326: リラックス :2019/07/26(金) 19:14:28 HOST:119-228-10-186f1.hyg1.eonet.ne.jp
よし、ネタ投下
【ネタ】魔法や魔物が発生してしまった世界ですが、今度はゲートが開いてしまったようです。【
アメリカの憂鬱】
日本国は(活動家やマスメディアにおいてどんな声を上げているかはともかくとして)並行世界の覇権国家である大日本帝国と自身の世界(便宜上α世界と呼称)の覇者であるアメリカ合衆国という二つの大国の仲介としての地位を辛うじて確保していた。
尤も、第一印象というのは拭い難いというものであり、ゲートの向こう側の日英(勿論枢軸もだが、ここは置いておく)からするとα世界の欧州と半島よりは(話し合いの結果を卓袱台返ししないという大前提を守ろうとしてる努力くらいは感じられる分)マシ、という程度の評価でしかなかったが。
「国内に別国との出入りを自由に行えるゲートが存在する以上、最低限ゲート周辺は守りを固めなければならない」
大日本帝国政府は再三どころでないα世界の日本国側の批難(ゲート越しに直接叫ぶのを含む)も何のそのと言わんばかりに、ゲート周辺に警戒陣地を作成し、部隊を展開して厳戒態勢を維持し続けた。
これを野党や活動家、マスコミは例によって「グンクツノアシオトガ~!」と散々に喚いたのだが、流石に与党や国防族は「バカが、向こうが「そっちが五月蝿いからゲート周辺から部隊を退けたが、そのせいでそっちに魔物が行っても俺ら知らないから」と言い出したらどうなると思ってる!」と考えていたのだが、こうなった連中を黙らせようと思ったら、それこそ欧州で調子に乗ってゲートを越えようとした連中と同じ目に遭うくらいのことが必要だった。
しかし、流石に喧嘩を売りやすい相手とそうでない相手を選ぶくらいの判断力は備えていた連中は安全な祖国の法の傘の下で騒ぐに留めていた。
流石にゲートを越えてまで攻撃して来たら国際的な立場が失墜して云々という『お前、連中のこと罵倒しまくってる割には向こうが約束守らない訳はないって思ってんのな?』と突っ込まれそうな前提に従っているのだが、ゲートを越えさせるつもりはないが、わざわざ越えたくもないという憂鬱世界側の思惑を考慮すれば、この場合、腹立だしいことに、正しかった。
まあ、先の一件で魔法攻撃も行われていたことを理由に「魔法とはナチスの虐殺の為の力の象徴!」とか言って魔法という文化は悪い文化と主張し、魔法という言葉へのヘイトが高まり、該当の概念や用語の存在する創作作品を規制すべきと大真面目な場で公然と発言され、賛同を受け、様々な有名タイトルを含む本やグッズ、ゲームソフトが集められて焼かれる様が絶賛されるなどしていたのに比べると、国交も満足に無い隣国の部隊が国境付近に陣地を築いて駐留しているのに抗議していると考えれば、まだまともな動きと言えないこともない辺りがアレである。
ここまで元気よく憂鬱世界側の日本の罵倒や批難が行われていたのは、同じように初期にやらかして憂鬱日本から不信の目で見られていたα世界のアメリカにとって、二つの日本が必要以上に接近し過ぎるのも困るという事情が背景にあった。
日本人の気性からすれば、余程のことがない限り(異世界とはいえ同じ日本ということで)関係がいきなり断絶まではしないのはこの場合有難くもあるのだが、アメリカを差し置いて魔導技術の供与を優先的に受けられても困るのである。
最悪でも、アメリカと憂鬱日本の関係改善が実現するまでは憂鬱日本と日本にイマイチ関係深化に踏み切れない程度の距離感を保っていてもらった方が……より生臭いことを言うなら、アメリカと日本で最低でも同じレベルの技術供与を向こうが認めるようになってから関係深化した方が都合が良い。
アメリカが手を汚す必要もなく、その距離感を保つようなムーブをやってくれているミラクルが起きているのだけは幸いだったが、問題はそれだけではない。
327: リラックス :2019/07/26(金) 19:17:10 HOST:119-228-10-186f1.hyg1.eonet.ne.jp
ホワイトハウスやペンタゴンでは連日会議が開かれて、ゲート先の世界への対応に頭を痛めていた。
「ゲート先の世界……便宜上、β世界と呼びますが、β世界において大日本帝国は、WW2後に環太平洋地域を勢力圏に納め、そこに属する国々と環太平洋条約機構を構築、またβ世界の英国とも準軍事同盟を結んでおり、β世界のドイツを中心とする欧州枢軸陣営との冷戦状態を保っていたようです」
「それで、軍事力はどれほどかね?」
「魔物という存在に対応する為にリソースを割いたこともあり、核戦力に関してはこちらの比ではありません……が、逆に言えば優っていると断言出来るのはそこだけです。
海上や海中に開いたゲートが発見されれば別ですが、現状で確認されたゲートは何れも陸上ですから海上戦力に関しては一先ず考えないものとします。
そして、陸上戦力に関しては向こうが圧倒していると言わざるを得ません。
向こうの歩兵だけを見ても歩兵としての利点を維持したまま、MBT並の火力と防御性能を有しているようなもので…… こちらにはこのような存在を想定した兵器もドクトリンも存在しません」
「つまり、ゲートを巡っての争いとなった場合、どう足掻いてもこちらが不利になるということか……」
アメリカ政府高官は軍人の報告を聞いて頭を抱えた。
いくら魔物対策に頭を悩ませ、更に対抗手段を得る為に関係改善をどう行うか頭を痛めているとはいえ、万が一、この新たなプレイヤーと敵対することになった場合のことを考えるのも彼らの仕事だった。
前提がちょっと考えるだけでも絶望的な状態だとしても。
「ゲートは世界中に少なくない数が存在しますが、最大でも10メートル四方程度の小規模なものばかり、そうなると向こうからゲートを越えて来るのを迎え撃つという状況を作らない限り、ヘリによる近接航空支援を受けるのも難しいでしょう。
必然的に陸上部隊を主力とした戦いが予想されますが、そうすれば……」
「火力差をどう補うか、という時点で絶望的だな…… どこのアイア○マンだか知らないが、全く……」
テロリストの武装強化と非対称戦をメインの課題にしている彼らにとって、憂鬱日本が採用している歩兵用パワードスーツはいっそのこと「俺達が採用したいよ!」と叫びたくなるようなものだった。
敵の火力を物ともしない火力と防御力、市街地でも山岳地帯でも森林地帯でも制限を受け難い歩兵の身軽さ、あったらどれだけ有り難いことか。
「こちらからゲートを越えてゲートを抑えるのが難しいというのは分かった。問題は、向こうがゲートを越えて来た場合だが」
「先程の条件が逆になると考えれば圧倒的に有利ですが、携行兵器の火力差が大き過ぎることを考えると、それでも厳しいですね。
MBTが徒党を組んで突入して来るのを迎撃すると考えても、相応の火力はどうしても必要になります」
「砲兵や近接航空支援を上手く活用するしかないな……」
溜息が吐かれる。
ただでさえ中国への締め付けを強化し、対立を深めつつある現状で、これ以上の不安要素を増やすのは避けたいというのがアメリカ政府の本音だった。
向こうの世界の影響力が必要以上に拡大するのは好ましくないというこちらの思惑に合致するという背景と、上手くすればゲートを通じたやり取りをアメリカがかなりコントロール出来るという見込みがなければ、こちらとの相互不干渉を前提にするゲートに関する基本条約の締結の為、向こうの日英に協力して東奔西走してやるほど、アメリカ合衆国という国は暇でもお人好しでもない。
尤も、憂鬱日本もその辺りの事情を理解した上で史実アメリカを(人聞きの悪い言い方を敢えてすれば)パシリに使って先の条約を史実側に結ばさせたのだから、ある意味おあいこだったが。
328: リラックス :2019/07/26(金) 19:18:21 HOST:119-228-10-186f1.hyg1.eonet.ne.jp
「強硬手段が危険ということは分かったが、先方との関係改善の見込みはどうだね?」
「魔物に関する資料の提供を受けることは出来ましたし、例のゲートに関する基本条約を結ぶ際に協力体制を取ったことである程度のパイプは築けた為に、一時期よりはマシになっていますが……
魔物に限定した本格的な協力体制の構築や魔導技術を含んだ貿易に関してすら、極めて消極的な姿勢に終始しています」
しかも、憂鬱側は史実日本から受け取った資料から、史実日本が国防の要と位置付けていた技術をアメリカが圧力をかけて提供させたり、貿易摩擦で万里の長城と称されるような関税障壁をつくっている事実を根拠として挙げている上に、某半島に存在する合衆国の同盟国との問題が未だに解決していないことを根拠にしょっちゅうアメリカ側の言葉を遮る為(それはもう、スポッ○船長代理の方針を全否定するカー○少尉候補生改め病人の如く)交渉は難航していた。
「大西洋大津波に関しての情報は?」
「資料の提供はある程度得られましたが、被災地やラ・パルマ島の調査を依頼しましたが、防疫や安全面の問題が解決しない以上、認められないの一点張りで……」
余談だが、この大西洋大津波の対策の為にアフリカ大西洋沿岸に世界各国協力の下、大規模な堤を築くべきだ!と主張し、「その為にもアメリカや日本は大規模な出資を!」という声がEUや中華なお国で上がっていたが、それに関しては割愛する。
「向こうの高官を国賓として招き、更なるパイプを作るというのは?」
「残念ながら、そちらも難航しています。大使の派遣についても、同じような調子です」
こちらは同盟国に派遣されたアメリカの大使が刃物で襲撃されて負傷した事件や、同じく同盟国でどれだけβ世界を批難(罵倒)しているかを理由にして安全性が甚だ疑問であると主張しており、あいつら何処まで足を引っ張るのよ、と会議参加者達の血圧を上げたことは言うまでもない。
「そんな状況ですから、留学生の派遣や人材交流など話し合い以前の問題ですし、旧式兵器の売却に関してもまともな交渉すら出来ていると言えない状況です」
「……彼らは外交を何だと思っているのだ? 貿易をする気も大使を派遣する気も技術も渡す気もない、旧式兵器の売却も行わないだと? これではどうにもならんではないか!」
最後はほとんど絶叫だった。無理もない話ではある。こちらからのアプローチを、β世界から悉く袖にされているも同然なのだから。
しかも同盟国やNATO加盟国のやらかしたことや、同盟国から渡された資料から過去にアメリカがした行いを根拠にしているのだから、少なくとも交渉で譲歩を引き出す材料に乏しい。
(そうでなくとも、軍事的オプションを取ることは難しい上に、経済的にも外交的にも圧力をかけるのも難しいという有様なのだが。)
ちなみに、長官のストレスの原因にはβ世界側の人口がα世界側と比較して半分以下であり、更に魔物の発生により開発が遅れた地域が少なからず存在することから、そうした手付かずのままの資源に目をつけた財界から「β世界側のそうした利権を早く抑えたいから、さっさとその辺り優位な条件で協定を結ばせろ!」と突かれている議員にアレコレ無茶を言われていることも少なからず含まれているのは言うまでもない。
勿論、少なからずα世界側に無い技術を持つβ世界側が人口の多いこちらを良い市場と見なして経済的に進出して来ると劣勢を強いられる可能性が高いと見なしている一派もまた存在し、そうした協定の締結を妨害しようという動きもあり、そうした一派を支持層に持つ議員からやっぱり無茶を言われていることも、同じくらいの割合でストレスの原因となっているのだが、それは置いておこう。
ようやく長官の興奮が収まると、補佐官が腕を組んで唸った。
329: リラックス :2019/07/26(金) 19:18:55 HOST:119-228-10-186f1.hyg1.eonet.ne.jp
「恐らくシンプルに、こちらとβ世界では価値観が異なるのでは」
「そんなことは分かっている!β世界では大日本帝国のみならずナチスドイツまで存続し、β世界にとってのアメリカはこちらにとってのナチスだというのだから今更だ!」
「しかし、その点を考慮に入れていないのではないでしょうか?
問題は、仰るように向こうの世界ではドイツが存続しているという事実です。
これを抜きにしてこちらの価値観でばかり考えているようでは、β世界とまともな話し合いは難しいのではないかと」
「補佐官、持って回った言い回しはやめたまえ。つまり、君は何を言いたいのかね?」
「これは失礼、つい前提となる話が長くなってしまう、私の悪い癖ですね。
まあ……結論から言ってしまうと、向こうではこちらの世界で言う冷戦体制が未だに続いているということです。勿論、それに伴う価値観や常識はそのまま」
この言葉に、部屋にいる者たちは困惑したように顔を見合わせるが、長官は少しずつ言葉の意味を飲み込めたように考える表情になる。
「補佐官、つまり…… 我々が今β世界にしようとしていることを我々の世界で例えるとすれば、ソ連が有人宇宙飛行を成功させたことでソ連のロケット技術や宇宙開発分野の技術が予想以上に進んでいることを知った我が国が、ソ連に対して関連技術を入手する為に関係を強化しようと持ちかけているようなものと、そう言いたいのかね?」
「完全なる第三勢力がポッと出たようなものですから完全にそうとは言えませんが、日本やNATO加盟国と我が国で例えるよりは近いでしょうね」
長官の例え話に、ようやく補佐官の話の要点を掴めたらしく、部屋の中にどよめきが広がっていく。
「しかし、β世界の日英にとってドイツが敵なら、こちらの世界を味方につけてドイツに対して優位を確保しようとしても不思議ではないのでは?
こちらの世界でアメリカがかつてドイツを滅ぼしたことも、そもそもナチスがどれだけ嫌っているかもわかるはず」
確かに、少なくともドイツを滅ぼす為なら諸手を挙げて賛成しそうなムーブばかりしている連中は嫌というほど目にしているはずだ。
「仮に先の一件がなかったとして、ゲートが開いたのが80年代だったとします。
それでβ世界がアカを嫌い抜いていたとして、かつβ世界がこちらから見て魅力的な物を大して持っておらず、かつ対ソ戦にどれだけ役に立つか疑問符がつく程度の存在でしかないことが分かっていて、その上でβ世界がソ連を滅ぼせと喚き散らしていたとしたら、我が国は相互確証破壊というリスクを負ってβ世界を味方につけ、ソ連と雌雄を決そうと思いますか?」
しかし、逆に言えばそれだけだ。
味方として扱ったが最後、自分たちを矢面に立たせ、ドイツとの全面戦争に踏み切らせようとすることだけに一生懸命になれば良いと全力ムーブすることをありありと想像出来る連中である。
地政学的な要因や過去からの付き合いといった事情がなければ、はっきり言って味方につける価値を見出す方が難しい。
「それと、そのロジックだとβ世界の日本はこちらの世界の日本を元はアメリカと対立していたという事実から味方に取り込んで我が国に対抗しようという動きを取ってもおかしくないということになりますよ。
言ってしまえば我々はお互いが有り得たかもしれない世界の地球と認識しているからこそ最初から話し合いを行おうという土壌が出来てはいますが、ほとんど宇宙人と遭遇したようなものです。
信頼出来るかわからない、何を考えているかも怪しいが最終戦争を煽って来る宇宙人を味方につけるのと、長年対立しているが付き合いは長くそれなりに考え方も分かっている国と一時休戦して宇宙人対策に力を入れるのと、どちらを選ぶかという話で考えた方が良いと思いますね」
「では、補佐官はどのようにβ世界と関わるべきだと?」
「そうですね。まず、β世界からすればアメリカは招かれざる客だということを理解することが第一歩でしょう。
これは向こうの世界においてアメリカが忌むべき存在であることもありますが、自分こさが覇権国家であると暗黙のうちに主張しているという時点で、歓迎は有り得ません」
補佐官の言葉に、先の同盟国()の暴挙に対して説明を求める向こうの日本に対して『話ならそっちのアメリカとまずやるから、取り敢えずお前は黙って待ってろ』と言った連中のことを長官は思い出す。
330: リラックス :2019/07/26(金) 19:20:09 HOST:119-228-10-186f1.hyg1.eonet.ne.jp
これは、α世界でアメリカが覇権国家であるように、β世界でもアメリカは覇権国家であり、(こちらより独立独歩の色合いが強かろうと)日本(それと、NATO加盟国であるイギリスも)の実質的な盟主国はアメリカであると認識しているが故、そしてわざとか無意識にか、はともかくα世界での日英とアメリカの関係を、β世界の日英との関係に適用しようと考えている……
このように捉えられた場合、そしてその解釈が都合が悪い場合、弁明するのは並大抵のことではない。
そして、向こうの日本とイギリスは正しく、α世界のアメリカの態度はそういうことだと受け取った。
「欧州を中心にβ世界のドイツがナチスの直系だと判明した段階でこちらの欧州が罵詈雑言で相手を滅ぼせるなら滅ぼしているくらいに、官民問わず批難し続けるのみなのに対して、β世界の日英は自身の利益になるからとはいえ既に同盟国の一つが卑劣な奇襲攻撃を行った実績(負債)のある我が国と協力体制を取ってゲートに関する基本条約を締結させることに成功していることから、自らの利益になるとすればこちらと協力することは有り得ます。
しかし、向こうからすると米中露の何れもが健在であることが分かっている……つまり、自分たちが頂点にいないことがわかっている世界で、仮に貿易を行って利益を出したところで、我が国や中露がそれを指を咥えて見ているなどというお花畑なことを考えるでしょうか?」
一概にそれだけではないが、貿易摩擦という言葉があるように、誰かが一方的に得をすれば誰かが損をするものだ。
金に直結しない利益というのもあるし、今回の場合、金で入手出来るなら惜しくない類の物と言うべきなのだが、基本的に一方的に金を巻き上げられて面白い奴はいない。
財界や民衆などは特に。それが外国であるならば尚更。
そして覇権国家というのは、そういう場合に自身に都合の良いようにルールを作り変えることをして、咎めようにも咎められる存在がいない、そういう存在である。
少なくとも、それをしないという信頼も信用も、彼方と此方とで存在しない。
また、ぼろ儲け出来るならともかく、そうでないのに政府から目を付けられてまで商売をしようとするほど、向こうの企業等も愚かではあるまい。
売国奴とてリスクとリターンが見合わなければ国を売り切れない、その判断がつかない程のバカは売国奴にすらなれないし、業界でも生き残れない。
「補佐官、それだと向こうから魔導技術を入手するにはスパイを送り込んで盗み取るのが主な手段になりかねないのでは?」
「向こうから魔導技術を得るのはそれくらい困難だと認識しておいた方が良いでしょう。
我々だって核兵器や弾道弾などの戦略級の兵器関連の技術は勿論、戦術レベルでも地上攻撃能力を必要以上に持たせたくないとか、例え同盟国であっても都合によって販売する兵器や技術に制限を設ける程度のことは当然のように行うのですから」
それともう一つ、と補佐官は続ける。
「こちらの価値観を向こうに理解してもらう為の努力も必要でしょう。
こちらの世界で、イギリス王立海軍の通常動力艦艇保有数やドイツ国防陸軍の主力戦車保有台数が日本自衛隊を下回ることになると冷戦期に言われても多くの人は信じられなかったであろうように、未だに冷戦を続けている向こうの世界にとって冷戦が終結し、反動で行き過ぎた軍縮により国防が不全を起こす程に平和ボケした世界……などというのは文字通り異世界の話でしょうから」
言わなくても理解してもらえる、などと甘えたことを考えていてはこちらの世界の日本を笑えなくなります、と補佐官は言う。
「具体的には?」
「まず、向こうには向こうの秩序があるように、こちらにもこちらの秩序と、その秩序を守る為に破ってはならない常識や規範があり、我が国といえど、あまりそれを蔑ろにする訳にはいかない……ということを理解してもらう必要があります。
より具体的に言うなら、先の一件で未だに彼の国を同盟国としたままなことや、制裁を加える動きも仲介する姿勢も見せないのは、彼の国の行動を支持しているからではなく、通すべき筋を通さなければならないから今のところ動きがないように見えるだけだ、という旨をバックグラウンドを説明して理解を得なければなりません」
331: リラックス :2019/07/26(金) 19:20:41 HOST:119-228-10-186f1.hyg1.eonet.ne.jp
その辺りを怠ると『アメリカは傘下の同盟国に適当な理由で喧嘩を吹っかけさせてこちらの世界の対応能力を測り、然る後に進出を狙っていたが、予想外の結果が出たことに焦り、得られる物を奪い取ってからという方向にシフトした。
彼の国を同盟国にしたまま、仲介する姿勢も見せないのは、このままなぁなぁにしておけば準備が整い次第、一方的な理由で殴りかかっても、自分達の世界の国際社会に対してなし崩しに休戦状態にあっただけ、正式な休戦協定も何もないから協定違反でもない。同盟国に対して攻撃した連中に対して報復する義務を果たしている、とどうにでも言い繕えるから』といった具合に、『あの一件の首謀者はアメリカ』と解釈をされる可能性すらある。
勿論、アメリカからすれば「ちょっと待て」「あの国の斜め上な行動、いや暴走を予想して予防しろとでも?」「僕は悪くない、だって、僕は悪くないんだもの」という話なのだが、都合の悪い評価を受けるのが嫌なら、受けそうになっている時点で「それは違うよ!」と発言し、ソースを示して否定しなければ「違うならなんでその時に言わなかったの?」と事実として定着させられるというのは、こちらですら当たり前に行われている。
第三者が無関心であれば無関心であるほど、一度そうだと認識した『事実』をわざわざ改めるなんて面倒なことはしない。
「パイプを作る為の努力は、今後も続ける必要があるでしょう。
そして、求める物がこちらの方が大きい以上は、あくまでも歩み寄らなければならないのはこちらから、ということも念頭に置いた上で、向こうの理解を得る為の努力を惜しんではいけません。
ゼロから、いや、先の一件を考慮すればマイナスから信頼と信用を構築することから始めなければ、まともな協議も難しいかと」
結局は地道な関係改善の為の努力をするしかない、という結論に、長官は頭を抱える。
何しろ、時間をかけて向こうがこちらに抱くイメージを改善するなら、まずは「ナチスの虐殺を肯定するβ世界に報復を!」「アメリカの正義を示し、β世界に正しい民主主義を!」「魔女狩りという言葉は男女差別だ!使用を禁止しろ!」「難民だからと言って向こうの同胞を差別するのか!消毒反対!ワクチン反対!向こうの閉鎖領域の同胞を救う為に軍を動かせ!」「魔法は国際法違反!それを使える者、使える可能性のある者全てを平和に対する罪に問い、裁判にかけよ!」とか元気に喚いている国内を宥め、世論をβ世界との関係深化に肯定的になるよう誘導することから始めなければならないが、それはもう、どう考えても彼の権限すら超えていた。
「大統領には私から伝えよう…… それから、向こうの世界にこちらから派遣する人員について、一応候補をまとめておいてくれ」
先方の反応次第ではゼロからやり直しとか、無駄になる可能性もあるが、準備しておかない訳にはいかなかった。
「こちらの世界の理解者を増やすのには、日本にも協力させよう。無いとは思うが、血迷って彼の半島の動きを支持するような真似はしないよう釘も刺さないと」
「それと、カリフォルニア共和国など、向こうの旧アメリカ諸国にもパイプや人脈を作りましょう。アプローチも多い方が良い」
332: リラックス :2019/07/26(金) 19:21:22 HOST:119-228-10-186f1.hyg1.eonet.ne.jp
この後、紆余曲折あってβ世界に人を出すことに成功したアメリカだが、カリフォルニアに派遣された人材はβ世界のカリフォルニアで用いられる英語というのが、日本が使う(というか日本勢力圏で主に用いられる)英語がイギリス英語が主流ということもあり、そちらの影響を色濃く受け、更に日本語の発音からも小さくない影響を受けていたことから、スラングなど色々混じって変化した史実米語とは全く別物と化しており……端的に言うと史実米語がそもそもカリフォルニアでは通じないという問題にぶち当たったことを皮切りに、
教会というか宗教観の違い、食育の浸透度や理解度から来る食文化の差異、民主主義の捉え方やアメリカという言葉への反応、自由という考え方に人種差別、男女差、経済、娯楽、音楽、歴史の捉え方、動物愛護など、ありとあらゆる分野においてのカルチャーギャップに悩まされることになる。
それ以外の地域でも日本文化の影響を受けたり、アメリカの消滅や華僑の衰退で色々な変化を感じる度に、自分達の知る世界との差異にSAN値チェックレベルの衝撃を受けることも少なくなかったという。
しかし、そこはα世界側で厳正に審査された人員であり、β世界側で問題を起こさないよう細心の注意を払って行動していた。
実際、問題を起こしたのは彼らではなかったのだから、彼らを選んで派遣した上層部の目は間違ってはいなかった。
問題となったのはβ世界側で、戦後しばらくして発生した旧アメリカ合衆国の復活運動が巻き起こった一連の事件に関する情報がα世界側で広まったことである。
問題の事件は、皮肉なことに旧アメリカ合衆国では差別されていた有色人種の間から始まった。
戦後、日本勢力圏となった西海岸三国やその影響の強いアリゾナなどは例外として、旧合衆国時代以上の差別……というより、人間扱いすらされなくなった彼らは、問題は多くとも懐かしい自由の日々を取り戻すべく、各地で運動を起こした。
幾ら否定されようとも、実態を揶揄されようとも、旧合衆国時代は曲がりなりにも彼らは人間扱いを受けることが出来ていた故に。
そして一部はアメリカ合衆国の精神的な後継者とされるカリフォルニアに期待したが、カリフォルニア政府はこの運動を支持することはなかった。
それも当然の話で、カリフォルニアが西海岸における地域大国としての地位を確立出来ているのは、日本が自身の代理人として認めているからに過ぎない。
勿論、その地位を狙う者もいるし、その地位に相応しくないと判断すれば切り捨てられるというある意味で危うい立場だ。
そして、ある種強かなカリフォルニア政府は、その辺りを勘違いすることはなかった。
結果、彼らは共産主義と同様の害悪な思想に毒された危険な存在と見做されて、各勢力が各々のスポンサーに慮ったこともあり、悲惨な末路を迎えることになる。
「アメリカ合衆国の復活を目指して立ち上がった有色人種を弾圧粛清した」というのは、α世界側の行き過ぎた活動家やリベラリストのみならず、ある程度真っ当な活動家や思想家、愛国心の強い一般市民などからしても、怒りを覚え、それを行った存在に対して嫌悪感を抱いても不思議ではない事実である。
政府は情報統制を図ったが、古来より口コミという情報伝達手段を防げた試しはないし、情報の発信ツールには事欠かない現代である。
結果は様々な国に飛び火し、天まで焦がせと言わんばかりの大炎上である。
これにより風評被害を受けたカリフォルニアなどでらβ世界への強硬姿勢を政府に求める抗議活動が激化。
カリフォルニアはナチだ、カリフォルニアのバックにいる日本もナチだ、日本の同盟国のイギリスもナチだ……と、もう何だかよくわからない勢いの運動は世界各国で広まり、それを宥めたり、場合によっては釈明に走らなければならなくなった立場の者たちの胃と毛根にダメージを与えた。
しかし、それでも早期にこの方針を定めて相互理解に努めたアメリカが他と比べてβ世界との関係構築に少なからず先んじたことは間違いなかった。
333: リラックス :2019/07/26(金) 19:22:16 HOST:119-228-10-186f1.hyg1.eonet.ne.jp
以上、色々と炎上させてみた。
最終更新:2019年07月29日 08:31