736: 昭和玩具の人 :2019/10/27(日) 14:31:25 HOST:p1304131-ipngn11701hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
 艦娘“ふじ”の誕生―――その発表は世界中を巻き込んでの大騒動となった。

 なにせそれまで神崎島にしか所属していなかった存在が現れたのだ。「ふじ」の建造時に神崎島が大きく関わっていたとはいえ、所属する組織が異なる艦娘(ついでに神崎提督の妻でない艦娘)の出現は、各国政府はもとより、神崎提督や艦娘達、さらにはティ連までもが大きく注目することになる。

 そんな世界どころか別銀河でも注目の的となった当の本人は現在、私の目の前に移るモニターの中で、十数隻の深海棲艦達との実弾演習を繰り広げていた。

737: 昭和玩具の人 :2019/10/27(日) 14:32:21 HOST:p1304131-ipngn11701hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
銀河連合日本×神崎島ネタ ふじ艦長の憂鬱 その2



「これは凄いな・・・」

 就役前の護衛艦「ふじ」のCICで演習の様子を眺める一同。上空を飛ぶ偵察機(妖精さん達が操る小型飛行機)や、何をトチ狂ったのかギリギリまで“ふじ”に近づくものいて映像を届けるものまでいる(巻き込まれて撃墜されたのか、たまに映像が途切れるのはご愛敬だ)。

 そのおかげで、大迫力の光景をここまで届けてくれている。食堂に設置されているテレビにもこの映像が届けられているので、恐らく手すきの乗員達も食い入るように見ているのではないだろうか。

「ああ、これが艦娘達の戦い・・・」

 画面に映る“ふじ”の戦い。それは数的劣勢にも拘らず、全ての装備を駆使して徐々に優勢に持ち込んでいることから、その凄さが分かるだろう。

 確かに演習相手を務める深海棲艦達は第二次世界大戦当時の装備で固めており、技術格差は“ふじ”が圧倒的に優位にある。だがそれを補うほどの物量で攻められれば、質を追求し続けた現代兵器では早々に息切れしてしまい、最終的には敗れ去る。以前自衛艦隊との演習では、序盤こそ自衛艦隊が圧倒していたものの、深海棲艦達が巡洋艦や戦艦を前面に押し出すと対艦ミサイルでは装甲を貫けず、最終的には弾薬が欠乏して一方的に蹂躙された。余談ではあるが、以来技本では対装甲用対艦ミサイルの開発に躍起になっているという。

 だが、“ふじ”の戦いは異なる。

 ―――“ふじ”、ひいては「ふじ」には前時代的ともいえる砲を多く備えている。近接防御火器である二〇ミリCIWS四基、対空対地対水上目標に対応できる傑作艦砲、オットーメララ七六ミリ速射砲四基、そして世間が本艦を“戦艦”と(間違って)呼称する原因ともいえる大口径砲、五〇口径三五六ミリ連装砲三基―――

 彼女は現代に生まれた“護衛艦”にも拘らず、全時代の主兵装たる砲熕兵器を主に戦っていたのだ。

 接近する球体型の艦載機に対し、両手とサブアームの七六ミリ速射砲で効率よく迎撃し、それでもなお近づいてくる敵には二〇ミリCIWSでハチの巣にする。VLSのESSM近距離空対空ミサイルなど、演習が始まってからまだ数発しか放っていない。

 艦載機からの波状攻撃中にも無数の一六インチ砲弾や八インチ砲弾が頭上から降り注ぐが、これを持ち前の機動力で回避、あるいは艦載機と同じく迎撃し、敵の攻撃が緩んだわずかな隙をついて、三基の三五六ミリ連装砲が火を噴く。六秒に一発というとんでもない連射力で放たれるその砲弾はほぼ全て相手に命中し、対一六インチ用以上の装甲を持つ戦艦クラスにすら効率的にダメージを与えて、それ以上に装甲が薄い重巡洋艦クラスに至っては、一斉射で大破させている。

 無論ミサイルだって全く使っていないわけではない。演習開始早々、九〇式艦対艦誘導弾を全弾発射して軽巡洋艦、駆逐艦を多数片付け、それでもなお残っていた相手は三五六ミリ砲弾をお見舞いして戦線離脱させているし、海域に潜んでいた潜水艦には発見次第〇七式VLAで撃破、例え魚雷攻撃を受けても回避するか短魚雷で迎撃していた。

 とはいえ、今までの演習内容を見るに、“ふじ”は間違いなく砲熕兵器を主として戦っている。ミサイル全盛期ともいえる現代において異端ともいえる戦い方だ。

738: 昭和玩具の人 :2019/10/27(日) 14:33:07 HOST:p1304131-ipngn11701hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
「―――だが、理に適っている」

 ミサイルは迎撃されなければほぼ一〇〇パーセント目標に命中する射手座(サジタリウス)だが、その分コストは高い。しかし砲熕兵器は砲弾自体に誘導装置を備えていないため、安価かつ多数揃えられる。つまり物量攻撃にも対応できるだけの弾薬が揃えられるのだ。ましてや現代の砲熕兵器でも十分ミサイルを迎撃できる能力はある。限定的ではあるものの、この場においては完全に立場が逆転していた。

「・・・なんというか、想像はしていましたが、実際に出来るものなんですね」

「そうだな。あれこそが我々が目指す領域なのだろう」

 副長の呟きに、私はそう答える。最も、そんな能力を発揮する機会など来てほしくはないが。やはり平和が一番である。

『―――赤軍旗艦大破。演習終了、“ふじ”の勝利』

「終わったか」

「ええ、凄いですね。“ふじ”さんはまだ誕生したばかりなのに」

「まあ相当な技術格差があったからな。それに物量攻撃にも対応できるなら負ける要素などないだろう」

 演習が終了し、画面では大破した深海棲艦達と談笑をしている“ふじ”。至近弾こそあったものの、被害らしい被害はなかったようで、あちこち煤だらけ絆創膏だらけ(それも白い十字型の。実際に現実で見れるとは思わなかった)な彼女達とは対照的だ。

「いやはや、まだ「ふじ」は就役前だというのに、あんなの見せつけられては自分も奮起せざるを得ないじゃあないですか」

「勇み足すぎるぞ、副長。まだ本艦は全ての試験を完了していないのに」

「それはそうなんですがねぇ」

 私も副長も、思わず苦笑する。平和が一番だが、あんなものを見せられては艦乗りの血が騒いでしまう。恐らく他の乗員達も同じ気持ちだろう。艦を預かる身としては喜ばしいことだ。

『艦長さん』

 “ふじ”から通信が入る。

「“ふじ”か、お疲れ様。怪我はないか?」

『大丈夫です、被弾はありませんし。まあ弾薬はだいぶ使っちゃいましたけど』

「そのくらい問題ない。無事で何よりだ」

『ありがとうございます。―――あ、そういえば今日って金曜日でしたね!』

「それはそうだが―――まさか」

 予感は的中する。

『はい! 今日演習相手を務めてくださった深海棲艦の皆さんにもふじカレーをご馳走したいんですけど、よろしいでしょうか?』

 “ふじ”からの唐突な提案。現在給養員達が必死に夕食を作っているだろうが、それはあくまで人数分。多少多めに作っているだろうが、全員となると恐らく新たに作らなければならないだろう。流石にそれは大変だが―――

「―――許可する」

「よろしいんですか?」

 隣で聞いていた副長が訪ねてくるが、意見を変える気はない。

「問題ないだろう。我々の分を少し減らせば問題ない。食べ盛りの隊員達も喜んで提供してくれるだろう」

「まあ“ふじ”さんの頼みであれば、誰も断りませんか」

  誕生してまだ半年も経っていないが、既に全乗員達から慕われている“ふじ”。上目遣いで“お願い”されたら、若い男性自衛官等喜んで全ての夕食を差し出すくらいはするんじゃないだろうか。

『ありがとうございます、艦長さん。では皆さんにお伝えしておきますね』

 声を弾ませて通信を切った“ふじ”。有事となれば無機質な戦闘モードに移行するCICが、朗らかな空気に支配された。

「―――“ふじ”さんは、我が艦の清涼剤ですね」

「まったくだ」



 ―――余談だが、今夜の「ふじ」では一時的に、カップラーメンの価値が激増したらしい(“ふじ”が申し訳なさそうに教えてくれた)。

739: 昭和玩具の人 :2019/10/27(日) 14:34:09 HOST:p1304131-ipngn11701hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上、第二話でした。
ネタは色々出てきますが、それを文章化してまとめるのはやはり難しいなぁ

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最終更新:2019年11月04日 08:57