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というわけでビドーの憂鬱4話です。

日蘭世界妄想 ジョルジュ=ビドーの憂鬱 4
1979年 FFRエストシナ植民地 エスト=デ=パリ(旧上海)
その日は生憎の雨だったが、追悼の気持ちを表すにはもってこいなのかもしれないと、ビドーは思った。
テキサスでの会談と視察を終えたビドーがエストシナ入りしたのは、駐留軍兵士の激励という名目であったが実際には目の前の人物に会うためだった。
フィリップ=ペタン。かつてここエストシナで起こったセクトによる争乱からこの地を守り抜いた英雄がそこに眠っていた。
彼の墓は英雄の墓とは思えないほどに小さく簡素だった。唯一、記された名前のみがそこがかれの墓であることを示していた。
「私を、私が守れなかった人々と共に眠らせて欲しい。」
その遺言従って彼はここに眠っている。だが、その小さな墓からは、言葉にできないほどの荘厳さを感じる。
「これが英雄…か」
たしかにこれだけの存在ならば、君が憧れるのもよくわかるよ。『将軍』?だが…貴方は過ちを犯したのだ。それが貴方と元帥の差だ。

1948年5月24日午前10時 パリ マティニョン館
ビドーはその日も仕事に勤しんでいた。外が騒がしいような気がして窓を開けようとしたその時、秘書官が飛び込んできた。
「失礼します閣下。警視庁他複数の治安機関で爆発が発生。テロと思われます。さらに右翼結社に扇動された市民の一部が暴徒化してこちらに向かってきています。」
「なんだと」
みると、マティニョン館を警備する共和国親衛隊との間で衝突が起きていた。
暴徒の1人がこちらに筒のようなものを向けて…危険を察知したビドーはとっさに伏せた。隣の部屋から轟音がした。対戦車火器のようなものを使ったらしい。
「首相こちらです。」
何故だ…ヒドーは後悔をしながら引きずられるように、秘書官に促されるままに地下道へと向かった。

「ちっ、外した。」
私服の青年が筒を投げ捨てて悪態をついた。周囲の混乱など御構い無しだ。青年はベルトに拳銃を指していた。ル=フォショウM1853、旧式のリボルバーだ。
「おいおい、あんまり勿体無いことすんなよ。俺なんてコレだぜ?ジャン。」
話しかけた30代ぐらいの男が持っていたライフルはシャスポー銃だった。
「どうせ弾はもうないんだ。欲しけりゃやるぜフランソワ?」
「冗談言うなよな。それより早く逃げようぜ?ジャン」
見ると共和国親衛隊が大混乱の人波をかき分けてこちらに向かって来ていた。
「「ヴィヴ・ラ・フランス、くだばれアカども」」
二人で同じことを言ってから、近くに止めていた仲間の車に乗って逃走した。2人の男、ジャンことジャン=マリー・ル・ペンとフランソワことフランソワ=ミッテランは満足気に笑っていた。

1948年5月24日12時ごろパリ某所
2時間前のマティニョン館襲撃の報は今や知らぬ者はいなかった。
「で、この後はどうなるんだ。また爆発かね?」
「ええ、そうですよ。そしてその後に『将軍』の部下の、なんと言ったかな…まあ、とりあえずスパッヒ連隊が鎮圧に来る筈だ。ところが彼らはそのまま民兵団と合流してフランス救国委員会の設立を宣言、あとは残りの部隊も同調し、臨時政府に対して反旗を翻すはずです。」
「そううまく行くかな?確かに何も出来なかったフランス軍に対して本土での風当たりは強いが…」
「別にうまくいかなければそれで良いのですよ。臨時政府が泣きついて来ればそれで。」
「なるほど、ド=ゴール将軍にはコルニロフを演じてもらうというわけか」
「その通り。大衆の組織化には協力してもらいますよ。ムーラン。」
「腕が鈍っていなければいいのだがね?書記長。」
会話を終えたジャン=ムーランと書記長ことフランス共産党書記長モーリス=トレーズは部屋から出て行った。
そして、別室でその会話を聞いていたMI6所属工作員キム=フィルビーは『指令』の成功を確信して笑みを浮かべていた。

325: 名無しさん :2019/05/11(土) 16:29:20 HOST:softbank126077075064.bbtec.net
投下終了です。

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最終更新:2019年05月20日 21:14