995: 加賀 :2019/12/17(火) 21:22:44 HOST:softbank126002179255.bbtec.net
「それで……各都道府県の被害は?」

 官邸で鈴木貫太郎から総理の座を引き継いだ吉田茂総理大臣は怒りに震えながらも葉巻に火を付けて煙を味わう。その一服を終えてから大蔵省復興局長の下村治(辻)がゆっくりと報告を始めた。

「奴等が称する『九州島での独立蜂起』には九州地方だけでも博多、熊本、鹿児島、長崎が被害を受けています。他にも内地では此処東京を始め大阪、名古屋、広島、兵庫等が略奪、虐殺、放火等が行われました」
「警察の対処は?」
「……残念ですが警察の治安維持回復は現状では不可能です。奴等、何処からか仕入れた小銃や機関銃、果てには爆弾で応戦してきています」

 吉田の問いに国家地方警察本部監察官の後藤田正晴(安倍)は首を横に振って答えた。そして吉田が手に持っていた葉巻がパキッと二つに折れた。

「おのれ南めェ………」
『(だから半島には手を出すなと言ったんだ)』

 怒りで震える吉田を他所に下村達はそう思った。米国からの指示とは言え、釜山から逃げてきた韓国首脳部を易々と受け入れたのが間違いだったのだ。
 その吉田や米国の好意を向こうは踏みにじって九州は元より全国でその残虐性を現している。

「総理、此処は決断をしませんと無辜の国民がまたしても傷つきます」
「………分かった」

 下村の言葉に吉田は苦渋の末、決断をした。

「自衛隊に治安維持出動を命じる。自衛隊よ、かつての過ちを無くすために国民を救うために……立ち上がれ」

 本来であれば国会の承諾が必要だった。しかし、その国会に集まる筈の議員達もテロに遭遇し死傷者を出していた。また、陛下からも「吉田に預ける」と異例ながらも全ての下駄を吉田に預けたのだ。
 だが自衛隊ーー九州地方に展開していた陸上自衛隊は独断でありながらも蜂起した武装ゲリラ(呼称)に対して戦闘を開始していた。

「閣下、狙撃に狙われます」
「大丈夫大丈夫」

 部下の言葉に陸上自衛隊第四師団長の宮崎繁三郎陸将はにこやかに断りながらも最前線を視察する。

「どの具合かな?」
「もう殆どを博多市役所に追い詰めています。降伏するのは時間の問題かと……」
「果たして降伏するかな」

 参謀の言葉に宮崎はそう呟いた。

「九州地方を奴等の古来から伝わる九州島と位置付けているからね、最悪は玉砕まで考えないといけないぞ」
「では……」
「まぁ最悪の一つと捉えるべきかな。それと民間人の被害は?」
「……博多周辺だけでも3000の遺体を確認、更に負傷者は増える一方です」
「……酷いものだな」

 宮崎の顔が歪む。その様子を参謀は視線をそらす。そこへ伝令が走ってきた。

「博多市役所からの銃撃が更に激しくなりました!!」
「閣下」
「……やむを得んか。砲の支援射撃の元、突撃する!!」

 斯くして第四師団は蜂起発生から39時間後に博多市内での戦闘を終了するのである。民間人の死傷者は約8000人近く、平日に発生した事で学校、商店、鉄道等の被害が多く特に学校等は一クラス全員が死傷者を出す程であった。
 また、全国で発生した蜂起(暴動)も発生から三日以内に鎮圧が成功している。ただし、彼等の本拠地である対馬は二日で鎮圧している。それは何故か?離島であるはずの対馬が内地同様に早期に鎮圧出来たのは海上自衛隊の一個艦隊が展開していたからである。

「おぉ、『長門』だ……」

 陸自に救助され重体ながらも中年に差し掛かる男性は対馬の厳原の沖合いに投錨し砲身を島内にーー先程まで大統領護衛師団が立て込もっていた建物に向けて艦砲射撃をしていたーー向けていた。

「懐かしい……『長門』でしごかれた日々を思い出す……」
「おい!しっかりしろ!」

 最期に『長門』の姿を一目見れて、涙を流す男性は陸自隊員の腕の中で息を引き取るのであった。
 そして『長門』艦橋では島内に上陸した陸戦隊と陸自一個連隊からの報告を橋本は受けていた。

「島内の掃討は完了しています。島には奴等は存在していません」
「いや、念のために山狩りはする。必ず見つけ出して対処しろ」
「了解です」

 彼等は橋本に敬礼をし退出する。

「二戦隊の松田に伝えろ、瑞雲も出して奴等を見つけて叩き潰せ」
「長官、ソ連義勇海軍の動向が気になります」

 不意に参謀長の藤堂大佐はそう告げる。かつて『大和』航海長として『あの戦い』を経験しておりその勘の鋭さを橋本は気に入っていた。

「だろうな……もしかしたらひょっとするかもしれんぞ」
「まさか……」
「日本海はあの時と同じく荒れるかもしれんな……」

 対馬の山々を見ながらそう呟く橋本だった。

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最終更新:2019年12月22日 11:24