692: 昭和玩具の人 :2019/10/25(金) 19:57:00 HOST:p1304131-ipngn11701hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
私の名前は三浦勇雄。海上自衛隊に所属する一等海佐である。

 同期の中では比較的昇進が早く、現在は海上自衛隊の新鋭艦「ふじ」(まだ公試中ではあるが)の艦長を務めている。この艦は、巷では“戦艦”と呼ばれているものの、正式には汎用護衛艦(海外では駆逐艦)に属する“打撃護衛艦”であり、艦長として勤めている身としては是非間違えないでいただきたいものである。―――うん、まあ確かに色々無理を言っているのはわかっている。これも我が国の特殊な事情が関係しているのだ。そういうものだと理解して欲しい。

 ―――さて、前置きが長くなってしまったが、この「ふじ」はこれまでの護衛艦とは大きく異なる要求を元に建造されている。

近年起きたヤルバーンの飛来から始まったティ連との交流、神崎島の出現と艦娘の登場、それらに関連する形で関係が悪化し始めたドイツが建造を始めたA・D・M級戦艦(個人的に、戦艦と呼ぶことに抵抗があるが・・・)から始まった大口径砲の搭載、重装甲化の波に乗る形で建造された「ふじ」は、三万トン級の船体に十四インチ連装砲を三基搭載し、主力戦車で採用されている複合装甲をふんだんに張り巡らせたことにより、局所的には十六インチクラスの砲弾に耐えうる装甲を獲得した。

それに加えて、前述の通り“汎用護衛艦”としての能力も確保しており、ヘリ格納庫を備えていないことを除けば、速力も含め、概ね「あきづき」型護衛艦に匹敵する能力を有している(対地、対艦能力に至っては言わずもがな)。

 このような素晴らしい艦の初代艦長の任に就くことが出来たのは非常に光栄なことなのだが・・・公試が始まって以来、他の艦とは違った大きな悩みを抱えている。それは―――

「艦長」

「ああ、なにかな? “ふじ”」

 ―――この艦に、自衛隊初の艦娘“ふじ”が誕生したことである。

693: 昭和玩具の人 :2019/10/25(金) 19:57:59 HOST:p1304131-ipngn11701hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
銀河連合日本×神崎島ネタ ふじ艦長の憂鬱



 目の前にいるのは、長い黒髪を後ろで束ねた可愛らしい少女。

艦娘“ふじ”―――高校生といっても十分通用する容姿を持つ彼女は給養員と共に食事を作っていたらしく、海自指定の作業服の上にエプロンをしており、不思議そうな表情で見つめていた。

 私の前には「ふじ」で過ごす初めての金曜日ということで、今日の夕食である“ふじ”特製ビーフカレーが盛り付けられた皿がある。恐らく彼女は物思いにふけっていた私を見て勘違いをしたのだろう。

「―――ああ、すまない。少々考え事をしていたのでね。すごく美味しいよ」

「本当ですか! これでカレーグランプリも優勝できますか?!」

「あ、ああ・・・ 甘口だし、牛肉も大きくカットされているから、子供にも好評だろう」

 良かったぁ。これでグランプリはいただきですねっ! と小さくガッツポーズする“ふじ”。いや、確かに航海中美味しい物が食べられることは非常にうれしいが、何がそこまでカレーにこだわるのか、と内心思う。

周りを見渡せば他の幹部達、特に独身の若い男性幹部は非常に有り難がるようにカレーを食べている(中には涙を流している者も)。いや、美味しいのはわかるから。頼むから「可愛い女の子の手作りだ」とか「“ふじ”さんまじ天使」とか呟くな。その声聞こえているから。

 ―――なんでこんなことになったのだろうか、やはり神崎島が関係しているのだろうか?

 この艦は戦後初の大口径砲搭載艦(戦艦ではないため、こういう言い回しになる)ということもあり、国内で建造されたものの、その実は神崎島の支援も受けて建造されており、従来の護衛艦の倍以上大きいにも関わらず、公試開始まで僅か一年という超短期間で造られている。なんでも艦娘達が登場する艦これというゲームをしている息子曰く、ゲームにはバーナーと呼ばれるアイテムがあり、それを使うことで艦娘をあっという間に建造することが出来るらしいが、それを使ったのではないかと言っていた。なるほど、それなら一年なぞむしろ長い方か。

 ともあれ、そういった経緯もあり、この「ふじ」は神崎島と関わりが深い艦なのだが―――そのせいなのか数日前、目の前の彼女こと“ふじ”が誕生した。正確には誕生したことを発見した、だが。



 ―――それは数日前の事。艦橋にいた私の所にとある女性幹部がやってきた。なんでも隊員名簿で見たことない隊員が乗り込んでいたというのだ。

 流石にそれはないだろうという周りの空気を感じていたが、私はふと思い出した。この艦の建造計画が発表されてかあまり友好的ではない国はおろか、国内の色々な団体からも反対や非難の声があがっており、そのためこの艦が建造するにあたって厳重な警備体制が敷かれ、乗組員も入念な調査の元選抜されていたことを。

しかし、それでもその網を潜り抜けて工作員が潜入した可能性も考えられる。

 もし破壊工作をされてこの艦を喪失し、優秀な隊員達を失えば海自にとっては大ダメージだ。杞憂であればいい。もし彼女が勘違いしていたとしても、後で訓練と言い張れば問題はない。最悪私が泥を被ればいいだけだ。

「武器庫の開錠を許可する。すぐさま警備隊を編成し各所、特に弾薬庫周辺を封鎖。艦内警戒態勢に移行せよ!」

「「はっ!」」

「あ、あの~・・・」

 命令を下し、艦内が騒がしくなり始めたその時、申し訳なさそうな表情を浮かべ、我々幹部自衛官と同じ作業服を着た、どう見ても高校生くらいにしか見えない可愛らしい少女が艦橋に現れた。

「艦長! この子です! 私が見たのは!」

 報告に来た女性自衛官は彼女を指差して叫ぶ。他の幹部からは「女の子だ・・・」、「可愛い・・・」等の呟きが聞こえてきた。確かに目の前の少女は一見無害そうに見える。

「・・・君は一体、どうやって乗り込んだのかな?」

「すみません。てっきり皆さん私のことを認識しているものだと思っていたので」

「すまない、話が良くわからないのだが・・・」

「ええと、とりあえず改めまして。初めまして艦長さん、私の名前は“ふじ”です! これから一緒に日本の海を守っていきましょう!」

 姿勢を正し、ベテラン自衛官顔負けの見事な敬礼をした“ふじ“。これが私と艦娘”ふじ“の、初めての出会いだった。

694: 昭和玩具の人 :2019/10/25(金) 19:58:34 HOST:p1304131-ipngn11701hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
「―――何か疲れているようですね、艦長」

「ん? ああ、“ふじ”か。いや、明日からのことを考えたら少しね」

 夜、後部ヘリ甲板に立ち、真っ暗な海を眺めていると、不意に後ろから声を掛けられた。

“ふじ”である。

 本当はつい数日前から今日までの出来事を思い出していたのだが、軽い嘘をついた。実際、明日からのことを考えると、憂鬱になるのは本当だ。

「明日、ですか。まずは横浜に寄港ですね」

「ああ、その前に君は私と市ヶ谷にヘリで向かうらしいが・・・」

 ―――正直に言うと、不安しかない。

 艦娘である彼女を、この国はどのように扱うのか。また国民感情は? 各国からの干渉にどう対応すればいい?

 私の不安は、考えるたびに高まっていく。

 世界初の、神崎島所属でない艦娘の誕生―――

 “ふじ”の存在を確認し、防衛省に報告するや否や上も下も大騒ぎになり、どこから情報が漏れたのか、マスコミに報道されることで今やその混乱は世界中に広がっている。

アメリカのエイブラハム・リンカーン級戦艦やイギリスのロイヤル・ブリソン級戦艦にも艦娘が誕生しているが、あれは人工知能と神崎島の霊的な云々が合わさって誕生したものらしく、正式には艦娘ではなく、艤装も展開することが出来ないとのこと。そのためか市ヶ谷の知り合い曰く、一般人より各国の軍事関係者の方が、衝撃は大きいらしい。

(まあ、無理もないよなぁ)

 艤装を展開している姿を見せてもらったが、確かにあれは凄かった。

 背中の艦橋構造物らしきものからアームが伸び、その先にはVLSの箱や三基の連装砲塔が据え付けられ、両腕には計四つの小さな単装砲が並んでいた。流石に発砲はしなかったが、彼女曰く威力も「ふじ」と変わらないという。

(もしそれが本当なら、戦略が大きく変わるぞ・・・)

 基本的に海の事しか知らない私でも、彼女を適当な輸送機に乗せれば僅か半日で世界中の海に「ふじ」と同等の海上戦力を展開することが出来るくらいは想像した。実際神崎島では似たような運用をしているらしく、各国の海軍関係者は頭を抱えているとのこと。

 だからこそ、この国は彼女をどう扱うのか、不安しか浮かばないのだ。

 一人の少女として扱うならまだいい。だが彼女は艦娘なのだ。正直モルモットにされないという確信は持てない。

(“ふじ”・・・ 君はもしかしたら―――)

 「―――大丈夫ですよ」

 隣に並んだ“ふじ”が私の心を読んだのか、微笑みながら告げる。

「私は護衛艦“ふじ”。それ以上でもそれ以下でもありません。この艦と共に日本の海を守るのが使命です。艦長と一緒に」

「しかし―――」

「艦長は悲観的に考えすぎですよ。大丈夫です、この国は艦娘と共に生きていける国だから、私が生まれたんですよ」

 ―――ああ、そうか。

 彼女はこの国で生きていけると判断したからこそ、誕生したのだ。彼女がこの国を選んだのだ。

 ならば、護衛艦「ふじ」の艦長である私が出来ることは一つ。

「―――そうだな。これから一緒に頑張ろう。“ふじ”」

「よろしくお願いします。艦長」

 ―――守りたい笑顔が、そこにあった。

695: 昭和玩具の人 :2019/10/25(金) 20:01:34 HOST:p1304131-ipngn11701hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上、艦娘ふじとその関係者についてのお話でした。
今回は一人称視点の練習を兼ねて執筆してみたので、色々至らない点が多いかもしれません。
一応続編も執筆中ですが、続けられるかは気力次第ということで・・・

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最終更新:2019年10月27日 13:41