57: 昭和玩具の人 :2019/11/12(火) 19:22:10 HOST:p1304131-ipngn11701hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
 艦娘“ふじ”の誕生から早半年、相変わらず海外からは“戦艦”と呼ばれる打撃護衛艦「ふじ」は今日、晴れの日を迎えていた。

 第二種礼装冬服に身を包んだ私は護衛艦「ふじ」の就役式典に出席している。

 整列する我々の前には訓示を読み上げる防衛大臣をはじめ、各所の関係者、さらに神崎島とヤルバーンからも出席者がいる。少し奥にはマスコミのカメラがズラリと並び、今回特別に抽選で選ばれた一般の参加者も見守っていた。

(わかっていたが、凄い注目度だな。まあそれも無理はないか)

 戦後初の戦艦(に相当する護衛艦)の就役、何より艦娘の出現。今日というこの日を国民はおろか、世界中が注目するのも無理はない。

 なにより、と私はチラリと隣―――副長のいるのとは逆の―――に目を向ける。

 一見高校生くらいにしか見えない、長い黒髪を後ろで束ねた少女は女性用の第一種礼装冬服(階級は一等海佐、つまり私と同格である)を着ており、見ていて惚れ惚れするような、堂々とした姿勢で訓示を聞いている。

 “ふじ”―――昨日付で正式に日本国籍を与えられた、戸籍上二十歳の艦娘、のさらに奥。

乗員と同じ数の小人、通称“妖精さん”達が整列していた―――



銀河連合日本×神崎島ネタ ふじ艦長の憂鬱 その4



「―――ふう、ようやくひと段落ついたな」

「ソウダナ」

 就役式典が終わり、旭日旗が掲げられた「ふじ」は母港となる横須賀へと入港を果たす。数年前に作られたばかりの新しい岸壁につけた「ふじ」は非常に目立っており、艦橋から見えるヴェルニー公園には多くの人だかりが出来ていた。

「そう言えばそろそろ「あそ」も公試に入るころだが・・・やはりあちらにも艦娘は現れるのだろうか?」

「ワカラン、アラワレルトキハアラワレル」

「そうか―――」

 艦長席に座っている私と話しているのは、中々ファンキーな三角形型のサングラスをかけた小さな妖精さん―――“ふじ”曰く“かんちょう”である。彼は私の膝の上で胡坐をかき、腕組みをしている。

 現在「ふじ」には彼を含めた妖精さんが計450名乗っており、本来は“ふじ”の艤装を運用するために存在している。だが彼女が艤装を展開していない時は暇なため、良く艦内をうろついているのだ。

 この妖精さん、面白いことに一人一人がこの艦に乗る乗員に似ており、配置も変わらない。そのため乗員達は自身によく似た(デフォルメされたといった方が正しいか?)妖精さんから扱かれている(今も操舵手が「ウゴキガオソイッ!」と肩に乗る妖精さんに怒られていた)。

 この“かんちょう”もサングラスをかけているので今はわからないが、私に似た容姿をしており(ただし性格は絶対違うと断言する。あと、あんなサングラスは掛けたことはない)、彼が現れて以来、私はこの艦や“ふじ”に関しての相談をしては的確な(ただし口は悪い)助言をしてくれていた。

58: 昭和玩具の人 :2019/11/12(火) 19:22:49 HOST:p1304131-ipngn11701hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
「そうなるとやはりこの「ふじ」だけが特別なのか? 他の神崎島が建造や修理に関わった艦で艦娘が誕生したという情報はないし・・・」

「ソウイウコトハカンガエテモショウガナイ。ソレヨリソロソロセツガンダ。カンチョウトシテシッカリミテロ」

「あ、はい」

 “かんちょう”に叱咤され、右舷側を注視する。先ほど就役式典を行ったばかりだが、今度はここ横須賀で着任式典を行うため、艦隊司令やら基地司令等お偉いさんが集まっている。

「艦長、着岸完了しました! 各部異常なし」

「うむ、じゃあ行こうか」

「ヤレヤレ、シキテンナンテメンドクセェ」

 “かんちょう”の発言は聞かなかったことにして席を立つ。周りでは乗員達が妖精さん達に今の操艦に関して様々な評価を下されており(その殆どが悪い点について)、直立不動の姿勢で話を聞いている。他の艦では絶対に見られない光景が、「ふじ」では当たり前のことだった。

「あ、艦長さん」

「ああ、“ふじ”か」

 艦橋を降りていると、CICに詰めていた“ふじ”と合流する。因みに昨日付で正式に国籍を与えられ、海上自衛官となった彼女と私は同階級だが、この「ふじ」において、私の方が指揮系統的に上となっている(つまり艦長と副長の間に入った形だ)。

 ただし“艦娘”である彼女には人事権が与えられ、万が一艦長が相応しくないと判断した場合、その指揮権を剥奪出来る権限を与えられている。

 一見“艦娘”の方が優位に思える体制だが、“ふじ”は「ふじ」を遠隔操作することが出来るため、いくら指揮権を決めても「ふじ」のシステムを掌握されてはこちらの操作を受け付けなくなる。それならばいっそのこと艦娘に委ねてしまえ、という鶴の一言でこうなったのだった。

「“かんちょう”も一緒だったんですね。どうですか、今の評価は? 私はこの時期にしては優秀だと思ったんですけど」

 CICから各部の様子を見ていた“ふじ”からは中々の高評価だが、“かんちょう”の採点は厳しい。

「マダマダアマイナ」

「厳しいですね。まだ就役したばかりなのに」

「コノ「フジ」ハ、カイジョウジエイタイノキタイヲセオッテイルンダ。コレカラ、ゲツゲツカスイモクキンキンノイキオイデキタエテヤル」

「あはは・・・ その、艦長さん。頑張ってください」

「そうだな。この艦を預かる長として恥じないよう頑張るよ」

 苦笑する“ふじ”に対し、私はそう答える。彼女が人事権を発動いていないということは、少なくとも今はこの艦を任せるに値する人物であると認められている証拠だ。

 ―――なら、これからも彼女に認められるよう、全力で頑張るしかないだろう。

 私は気合を入れなおすと共に、もしかして娘のために頑張る巷の父親って、こういう感情なのだろうかとふと思った。

59: 昭和玩具の人 :2019/11/12(火) 19:27:33 HOST:p1304131-ipngn11701hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
相変わらず短いですが、以上となります。
今回の話で妖精さんを出したのですが、普通の人との差別化を図るためとはいえ、正直半角カタカナは読みにくいかもしれません。
もし読みにくかったら修正します。

次回(あれば、ですが)、あの娘が登場予定です。ついであの狂気の思想誕生秘話も書けたら・・・

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最終更新:2019年11月16日 12:47