663: yukikaze :2019/09/22(日) 16:19:58 HOST:64.82.0.110.ap.seikyou.ne.jp
たまにはこんな話でも。

白根型重巡洋艦に関する考察

白根型重巡洋艦とは、日本海軍が1970年代に建造した重巡洋艦である。
艦の全てのリソースを巡航ミサイルによる攻撃にのみ注ぎ込んだことから『重打撃巡洋艦』とも呼ばれ、色々な意味で波紋を広げる艦となる。

そもそもこの艦が生まれた原因は、日本海軍の置かれた戦略状況の賜物であった。
第二次大戦の終結後、日本の仮想敵国はソ連であったが、ロシア共和国の成立によって、彼らの艦隊が太平洋に出向くことはまずありえなかった。
無論、原子力潜水艦を北極海経由で打通するなどという可能性はあったものの、まず彼らにとって重要なのは、バルト海と北海の制海権であり、太平洋で遊んでいる余裕などどこにもなかった。

つまり、日本海軍において、かつて海軍軍人の誰もが憧れた艦隊決戦が起きることはそれこそアメリカ海軍か、それよりはるかに格下のイギリス海軍辺りが、血迷って日本海軍と戦うことを決しない限りありえない状況であったのである。

当然のことながら、この事実は、日本海軍に対する風当たりを強くしていた。
流石に戦略原子力潜水艦については、空軍の戦略爆撃機閥と大陸間弾道弾閥以外からはどこからも文句はなかった。
深海奥深くに潜んでいる潜水艦の存在は『抑止』という観点で最適であるからだ。

また揚陸艦部隊についても、日本が島国であり、更に台湾や樺太、瑞穂半島などを有している事を踏まえれば、最低限でも現有戦力の維持を望んではいた。
まあ空軍からは『時代遅れの戦艦なんざ退役させた方がいいのでは』と、言う声もあったが、それについては、陸軍でも精鋭中の精鋭というべき第一空挺旅団のお兄様たちが、凄くいい笑顔で、そのような妄言を吐いた者達を部屋の外に出して『説得』したという噂が流れたことで即座に沈静化した。

だが、それ以外の艦艇については、現有戦力よりも減らしたらどうかという意見が、度々出されることになる。
特に航空母艦については、多額の維持費用を必要とすることから、空軍からは、空母をなくしてその分、空軍に航空隊を増やすべきという意見を持つ者が多く、空軍の構成員の半分が、旧海軍基地航空艦隊から出されたという経緯もあって、将官による掴み合いの喧嘩が起きることなど日常茶飯事であった。(海軍からすれば、旧海軍基地航空隊の面々は本家に仇なす裏切り者であり、旧海軍基地航空隊の面々からすれば、海軍に残った航空部隊の面々は、事あるごとに本家面する極潰しでしかなかった。)

こうした声については、空母が『移動できる航空基地』であり、自由にどの場所からでも攻撃できるという利点や、その攻撃力に基づく圧倒的なプレゼンス効果、更にはイギリスのヘマによるインドの共産主義陣営への加入という状況により沈静化するのだが(なお日本海軍は、恐らく最初で最後になるであろうイギリスのヘマへの感謝をしたという)、一方で、日本海軍としては彼らの存在意義を示すために、これまで以上に対地攻撃に対する能力を磨かざるを得ない羽目になっている。
少なくとも『空軍よりも手厚く迅速に的確に』陸軍への支援を行えるということは、陸軍や国民から『海軍はやはり必要だ』という援護射撃を得られることになるからだ。
そして海軍にはこの種の攻撃に対して隠し玉を有していた。

664: yukikaze :2019/09/22(日) 16:20:37 HOST:64.82.0.110.ap.seikyou.ne.jp
『艦対地巡航ミサイル』

その起源は、1940年代の伏見宮海軍元帥のグループによる研究であった。
伏見宮曰く『海洋国家の軍隊が大陸国家と相対する場合、大陸奥地まで軍隊を侵攻させることはかなりの負担を有することであり、固定目標に対する遠距離からの投射手段を研究しておく必要がある』というものであり、当時は『宮様の思い付き』と陰で笑っていた者が多かったのだが、その笑っていた面々は、宮の墓に全力で土下座して感謝の気持ちを捧げたい気分であった。
宮の研究の目標とされた地形等高線照合方式による巡航ミサイルの投射は、当時の技術力では夢物語でしかなかったが、1960年代(史実1970年代の技術力を有している)においては、実現可能な技術として昇華していた。

勿論、速度はせいぜい亜音速であり回避機動をとるわけでもないので発見されてしまえば迎撃は比較的容易であるし、何より移動目標に対する攻撃は、技術的に不可能である。
ただし、夜間に固定目標に対して攻撃する分には絶大な威力を発揮することが予想されており例えば開戦劈頭第一撃目に、司令部やレーダー施設を巡航ミサイルで吹き飛ばせれば、その後がどれだけ楽になるかは言うまでもない事であった。
(実際、図上演習において、『瑞鶴』空母機動艦隊による艦対地巡航ミサイルの攻撃によって不意を打たれた敵軍は大混乱に陥り、味方側が優位に戦局を進めることになった。)
何より航空機と違い無人である為に、味方のパイロットの損害を考える必要もない。

まさに海軍にとっては、自らの存在をアピールできる最良の槍と言っていい存在として扱われることになるのだが、ある一人の海軍軍人の提唱した理論が、事態をややこしくすることになる。

高円権兵衛海軍中将――日本海軍においてはエリート中のエリートと言われていた彼は、
同時に、今後の戦争においては、兵一人一人の命の価値が高まり、これまで許容されていた人命への損害の範囲が、比べ物にならないレベルで縮小されると考えていた。
冷戦終了後の各地の紛争に対する先進国の状況を見れば、まさに慧眼と言っていいのだが、高円はその状況に対する回答として『無人兵器の開発と運用について海軍は真剣に考慮する時期に来た』と大々的に提唱したことが問題視されることになる。

高円理論の賛同者も反対者も、双方ともに同意することであるのだが、高円という男は、目標に対する熱意も努力も惜しまない人物であると同時に、目標に賛同しない人間に対しての地道な説得や妥協といういうものを軽視する人物でもあった。
仮にこの計画について、『遠距離に対する偵察任務の一手段』であるとか『敵攻撃目標に対する誘導弾の延伸』というのを全面的に出せば、ほとんど批判も出なかったであろう。

だが、彼の最終目標の一つに、『高度にネットワーク化された無人機群』というものがあったことで日本海軍航空隊からは猛反発が起きることになる。
海軍航空隊のパイロットにしてみれば『俺達が肩切って威張れるのは、一朝有事の際に、一番槍として一番危険な場所に突っ込むだけの腕を有しているからだ。高円の野郎は俺達をなんだと思っているのだ』と、高円理論は、海軍航空隊の誇りを汚すだけのものであり、彼らは海軍航空部隊の総元締めと言っていい寺津中将を立てて、高円への批判を繰り返すことになる。

この時、彼らの旗頭になった寺津中将であるが、寺津は寺津で、高円理論の危うさに警鐘を鳴らしていた。
無論、彼とて高円理論を完全否定するつもりはなかった。
しかしながら高円理論の行き着く先は、政治家や国民による安易な武力行使への選択に繋がり、それは場合によっては第一次大戦のような惨劇を招きかねないという寺津の主張は、技術論とは違い、答えのでない命題であったことから、高円との議論は平行線をたどり、両者の関係は修復不能レベルに断絶することになる。

665: yukikaze :2019/09/22(日) 16:21:15 HOST:64.82.0.110.ap.seikyou.ne.jp
こうした状況下において、高円は、史上最年少で海軍幕僚長に就任するのだが(寺津派からは『機動艦隊の指揮もしていない男が幕僚長とは』と、大いに嘆かれ、第一航空機動艦隊司令長官の寺津中将が伽耶鎮守府長官に左遷されたことでその怒りは頂点に達した。)、その彼が自らの理論の第一段階として建造を決定した艦こそが、白根型重巡洋艦である。

この白根型重巡洋艦は、一言で言えば『対地攻撃特化型』の艦である。
何しろ艦砲も積んでいなければ、対空ミサイルや艦対艦ミサイルも積んでいない。
あるのは艦対地巡航ミサイルと、艦対地巡航ミサイルの目標選定をする為の『洋上計画システム』及びミサイルの武器管制システムでしかない。
船体についても、艦隊給油艦の船体を利用し、速度も20ノット程度と、古株の水上艦艇乗りが『これのどこが巡洋艦だ』と、怒鳴りつけるのも無理はなかった。(なお高円は「いかんか?」と、意にも解さなかった。)

しかし、対地攻撃に特化しただけあって、その搭載数は、12,000tという排水量の割に圧倒的であった。
戦略原子力潜水艦の垂直発射装置を改修した、同型の発射装置には、1基当たり巡航ミサイルが7発搭載されており、それが24基168発搭載されることになる。
これは『金剛級』イージス巡洋艦のミサイル搭載機数128発を凌駕するものであり、海軍史上でも最大の搭載量を発揮することになる。
また、対地攻撃以外の能力をオミットしただけあって、建造費用はかなり安価であり、そのことも同艦の建造にゴーサインが出る理由となっている。

白根型の運用としては、前線から離れた後方において、敵に対して対地攻撃を行うという、極めてシンプルなものである。
敵爆撃機と潜水艦への用心の為に、防空駆逐艦と対潜駆逐艦の手配は必要だが、巡航ミサイルの射程と威力が上がれば、より敵地から離れた場所で攻撃できることから、相対的に危険度も減少されるとしていた。

このようにいいことづくめのように思われる同型だが、勿論問題点はあった。

その最大の問題点は『機能特化型であるが故に潰しが効かない』点である。
あくまで対地攻撃能力を重視したお蔭で、対空及び対潜の個艦防御能力すらなく(流石にこれはということで、CIWSとデコイ発射装置は後日装備された)レーダーも航海用と対水上捜索用だけという状況。
巡航ミサイルを降ろして艦対空ミサイルを積もうにも、対空レーダーもなければ、対空ミサイル用の射撃指揮装置もなく、後付けするにも大規模改修が必要というおまけつき。
しかしそれだけしても、速度は20ノット強と、船団護衛用としても遅く、とてもではないが、他の用途では使えないようにされていた。(だからこそコストが安いと言えるのだが)

また、巡航ミサイルの構造上の限界もあった。
巡航ミサイルは、構造上、エンジンや燃料を積む分、どうしても同じ全備重量の自由落下爆弾より威力が数段低くなってしまう。無論、貫通威力を高めたものもはあるが、それは防護力が低い施設が対象で、強固な防護施設に対しては、複数直撃させても、一時的な混乱しか起きない可能性が高かった。
更に言えば、長距離で放っても、巡航速度が遅い為に、目標地点に到達するまでの間に時間がかかるという難点は容易に解決できるものではなかった。

結局のところ、巡航ミサイルについては、「開戦初頭に味方戦闘機の侵攻を手助けする第一撃用」として使うか早期警戒機を多数保有していないような、ゲリラに毛の生えたような軍閥が相手の非対象戦における介入手段として使うのが適当であるというのが、白根型の運用によって明らかにされることになる。
無論、戦術核弾頭を使えば、威力等については問題はなくなるものの、巡航速度の問題は解決できないことや何より、核運用については、それこそ政治的な問題が絡むことから、軽々しく利用することなど言えるはずもなかった。

666: yukikaze :2019/09/22(日) 16:22:40 HOST:64.82.0.110.ap.seikyou.ne.jp
こうしたことから、高円に対する風当たりは強くなり、おりしも彼の派閥において、巡航ミサイルの調達問題で賄賂事件や防衛士官学校におけるいじめ問題が発生した(ただしこれは寺津一派の意図的なリークとされている。)ことによって、査問会議にかけられることになり、引責辞任を余儀なくされることになる。
高円にとって唯一の救いは、彼の理論は大幅に修正されたとはいえ、UAVの開発については研究の継続が許可されており、1980年代以降、日米共同開発という枠組みで、UAV開発は進められることになる。
(なお、寺津は、海軍幕僚長になること確定と言われていたが、当人は防衛大学校校長就任を強く望み、積年の課題であった、空軍と海軍の融和問題に尽力することになる。)

かくして、1970年代に3隻建造された白根型であったが、船体の維持費用が安価であったことや、大陸でのゴタゴタが日常茶飯事であったこともあって、冷戦終了後は、『大陸への懲罰用軍艦』という役割を担わされることになる。(空母機動艦隊が、インド洋方面へのシフトをせざるを得ない関係上、大陸方面に空母戦力を中々展開出来ないという事情があった。)
そのため大陸では『悪魔艦』と忌み嫌われることになるのだが、皮肉なことに、1番艦の『白根』を除けば、2番艦は『新高』、3番艦は『長白』と名付けられており、大陸の人間にとっては、二重三重に屈辱を味あわせることになる。(2番艦は台湾、3番艦は瑞穂半島にある山である。)

同型については、2010年現在、艦齢が40年に近づこうとしているが、後継艦については定まっていない。
アメリカ海軍は、戦略原子力潜水艦を巡航ミサイル発射艦に改装したことから、旧式化しつつある長門型を改装することが取りざたされているが、維持費用等も考えると、白根型と同じコンセプトで対応するべきであるという意見もある。
また、巡航ミサイルの今後の取り扱いについても、議論が出ており、場合によっては日米による共同開発艦という声も出る等、予断は許さない。

もっとも、こうした声が出ているということを考えても、白根型は間違いなく海軍の歴史の1ページに名を刻んだ艦と言えるであろう。

672: yukikaze :2019/09/22(日) 16:39:29 HOST:64.82.0.110.ap.seikyou.ne.jp
投下終了。
当時の日本海軍がおかれた状況においてのみ作られたであろうバカヤロ艦。

まあはっきり言って、史実通りだと絶対に作られない艦。
何しろ対地攻撃に全振りなもんだから、それ以外には使えない。
2万トンクラスの船体に垂直発射器200門以上積めば汎用性あるだろうけど、維持費用考えるとやりたくない。

え? どこぞの半島海軍に基準排水量7,600tで無茶した艦があるって?
対潜能力発揮できればいいよね。あの艦。

じゃあ何でこいつが出来たのか?
だってこいつの相手って、ソ連が攻めてきた時にロシア共和国内で使われる鉄橋やらなにやらの爆破とか、中国大陸の軍閥の本拠地への攻撃とかですし。
要するに「必要だけれども、海軍航空隊や空軍が被害を許容するかは微妙」な箇所をメインにしている状況。ついでに言えば海軍が手軽に手柄を立てられるものでもある。

ある意味「豊臣夢幻会の国際情勢だからこそ出来た艦」である訳でして。

なお、高円中将、本来なら戦術核弾頭を先制攻撃で使用するという発言のリークにより退役としようと思ったのですが、それだとこいつどころか巡航ミサイルの存続が危なくなるので別の理由にしました。

ちなみに、寺津陣営には賀東少佐だとか志摩中佐だとかいたり、高円陣営には新名だとか浦木だとかいたりするのですが、蛇足過ぎたんで割愛しました。

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最終更新:2019年09月27日 12:38