12 :yukikaze:2012/01/21(土) 22:32:15
前々スレでのネタの続き。
ドイツ海軍の活躍の日はいつになるのだろうか・・・(遠い目)

『アメリカ合衆国に大英帝国が宣戦布告』

この報が世界を駆け巡った時、アメリカ合衆国大統領ガーナーは文字通り激怒した。

「ステティニアス国務長官。これはいったいどういう事なのかね!!
 君達は明言した筈だぞ。イギリスは最終的にアメリカの圧力に譲歩すると。
 これが譲歩なのかね!!」
「大統領閣下。この件につきましては駐英大使の・・・」
「あの愚か者の名前は今後一切私の耳に入れないようにしてくれ!! 極めて不愉快なんだ」

取り付く島もないガーナーの態度に、アイゼンハワーは心中溜息をつく。

(だから言ったのだ。馬鹿な真似はよせと)

もっとも、アイゼンハワーにしてみれば、例のポーラスターの一件から、
いつかこうなるのではないかという予想は十分に立っていたものであった。
他国領に問答無用で進駐した以上、それは明らかに戦争行為である。
イギリス側がこれまで軍事的オプションを展開しなかったのは、
単にそのための準備が整っていなかっただけであって
『イギリスは軍事的オプションを行使する意思がない』という、
ホワイトハウスや国務省の予想など、彼からすれば余りにも楽観的―
いや、夢想的というべき代物であった。
そして政府上層部は、自らの夢想の代償を払わされる羽目になっていた。

(大英帝国との間で正式に戦争が勃発した以上、祖国は洋の東西から敵と相対することになる。
 祖国が万全の状態であったならまだ対応も可能であっただろうが、津波による被害と海軍が壊滅した以上、
 どこまで戦えるか・・・)

ポーラスター以降に行ったシュミレートを思い浮かべ、アイゼンハワーは暗然とした気分に陥る。
あのシュミレーションでは、最悪の展開として、日英独などの連合軍との戦いをしてみたのだが、
日本海軍が本格的に侵攻したことによってアメリカ軍航空部隊は各個撃破に会い壊滅。
西海岸も海軍の攻撃によって火の海になり、西海岸の生産力は激減。
そして、日本海軍の侵攻に合わせる形で、英独連合軍が東部や南部地域に対してヒット・エンド・ラン戦法を駆使したことで、
アメリカ軍の対応は後手後手に回ってしまい、結果的に沿岸部が荒らされたことで、合衆国経済は大打撃を受けると結論付けられた。
無論、本土決戦になった場合は、陸上戦力の多さから、最終的には兵力の差を利用しての消耗戦を以て、
日英独に対して条件付き停戦を行う事が可能であるとされていたのだが、それまでの間に国土がどれだけ荒らされ、
そして国土が復興するまでの間にどれだけの期間が必要かについては考えたくないレベルであった。

(本来ならばさっさと講和をするべきだったのだが)

だが、それはもはやかなわぬ望みであった。
あの愚行の最たるものというべき『オペレーション・ダウンフォール』によって、
日本との関係は修復不可能なまでに陥っていた。
そうでなければ、第一次大戦降伏後のドイツに匹敵するような講和案を持ち出すはずもなかった。
かつて祖国が提示した『ハルノート』を上回る過酷な案を提示した所に、
日本の怒りがこれ以上ないほど明瞭に示されていた。

アイゼンハワーが祖国の未来に対し深い絶望を抱いていた時、彼の絶望を補強される報告が入った。

14 :yukikaze:2012/01/21(土) 22:36:19
「大統領閣下。ドイツ政府が声明を発表をしました」
「何と言っている」
「はっ。『我がドイツ第三帝国は、国土が大津波による被害を受けながらも、
 自国民の保護に無頓着であり、且つ好戦的な態度を崩そうとしないアメリカ政府の対応に
 不快感を示すものである。なぜならばアメリカにはドイツ系やイタリア系、フランス系の人間が
 数多く住んでおあり、祖国を離れているとはいえ、彼らが塗炭の苦しみにあえいでいる様には、
 深い同情を抱くからである。我が国はアメリカ政府が自らの行動を猛省することを切に願う物である。
 なお、我が海軍においては、アメリカの無法に憤り、義勇艦隊として英国と共に戦うと述べる声がある
 ことを告げるものである』以上です」

瞬間、部屋が静まり返った。
ドイツ政府の発言を要約すると以下のようになるからだ。

『我が国もアメリカに対して宣戦布告する用意がある』

ただでさえ、日英との戦争という悪夢な状況なのに、今度はドイツが加わってくるのである。
アメリカにしてみれば、泣きっ面に蜂と言った所であろう。

「海軍作戦部長。ドイツ海軍の実力はどの程度かね」

重苦しい声で尋ねる大統領に、キング作戦部長は几帳面に答える。

「水上艦隊の練度はお寒い限りです。航空攻撃の範囲内に近づいたならば、打撃を与えることも可能でしょう。
 しかしながら潜水艦隊は強敵です。そして大西洋岸にはまともな護衛部隊は存在しておりません。
 大半が太平洋に展開している状況ですので」

「つまり・・・彼らが英国艦隊と合同した場合は」
「東海岸の通商路は完全にマヒするでしょう。主要な航空部隊は悉く西海岸に展開しており、
 南部や東部に展開するには相当の時間がかかります。
 更に言えば、西海岸の戦力を転用するわけですから、必然的に西海岸の戦力は低下します」

その後についてはキングは話さなかった。話す必要がなかったからだ。
戦力の低下した西海岸を口を咥えて見逃すほど日本海軍は甘くはない。
確実に彼らはしかけてくるだろう。実際に本土を攻撃できる手段を彼らは有しているのだ。

誰もが口を開かなかった。
日本に対して、本土決戦での消耗戦を行う事で、何とか好条件での停戦をもくろんでいた
彼らの戦略は、この一ヶ月の間に完全に消滅したと言ってもよかった。
彼らは今後、日独英の陸軍の侵攻に備えないといけないのである。敵の重爆撃機の爆撃によって
徐々に祖国の国力が低下しつつあるという状態で。

(我々がここまで追い詰められるとは・・・)

ある者は現状を嘆き、そしてある者は神を呪った。
そうでもしなければやっていられないからだ。

「ドイツの事よりも、まずは国内が重要です。今回の一件で、反戦団体などが
 また騒ぎ出すでしょうから」

重苦しい雰囲気にいら立っているのか、大統領補佐官のハーストが、
とげとげしさを隠さずにそう話す。

「お得意のプロパガンダでも使うのかね」

ハーストに対して全く好意を抱いていないアイゼンハワーが皮肉気に言うと、
ハーストはつまらなさそうに返答する。

「それだけでは不足です。軍の投入や戒厳令も視野に入れていただきたいです」

その言葉に、何人かの人間は硬直する。ハーストの提案はあまりに強圧だったからだ。

「ずいぶん簡単に言ってくれるな」
「しかし事実です。現状の国民の不満を抑えるにはそれしか手はありません」
「補佐官殿は、ロシアの皇帝が同じことをしてどうなったか知らないのかね?」
「ではどうしろと? 日本の条件をのんで国家解体でもされますか? 
 そもそも軍が日本に勝っていれば」
「貴様・・・自分がやらかしたことを棚に上げてぬけぬけと」

温厚なアイゼンハワーもさすがに頭にきてハーストに掴みかかろうとする。

「やめないか二人とも。君たちは喧嘩する為にここにいるのかね」

二人の醜態に堪忍袋が切れたのであろう。ガーナーが怒鳴り声を上げる。
叱責を受けたアイゼンハワーは、大統領に対して非礼をわびるが、ハーストには謝罪などせず、
ハーストも不愉快そうにアイゼンハワーを睨んでいた。

「とにかく国内外に対してはイギリスの不法行為を徹底的に宣伝してのけろ。特にワスプ撃沈をだ。
 そうすることで国内の不満を鎮静化するしかない。軍の投入や戒厳令は最終手段だ」

そういうと、ガーナーは心底疲れ果てた表情で、椅子に寄りかかった。
そこには『力強い合衆国大統領』ではなく『疲れ切った老人』の姿があった。
そしてそれは、今のアメリカを象徴しているような状況であった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年01月26日 22:57