戦に参加したこともあって、身体がすっかり無重力をデフォルトに動くようになっているのだった。
「これは…予想以上だな」
大尉ではあるものの、その地位から少佐相当官であるハンターは個室を与えられていた。その個室で、ハンターの体はバランスを崩し、床に倒れ込んでいた。完全な無重力ならば部屋の反対側まで飛んでいけたのであるが、今では地球の6分の1ではあるが重力がある。
よって、さほど飛べることもなく、崩れ落ちるように床に倒れてしまったのだ。一カ月ほど前まで地上にいたというのに、慣れというのは恐ろしい。
ため息を一つして立ち上がり、今度はバランスを崩さないように手すりにつかまって姿勢を整える。
ついでに言えば、まだL1での激戦のことが思い起こされる。あの激戦での体験は強烈で、教練で忙しく、グロッキーになりかけていた隊員たちには響いた。
宇宙という戦場のストレス、長い期間みっちり詰め込まれたスケジュール、そしてその後の休暇。反動でゆるみというか、リズムがくるってしまい、体調を崩す隊員が現れたのも当然の事であった。ハンターの動きが精彩を欠いてしまったのも、それが原因かもしれない。
そう自己分析し、ハンターは深くため息をついた。予想以上に疲れ、疲労している。自覚のない負担が溜まっているのだろう。
だからこそ、こんな宇宙遊泳の初歩的なミスが出てしまった。そういうことか。
(さて、どうしようか)
今日で作戦から帰投して2日になる。メンタルケアやその他診断などを受けて忙しく、打ち上げなどもまだできていない。
書類上はまだ上官であるノースウェスト准将からもらった酒なども未だに封を切らずに厳重に保管されたままになっていた。
祝勝会については後々に、とおざなりのままになっていた。作戦から帰投した後には忙しく報告書を作成し、あるいはメンテナンスや体の休養に追われていた。
そろそろ他のメンバーも余裕が出てきたころだろうか。あるいは、未だに戦いの感覚にとらわれているのだろうか。
(……)
姿勢を立て直し、ハンターは部屋に備え付けの通信端末を操作する。呼び出すのは、第23特務隊で共に働いた戦友たち。勿論MA隊の面々も含めたメンバーだ。
あの戦いをくぐり抜けられたのは、MA隊の貢献もあってのことであるし、個別の祝勝会に呼ぶのは至極当然の話だ。
「少しくらいの休みは、貰ってもいいだろうしな」
休養が必要であるし、少しくらい戦争から離れても罰は当たらないだろう。そうつぶやくハンターは、久方ぶりに楽しみでほおを緩めていた。
524: 弥次郎 :2019/01/08(火) 23:42:11 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
そして、それから3日後の、月面基地重力エリアのレストランで開催された第23特務隊の戦勝会。
開始から1時間余りで、早くもハンターは自分達の隊の疲労具合を甘く見ていたことを認識し、ひどく後悔していた。
アルコールで早くも撃墜された隊員がMSパイロットを中心に数名、さらにメカニック班の数名が、気分を悪くしていた。
先んじて飲ませておいたアルコール分解剤の副作用だ。大事に至るのを抑えてはくれるが、その対価として分解が進むと気分が悪くなる。
かなり早いタイミングで効果が出始めたのは、やはり飲むペースが速かったためだろう。料理も食べ、談笑しながらの賑やかな宴会だったが、それも合わさって誰もがハイペースになっていた。幹事であり、MS隊隊長でもあるハンターは節制しながら飲んでいたので十分に意識はあるし、吐き気などは催してはいない。
「はぁ…注意はしたんだがな……」
だが、隊員たちがストレスが溜まっていたとはいえ、このざまでは少しがっかりした感が否めない。まだ戦争の途中なのだから、羽目は外し過ぎるなと釘を刺していたのだが、どうやら彼等は忘却の彼方に追いやってしまったらしい。
「まあ、これは仕方がないですよ、大尉」
肩をすくめるのは浅黒い顔を僅かに赤くし、酒臭い息を漏らすリックだ。彼も結構なペースで飲んでいたはずだが、意外と強いらしい。
トーマスが早々にリタイアし、ウィルキンスがまだ飲めているが少し具合が悪そうなのに対し、リックだけはしっかりとしている。
「自分もそうですが、ようやくまともに休養がとれたところに、この無礼講の宴会ですからね。
溜まっていたものを発散させたいと考える連中はいて当然と思いますよ」
少し多すぎますが、と苦笑されるが、自分の口から漏れるのはため息だ。
だが、彼らにかかってた負担はそれだけ大きかったということか。自分もそうだったし、彼等もそうだった。
宇宙軍出身者がパイロットにはいなかったこと、宇宙軍出身者のメカニック班たちであっても今回の作戦は長丁場であり、また重要度の高さからかかるストレスやプレッシャーが大きかったことが、今回の惨状を生み出すことになったのだろう。
「少尉、少し手伝ってくれ」
「了解です、大尉」
無礼講ではあったが、本人の意思からアルコールはほとんど口にしていなかったユノーはほぼ素面だ。
ハンターの指示にてきぱきと従い、気分が悪くなった隊員たちに水を持って来たり、トイレに連れて行くなどハンターの後始末を手伝う。
万が一吐き出すことになると、無重力空間ほどではないが、低重力の月であるからなかなかに後始末が面倒になる。
それを予防する人員の手があるのはハンターにとってはありがたく、しかし、未成年に手伝わせることへの申し訳なさがあった。
第23特務隊というか、地上にいたころからハンターたちはユノーにとって良い大人であれたのだろうか。一応保護者であり、地上にいたころの上官であったアウグスト大佐からはユノーについてはお墨付きは得ているが、今回の有様は個人的には看過するのが難しい醜態であった。
ともあれ、撃墜された面々が一旦いなくなったことで宴会はひと段落し、宴会場は少し静かになっていた。
「すまなかったな少尉。俺達の尻ぬぐいをさせる羽目になった」
「いえ、問題ありません。如何にアルコールが危険であるか、よくわかりましたので」
すました顔で言われると、何とも言えない。わりきって、これはこれでよいということにした方がいいだろう。
特に軍人は戦地から戻ってからストレスを殺しきれずにアルコール中毒に陥る可能性があるので、今のうちに教えられてよかったというべきか。
そして、ふとを思う。自分も戦後を考え始めているのだと。これまでは戦後のことを政治や軍事の事ばかりで考えていたが、個人の生活や今後の軍を抜けた後についてはあまり考えていなかった。あと数年でパイロットとしては引退だろうとおぼろげには考えていたが、このところは忙しくてろくに考えていなかった。考えている暇がなかったというべきか。
(趣味の一つくらい…増やしてみるか)
後進に席を譲った後の事。自分になついている、あるいは自分の指揮下で充足を得ているユノーの事。
考えるべきことは意外と多いのかもしれない。そう思うハンターは、手にしたグラスを一気に煽った。
525: 弥次郎 :2019/01/08(火) 23:45:54 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
Part.12 狩人の休息
- C.E.71 8月18日
- 月面 大西洋連邦月面基地『アルザッヘル』 都市部
「大尉は宇宙に上がるまでまだ知らなかったのか…意外だな」
「密林の狩人。大層な二つ名をもらったと思っている」
第23特務隊の祝勝会から数日後、隊の編成が済むまでの休暇を利用し、ハンターはエッカートと共にアルザッヘル基地の都市部を歩いていた。
その手には久しぶりに得た市井の情報を連ねた新聞があり、ハンターの目はその一ページへと向けられていた。
『南米の狩人』『神出鬼没の古強者』『ザフトを狩る強者』などなど、好き勝手にハンターの活躍夜戦歴が書かれている。
確かに南米では密林地帯でのゲリラ戦やMSを用いての襲撃などを行っていたし、相応の戦果を挙げていたことも確かだ。
「だが、ここまで持ち上げられるとな」
「所詮はプロパガンダだ、そこまで気にする必要はないぜ。どうせメディアのやることなんだしな」
「まあ、確かにな」
ドライな反応を示すエッカートにハンターは同意するしかない。所詮はマスコミ、情報媒介者ではあるが、同時に情報を意図の有無を問わずに加工することもできる。
また、言うだけならば自由であるので、責任を持たない発言をしたり、好き勝手に個人を持ち上げたりと他者ではできないことをしてのけるのだ。
他のネームドエース共々持ち上げられているのはハンターが戦果を挙げているためであり、いざ失敗をすればまるで最初からいなかったかのように扱うだろう。
一概にメディアが悪いというわけでもないのだろう。ザフトとの総力戦である以上、戦意高揚のための情報統制やプロパガンダなどは古くからおこなわれていたこと。
MSとNJの登場によって集団から個人への比重が大きく傾いたこともあって、『英雄』『エース』という分かりやすいイコンが登場したので、メディアがその状況の変化に合わせて報道のやり口を変えただけともいえる。
「英雄などと賛美されているが、万能でも全能でもない。部下や同僚には犠牲者だっていた。
俺はたまたま最前線にいて、生き残っているだけだ」
地上にいたころから、MSの研究に携わるようになってから、多くの人の努力が重ねられてMSが出来たということをハンターは知っている。
ナチュラル向けのOSが完成していない頃から必死に動かしてデータを集め、複雑な操縦系に必死に追従し、戦闘に耐えうるだけのものを作り上げ、実戦に持ち込んで戦闘を重ねた。その過程の中で多くのトラブルや事故があり、また戦闘では犠牲者も出ていた。
そんなことを経ているのだ、ハンターという『英雄』は。幸運か、あるいは努力の差か。何らかの要因で自分は生き残って、戦い続けているだけ。
「……そうだな。俺達は、言ってみれば神様って奴の気まぐれで生き残れているだけだ。
戦争が始まって、いつ死ぬか分かったもんじゃない状況を何度も経験して、その上で生き残っている。
全く、世の中は全く残酷だぜ……」
「そうだな」
エッカートの言葉に、ハンターは言葉短く応じるしかない。
開戦初期の宇宙での戦いについて、ハンターは資料を通じて多くを知ることが出来ていた。宇宙戦線への着任に先駆けて、宇宙での戦いがどのように推移していったのかを学ぶ機会があったのだ。新しい兵器であるMSの投入、NJによる電子妨害、これまでの戦術が殆ど通用しない機動兵器同士の戦い。MSに対してMAはいかに戦うかを知らず、ミサイルが誘導されず、容易に背後や死角に回り込まれ、攻撃を回避され、あるいは攻撃されるという恐怖。MSに乗ってから、宇宙で使われているMAに乗ったからこそ、それはハンターに身をもって実感することが出来ていた。MAでMSを相手取るということがいかに危険で、命がけなのかを。
(………)
自分に与えられている『二つ名』の意味をもう一度考えると、その意味が分かる。
希望だ。
無力な自分達が縋る縁を、二つ名を与える無数の人々は求めるのだ。エースという希望があるからこそ、我もまたそうあらんと、弱い人々は奮起し、恐れを乗り越えて行動することができるのだ。なるほど、コーディネーターというある種の超人に縋る人の気持ちも分からなくもない。
彼等はどうしようもなく弱く、あるいは変えられない状況の打破を求め、たどり着いてしまった。
(だが……)
だが、こうも思うのだ。
弱く、矮小な人間だからこそ、一歩をわずかでも踏み出せれば、それが偉大とみなされるのだと。
自分が多くの希望を背負っていることはわかる。ならば、自分は自分の戦いをするとしよう。
それこそが、最も人としての生に必要なのだと。進んでいくことこそ、自分の本懐であると。
静かに狩人は、その胸中に火を灯していた。小さくも、確かな火を。
526: 弥次郎 :2019/01/08(火) 23:46:44 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
久しぶりに書きましたが、なんか変な感じがしますね。エースという立場、二つ名を背負うハンター大尉の一人語りみたいになりました。
もうちょいガンダムらしい話を、メカメカしい話だったり、戦闘だったり、そういうのも書いてみたいんですがねぇ…
ファーストガンダムの迷いまくっているアムロみたいなキャラを書きたいけど、そうもいかないというジレンマ。
次はヴィルター隊の話でも書いてみましょうかねぇ…彼等が訓練しているところとか、色々書ける素材は転がっていますし。
最終更新:2024年03月07日 00:25