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銀河連合日本×神崎島 ネタ 陸王
笹穂耳が側車付の二輪車に頬ずりしている。
神崎島陸軍との演習で神崎島の基地を訪れていた陸自の大見は目の前の光景に何度も目を擦った。
なぜか神崎島陸軍の野戦服を着たティ連工作艦隊を纏めるパウル・ラズ・シャーがサイドカーに頬ずりしている。
しかしながら現実である。
サイドカーの側では困った顔をした若い青年の一等兵と一升瓶持ってゲラゲラ笑ってる中年の一等兵がいる。
訳が分からないので青年の方に話を聞いてみた。
「あっ!大尉殿!!け、敬礼!」
「敬礼はいい、後大尉じゃなく一尉な。で、パウル艦長なにやってるんだ?」
「一尉殿、何でもパウル艦長殿は九七式側車付自動二輪車、もとい陸王が欲しかったそうでしてな。この基地で現物を見て居ても立っても居られなかったそうなんですわ。」
青年に聞いたら中年から返答が返ってきた。頭が痛い。
「…パウル艦長、バイクに頬ずりして何やってんですか?」
「あ、ケラーオーミ!見て、これ陸王よ!しかも側車付!戦前の型なんてアニメでしか見たことなかったのに実際にあるなんて!しかも九六式軽機まで載せてる!!」
なんかもうパウルはヘヴン状態である。
しかし大見は納得したあれ見たのかと、ついでに思った何故戦前の仕様と分かるとかあんたは突撃バカの同類か?
巷で笹穂耳ライダーとして名を馳せているパウルであるが突撃バカにバイク乗りならこれ見とけ!と勧められたのである。
発達過程文明である日本と神崎島の影響を受けやすいティ連人はそういう形で興味を持ってズンズン趣味に邁進していくのが多い、そうして増殖していくのだティ連のオタは。
パウルもやはり一人のオタであった。
そして中年一等兵は基地に配備されてる他のバイクもパウルに見せた。
「艦長殿、こんなのもありますぜ。」
「!!BMW・R75にウラルじゃない!ウラルはともかく日本国内じゃR75なんてみかけないのに…。」
「しかも新品ですぜ。」
「い、いくらなの!?」
「いや、それ軍の備品…。」
パウルは青年一等兵のツッコミが聞こえない程集中していた。
実際これらのバイクが欲しいのだろう。
ほぼ手作りで機器の操作も電子化される前の完全アナログ仕様である、発達過程物に弱いティ連人が欲しくない訳がなかった。
「ガハハハ、艦長殿、購入自体は神崎島でいつでも出来ますからまずは座って自分の体で確かめたらいかがですかな?」
「いいの?」
「構わんよな?」
「構いませんけど古代さんいつも強引すぎますよ。まったく…。」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて…。」
青年と中年の好意に甘え、パウルは恐る恐る九七式、いや陸王のシートへと座る。
スタイルはハーレーダビッドソンを源流とするアメリカンスタイル、しかしパウルの乗る現代的のアメリカンとは全く違う。
スプリンガー式ボトムリンクサスペンション、後輪固定式シャーシという現代からみればえらく古臭い設計、
シフトはフットシフトではなく燃料タンクの横にシフトレバーが存在するという時代遅れ、
エンジンの始動も点火までの調整は手動、エンジンにオイルを送るオイルポンプも自分で動かさなければならないという現代では考えられない代物。
しかしパウルにはそれら全てが愛おしかった、この陸王は人々が知恵を絞り現代まで改良を重ねられた技術の通過点の生き証人であるからだ。
超技術を突然手に入れてしまった自分たちティエルクマスカが得られなかった地道に重ねられた技術の象徴、自分たちが心の底から欲しかったものだ。
「良ければ…エンジン掛けてみますか?」
「!!、はいっ!」
青年一等兵の言葉にパウルは笑顔を浮かべた。
青年の説明の元に陸王のエンジン始動を行う、エンジンにオイルを送り、点火時期を調整しキック、始動しない。
何度をキックを繰り返し、そして
「動いた…!」
腹の底から響くような音と共に陸王のエンジンは目を覚ました。
パウルは驚いたように目を大きく開きながらもその瞳はキラキラと輝いている。
436: 635 :2019/12/13(金) 06:54:23 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
「…艦長殿。」
「へ!?うわあっと!」
そんなパウルに中年一等兵は鉄帽を放り投げ、パウルは慌てて鉄帽を受け取った。
「ここら辺を適当に回してくるといい。宇都宮、隣に乗ってナビしてやれ。」
「へいへい。よいしょっと。」
「え?え?」
混乱するパウルをよそに青年一等兵は側車へと乗り込み軽機を構え準備万端だ。
そして、パウルは二人の心遣いに感謝した。
「…ありがとう。」
「じゃ艦長殿、適当にこの辺運転してみましょう。操作方法は大丈夫ですか?」
「…うん、大丈夫。あのアニメ見て乗ってみたくて、ワクワク動画に上がってた操作方法見て何度もゼルシミュレーターで練習したから。」
鉄帽を被り野戦服を着た笹穂耳がシートへと座り直す。
大見の目には以前柏木に見せられたアニメのワンシーンが浮かぶ。
「じゃあ、行ってきます!」
「おう、行って来い。」
パウルはアクセルを数回吹かすと夢見てたあのアニメの様に陸王を走らせ始めた。
加速する陸王、風を切りパウルは陸王のエンジンの鼓動を感じていた。
世の中にもっと高性能なバイクはいくらでもあるだろう、しかし今この瞬間パウルにとって正しく陸王は陸の王者であった。
「(ああ、私陸王に乗ってるんだ…!!)」
「行っちまいましたね。」
「まあ、あの姉ちゃんにも良い経験になるだろうよ。」
陸王を見送った大見と中年一等兵。
一等兵は一升瓶を傾ける。
「そういえば何故ご自身が一緒に行かなかったので?」
「馬鹿野郎、酒飲みに風当たりの強いこのご時世、酔っぱらいがナビなんぞしてられるかよ。」
「なる程…。」
上等兵は木陰へと移動すると芝生の上にドカっと座り込んだ。
大見もその隣へと座る。
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「しかし平和ないい国になったもんだな…。」
「 ? 」
「バイク乗りが戦場へ行く必要もない、バイクに乗っても機関銃の弾が飛んで来ん。まるでバイク乗りの楽園だ。」
「…最期は?」
「昭和十九年レイテ島。海さんの方も頑張ってくれたが制空権も制海権も喪失してな…。」
「レイテ…ですか…。」
「俺の最期なんかいい方だ。同じ時期にレイテで逝った奴にゃ飢餓で死んだやつも多い。」
「………。」
暑さを和らげる南国の風だけが通り過ぎていく。
何も言わず一等兵は一升瓶の酒を懐から二つの小さなグラスを取り出し注ぐ。
「ほれ、"大尉"殿も飲め。」
「…御同伴に預かります。」
「折角だ、乾杯でもするか。」
「何に対して?」
「そうだな……、平和になった祖国とバイク乗りの楽園に対してなんてどうだ?」
「よろしいかと。」
芝生の上に上等兵は胡座をかき、大見は正座をし居住まいを正す。
軍人としての地位だけ見れば逆だが大見にとってはこれで良かった。
「平和になった祖国と。」
「バイク乗りの楽園に対して。」
「「乾杯。」」
少し涼し気な音がした。
438: 635 :2019/12/13(金) 06:58:00 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
以上になります。
転載はご自由にどうぞ。
なお大見一尉はこの後、中年一等兵とその友人なんかと交流を持ちますが会う度に月曜日が憂鬱な日曜日な気分に襲われます。
最終更新:2019年12月22日 11:06