405: 弥次郎 :2019/11/30(土) 20:15:54 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
憂鬱SRW IF マブラヴ世界編SS「Zone Of Twilight」1




  • β世界 大日本帝国領海内 群体型AF「アシハラノナカツクニ」5番艦「トヨアシハラ」上部大型甲板上



 β世界のアラスカ行きの大型輸送機である富岳級が十機以上並んでいるトヨアシハラの甲板上は、ごった返していた。
荷物の積み込みのための車両や人員、そして膨大な数の輸送コンテナなどに占領されており、行き交うPSや作業車両そして人間であふれているのだ。
詰みこまれる連合製の戦術機である「蜃気楼」の他、ACやMSにMTなどの機動兵器、富嶽級の整備士たちもいるので、余裕を持って建造されたはずの甲板は心なしか狭く感じていた。
まあ、連合の4大国のエースたちとその乗機、教練用の機体などを積み込んでいるので、このような光景になるのもやむなしといったところであろうか。
加えて、β世界大日本帝国からの乗員たちもいるので拍車がかかっているというべきか。

(連合の力を見せつけるパフォーマンスも兼ねてるって話だからなぁ…)

 その光景を、大日本企業連合のリンクスにしてアラスカへの出向者に選ばれたタケミカヅチは富嶽級の窓からそれを眺めていた。
 今回のユーコン基地への連合の戦力の出向は、連合をはじめとして融合惑星にプレイヤーとして参戦する勢力の有する力を見せつける、ある種の砲艦外交的な意味が多分に含まれていた。
外交官はもちろんの事、普段ならば多くはないPSを含む陸戦隊、戦車などの陸上戦力をも動員。
本命である機動兵器や富嶽級自体を筆頭とする航空戦力までも用意しているのは、非常にわかりやすい誇示手段を選んだからに他ならない。
 タケミカヅチにしてみれば、この程度で相手を分からせることができるというのはシンプルで分かりやすく好みだった。
企業間闘争が繰り広げられていた嘗ての日企連世界においてはこんなことなど日常茶飯事であった。
そこからの小競り合いなど、三度の飯などより当たり前であったので感覚がマヒしている。
 だが、一国を滅ぼせるような戦力を高々一つの基地に持ち込むというのは、よくよく考えれば大国でさえもあまりとらない手段だ。
まして、これがアラスカという地域---僻地とはいえアメリカの一つの州に派遣できるということ自体、地球連合を警戒しているアメリカの軍事関係者は卒倒するものだろう。

「篁中尉、顔色が優れないが大丈夫だろうか?」
「い、いえ、問題ありません……」

 自分の部屋に招いて歓談していた、大日本帝国側の衛士にして今回のアラスカ ユーコン基地における合同軍事訓練の参加者である篁唯衣は、明らかに眼前の光景に圧倒されていた。
まあ、十代後半で帝国の次世代戦術機及びその運用についての研究を行うという重責を背負う彼女は、今でもこんな光景を見慣れないだろう。
これほどの大戦力の展開などこの世界では直近では先だってBEATの大規模侵攻以来であろうし、彼女のトラウマ交じりの記憶の中では学徒動員で参戦した帝都防衛戦以来だろうし。

「どうも政治的な圧力をかけるためにこんなバカげた動員をしているのがにわかに信じがたいようだ。まあ、あまり気にしなくても構わない」
「そ、そうですね……」

 弱った、とタケミカヅチは思う。たぶん彼女はこのAFに乗り込んでから驚きの連続で精神的に疲れているのだろう。
加えて使命感というものを彼女は必要以上に背負い込んでしまっている。こりゃ、一人にしていたら勝手にノックアウトされていたな、と分析する。
アイスブレイクの一つでもしてやらねば、と思うが、帝国所属の彼女から見て連合の傭兵である自分は完全にお客様である。
ついでに言えば彼女は連合の戦力の実力を知っているがために尊敬やら恐縮をしているのだ。そんな彼女にアイスブレイク?
自分でいうのもあれだが、真面目な自分がそんな器用なことなどできない。桜子あたりなら余裕なのだが、まったくままならない。

406: 弥次郎 :2019/11/30(土) 20:17:32 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

(しょうがない…)

 ここはひとつ、苦手を克服するつもりで緊張をほぐしてやるしかないかと判断する。
 おぼろげな記憶によればだが、彼女は真面目な性格だ。真面目ゆえに帝都防衛戦のことがトラウマとなっていた。
現在のところはメンタルケアによって克服しているので、原作以上の快活さも持ち合わせている。アラスカでも恐らくは大丈夫だろう。
 だから迂闊なことをしゃべって地雷を踏みぬく可能性は低い。

 そもそも今回のアラスカ行きは史実におけるXFJ計画を大幅に上回る目的---新世代戦術機の開発・運用・戦技研究さらに既存兵科との連携。
さらに連合からの技術吸収など一つの戦術機を開発するというレベルでは決して収まることのない出向なのだ。
参加国についてもβ世界だけでも日本・アメリカのみにとどまらず、ソ連 中国 英国をはじめとする欧州各国と数が圧倒的に多い。
ここに統合政府と地球連合が加わり、間接的に融合惑星の他世界も関与しているというカオス。恐らくだがどの国も戸惑っていたことだろう。
まだまだ若い彼女が重責を負担としてしまうのも仕方がない。

「篁中尉、少しでもリラックスでもしよう」
「リラックス、ですか?

 ああ、と頷き、日企連のリンクス用の制服のポケットの中を探る。

「少し君は緊張し過ぎだ。気を紛らわせるには会話が一番だが、恐縮され過ぎては話にならない」

 だからコイツだ、と取り出すのは携帯音楽プレイヤーとイヤホン。
 リンクスとなる手術の一環で耳小骨に埋め込まれたナノマシンで、MSやネクストだけでなく対応する音楽機器や携帯帯端末ならばいつでもワイヤレスで音楽が聞ける。
だが、生憎タケミカヅチはイヤホンに固執した。遠い昔、前世の記憶に引っ張られているところだな、と思う。
あの時代でもワイヤレスイヤホンというものはあったが、やはりというかコードを垂らしている方が落ち着くのだ。
 だが、唯衣にとっては初めて見るものだった。

「それは一体…?」
「? 初めて見るのかな、音楽プレイヤーだ」
「? プ、プレイ、ヤー?」

 その反応に、ようやくタケミカヅチは思い至る。β世界は娯楽が極端に発達していないのだと。
 BETAとの戦いが始まって以降、娯楽分野というのは一部嗜好品を覗いてその進歩の歩みを止め、産業自体が歪んで進歩してきたのだ。
戦術機の様な巨大ロボットを開発することが出来ても、ファミコンが作れないとはマブラヴ世界を例える言葉だったか。
だとするならば、民間用のデンスケなどの再生機は存在するか怪しいところであるし、ウォークマンなど存在するはずもないだろう。
 加え、最近では除去されたのだが、城内省が国内に配給する食料に混ぜ物をすることで国民から娯楽についての意識を喪失させていた。
だからこそマブラヴ本編においてはクリスマスパーティーのことを知らなかった様子が描写されていた。
大日本帝国においては、外国由来とは言え戦前から祝われていた行事であるクリスマスがなぜか忘れ去られていたのだ。

(うっかりしていた……この世界の文化レベルは諸事情あって滅茶苦茶なんだったな)

 文化的な行事や娯楽品の輸出は接触以来行われているのだが、普及はやはりというか遅い。
まだBETA戦の最中ということもあるし、新しい文化や風習に保守的になりがちな日本人の気質もあってあまり広まっていない。
こういう時だからこそ娯楽が必要だと思うのだが、実際のところはBETAとの総力戦で全く余裕がないというわけだった。
むしろ、そういうものを忌避する「空気」に支配されてしまっていて、文化的な楽しみが知らず知らずのうちに排他されてしまっているのかもしれない。

「この機械は、何処でも好きな時に音楽が聞ける便利なものだ。ほら、遠慮せず」
「は、はい……こんな小さな機械で?すごい……」
「蓄音機やレコード盤をものすごく小さくしたものと考えてくれ」

 こんな初歩的な説明から入らねばならないとは、と思いつつも、入れてある曲から唯衣でも楽しめそうなリストを選択する。

407: 弥次郎 :2019/11/30(土) 20:18:36 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

 イヤホンを耳に付けて音楽が身に流れるのを感じ新鮮な反応を見せる唯衣を見ながらも、タケミカヅチは今回の出向について思い返していた。
 今回の出向、日企連側のアドバイザーの一員として、教導官として派遣ということにはなっている。
 しかし、その実態としてはもう少し後ろめたい仕事が含まれているのが事実だ。
勿論、前世を含めて機動兵器のパイロットとしての腕があるし、最前線において活躍してきた自分は戦場での振る舞いをよく理解していると言っても過言ではないレベルだ。

(万が一の保険、か)

 今回大洋連合がアラスカに派遣する部隊の中には、知らせてはいないが自分を含む日企連のネクスト部隊が控えている。
元々派遣する戦力だけでも十分にアラスカに存在する潜在敵国の戦力を圧倒はしているのだが、後ろめたい汚れ仕事が必要な可能性がある。
G弾の研究施設の存在と作った元であるアメリカ、リーディング能力を持つESP能力者を抱えるソ連の二カ国がその潜在敵国の筆頭にあたる。
技術や技能を示す機会ということになっており、国連の基地で行われるというのはそういった政治色の介入を避けるための方便であった。
それでもアメリカともなれば国連の基地で何かをやらかしてもおかしくはないし、ソ連にしても技術や技能の総取りを考えていてもおかしくない。
 水面下で抑えられているならばそれでよし。
 だが、表立ってか、あるいは何らかの騒動に乗じて行動を起こしてきた場合、地球連合の派遣群は「自衛」に努めなければならない。
大洋連合の欲をもっと言えば、原作知識を持っていてそれを踏まえた行動ができる戦力が欲しい。
持っていける戦力には限りがあり、表向きの身分に困らない人員で、尚且つ少数で圧倒的多数を、それこそ一つの基地を敵に回せる戦力を。
そうして選ばれたのがリンクスであり、夢幻会のメンバーでもあるタケミカヅチであり、他のリンクスたちであり、ついでに言えば無人ネクスト部隊なのだ。
最も怖いのはアラスカ基地の自爆だったりするのだが、そっちはそっちで何とかする予定だ。
もし仮にだが、ユーコン基地を放棄して、カナダを経由してなし崩しでアメリカの「保護」など受けた日には、自分達がどうなるか分かったものではない。
 事実、G弾のことを考え連合はアメリカを信用はしていないし、さんざんに国連の場でやりあったのだ。

(もう一つの問題は……ソ連への派遣、か)

 夢幻会内部では派遣の可能性は低いだろうと思われているのだが、潜在敵国の最前線への派遣が一番危険だ。
 混乱や不意のトラブルが起こりやすい場であるし、何よりソ連領内でソ連の手が回しやすいところである。
 もちろん輸送機などとともに向かうことになるだろうが、ソ連軍の追撃を退けながらの逃避行は決して楽ではない。
想像するだに地獄のエクソダスとなりそうだ。質で圧倒できるとはいえ、極限環境のシベリアからベーリング海峡を渡って逃げるなど楽ではない。
連合の戦力はもちろん、同行するであろうアルゴス小隊をはじめとした錬成部隊を守る必要もあるので、楽ではない。
彼等は歴戦の衛士ではあるのだが、決して対人戦闘の技能が高いとは言えないのだ。つまり守るべき人員はかなり多い。
 いや、その前に無事に輸送機に人員を乗せて飛び立つことができるかどうかも怪しいところがあるのだから---

「タ、タケミカヅチ殿!」

 思考の海に沈んでいたタケミカヅチを現実へと引き戻したのは、唯衣の切羽詰まった声と、それにかぶさるように聞こえてくる音楽だった。

「な、なんだか、壊してしまって!音が!音が!」
「…フフッ、落ち着くんだ中尉」

 よく見ると、イヤホンジャックが外れている。そのせいで、音がスピーカーから出力される状態に切り替わったようだ。
 もちろんそんなことを知らない唯衣は壊してしまったのだと思い込んでしまい焦っている。慌てる姿は普段の凛とした姿とは違う年頃の少女のそれだ。
それに思わず笑みをこぼしたタケミカヅチは、案外自分も緊張があったことに気が付いた。
真面目に考えすぎるのは良くないと「お茶会」で言われたが、なるほど、こういうことだったのか。唯衣のアイスブレイクのつもりが、自分自身のそれも行ったようだった。
一人頷いたタケミカヅチは、室内に流れるフロムズソフトウェアの「Panther」を聞きながらも、唯衣を落ち着かせて対処に乗り出すのであった。

408: 弥次郎 :2019/11/30(土) 20:19:07 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
というわけで、β世界ユーコン基地編である「Zone Of Twilight」略してZOT編の序章でした。
ぶっちゃけ、B-day以上のメインカメラの多さで大変なことになりそうです。次はハンター大尉とSMSかなぁ…
ま、その方が楽しいだろ(ry

409: 弥次郎 :2019/11/30(土) 20:25:35 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
早速修正

406
×ああ、と頷き、

〇ああ、と頷き、日企連のリンクス用の制服のポケットの中を探る。

414: 弥次郎 :2019/11/30(土) 21:05:58 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
もう一つ修正

406
×だが、唯衣にとっては初めて
〇だが、唯衣にとっては初めて見るものだった。
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最終更新:2024年09月08日 15:01