713: 弥次郎 :2019/01/24(木) 18:42:24 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
大陸ガンダムSEED支援ネタSS「宙域の疾駆者達」
Main Staring:
<612th Special Task Unit:Traning & Technical Evolution Unit,Z.A.F.T,P.L.A.N.T.>
Ronald・Virta
Egil・Rosser
Aurelia・Walker
John・Martinez
Rey・Za・Burrel
Samuel・Whiteley
Staring Mobile Suit:
YMF-606D D-GuAIZ
ZGMF-600GF GuAIZ FS
ZGMF-X999FC Phantom Warrior Custom
ZGMF-1017G Ginn Type High-Maneuver G
ZGMF-1017 Ginn(Type-612 STU)
Original:Mobile Suit Gundam SEED
Arranged by:ナイ神父Mk-2氏
Written by:弥次郎
- 地球-月間ラグランジュポイント5 『プラント』近隣宙域
- ザフト宇宙演習場D-174
デブリや多少の障害物を配したザフトの宇宙演習場D-174は、忙しげに飛び交う光にあふれていた。
それはMSやMAの発する推進の光であり、それらを目がけて追いすがるよう伸びる模擬戦用の無害なレーザー、模擬弾の発射の炸薬の炸裂であった。
360度、前後左右だけでなく上下もあるという三次元的な戦闘が要求されているのが宇宙戦闘であるため、当然その光の動きは立体的だった。
追う動きとそれから逃れようとする動きの二つ。追う方が数としては多く、包囲を仕掛けるように散開していた。
対し、逃れる方は少なく、反撃を行うよりも回避や包囲から逃れようとするのが外からはうかがえていた。
だがそれは必然というものであった。地上の二次元的な戦闘と比較し、自分の認識できない方向からも包囲されて攻撃を受けるリスクがあり、同数ならばともかく少数の側は包囲されれば逃げ場を失って鴨打にされてしまうのだ。だからこそ、立体空間をうまく使い、逃げ回り、適宜反撃するしかない。
反対に多数側は逃げ回り、回り込もうとする動きの少数側を逃さずに補足し続ける必要があった。その為には包囲を形成する面子との連絡や連携が必須で、短距離通信や標的以外にも友軍機の動きを立体的にとらえる必要があった。
715: 弥次郎 :2019/01/24(木) 18:43:32 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
つまり、この少数対多数の模擬戦は、612STUに配属となり、訓練を課されている隊員両方にとって学ぶべきことが多いものであった。
事実、隊長でありこの模擬戦を組んだヴィルターとしては、連合がとって来るであろう人海戦術への理解と、対抗策を学ぶことを第一義としていた。
おのれを知り、おのれの敵を知る。基礎的な操縦が出来ている段階になったパイロット達には、実際の戦場に合わせた訓練が必要だった。
『ウィートリー、引け腰になるな!単なる牽制射撃だ!自分のヒットボックスをしっかり認識して動け!』
『無理です小隊長!?』
『無理はいっていない!当たらなければ、ビーム兵器だろうと怖くないぞ!』
新兵であり小隊員のウィートリーを叱咤しながらも、ジョン・マルチネスは自分の搭乗するゲイツFSを弾幕の中へと躍らせる。
少数側であるAチームは包囲されそうになりつつも、包囲が完成されないように牽制射撃を入れ、あるいは前進を試みることで、多数側であるBチームを揺さぶっていた。Bチームは有効射程にまだこちらを完全に納めきれていないのか、射撃は意外と回避できる状態だ。
『いいか、一カ所に長くとどまるな!単調になると先読みされるぞ!』
『ひぇ…了解です!』
少し強めに言ったためか、ウィートリー機は大きな回避行動を単調に取ろうとするのをやめ、細かく機体を制御し始めた。
不慣れなのだろう。それに視界を埋め尽くすビーム光に威圧されているのもあるのだろう。だが、それでも回避は出来る。
そして、動きのランダム性が大きくなった。マニュアルによる、パターン化し過ぎない回避運動だ。
『よし、その調子だ!』
叱咤しながらも、マルチネスはシールドも交えつつ上下左右に回避運動をし、反撃を放つ。
ゲイツFSの腰に搭載されている牽制を兼ねるレールガンと的確に狙うビームライフルの組み合わせは、Aチームの動きを確実に乱していた。
大人数のAチームにも不慣れなメンバーがおり、不規則な攻撃や軽い牽制攻撃に大げさに反応するところがある。
そこにこそ、少数のBチームの活路がある。包囲網を作ることで優位を演出するのに対し、こちらは分断を図ればいいのだ。
『バレル!天頂方向の牽制を頼む!当てようと思わなくていい!』
『任せてください!』
指示を飛ばしながらも、マルチネスの目は忙しく周囲を探る。
天頂方向はレイ・ザ・バレルともう二人の隊員が抑え込みながら射撃を行って機動戦を行い、天底方向は自分を含む4機で対応している。
ちらりと見れば、ジン・ハイマニューバG型がそれぞれ担当方向を定めながら腕部のビームマシンガンを放っているのが見える。
固まっているのでもなく、かと言って離れ過ぎず。丁度良い距離感で食い止めている。
(この分ならば大丈夫だな…暫くは)
左右から踏み込んでくる可能性も考慮しつつ、こちらの死角へと飛び出そうとして来る機体がないか目を光らせる。
判断は連続で、休みはない。時折アドリブで対応を指示することもあるし、相手が攻撃のパターンを変えてくる予兆も掴まなければならない。
もし迂闊な指示を出せば、自転車操業でAチームの攻勢を防ぐBチーム全体に支障をきたすだろう。
だが、とマルチネスは思い直す。こちらが対応できているということは、相手の動きが上手くいっていないということでもある。
少なくとも数の優位を得ているのはあちら側であって、通常ならばこちらが櫛の歯が欠けて落ちていくようになるのが通常だろう。
(攻めっ気の強いウォーカーがいつ勝負に踏み込むか……それが問題だな!)
そう思いながら、フットペダルを踏み込んだ。
716: 弥次郎 :2019/01/24(木) 18:45:52 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
(踏み込めないわね…!)
Aチームを率いるオーレリア・ウォーカーはコクピット内部でその感触を強くしていた。
MSの頭数として有利なAチームを任されたウォーカーは、その数を利用し、包囲しての各個撃破を狙っていた。だが、分断が上手くできない。
理由は単純に、逃げる余裕が地上よりも宇宙の方が断然広いためだ。勿論マルチネスの指揮という面もあるのだが、
部隊全体が二次元的ではなく三次元的に逃げられる空白があるので、包囲が作りにくいのだ。
もちろん、宇宙であるということは考慮の上で自分はチームの動きを指揮している。相手の視野はどうしても分散せざるを得ず、思わぬ死角が生まれている可能性があるのだ。だからこそ、囲むときは全体で単純に囲むのではなく、少数で誘導や牽制を仕掛けている。
その上で逃げられ、尚且つ防がれているので、何ともすっきりしない。個々の戦闘でも、よく見れば稚拙に射撃を放って先行しようとする隊員がみられる。
あれはマズイ。いくら相手が少数とはいえ、単機での飛び出しは分断を引き起こしかねない。
『5番機!前出過ぎ!相手に隙を晒しているわよ!』
通信で叫びつつ、ビームライフルを放って突出し過ぎた5番機を挟み撃ちにしようとする敵機を牽制を行う。
敵も辛うじてそれを交わしながらも、しかし、5番機への追撃を諦めていない。俯瞰できる位置のこちらだからこそわかることだが、恐らく当人としては目の前に迫るMSへの対処が優先されてしまい、意識の外側に置かれてしまっているのだろう。
だから、牽制射撃を派手に入れて周囲を見させる。
『7番機、5番機のフォロー!6番機は牽制を入れて!自己判断で突っ込み過ぎると逆襲されるわよ!』
集団で相手を攻めるのは難しい、ウォーカーはその感想を強くしていた。短距離通信をNJによって強要されてしまうこと、初期のMSよりも拡張されているとはいえMSのモニター越しに全方位を把握することができないという状況把握能力の制限、さらに純粋に頭数が多いことによる指揮官へとかかる対応の負担。
それに追い打ちをかけているのが、新兵に見られる独断専行癖ともいえる、協調性の無さである。もっと分かりやすく言うならば、事象への対処をまず一人でなそうとする傾向だ。今の5番機にしてもそうだ。チャンスととらえたものを逃さないと言い換えることもできるが、それが罠や誘い込みであることも考慮しなくてはいけない。囮につられてしまえば、数の優位が局地的に失われてしまい、相手に逆転を許す。
オーブでもそうだった。愚直に攻撃に回るだけでは勝てない。攻めつつも、守らなくてはならない。前のめりに攻めて、相手が「外し」てきたときにいかに対応し、自らの動きをフォローするのか。まして、相手の方が質として上であるならば、その傾向はさらに強くなるだろう。隊長のヴィルターがオーブ戦の時に対峙したGのパイロット達は、そうだったと聞いている。
いたずらに攻めず、かと言って守りに逼塞するわけでもなく、バランスをとっていた。
そう考えれば、ヴィルター隊長がなぜ自分をAチームのトップに据えていたのか、その理由がなんとなくだが分かって来る。
攻め方を、少数でも手ごわい相手の対処方法を隊員に教えると同時に、自分に攻めることと守ることのバランス感覚を学ばせたいのだろう。
まったく、隊長にはかないそうにもない。もっともっと、自分を高めて、追いかけてみたい。そう考えながらも、指示を飛ばし続けた。
『そこ、怯まない!たかが牽制射撃よ!』
まずは、この演習でパイロット達を鍛えることだ。
厳しい言葉を言わざるを得ないが、それもしょうがないこと。これが訓練でなかったならば、死んでいてもおかしくないのだから。
(っ……!)
そしてウォーカーは、脳裏によぎった南米やオーブでの記憶を振り切るように機体を加速させた。
717: 弥次郎 :2019/01/24(木) 18:46:25 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
『何とか意図は掴んでいる、とみるべきかな』
演習場各所に設置されたカメラや搭乗しているDゲイツのカメラ映像を介して動きを見ながらも、ヴィルターはコクピット内部でひとり呟く。
Aチーム、Bチームの小隊長を務めているのはそれぞれウォーカーとマルチネス。古参の部隊員であり、それぞれ攻勢と守勢を得意とする。
だからか、チームの動きにそれらが反映されているのが分かる。Aチームは数の優位を生かし、踏み込み、包囲しながら攻撃を続けているのだ。
さらにバッテリーへの負担を考慮して前衛をローテーションしつつ攻撃を続行し、自チームのMSを展開させている。
これだけ攻勢を維持しているならば、相手は簡単に逆転できないだろう。
一方でBチームは良く防いでいる。敵がどの方向から攻撃を仕掛けてくるのか、きちんと把握するために伝達を行い、必要な対処をしながら包囲を分断しようと揺さぶっている。単機でも連合のMS3機を相手取って逃げおおせる腕のマルチネスは、数的不利をうまく指揮でしのいでいる。両チームのMSの差はほとんどなく、パイロット戦力的にも均等に振ったので純粋に差を生み出している。
数という単純かつ最も危険な暴力を如何に回避していくのか。ジョナサンからも特にデータを集めるように指示されている分野だ。
演習でもあり、訓練でもあり、データの実証を行うための模擬戦。パイロット達や小隊指揮官は、ここで多くを学んでいくことだろう。
『ロッサー、準備はいいか?』
模擬戦が始まってしばらくが経ったころ、タイミングを見計らってヴィルターは演習宙域のギリギリ外側で待機するエギル・ロッサー達を呼び出す。
ファントムウォーリア・カスタムを主力としたロッサーの小隊は6機編成。現状11機のAチームと戦闘している8機編成のBチームに合流することになる。
このことは実はAチーム、Bチームの両方には教えていないことだ。だが、戦場ではいくらでも起こりうること。
優位だったものが突如としてひっくり返り、不利だった側が優位に立つ。その時、如何に行動するべきなのか。それを試す。
『いつでもいけます』
やや緊張を帯びているが、いつも通りに振る舞おうとしているのは良い。無茶に付き合ってもらっているという感覚はあるし、納得しかねるところがあるのだろう。それ以上に、こういったサプライズというか、演習内容を戦闘中に大きく変えるような選択。
副官の心配を察したヴィルターは、あえて気楽に言う。
『大丈夫だ、あいつらならこの程度にも対応できる』
『少し心配ではあります……何も教えていないのでしょう?』
『だからこそ意味がある』
ヴィルターは確信している。カリキュラムや教本通りのことは一通りできる隊員が多くなっているのだから、次に進むべきなのだと。
戦場というのは理不尽だ。なればこそ、訓練の場で理不尽を経験しなければならない。それこそ、事前の情報があてにならないという全くの理不尽を。
地上戦線を経験している隊員ならばすぐに対応できるだろう。だが、それ以外は厳しいかもしれない。
パニックになるか、混乱するか、あるいはすぐに冷静さを取り戻せるのだろうか?それは起こってみなければわからない。
『俺達の仕事は、新兵たちを生き残らせることだ。ならば、心を鬼にしてやらないとな』
『……隊長が言わんとすることは、分からなくもないですが』
『無理を言っているのは確かだ。だが、頼むぞ』
『分かりましたよ……これも、必要なことなんでしょうしね』
不承不承ながらも頷いた副官に、部隊長はGOサインを送った。
『さあ、かき回して来い!』
その言葉と共に、6機のMSが演習場へと突入していった。
状況が大きく動く、その核心と共に。
718: 弥次郎 :2019/01/24(木) 18:47:01 HOST:p2729046-ipngn201308tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
宣言通り、ヴィルター隊の教練の模様をお送りしました。
ああ、ガンダムらしい話を書けそうです…!というわけで、次の話に続きます。
最終更新:2019年01月27日 09:14