316 :名無しさん:2012/01/19(木) 09:56:48
※皇帝が退位して帝国へ行く提案って話を書いた者です
皇帝が大日本帝国へ行っちゃって、原作より状況が大分変わったラインハルトをイメージして書いてたら、こんな話が出来ちゃった
ラインハルト・フォン・ミューゼル大尉はここ最近非常に困っていた。
姉であるグリューネワルト伯爵夫人アンネローゼが帰って来た事は嬉しい。
爵位などは特に彼女に何か問題があった訳でもない為に剥奪されず、領地もそのままという事で金には困らない生活になったが、元よりアンネローゼは贅沢を好む性質ではない。
戻って来たアンネローゼは伯爵夫人とは思えないこじんまりとした屋敷を手に入れ、喜んで掃除や料理を自らの手でこなしている。小さくとも屋敷と呼べる家にしたのも本心ではなかったらしいのだが、伯爵家という事でこれ以下は帝国典礼省が許可を出さなかったらしい。
当然、金は溜まるばかりで、彼女が本当の意味でお金を使ったのはラインハルトとキルヒアイスの士官学校入学の為(特に平民であるキルヒアイスの為に使われたのだが)ぐらいだった。ラインハルト自身は幼年学校卒業後は即戦場に出るつもりだったのだが、取り返すと決意していたアンネローゼが戻って来た事とアンネローゼ自身の反対もあり、士官学校へ進んだのだった。
アンネローゼが戻って来たのもキルヒアイスもそのまま士官学校へ進んだのは、この時代、若く健康な男が軍人にならずにすむ、というのはなかなかに厳しく、それなら兵士から始めるよりは士官学校を卒業して士官となった方がいい、という事。
ラインハルトが進学に同意したのは、当り前だが士官学校にいる間は休みの度に実家に戻って、アンネローゼに会えるが、幼年学校が終わって即戦場に出ては年単位でアンネローゼに会えなくなる可能性があるので、当面は折角帰って来た姉に甘えたいという気持ちがあったのは否定出来ない。
さて、そんなラインハルトとキルヒアイスも無事卒業し、任官した。
ここで金を積めばキルヒアイスはともかく、ラインハルトは伯爵家の人間という事で、佐官ぐらいなら望めただろうが、金で地位を買うという事に我慢ならず、ラインハルトは敢えて少尉に任官した。
そうして、史実と異なり、寵妃の弟という訳でもないラインハルトはそこまで危険な目にも合わず、『気難しいが、有能な部類に属する貴族の若僧』として周囲から認識され、大尉まで順調に昇進を重ねていた。
何しろ、『気難しく、すぐ癇癪を爆発させる無能な貴族の若僧』なんてのが割りと転がってるのが銀河帝国だ。まだ、ラインハルトの気難しさを生暖かい笑みで見ている程度の余裕があったとも言える。
ちなみにキルヒアイスは現在、中尉である。
配置場所は異なるので時折電話で話しをして、愚痴ったりしているぐらいだが、人当たりの良い彼がラインハルトに劣っているのは矢張り平民と伯爵家に連なる人間の差だろう。
さて、そんなラインハルトが困っているのは……オフレッサー装甲擲弾兵副総監の存在であった。
アンネローゼの住む屋敷の近辺は下級貴族の多く住む場所であった。
彼女ならば門閥貴族の屋敷が連なる一角へ屋敷を構える事も出来たが、彼女がそれを嫌った、のだが。そこでアンネローゼは最初こそ敬遠されていたものの、元々善良な彼女である。すぐに友人が作れた。のだが、その際に大きな役割を果たしてくれたのがオフレッサーの奥方であった。
他が気後れする中、夫に似た豪胆さを発揮した彼女はみずから買い物をするアンネローゼに積極的に話しかけ、気付けばアンネローゼを周囲の人間に受け入れさせてくれたのである。
ただラインハルトは結果として、オフレッサー大将に妙に気に入られてしまったのだが……史実では原始人と馬鹿にしていたラインハルトであったが、姉が世話になったとあっては、そして階級ではるかに上なのに気さくに接されては何とも憎めない、けど引っ張りまわされるのは何とかならないものか、という気分になっていた。
同僚や上司もオフレッサーがやって来て「借りるぞ」と言われては、何も言えず、気の毒なものを見る目でラインハルトを見送る日々である。ラインハルトとしては本心では『そんな目で見るぐらいなら助けてくれ!』という感情と、『相手が相手だからまず無理だな』という理性が日々激突し、胃がその内痛くなるんじゃないかという所だ。
317 :名無しさん:2012/01/19(木) 09:57:23
装甲擲弾兵の訓練施設に引っ張り出されて汗をかいた後、ラインハルトは本当はぐったりと倒れこみたかったが、ここでそんな姿を見せてなるものかと気合で耐えていた。まあ、実はそんな姿勢がオフレッサーに気に入られた原因の一つだったのだが。
何となく黙って向かい合わせの状態でスポーツドリンクを口にしていた二人だったが、突然オフレッサーが口を開いた。
「艦隊勤務希望の自分がこうして装甲擲弾兵の真似事をするのに意味があるのか、そう思うか?」
内心ドキリとしたラインハルトだった。
確かに自分は内心そう思っていた部分があったからだ。
「そのような事は……」
「別に隠さんでもいい。艦隊勤務の奴らは多かれ少なかれ、そういう意見を持っている奴らが大部分だ」
否定しかけたラインハルトだったが、それをオフレッサーはばっさりと切り捨てた。
「まあ、俺も別にお前がこっちに来るとは思っておらん。ただ、知っておいて欲しかったからな」
何をだ、と思ったラインハルトがオフレッサーの顔を見詰めるが、オフレッサー自身は淡々とした口調を崩さず話を続けた。
「俺達を馬鹿にしている者もいる。宇宙で戦う時代に武器を直接振るって相手を叩きのめすなど野蛮な、とな。だが、装甲擲弾兵はなくならない。理由は分かるか?」
「必要だからでしょう。如何に宇宙艦隊が決戦を行っても実際に要塞や惑星表面を制圧するにはどうしても必要……」
そう当り前の事を口にしてラインハルトは内心ではた、と気付いていた。
ラインハルトが優秀な頭脳を持っていたからこそ、気付けたとも言える。
「そうだ、必要なのだ。艦隊も必要だが、俺達だって必要。帝国は後方で任務に当たる奴らを馬鹿にしてるが、奴らがメシを弾を運んでこなけりゃ艦隊も俺達も働けん。必要だから軍隊って奴は兵站部を置き、装甲擲弾兵を置いている」
お前はただ艦隊にしか目が行かん馬鹿になるなよ。
そう言われているようで、ラインハルトとしては考えざるをえない。
それ以上は自分で考えろ、そうとでもいうかのように、この後、オフレッサーが同じ事を口にする事はなかったが、この後ラインハルトはこの事を忘れる事はなかった、ようである。少なくとも、オフレッサーを原始人呼ばわりするような事はキルヒアイスにもしなかったのは事実らしい……。
最終更新:2012年01月27日 19:59