763: 昭和玩具の人 :2019/10/29(火) 22:19:49 HOST:p1304131-ipngn11701hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
 艦娘“ふじ”の誕生により、それまで以上に世界中から注目される、打撃護衛艦「ふじ」。

 いまだ公試中の身であり、旭日旗ではなく君島重工の旗を掲げる本艦は、現在神崎島に表敬訪問していた。



銀河連合日本×神崎島ネタ ふじ艦長の憂鬱 その3



「いやあ、前代未聞ですね。艦長」

「そうだな。まさか就役前に他国へ表敬訪問するなんて」

 神崎島最大の軍港が一望できる艦橋右舷側のデッキで、潮風を浴びながら私と副長はホストシップを務める軽巡洋艦「矢矧」を眺めていた。

 かつて「大和」と共に天一号作戦に参加し、勇戦虚しく道半ばで沈んだ艦が多少姿を変えているものの、目の前に存在している。近年宇宙人が来訪したり、突然島が現れたり、艦が人になったり、話題が尽きない毎日である。

「それにしても「矢矧」ですか。一度お話してみたいです」

「うん? 副長はもしかして“ゲーム”をしているのか?」

「ええ、サービス開始直後から。「矢矧」が実装されたとき、思わず一目惚れしてしまいましてねぇ」

 照れ臭そうに頭をかく副長。若く痩せ型で長身、顔も整っていることから女性自衛官達からも人気があるのだが、どうやら“オタク”だったらしい(いや、悪い意味ではない。そういう私も艦船模型を作っては妻に怒られている身だ)。

「おいおい、君には妻も子供もいるだろうが」

「ああ、ご心配なく。妻も“提督”ですから。因みに彼女は「飛龍」が嫁です。“ケッコンカッコカリ”するときは、山口提督の写真に挨拶していましたよ」

「あ、そう」

 中々、愉快な奥方である。

「艦長、間もなく来られるそうです」

「ああ、わかった。今行く」

 隊員がやってきて、来訪者が来ることを告げられる。この後私は“ふじ”と共に神崎提督主催の歓迎パーティに出席することになっている。そのお迎えが来たのだ。

「艦長がうらやましい。自分も行きたかったです」

「これも公務だよ。それに艦娘の皆さんは全員神崎提督の奥方だ」

「それを言わないでくださいよ・・・」

 どうやら副長は事実を知ってへこんだ一人だったようだ(後で知ったが、奥方も盛大にへこんだらしい)。



 神崎島に上陸し、会場に到着した私と“ふじ”。そこには既に多くの艦娘達が集まっていた。

「か、艦長さん。凄いです。偉大な先輩方がこんなにたくさん・・・」

「落ち着け“ふじ”。別に取って食われるわけじゃないんだから」

 ガチガチに緊張している“ふじ”。無理もない。可愛らしい容姿をしているが、先の大戦で勇戦した歴戦の艦達なのだから。

「ほら、君も海自の一員としてここにいるんだ。堂々としていればいい―――手と足、同じ方が一緒に出ているぞ」

「え? あ、す、すみません」

 入口で既にこんな状況である。果たして大丈夫だろうか? これは艦長としてしっかりサポートしてやらないと、と気を引き締める。

 ―――なんというか、まるで発表会に臨む娘を応援する父親の気分だった。

764: 昭和玩具の人 :2019/10/29(火) 22:20:45 HOST:p1304131-ipngn11701hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
「―――どうやら、無事に交流できているようですね」

「ええ、まだ緊張が取れてはいないようですが」

 視線の先にいる“ふじ”はたくさんの艦娘達に囲まれ、談笑している。少々ぎこちない表情ではあるものの、特に問題はないだろう。

 ―――問題があるとすれば、むしろ私の方だ。なぜなら隣にいるのはこの島のトップである神崎博之提督である。自分より若く見えるが、別の世界では深海棲艦を鎮めた実績すらある歴戦の軍人だ。

「申し訳ない。本当なら「ふじ」全乗員をお招きすべきなのでしょうが・・・」

「いえ、今回の主役は艦娘達ですから。我々はまた今度、公式に訪問した際にでも」

「そう言っていただけると助かります」

 そう、今回就役前にもかかわらず神崎島に訪問となったのは、“ふじ”と神崎島所属の艦娘達と交流するため。公式には「ふじ」の装備確認に伴う寄港となっているが、そちらはあくまでおまけだった。

 私はふと、“ふじ”に話かけている艦娘達の左手薬指に光る指輪に目を向ける。先ほど副長が言っていた“ケッコンカッコカリ”という証だが、神崎提督は全員を妻として迎えていると聞いている。

「そう言えば神崎提督」

「なんでしょうか?」

 私は周囲に誰もいないことを確認すると、声を潜める。

「その・・・誠に失礼ながら、艦娘との結婚とは、その・・・」

「三浦艦長は“ふじ”が気になっていると?」

「滅相もない。私は妻子がいる身ですし、“ふじ”は娘みたいに思っています。決して恋愛感情では―――」

「そうでしょうね。いや、失礼」

 神崎提督が笑っているのを見るに、どうやらからかわれたらしい。思わず憮然とした表情をしてしまったが、不躾な質問をしたのは私の方だ。これでお互い様ということなのだろう。

「―――そうですね。私達の場合はまだ深海棲艦達が暴れる世界で出会い、お互い生き抜くために手を組んだわけですが・・・まあつり橋効果と言いますか、共依存と言いますか。そんな感じで外堀を埋められましてね」

 中々大変ですよ。と言う神崎提督は苦笑するが、まんざらでもないとその顔は語っていた。

「そうでしたか。 ―――いえ、その、私は艦長なのであなたとは立場が違うのですが、これから“ふじ”とどのように接していけばよいかと考えておりまして」

「ああ、なるほど」

 そう、実をいうと、“ふじ”は他の艦娘と違い、立場が明確ではない。

 神崎島の艦娘達はそれぞれ自艦の艦長となっているが、「ふじ」の艦長は私であり、“ふじ”ではない。上層部では神崎島と同じく“ふじ”を艦長にすべきではという声もあるのだが、“艦長”というポストをなくすなという声もあり(これからも艦娘が誕生するか不明瞭であることも大きい)、今だ“ふじ”の立場は不明瞭なのだ。

 「ふじ」と共に任務に就くのか、それとも特別な部隊を編成するのか―――海自では、未だ答えが出ていなかった。

「ふむ、そうですね」

 色々海自の事情も知っているのだろう、真面目な表情で考える神崎提督。

「―――変に気負わず、ありのまま接すればよろしいと思いますよ」

「えっ―――」

 帰ってきた答えに、思わず呆ける。

「恐らく“ふじ”もそういったことを理解していると思います。組織というものは必要ではありますが、時に融通の利かないものです。でも、そのことを理解して、最善の道を選んでくれると信じたから、彼女はあなた方海自の前に現れたんだと私は思うんです。だから変に気負うことはありませんよ」

「あ―――」

 それはまさに、あの夜の飛行甲板で感じたことそのもの。“ふじ”は我々を信じてくれていると理解した時と同じ答えだった。

「―――どうやら、既に答えはあったようですね。それなら大丈夫です。海自を、自分を信じていけばいいだけです」

「はい、ありがとうございます。改めて気付かされました」

 私は歴戦の提督に対し、ありったけの敬意を込めた敬礼をした―――



「そういえば彼女達、一体何を話して―――」

 ふと、私達は会話の内容が気になり、聞き耳を立てる。

「“ふじ”さん。明日工廠で装備開発していただけませんか? あなたが行えば簡単に現代装備が作れるかもしれないので。あ、あと最近ウチでレールガンを試作してみたんですけど、使ってみません? ここの娘達だと発電量が全然足らなくて」

「―――ねえねえ! 私も戦艦になれるかな? だって護衛艦って実質駆逐艦なんでしょ! 私も三五六ミリ連装砲を積みたい!」

「ふむ、君はヘリを搭載していないのか。それなら瑞雲をプレゼントしよう。瑞雲はいいぞ。哨戒ヘリより速いからな」

「え、え、ええと・・・」

 なかなか濃い面子に囲まれ、“ふじ”はうろたえていた。

「・・・ちょっと助けに行ってきます」

「・・・本当に済まない、うちの娘達が」

765: 昭和玩具の人 :2019/10/29(火) 22:23:27 HOST:p1304131-ipngn11701hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上、神埼島の艦娘達との交流についてのお話でした。
次回、ようやく就役する予定です。

766: 昭和玩具の人 :2019/10/29(火) 22:24:49 HOST:p1304131-ipngn11701hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
題名を変更し忘れておりました
銀河連合日本×神崎島ネタ ふじ艦長の憂鬱 その3 としておいてください

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2019年11月04日 09:00