602 :名無しさん:2012/01/20(金) 21:48:34
 「では報告を聞こうか」

 トリューニヒトが部屋の人間に声をかけた。
 集まっているのは軍人面ではシドニー・シトレ大将、パエッタ少将、それにヤン中佐といった面々、これに経済官僚や企業の重役などごく一部の、そして口が固い信頼出来る者のみが集められている。
 彼らが集まっているのは大日本帝国の戦力分析。
 軍事面、経済面、政治面。
 あらゆる方向からの分析。
 無論、今回は諜報活動などをやらかすつもりはない。見える範囲、見せてもらえた範囲、話をした範囲で分かる段階での分析であり、どうせこれらは大日本帝国でもやっているだろう。
 如何に友好国でも緊張を忘れれば、餌となるだけ。それが国家間の関係というものだ。ではあるが、国交をこれから開こう、という段階でのむやみやたらな諜報活動は拙すぎる。要は程ほどに、という事だ。

 「まず軍事面ですが……侵攻が行われた場合、一時的に防ぐ事は可能と思われます」

 軍人側からはヤンが立ち上がって報告を始めた。

 「ほう?それは大日本帝国の軍事力は然程でもない、という事かね?」

 別の文官が口を開いた。

 「少し違います。一時的に、です」

 「ふむ、違いを説明してくれるかね?」

 トリューニヒトがヤンの言葉を聞いて、説明を求める。

 「観艦式を見せてもらった限りでは大日本帝国軍……以下、日本軍と呼称しますが、その錬度は高いものがあります」

 だが、実戦経験がない。
 彼らは長年平和を享受してきた為だろう、実戦経験がない為にどこか動きが丁寧にすぎる。

 「……ですから、一時的に侵攻してきた日本軍を食い止めよ、と命じられたなら、それは可能と思われます。ですが、ここで問題となるのが双方の国力です」

 日本軍とて馬鹿ではない。
 すぐ経験を積んで、実戦に対応してくるだろう。
 そして、いざそうなった時、背後にある技術力、生産力、経済力、人口の差が大きな意味合いを持ってくる。同盟と日本軍のキルレシオが1:10ぐらいのパーフェクトゲームを毎回やっていかなければ、すぐに押し潰される。
 そんな事が無理な事ぐらい真っ当な頭を持っていればすぐに分かる。

 「生産力に関しては簡単な報告が上がっておりましたが、それこそ一月で一個艦隊どころではありません。……それに日本軍も馬鹿ではありません。いざ戦争になれば確実に頑強な要塞線の向こうで多数の艦艇を建造してから押し寄せてくるでしょう」

 その時相手の戦力はどのぐらいになるか……。
 通常ならば補給線を断つといった方法が可能だが、機動鎮守府のような移動要塞を伴えば、補給を絶つ事すら困難な可能性が高い。
 もし、50万隻の艦艇を揃えて押し寄せてきたら……。

 「同盟の全戦力を集めても、最後は数に押し潰されるでしょうね」

 それに日本軍の兵器も脅威だ。
 見せてもらえた範囲でも重力場偏向力場や重力砲など同盟の兵器を圧する兵器が見られた。……最初から全ての手札をオープンする馬鹿はいない。間違いなく、更に奥の手があるだろう。
 無限にも思える回復力を持ち、圧倒的多数の数を誇る相手とやりあう等、出来れば考えたくない。それは話し合ったシトレ大将やパエッタ少将も同じだった。

 その後も経済面、技術面でも話し合ったが、ろくなものじゃない。
 長い戦争で疲弊した同盟と数百年の間、かつての銀河連邦を相手取る事を前提として脈々と戦力を蓄えながらも平和を享受し続けた国。全ての面でとても相手にならない事が分かる。
 下手をすれば、いや、下手をしなくても経済面で飲み込まれる可能性も高い。
 次第に場は暗い雰囲気になっていった。
 幸いなのは、日本に同盟を併合する気がまるでない事ぐらいだろうか。

 「……諸君」

 誰もが考え込む中、トリューニヒトが口を開いた。

 「現状を聞く限り、我々には選択肢はないように思えるのだがね」

 「と言われますと?」

 発言の意図を読めず、シトレ大将が確認するように尋ねた。

 「同盟の独立を保ったまま、日本に飲み込まれないようにする。それを可能にするには一つ大きな問題がある。帝国との戦争だ。帝国と戦争を続けながら同盟の国力を回復する、それは可能だと思うかね?」

 そう言いつつ、軍人や企業家、官僚に順に視線を向ける。
 ある者は瞑目し、ある者は溜息をついて首を横に振り、ある者は「無理ですね」とあっさり述べた。

 「そう、無理だ。ならば話は簡単だろう」

 帝国と和平を結ぶか、或いは……。

 「……あの機動鎮守府とは言わない。イゼルローン回廊とフェザーン回廊を封鎖する何らかの手段を取るか、だ」

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最終更新:2012年01月27日 19:59