142 :2号:2012/01/24(火) 15:21:40
ちょっと思いついたネタです。
とある工場、キャットウォークの上に居る3人の男たちが広大な建造施設、
自動車工場のようなラインの上を2メートルを超えるフルプレートの鎧が流れるように動く様を眺めていた。
「これでラインが本格的に動き出せば月産1000機の無人霊子甲冑を生産できるのですか?ブレント社長」
「ええ、ヤフキエルの量産が進めばさらに安価に製造する事もできるでしょう。ミスタ・タヌマ。
これも税の優遇措置と安価にて工場の敷地を用意してくれたミスタ・ツジの協力あってのおかげだよ」
見るからに小役人のような風体の男が自信満々な笑みを浮かべた男に声をかけ、
その男は応えながら後ろに控えている眼鏡をかけた、これまたにこにこした男に声をかけた。
「いやいや、製鉄所や発電所、港湾施設へのダグラス社の潤沢な資金提供があったればこそ、
この短期間で施設の立ち上げが出来たのですよ。社長の莫大な資本投入の迅速な決断があったからです」
「ふむ、まあ安価で優秀な労働力がある日本は世界戦略の要になりうるというミスタ・ツジの話は一理ある。
必要な投資は惜しまないのが経営者としては当然だと私は思うからね」
「お互いに利益のある関係は長続きしますからな。
私も陸軍の試験報告次第では政府に働きかけて大量発注を取れるよう根回ししましょう」
そう、期待してますよと誰ともなく笑い出した三人の男たちを人形遣いの怪人が冷ややかに見つめていた。
「太正15年」クリスマスイブの「人型蒸気暴走事件」の少し前のことであった。
143 :2号:2012/01/24(火) 15:22:53
2
クリスマスイブ。
この日、帝国陸軍工廠の広大な施設内にて数百人の陸軍や海軍の軍服や白衣、
陰陽服や巫女装束などの場違いな格好の者たちまでふくめ、とある実験が行われようとしていた。
直径が十メートルを超えるであろう複雑な文様、西洋系や東洋系魔法陣が敷かれ、
中央部分に電源装置とコードにつながれたフルプレートの鎧のような物、無人霊子甲冑ヤフキエルが置かれていた。
何度か装置の電源スイッチを入れたり切ったりした後、
白衣を着た科学者らしき長髪の男の合図と共に場違いな格好の者たちが一斉に呪言を唱え始め、
魔法陣が輝き始めると共に緊張感が高まってゆく。
そして一瞬、目も開けていられないほど光が増してうなり声の様な起動音がした。
「鬼動成功。診断を開始する。超能部隊は引き続き警戒を」
白衣を着た長髪の男がゆっくりと、戸惑うように体を動かすヤフキエルに近寄り話しかける。
「お名前を言えますか?」
その話しかけた男に周囲を見回すようにしていたヤフキエルはスピーカーから『声』を発した。
「ナマエ?・・・XX・XXXダ。ココハドコダ?ジブンハバルチックカンタイトセントウチュウダッタハズダガ」
「成功か。XX・XXXさん。状況を説明しますから落ち着いて聞いてくださいね」
男が説明しているのを遠目に見ていた男たちがほっとため息を漏らす。
「いきなり暴走はないようですね。渋鯖男爵」
「そうだな辻君。しかし記憶や人格、経験などの保持と維持がどれだけ出来るかはこれからの研究次第だな」
「まあ、このヨーロッパの魔王たるワシが監修したんじゃ、万一の失敗もないわい。おお、マリアそこじゃ」
眼鏡をかけた男とヨレヨレの白衣を着た男、
身長が2メートル近い老人がそれぞれ笑ったり肩を女性型アンドロイドに揉ませたりしながら話し始める。
「培養した降魔の体に人の魂、英霊の魂を召還したら悪影響が出そうですけどその辺は大丈夫でしょうね?」
「なあに、問題ないわい。麻帆良の神木の枝と聖別した部品を使った特製制御装置、
負の念に対抗する措置を複数系統で配置してあるからのう。」
「(今はあんまりボケてないとはいえあのドクター・カオスだからそれでも心配なんだが)
・・・・・・英霊を制御装置として使う英霊甲冑で数を補いしばらく持たせ、
人造霊魂の量産技術の確立がなされれば本格的な無人機運用と日本全国への対超常存在配備も可能だろう。
そのへんは山崎君に任せればいい。辻君こっちへの予算の配分、頼むよ」
「ええ、おまかせください。
経済はダグラス社の行動が呼び水になってさらに好調ですからね。ちょっと色をつけますよ」
眼鏡の男、辻はそう言って退出する。
その背後ではようやく実験成功と判定され歓声が沸き起こっていた。
144 :2号:2012/01/24(火) 15:23:42
3
クリスマスイブの夜。
とあるホテルの一室に2人の男、辻と田沼がグラスを手に持ちながら窓の外を眺めていた。
その視線の先にはヤフキエルの大群と帝國華撃団の霊子甲冑が戦っていた。
それを憂鬱そうに見ながら田沼は独白する。
「わたしはサクラ大戦のファンだがね。実際に女子供が命がけで戦っているのを見るのはこたえるなあ」
グラスに入った水を飲みながらなお続ける。
「花小路伯爵の言う事もわかる。霊力を霊子甲冑が使えるレベルで持っているのは女性がほとんどだ。
通常兵器が効きにくい降魔から都市を、この国を防衛する為に霊子甲冑が必要な以上、
否応も無いと言う事はわかってはいる。納得は出来ないが」
「あなたはそんな彼女たちの負担を軽減するために動いたのでしょう?
そのための超能力者部隊、そのための英霊甲冑、そのための人造霊魂開発、
そのための・・・統合超常現象対策開発計画ではありませんか」
苦笑を浮かべながら田沼に対応し、
窓の外、ブレント・ファーロングが居るであろう方向を見て嘲笑を浮かべ辻はそれに、と続ける。
「ブレント社長は、あの尊大な男はいい仕事をしてくれました。
神祇院が創設した黒之巣会や黒鬼会の人達のおかげで大震災の人的被害を抑え、
復興特需に沸く帝國にカンフル剤をもたらしてくれました。
その上に今回の暴走事件で生産施設、株式は根こそぎ接収できる。いやあブレントさまさまですね」
そんな黒い事を言う辻に顔をひきつらせながら田沼は話を変える。
「ブレントといえばあの人形遣いはどうしたんだ?」
「ああ彼ですか?彼なら田沼さんの後ろに」
「キズイテナカッタノカ」
「うおわあああっ」
「ククッ、ツジヨブレントノモツアメリカノザイサンニカンスルショルイダ」
驚いて飛び上がる田沼の滑稽な姿が可笑しかったのか笑いながら書類を辻に渡す。
たしかに、と受け取った書類を確かめながら話を続ける。
「うん、これで
アメリカで群を抜いたダグラス社の技術は根こそぎ出来そうですね。
ごくろうさまでした。ミスタ・パトリック。
あ、魔界軍人界工作班所属工作員、いえ、アシュタロス公の分御霊様と言った方がいいですか?それとも芦様?」
「どれでもかまわんよ。
いや芦の森、だったか神社に祭られたせいか八百万の神として神性を持ってしまったからな。芦のほうがいいか。
・・・まったく、日本に来たらいきなり加藤とか言う男に調伏されて括られた時には何事かと思ったぞ」
人形遣いの姿が一変して神主の服を着た角の生えた金髪の女性に変化する。
そして空いていたひとつの椅子に腰をかけてどこからか取り出した酒を煽り始める。
145 :2号:2012/01/24(火) 15:24:26
4
そんな男言葉の女性に笑いながら声をかける。
「いやはや、知恵と稲作の技術を伝えた土着の神としてでっち上げたのですが、明日樽の命でしたっけ?
うまく一柱の神になられてよかったですな。近くの技術廠から日参してる人もいるとか」
「ふん、軍の技術者達からの信仰が沢山もらえるのはいいんだがな。
あいつらの中の結構な数が私が幼女になるようにってイメージしながら祈るのは何とかならんのか?」
日本人は神に祭り上げてまで悪魔も働かせるのか、幼女好きとかどこまで業が深いんだとぶつぶつ言う女性。
幼女って・・・と呟きながら田沼は不機嫌そうな女性をみる。
そして納得したかのように頷く。
彼女は小さくなればとある作品の某神社に入り浸る飲兵衛の鬼に見えるからだ。
おわり
山崎真之介・・逆行者。霊子甲冑開発者。ミカサは設計していない。
作った霊子核機関は国家機密指定で表向きには存在しない。現在は軍で開発者をやっている。
渋鯖男爵・・夢幻会所属。逆行者。好きな女性が震災で死んでいない。人造霊魂の製造、量産研究をやっている。
田沼晴義・・夢幻会所属。賢人機関所属。逆行者。
政治家で女子供を戦わせる事で花小路伯爵と対立、代替計画を推進している。
花小路伯爵・・賢人機関所属。非逆行者。
田沼とは対立してはいるが心情的には彼を認めており、
代替計画が成功するならそれはそれで良しと思っている。
ドクターカオス・・長い時を生きる錬金術師。今は日本政府をパトロンとして様々な霊的技術開発を行っている。
ボケ防止のための記憶装置の開発を依頼され、作ろうと設計を行っている。
マリア・・ドクターカオスの作ったアンドロイド。体の中に仕込んだ秘密兵器はすごい物。
黒之巣会や黒鬼会・・大震災対策の為に設置された偽装テロ組織。
震災一年ほど前から時々屋台を壊したり公園のベンチを壊したり、
花見客を怪我しないように気をつけながら追い散らしたりしながら活動していた。
(損壊した物品は匿名の寄付という事で弁償された)
大震災予定日に大規模爆破テロを予告し、
政府による東京の民間人の緊急避難命令の根拠を与えて任務完了。
以後表向きには活動していない。この世界では最後まで正体不明、名称不明のテロ組織。
出ていない人
京極大臣・・逆行者。書類の山に埋もれている。
真宮寺一馬・・逆行者。娘が大神の嫁になるかどうか心配している。
藤枝あやめ ・・生存。帝國華撃団副司令。今は山崎姓。
最終更新:2012年01月26日 21:37