786: 弥次郎 :2020/01/09(木) 20:19:07 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

憂鬱SRW IF マブラヴ世界編SS「Zone Of Twilight」4




  • 融合惑星β世界 アメリカ合衆国アラスカ州ユーコン川北方 ソビエト連邦租借地
 国連太平洋方面第三軍・ユーコン基地外縁部 地球連合割り当て地



 アラスカの空気は冷たいものだ、と防寒装備に身を包むタケミカヅチはひとりごちる。
 この寒さは体の機械にもあまりよろしくはない。耐環境性においても十分な習熟が進んでいるAMS関連の強化施術だが、長時間極寒の中に晒されれば不具合も起こるだろう。まあ、その頃には人体の方も深刻なダメージを受けているので五十歩百歩だろうが。
 ユーコン基地の片隅に並ぶ富岳級をはじめとした大型輸送機群によって即興的に組まれた「連合区画」の所在する場所は、ユーコン基地の中心部からそれなりにはなれた区域にある。演習場などが周囲を囲んでおり、道もまばらで、どちらかといえば不便な場所だ。
だが、そんな場所をわざわざ借り切ったのも、MTやアンドロイドたちによる警戒網を厳重に敷いたのも、ひとえに連合から見てβ世界を信用できていないことの表れだった。
周囲は遮蔽物が無く丸見えでアンブッシュには適しておらず、遠隔地ということもあって周辺に建造物自体が少なく隠れての侵入も難しい。
尚且つ、輸送機群の周囲に突貫で建造された敷居---あるいはもう一つの壁---が侵入者を拒む構えだ。

「まあ、悪くはないかな」

 奇襲を受けた際の防御において、特に一定高度以上からの攻撃に対しては、展開している機動兵器や輸送機の対空兵器だよりなのが心細い。
まあ、そこまで露骨に武力を押し出していると相手方のいらない不興を買うことにもなるだろうからあまり必要はないだろう。
いくら負の方向へと補正がかかっているマブラヴ世界でも、BETAと戦いながらも連合と統合政府を相手取ることがどれだけ危険か分かろうというもの。
精々ギリギリのラインで最大限利益を得てこちらに吐き出させるつもりなのだろうが、まあそこは許容してやろう、とは思う。
 それよりも、とタケミカヅチは視線を巡らせ、巨大な空白地帯を見やる。そこは現在連合の重機やら作業用MTなどが入り、現在進行形で工事が執り行われている。何をしているかといえば、マクロス・クォーターでやって来る銀河の歌姫のためのステージ設営だ。
招待されるのは東西陣営問わずこのユーコン基地関係者たちや各国の衛士たち。本来ならば数日のライブで終わりとなるところだが、今回はβ世界におけるシェリル・ノームの売り込みのためのツアーという形であるため、2,3カ月は滞在する予定だという。
歌という文化が廃れている可能性があるため時間をかけて徐々に浸透させるため、となっているが、SMSが教導を行う期間に合わせているのだろう。
その決定自体に野暮なツッコミは無用というものだ。馬に蹴り殺されかねないし、シェリル・ノームの歌を長い期間の仕事の合間に聞けるという、金を寧ろ払ってでもやりたいような待遇の仕事に喜ぶスタッフにも恨まれる。

「うう、寒いですねタケミ君」

 そんなことを考えるタケミカヅチに声をかける女性が一人。タケミカヅチと同じくリンクスの制服の上から防寒着を着こみ、シバリングや手足を動かすことで体を温めながらも歩いてくる女性を、タケミカヅチはよく知っている。

「これは黒子先輩」
「先輩はなしですよ、タケミ君」

 現れたのは、どちらかといえば地味な印象の、そして落ち着いた大人の女性の風格を漂わせるリンクス「黒子御前」だった。
タケミカヅチと同じく大日本企業連合のアラスカ出向組のリンクスであり、地味に中堅ランカーとして長く地位を維持している歴戦のリンクスだ。
前世、日企連世界においても同姓同名のリンクスがいたが、所謂同位体という奴だろうとタケミカヅチは理解していた。
先輩、と呼んだように彼女はタケミカヅチよりもリンクス歴が長い。リンクスのランキングではタケミカヅチが上だが、先達への経緯は決して忘れていない。彼女もまた、前世・今世と大日本企業連合を、そして今の人生においては地球連合を支えた防人なのだ。

「それより、さっきの戦術機は見たかしら?」
「戦術機、ですか?」

787: 弥次郎 :2020/01/09(木) 20:20:13 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

「そうそう、ちょっと遠くを飛んでいたんだけどね、明らかにこっちを見ていたのよー。
 二機飛んでいたんだけど、急にドッグファイトを始めちゃってね」

 それでね、と黒子御前は問いかける。

「どうなったと思う?」
「まさか、その戦術機がドックファイトしているところに輸送機でも接近したんですか…?」

 黒子御前の問いかけに、どこかで聞いた流れだ、とデジャヴがタケミカヅチを襲う。
 ユーコン、二機の戦術機の飛行、ドッグファイト、接近された輸送機とくれば、導き出されるイベントは一つしかない。
 原作における主人公の一人、ユウヤ・ブリッジスとヴィンセント・ローウェルがやってきたということだ。
恐らく二機の戦術機はF-15・ACTVとSu-37UB。パイロットはそれぞれタリサ・マナンダルと紅の姉妹(スカーレット・ツイン)だろう。
ということは、ユウヤはSu-37UBに興味を持っただろうし、原作におけるイベントの一つが消化されたと判断していい。
 冷静に分析するタケミカヅチをよそに、黒子御前は言葉を続ける。

「ピンポーン。かなり無茶苦茶な空戦機動だったから輸送機が危ないってなったんだけど、良い判断をして一気に着陸したの」

 ハラハラしたわー、と黒子御前はにこにこと笑う。
 そうですね、とあわせながらも、タケミカヅチは視線をユーコン基地中心の方へと向ける。
 恐らくユウヤがここユーコンに訪れたのは、XFJ計画ではなく、恐らくフェニックス構想の戦術機のテストの為だろう。
F-15イーグルを安価に準第三世代戦術機へとアップグレードさせるという目的で進むこの構想は、先程述べたF-15・ACTVを始めとして、いくつかの戦術機開発が絡むものだ。聞いたところによれば、大西洋連邦はマグダエル・ドグラム社を介してこの計画・構想に参加しており、F-15の独自改修モデルをいくつか持ち込んでいるそうだ。大洋連合の蜃気楼などとは別口と言える。
 すでに原作からのかい離が始まっている。それをタケミカヅチは理解している。予めこのユーコンを舞台とした物語、トータル・イクリプスの話の流れや知識については覚えてきているのだが、すでに前提条件のいくつかは崩れている。
要所要所のイベントは恐らく大きく変更はしないだろうが、それでも違うところが既に生まれているということだ。
注意しておかねばな、とタケミカヅチは自分を戒める。夢幻会は筋書きを知ってはいるが、それは必ずのものでも絶対のものでもない。
寧ろ千変万化する、まったく流れの読めないものなのだ。人はこれを不条理と呼ぶがまさにそれ。

(ともあれ、始まるわけだ。このユーコンを舞台とした戦いが…)

 気を引き締めるタケミカヅチに、黒子御前は最初の目的を思い出して連絡した。

「そういえば、ユーコン基地から連絡があったわ。ユーコンの人員が揃ったら顔合わせも兼ねてミーティングをしたいって。
 大洋連合と大日本帝国と大西洋連邦を指名してきたということは、大人数になる前に分割で話を済ませたいのかしら?」
「恐らくそうでしょうね。両手の指では足りない国々からパイロット達が集まっていますから、打ち合わせだけでも一苦労ですし」
「頑張ってきてね、大洋連合AC部隊代表さん?」
「……腕前だけで決定するのって駄目じゃないですかね?」
「大丈夫よ。タケミ君、腕も立つし部隊指揮もこなせるから少佐相当官なんだから、もっと自信もっていいわよ。
 ロンド・ベルにも呼ばれているくらいなんだし」
「はい……」

 窮屈な仕事は苦手なんですけどね、と愚痴りつつも、タケミカヅチはおのれの仕事をこなすべく富岳級の機内に戻って準備を始めることにした。
 まずは唯衣に連絡だろうか。携帯電話の使い方は道すがら教えてきたが、果たして大丈夫だろうか。そんなことを思いながらも。

788: 弥次郎 :2020/01/09(木) 20:20:46 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp


 時間は少し巻き戻る。
 国連軍の大型輸送機An-225ムリーヤの機内、50人は入るキャビン内で立った二人の乗客のいる空間は、控えめに言って冷え切っていた。
そんな空気の発生源は、ほかならぬアメリカ陸軍所属の衛士であるユウヤ・ブリッジス少尉であった。傍らのヴィンセント・ローウェル軍曹が、長い付き合いになる衛士の彼に気を遣ってあれこれと話しかけたりしているのであるが、ユウヤの方は言葉少なで、
時には反応さえ示さないことがあった。代わりのように、ユウヤは苛立ちを隠さず、貧乏ゆすりをしたり、何度も姿勢を変えたりと落ち着きがなかった。
それはユーコン基地へのフライトが終わりに近づくにつれて酷さを増しており、流石にヴィンセントも限界であった。

「……なあ、ユウヤ。そろそろ機嫌直せって」

 色々と話題を振ったが、いよいよネタが尽きたヴィンセントは呆れと疲れをにじませて言う。

「ここでふてくされてもしょうがないぜ?ガキじゃあるまいし、拗ねてもしょうがないだろ?」
「……」

 対するユウヤは無言を貫いた。反応さえない。そんな友人にため息を隠さずついたヴィンセントは諦めて視線を窓の外にやった。
BETAにより荒廃した環境が広がるユーラシア大陸などとことなり、ここユーコンは、というかアメリカ大陸は自然というものを維持していた。
着陸ユニットの阻止のために大半が焦土と化したカナダという例外はあるが、後背国である南北アメリカ大陸はそういった最前線国にはないものがあり、アメリカで暮らし、戦術機の衛士や整備士として技術を磨いてきた二人にとっては既に見慣れた光景に過ぎなかった。
そんな見慣れた自然でもここユーコンは一味違う光景なのだが、それもユウヤには響かない。

(こんな辺境に左遷されて何が楽しいんだよ……)

 ユウヤにとってこのユーコン基地への出向というのは、紛れもない左遷と認識があった。
 ネバダのエリア51におけるF-22ラプターというアメリカ合衆国の誇る最新鋭戦術機の開発という誉れある任務を後味悪く解かれ、アラスカという辺境の地へと向かい、旧式戦術機の開発や研究を行う任務というのは、大いにユウヤのプライドを傷つけていた。
 彼とて、フェニックス構想が決して愚かな構想などとは言わない。実際、F-15Eは元々の機体からバージョンアップをすることで、第二世代最強と言われるスペックと信頼性を獲得するに至った素晴らしい戦術機なのだ。ラプター開発が遅れていることで、世界的に見ても配備数が多いF-15のバージョンアップという選択肢は理にかなっており、納得できる。
 だが、それにケチをつけたのがよくわからない国々による介入だった。曰く、横浜ハイヴ攻略戦時に使われた新型爆弾の影響で、かつて太陽系第三惑星として存在した地球の地表の国々は、全く異なる惑星へと転移したというのだ。
それだけで眉唾なのに、その惑星にやってきた「地球連合」とかいう連中が、戦術機の開発を聞きつけるや、自分達の技術を売り込みに来たのだ。
 たまたま引っ越した先で同じ商売の相手に出会い、善意という形であれこれと口をだしてを出してくるようなもの。
まして、自分はそんなはた迷惑な隣人の「善意」とやらを検証するために派遣されてきたのだ。これをどうやって肯定的にとらえろというのか。

(それに……)

 それに加えて、ユウヤにとっていけ好かないことにこの「地球連合」とやらの介入は大日本帝国にも伸びており、今回のアラスカでの任務においても関わってくるのだという。日本。これだけで十分にユウヤの精神を逆なでし、苛立たせるものだった。
F-4やF-15を盗作して戦術機を作っていい気になっている国がわざわざ戦術機の技術でトップを行くアメリカに講釈でもたれる気なのか。
大体、何が近接格闘戦だ。サムライだかニンジャだか知りはしないが、そんな前時代的な戦いをしているなんて頭がおかしいに決まっている。

789: 弥次郎 :2020/01/09(木) 20:24:15 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

 そんなことを思うのだが、最後に残る良心でヴィンセントの前で口には出さないユウヤだったが、ふとヴィンセントが急に静かになったことに気が付く。
もうすぐ着くのだろうか、それとも無視を決め込んでいた自分についに根負けしたのだろうか、そう思って顔を上げれば、ヴィンセントの姿は窓にぴったりと張り付いていて、何かを熱心に見ている。こっちのことも全く意に介さずに、だ。

「おい、どうしたんだよ?」

 ユウヤの声に、しかしヴィンセントは反応を示さない。聞こえているのだろうが、それ以上に光景に見入っているようだった。
おい、と呼びかけながらも、ユウヤは自分も空いている窓から外を覗きこんだ。そして、彼は見た。

「なっ……!?」

 その光景は、ユウヤのみならず、まともな感性を持つ人間ならば絶句してしまい、頭が真っ白になりかねないモノだった。
少なくとも、ユウヤはこれまでこんな光景を見たことはないし、想像したこともなかった。
 まず目につくのは、超然と並ぶ超大型の輸送機だ。現在ユウヤたちがのるAn-225ムリーヤは80m越えの大型輸送機であるが、眼前の滑走路に並んでいる輸送機はどう見てもそれ以上のサイズがある。目測が誤っていなければだが、直立した戦術機さえも余裕で納めることが出来そうだ。
 ついで衝撃的なのは、その輸送機の数だ。ざっと見たところ合計で40機以上は並んでいる。これが整然と並んでいるだけでも威圧感にあふれている。
これほどの数を揃えているなど、アメリカ軍であったとしても早々にはないだろう。まして、このサイズのものを、である。
 さらには、その輸送機群の周囲には多くの兵器らしきものが数え切れないほど存在していたのだった。戦術機より一回り小さな機体、あるいはさらに小柄な機体、中には戦術機を超えるサイズのモノまで悠然と闊歩している。そう、戦術機と同じく二足歩行の機動兵器だったのだ。
そのどれもが、ユウヤの知る兵器のいずれのものとも異なり、且つ、信じられない数点在している。

「あれが……地球連合って奴らの……」

 あんなものはソ連でも祖国アメリカでもない、全く未知の勢力のものとしか思えない。だとするならば、話に効く地球連合とやらの兵器なのか。

(クソッ、なんだってんだよ……!たかが輸送機と数が多いだけの連中だろ……!)

 一瞬の怯えを感じた自分を叱咤し、ようやくユウヤは冷静さを取り戻す。。
 気が付けば息が上がっており、いやな汗が軍服の下で流れているのを感じ取る。それは紛れもなく、ユウヤが未知に怯え、委縮した証左であった。
最前までの侮りは、得体のしれない連中への恐怖に塗りつぶされてしまったのだが、ユウヤはそれを意識せず感じなかった。
それが一種の自己防衛のようなものだと知るのは、彼の内面を覗き見ることができるものだけだろう。

「っ~~~~!すっげーな!オイ!ユウヤ、見たかよ!あれって西側でも東側でもないぜ!
 ということは、あれが地球連合って組織の戦術機とかなのか!?マジでレアなモンみれたな、オイ!」

 そんなユウヤと対照的に、ヴィンセントは感極まっていた。全く未知のものを見ることができた幸運に涙さえ流していた。
それもそうであろう、彼は生粋のメカニックだ。彼にとっては全く新しいおもちゃを遠目ながらも魅せてもらえたようなもの。
そんな感動は、ユウヤを顧みるということさえも頭の片隅から追いやり、興奮と熱狂でヴィンセントを突き動かしていた。

「なあ、ユウヤ!あれって一体どんな---」

 ヴィンセントの声は、しかし途中で遮られた。一体何を言おうとしたのか、ユウヤは知り得なかった。
 ただ一つ分かったことは、機内に危険を知らせるアラームが鳴り響き、同時にさほど遠くはないところから聞きなれた音が、戦術機が飛行する際に発する独特の爆音が轟き、それが自分たちの乗っている輸送機へと紛れもなく近づいていることだった。
そして、ランディングのために出力を絞っていたエンジンが急速に力を取り戻したのを感じ取ったユウヤはその身を操縦席へと向かわせた。
 衛士としての直感が囁くのだ、これは、とんでもなく不味いことになると。
 皮肉にも、地球連合の輸送機などを見たことで、それまでの苛立ちやらなにやらが吹き飛んで冷静さを取り戻したユウヤの判断は正しかった。
An-225ムリーヤには空中で格闘戦を繰り広げながら接近している二機の戦術機、F-15・ACTVとSu-37UBが迫っていたのだから。
 結論から言うならば、ユウヤとヴィンセントのアラスカでの任務は、波乱の幕開けを迎えた、ということであった。
 時にβ世界主観西暦2001年5月21日。融合惑星と地球連合のあらゆる国と勢力が間接的にしろ直接的にせよ巻き込まれ、陰謀術中を張り巡らせた暗闘を繰り広げることとなる、一連の騒動---「ユーコン事変」の幕開けとなる日の出来事であった。

790: 弥次郎 :2020/01/09(木) 20:24:51 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由にどうぞ。
駆け足気味でしたが、ユウヤ君側のプロローグという感じです。
原作であったところは殆どカットしたり、圧縮したりしております。
これで原作キャラと連合のキャラの辛みを書く時間とか余裕が生まれましたね。
あと、日企連世界のリンクスたちから霧の咆哮氏の出してくださった戦間期のリンクス「黒子御前」さんを登場させました。

さて、プロローグも大体終わったので、次からいよいよ物語本番ですかねぇ。
全話でどれだけになるか見当がついていないんですが、どう考えても20話近くZOTは続きそうなので、気長にお付き合いいただければ…
+ タグ編集
  • タグ:
  • 憂鬱SRW
  • 融合惑星
  • β世界
  • Muv-Luv
  • Zone Of Twilight
最終更新:2024年07月30日 23:42