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憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編「香月夕呼のパーフェクト産めよ増やせよ理論教室(実技はないよ)」(改訂版)
西日本および佐渡島をBETAから奪還したβ世界日本、日本帝国では順調な復興が進み、相当な進捗があった。
北九州及び対馬半島を中心とした対大陸防衛ラインの再構築。
BETAに均された西日本横浜以西の再開発と戦災復興。
BETAとの戦いの中で露呈し、そして闇を深めていた帝国軍および武家をはじめとした政権の刷新。
さらにはBETA以外の、すなわち人類同士の争いで荒れてしまった帝都などの復興も各所で進められていた。
それらは帝国単独で話し得なかっただろう。だが、大洋連合を主体とした各国の支援や技術援助などで消滅寸前であった国家は盛り返しを見せていた。
表にならない所では、AL5派と通じていた武家及び政府、各界の官僚や重鎮などの密かなる粛正や更迭の嵐が吹き荒れた。
ついでにBETA戦における対応などについての追及が進められており、正しく裏も表も大騒ぎといったところであった。
特にスパイや工作員の炙り出しは極めて徹底して行われていた。無論、口先でごまかすこともできただろう。
しかし、そんなことを許すほど帝国と連合は甘くはなかった。
脳波や意識の鑑定を行う装置による後催眠暗示などの炙り出しは、極めて画一的かつ凡人によって隙なく実行に移され、多くのスパイを発見していた。
あるいは、記憶を読み取るメモリースキャニング解析により、容疑者がどのような罪を重ねていたかを赤裸々に暴き立てたのだ。
膿を吐き出しは、これでもかと続けられた。それだけBETA戦の影に隠れて腐敗が進み、様々に汚れていたということだ。
その結果は非常に著しいものであり、直接かかわっていること以外にも多岐に及んでいた。
なるほど、クーデターの一つや二つ、ちょっと誰かに囁かれれば勃発しそうなものである。
だが、BETA戦において発揮された大洋連合の実力を見てなおも気炎を上げるなど正気の沙汰ではないのはすでに明白。
既に残っているのは先鋭化し、刹那的な行動のみが可能な夢想家しか残っていないのが実態であった。
いや、刹那的な行動に移すことさえもできなくなっていったといっても過言ではない。それだけ、政府による引き締めが厳しかったがためだ。
もはや家柄や武家だからだとか、五摂家だからとか、そんな理由で何とかなる時代は終わってしまったのだ。
親ソ・親米派にしても、旧政権のやらかしがあまりにもひどすぎたということもあり、最早霧散してしまっていた。
あるいは、通常の域を超えていた人間に関してはスパイ容疑や外観誘致などの罪で逮捕・収監されていたのだ。
斯くして、連合との友好関係を維持する政権は安定期に入ったのだ。
さて、所は変わって横浜国連基地。
かつて時の首相が日本国土防衛のためAL4を招致し、国連軍による援護を得るという策で設置された基地。
横浜の魔女の異名を持つ香月夕呼博士を主体とするAL4派が拠点とする、嘗て横浜ハイヴの存在した土地に置かれた曰く付きの場所。
AL4および大日本帝国、国連、さらには連合という勢力の人員が一堂に会する場所、といえば聞こえはいいが、割と腹の探り合いなどが行われている場所でもある。
そんな地獄の窯のような基地の中心部、いくつものセキュリティーと警備陣を抜けたその先、AL4計画の要である香月博士の個人オフィス。
そこに呼び出された白銀武大尉(戦術機開発等の功績で昇進)は、開口一番に巨大な一撃を受けた。
「白銀、アンタ、重婚なさい」
571: 弥次郎 :2022/01/10(月) 22:31:52 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
そして、弛緩。
何を言い渡されるのか、と隈のすっかり染みついた目を鋭くして警戒していた白銀武は、至極当然の反応を示した。
「ほぁ?」
間の抜けた、返答を返した。
張りつめていた緊張が行き場を失って抜け、ぽかんと口を開けたままになってしまった。
辛うじて姿勢を維持してはいるのであるが、たたらを踏みかけたことは確かであった。
「ゆ、夕呼先生……何を言っているんです、か?」
「何って、ナニの話よ」
言わせないでよ恥ずかしい、と宣う元の世界の担任教師でありこの世界におけるAL4の中心人物を相手に、武は混乱を隠せない。
言葉の通りだとするならば、自分は命令として重婚、つまり、複数の女性との婚姻関係を結べと言われたということになる。
もっとわかりやすく言えば、自分は複数人の奥さんを持つことになるというわけである。
なぜAL4の上司から命令されなければならないのかさっぱり見当がつかなかった。
「いい?ループして衛士をやってたアンタには専門外のことかもしれないけれど、このアタシが一から説明してあげるわ」
「は、はぁ……」
鋭い眼光に武はうなずく。促されて改めて席に着いて話を聞く態勢になる。
「とても基礎的なことを聞くわ。BETAとの戦争、どれだけ続いていたかわかるかしら?」
「えっと……1967年に月面で第一次月面戦争が勃発して、それからですよね?」
「そう。カシュガルに着陸ユニットが着陸してH1が出来たのが1973年。
そこからBETAの地球侵攻が始まってざっと30年は経つわけよ。
当初は政治的なこともあって、一部の国のみで対処していたけど、そうもいかなくなった。
そして、この帝国が直接的に参戦していたのはBETAとの戦争全体で見れば半分くらいの年月。
けど、まりもでさえ19歳で初陣を超えたの。この意味するところが分かるかしら?」
「っ!人口の、それも兵役に適した男性の減少…!?」
「そ、BETAとの戦いは序盤こそ男性が主体だったけど、消耗を重ねて女性も動員されるようになったの。
この国でも志願制だった兵役が徴兵制に逆戻して、さらに徴兵年齢の引き下げが行われ、事実上の学徒動員がされた。
それは数がBETAの総数に対して足りないってこともあったけど、それまでの兵力となる人材層がいなくなったってことでもあるのよ」
確かに自分にとっては門外漢だ、と武はうなずくしかない。
これはどちらかというと政治の話になって来る。
だが、分からなくもない話だ。思い出してみれば、横浜基地においては女性衛士は珍しくはなかった。
というか、女性の割合の方が多い気がするほどだ。
武の一般的な、少なくとも平和だった世界において軍隊は基本的には男性が構成するもの、と拙いながらも知識はあった。
それは、一般的に比較した場合において男性の方が女性よりも身体能力に優れていることによるものだ。
しかし、この世界においてはそれは決して通用していない。女性も男性も、老いも若いも動員されている。正しく総力戦だった。
「と、ここまでが前提なのよ」
一端区切ると、夕呼は卓上のコーヒーを、連合から輸入されている天然モノのそれを煽る。
今では食糧事情もかなり改善し、輸入品とはいえ天然ものが一般家庭に出回る程度には良いのだ。
まあ、それが殆どが連合からの輸入によって賄われているというのは、帝国にとっては将来的な悩みのタネになりそうであるが。
だが、それは些事である。今のところは。
「少なくとも現状、大日本帝国はBETAの脅威を脱したわ。帝国領土内のハイヴの排除は完了。
そして、直近の問題となる大陸のハイヴは次々と攻略され、オリジナルハイヴの攻略は完遂している。
あとは欧州や中東方面のハイヴが残っているけど、まあ、正直なところ消化試合も良いところなの。
連合の戦力による助力も得られるうえに、
アメリカもソ連も大人しいわ。多少騒ぎはあっても。
これ以上にないってくらい、BETAの駆逐には適した状況よね」
「確かに」
「でも、そうなると戦後を見越すわけよ。いえ、戦後のその先かしら?」
572: 弥次郎 :2022/01/10(月) 22:32:27 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
戦後。
戦災復興と非常事態故に発行しまくった国債の処理と戦争に伴い比重が狂った産業の立て直し、さらに法整備などだ。
それらをまとめた将来的なヴィジョンの策定も急がなければならないし、対外的なスタンスも決めなければならない。
何しろ、膿を出す過程においては重要ポストの人間の首きりまでも実行しなければならなかったので、かなり穴だらけなのだ。
埋めてくる人材がまだ育ち切っていないし、かと言って能力が劣る人間を採用しても後々に響く。そんなこんなで帝国は忙しかったのである。
そしてそんな俯瞰的な視点での話を、武の関係のあるところまで広げると、重婚法の成立というものが見えてくるのだ。
「で、でもそれが重婚とどういう……あ」
「そ、男女比が偏りすぎたから、時限法で重婚を許可制で導入する。
それでこのBETAとの戦争で減りすぎた人口を元に戻そうってわけ。
帝国にしても一般庶民はもとより武家の御家断絶もこのBETA戦でざらにあって、何とか延命したいと飛びついたのよ」
「結婚して5年以内に子供を二人以上産むことを義務とするという内容が検討されているわ。その意味は分かるわよね?」
「家を継がせるため、ですね?」
「そう。武家にとって、それはとても切実な問題よ。なんだかんだ言って、この国のシステムの支えであることは確か。
けれど、肝心の種が足りない。ならば、その種を多くに蒔けるように共有してしまおうってわけよ。
政治的な力学も働いてね…もちろん、重婚が実際にできるのは審査を突破した人間だけなんだけど」
そりゃそうだ、と武はうなずくしかない。
一夫多妻もしくは一妻多夫などの婚姻関係があることは知っているが、いずれも文化や宗教的な後ろ支えあっての事。
日本においても正室・側室・妾などの複数の男女が関係を持つ文化や風習はあるのだが、それが廃れたのは相応の理由があっての事だ。
財力・周囲の理解・相互理解・実際の結婚生活におけるあれこれ。考えるだに一般人がホイホイとやれるものではない。
そんな武の懸念を夕呼は一蹴する。
「あんたは、アタシが言うまでもなくエースよ。一騎当千の衛士。おまけに人柄や人格についても問題なし。
衛士にありがちなPTSDやシェルショックもない上に最前線で常に活躍。後方においては戦術機開発の第一線でテストパイロットを務めた。
A01部隊のみならず帝国軍にさえ一目置かれている若きエリート。連合さえも実力を買っている。紛れもなく許可が下りるわ」
「でも俺の給与じゃ、育児とか間に合わないんじゃ……」
「そこはほら、AL4からも帝国からも報奨金が出るから問題ないわよ。
阿保みたいに発行した国債だとか手形になるけれど、間違いなく信頼のおける日本円で支払われるわ。
今の時代、ドルなんて紙切れに近いから安心よ」
「そんなに俺って活躍してます?」
「アンタの協力で開発できたXM3のパテントでぼろ儲けできたし、現行の新型戦術機の開発においても協力してもらっているの。
戦功もあるから、普通の衛士以上に高給取りなのよ、アンタは。今度ちゃんと給与明細でも見ておきなさいな。
とにかく、帝国も囲い込みをかけるために一般家庭から武家への格上げも検討しているって話よ。
おまけに、連合からのスカウトの頼りが何通もアタシのところに届いているの。それだけ評価されているってことよ」
ガキのくせにね、とため息をつく夕呼だが、嫌みはない。実際のところ、武の実力は大したものだ。
XM3というOSの概念を持ち込んできたことで、連合が用意したOSの解析や理解が早期に進んだことは確かである。
それにまだよく動きが分かっていない連合製OSとコンピューターを搭載した戦術機を多少の慣熟訓練だけで十全に動かしてみせた技量は紛れもない本物。
その上、うまい所自分とやり合っているのだ。単なる衛士や情報提供者ではなく、確固たる意志を以てこちらを動かそうとして来る。
政治家などにはなれないだろうが、それでも駆け引きや交渉ごとに慣れがある。持っている知識を生かす能力がある。
夕呼は、こういう奴は手強いのだと経験則的に理解している。
まあ、根っこが青くてガキの臭いがまだ取れていないのも確かだ。
ただし、これからに期待ができる。少なくともできる限り手のうちに入れておきたい、と思う程度にはこの白銀武を買っているのだ。
そんなことを隠しながらも、夕呼は平然と話を続けた。
573: 弥次郎 :2022/01/10(月) 22:33:50 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
「幸い、アンタの周りには女が多いから困らないじゃない、アタシから見ても好意を抱かれているんだから、娶ってあげなさいよ」
「はぁ!?マジで言ってるんですか!?」
「マジ、よ。本気。アンタがいつだったか言っていた理論。そう、恋愛原子核だったかしら?
それに該当するアンタなら間違いないわ」
恋愛原子核。随分と懐かしい言葉だ。
確か、自分の周囲には、自分に対して好意や異性として関心をを抱く女の子が原子核に集まる電子のように集まって来るとか言うトンデモ理論。
いつだったか、目の前の人間に自分が体験したループの記憶を一切合切吐き出すように命じられたときにぽろっと漏らした気がする。
そんなトンデモ理論を提唱した人間が、別世界のとは言え自分自身だということに当人は驚いていたが、それっきりだったはずだ。
「いい?ループしていたってことは、いくつかの可能性をたどったということなの。
つまり、ある世界線ではAと付き合っていても、別な世界線においてはBと付き合っていてもおかしくないの。
因果律的に一定のパターンを通るとしても、何かしらの分岐点は必ず存在するわ。その選択の積み重ねで、異なる結果や世界線が生まれるの」
「えっと……俺が行動した結果、違う未来ができたってことですか?」
「そういうことよ。
そしておそらく、この世界線、今アンタやアタシ達のいる世界には、それら複数の世界線の因果が収束し、結実している可能性があるのよ」
「因果が、収束を?」
「そ。アンタが来てからこっち、子飼いの部隊A01の錬度は劇的に向上したわ。
勿論新型OSや連合の技術提供による技術刷新もある。技術指導のための教官もたくさん来たというのもあるわ。
けれど、それを差し引きしたとしても異常な成長ぶりよ。まるで、アンタみたいにどこかで戦術機を動かしていた記憶を持っているみたいにね。
他の世界線を体験し、ループしてきたアンタが何かしらの因果を引っ張ってきた可能性は0じゃない。
というか、アンタ以外誰がいるの?」
そういわれると、武は窮するしかない。
実のところ、最近になって記憶のフラッシュバックというか、急に思い出した記憶が多数ある。
いずれも自分の記憶だ、と分かる程度にはリアリティーがあり、しかもそれは、それぞれ違う女性と結ばれていた記憶だった。
これまでは特に気にしてはいなかったのだが、もし仮に因果が他の世界線から流入したということならば説明がつく話だ。
「あの、人生の墓場一直線なんですけど、先生……」
「諦めなさい。重婚しようがしまいが、一夫一婦制を貫こうが、恋愛原子核の理論に基づくなら愛人になってでも関係を持とうと迫られるわよ?」
「……えぇ?」
「アタシのところじゃなくても、A01の人間の中には周囲の人に相談しているようだから、もう秒読みと考えなさい」
がっくりと、武はうなだれた。根拠なくこんなことを言う人間ではないとよく知っている。
戦後のことを考える余裕があるのは正直なところ嬉しい。
「あの結末」の様な、悲惨すぎる終わりを超え、さらにその先に向かった時よりは良い状況。
が、それはそれ、これはこれ。戦術機で切った張ったをしていた方がはるかに楽な案件が、よりにもよって自分のところに飛んでくるとは。
「ま、がんばんなさい」
哀れみが4割の声と共に退室を促された武は、がっくりと肩を下したままそれに従うしかなかった。
愉悦が3割くらい含まれている。そう武は直感した。間違いなく面白がっているに違いない。
忙しいからって楽しみを見出すところを間違っていないだろうかと武は思う。
思いはするが、口にはしない。口に出したら魔女の窯行きである。
それだけは絶対に避けたい。国連の偉い人が何人か連れていかれ、消息不明になったという噂を聞いたことがあるが、真実を確かめる気にはなれない。
大変なことになったと思いながらも、武はオフィスを追い出された。足取りは重く、悩みは尽きない。
BETAとの戦いはほぼ終わったというのに、なぜこんな気分でいなければならないのだろうか。一体自分が何をしたというのか。
「はぁー……」
まだまだ青臭い救世主は横浜で一人、ため息をついた。
574: 弥次郎 :2022/01/10(月) 22:35:02 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
以前の話を書き直しました。
話の整合性とか、ガバだったところを直したり…
578: 弥次郎 :2022/01/10(月) 23:18:13 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
誤字修正を
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最終更新:2024年07月30日 23:11