18 :名無しさん:2012/01/22(日) 21:18:28
→982,984のひゅうがさんの作品を見て書いてみたお話です
(もし、ちょっと違うな、って思われたら無視して下さい)

 日本の宇宙軍大学校から出たシトレとヤンは自分達だけとなってから重い溜息をついた。

 「……何とか面目は保てたか」

 シトレの台詞が全てを現していたと言ってもいい。
 確かにシトレとヤンは見事な展開によって日本軍の防衛線の一角を突き破ってみせた、みせはしたが……。

 「あれだけの艦隊を揃える事自体が同盟にはそもそも無理ですからね」

 ヤンの台詞にシトレも頷いた。
 今回動員された艦隊兵力は実に二十万隻。
 帝国との戦線を完全に放り出して同盟の地方駐留戦力も含めた全戦力を根こそぎ揃えれば数を揃える事は可能かもしれないが、現実にはそんな事は不可能だ。
 そして、迎撃艦隊の殲滅と引き換えに最終的には要塞火力によって侵攻側もまた殲滅されている。
 もし、これが現実であったらどうだろうか?
 日本帝国は今回失った戦力の再建を行うと仮定した場合、多少は苦労するだろうが、余裕を持って可能だろう。
 全人口を合わせれば一千億に達するという人口を持ち、莫大な経済力と生産力を持つ日本には可能だ。
 だが、同盟には無理だ。

19 :名無しさん:2012/01/22(日) 21:18:58
 もし、同じ事をすれば同盟は経済面でも、そして社会面でも崩壊する。

 「それに今回の戦闘で相手を務めたのは新入生です。果たして前線勤務の現場の指揮官であればどうなるか……」

 ヤンが口にしなかった続きはシトレも悟っていた。
 おそらく、ここまで上手くは行くまい、と。
 いや、むしろまだまだ翻弄されていたとはいえ、こちらの狙いをきっちり読みきっていたのは素晴らしい。
 同盟の士官学校で同じ事が出来る人材がどれ程いるか……。

 「気をつけねばならんのは、今回の模擬戦での結果を見て、日本帝国を侮る馬鹿が出ないようにしなければならんという事だ」

 シトレが重い溜息と共に呟いた。
 トリューニヒトはまだ理解出来るだろうと見ている。
 胡散臭いと感じさせる男ではあるが、その知性と度胸は単なる利権政治家連中とは違う。おそらく説明すれば、同盟には実際には今回と同じ事は不可能であると理解してくれるだろう。
 軍人連中も同じ事をするのに必要な物資と人員、そして失われた人員の補充とその訓練に必要な時間などを考え、侮る者はいないだろう。
 ……問題は文官であり、野党だ。

 「オリベイラ教授はこちらの味方をしてくれそうですけどね」

 「そうなのかね?大分仲良くなったようだが……」

 ヤンも苦笑した。
 貴重な芸術を理解する同士とすっかり認識されたらしく、あれから幾度か時間を見て、美術館巡りなどに誘われ同行していたのだ。
 何しろ、現代美術を理解する人間はいても、古代地球の文化芸術を理解する人間となると殆どいなかったのである。
 今日の仕事がなければ、日本が十三日戦争における英国王室の受け入れと引き換えに(実際には貴重な文化遺産の避難という面もあったらしい。英国が十三日戦争でどうなったかを考えれば慧眼だったと言えよう)譲り受け、この地で再建された大英博物館に赴く予定だった。
 ヤンとしても是非とも行きたかったのだが、公務とあっては仕方ない。
 泣く泣く諦めたヤンはオリベイラ教授にせめてパンフレットや資料を、と頼んでいた。
 ちなみに日本帝国最大の書籍街である神田神保町へは共に行く約束というか、それを引き換えに今回の同行を了承したようなものだった。
 ちなみに同じように同行する連中は共に毎晩集まっては「誰がこの地域を」「この地域は誰が」「回れないから誰かこっちを頼む!」と喧々諤々の話し合いを行っている。日本最大というだけあって、ハイネセンポリスよりも広大な地域に建造された積層構造物全てが書店とあっては一人で回りきるなど不可能だからだ。というより、一生をかけても無理かもしれない。

 「まあ、話を戻すが、とにかく同盟に同じ事は無理だという事をしっかりと理解してもらわねばならん」

 そう、同盟侮りがたし、そう認識してもらえた時点で十分なのだ。
 いや、嶋田中将の反応を見るに、日本軍にそう感じさせる事自体が目的だったのだろうと推測がつく。

 「……出来れば、嶋田中将とも模擬戦をやってみたかったんですけどね」

 ヤンのそれにはシトレも頷いた。
 どうにも見かけと時折見せる仕草が違う、というか軍人である彼らが見るに敬礼が堂に入りすぎているのだ。

 「……何者なのでしょうね、あの方は」

 「分からん」

 一介の中将という割には周囲の態度が違う。
 エア回廊でも同格の中将のはずの鎮守府司令官の態度が明らかに目上の相手に対する態度だった。
 そして、それに対応する嶋田中将もまた、それをごく自然に受けていた。

 『或いは中将という立場自体が今回の為の偽装なのかもしれない』

 彼らはそう感じていたのだった……。
 色々な気持ちとこれからの対応に頭を悩ませつつ、二人を乗せた地上車は同盟の迎賓館へと戻っていったのだった。

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最終更新:2012年01月31日 20:57