87 :ベレソア雑貨店 ◆TJ9qoWuqvA:2012/01/23(月) 18:29:02
とあるオフィスビルの一室の二人の男女がいた。
頭の禿げ上がった初老の男性がマホガニーの机の上の書類を女に渡した。
書類には写真が添付されている。


「課長、これは?」

「二日前に新浜にある廃ビルで撮られたものだ」

「倉崎電子の社長に海上保安庁の副長官、大蔵省の財務官、そして政界への転身が噂される海上幕僚長」

「ここに写っている人物以外にも多数の政官財の重要人物が集まるのが確認されている」

「たんなる親睦会ではないわね」

「このデータは三日前に死亡したニイハマウィークの記者の遺品の中にあったものだ」

「遺品の中?」

「その記者は、私の知人でな。 彼の奥方が遺品の中から見つけたデータを私に提供してくれたんだ」

「記者の死因は?」

「交通事故だ。 犯人は一切減速せずにフルスピードで彼を轢いている。 まだ捕まっておらん」

「ただのひき逃げかそれとも口封じか」

「それをはっきりさせるのだ、少佐」

「了解。 ちょうどいいわ、私前から彼に興味があったから」


写真データを一枚手に持ちしげしげとながめる少佐と呼ばれた女。


「根室の英雄にか?」

「そう。 そうしろとささやくのよ。 私のゴーストが……」


少佐が持つ写真に写る男。
海上幕僚長、嶋田。


どんな大きな物語でも始まりは静かにそして、唐突に始まるものである。


攻殻機動隊 S・W・P

  • 嶋田さんは、とんでもない人に目をつけられてしまったようです-

88 :ベレソア雑貨店 ◆TJ9qoWuqvA:2012/01/23(月) 18:29:43
倉崎電子本社の一室。
甲高い警告音に包まれる中央保安室。
室内には百人近い数のガイノイドオペレーター(外見のボディは画一化されていない。 外装オプションで外見年齢・メガネ・ツインテール・バストサイズの大小・髪の色・瞳の色・語尾などがすべて違う。 会員たちの趣味を反映している」
が打鍵音が警告音に負けないほど響く。

「お兄ちゃん(保安部主任の趣味により設定)、防壁にウィルス侵入、感染拡大中」

「兄様(保安部主任の趣……以下略)抗体に機能衝突、敵走査外壁を突破」

夢幻会の秘密を守る最前線の一幕である。



ある一幕。

「それは手を引けと言うことですかな」

官庁街の一角にある喫茶店。
公安9課課長の荒巻は、ひどく居心地が悪そうだった。
本格的な英国風喫茶なのは良いとして、対面に座る男が店の雰囲気と見事にマッチしていない。
大蔵省の役人とは思えないほどのプレッシャーを目の前の辻という男から感じる。
(これが役人? 彼は絶対人を殺したことがある。 それも両手では足りないほどに)
などということをふと考えてしまう荒巻。

「あなたが調べている集まりは、いたって健全なものです。 映像データ(アニメ)を見て感想をいったり、それぞれの趣味(萌)に関して意見を交換するだけの」

「それにしては、いささかものものしいセキュリティのようですが?」

「個人情報を守るのがいけないことですか」

「廃ビルの一室でわざわざ行うべきほどのことですか」

「……廃ビル?」

そうつぶやいた後、辻は沈黙する。
荒巻はその反応を注意深く観察する。

「……私たちはいつのまにか。舞台に上げられていたようですね」

「財務官、なにを」

「荒巻さん、私はあなた方の活動を邪魔するつもりはありませんよ。 大いにやってもらって結構」

突然の変化に荒巻はいぶかしがる。
辻は伝票を手に立ち上がる。

「荒巻さん、予告しておきましょう。 次に会うときは私たちは友好的な雰囲気で会えると思います。 部下の方々を連れてきてもいい。 みなが喜ぶ」



公安9課・夢幻会を巻き込んだ陰謀の終着点はいかに。



「あなたが根室の英雄さんかしら」

「そう呼び名は好きじゃないな。 少佐」

「じゃあ、なんて呼べばいいのかしら」

「お好きに、お嬢さん」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年01月26日 21:18