396: 弥次郎 :2020/01/16(木) 22:15:08 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
憂鬱SRW IF マブラヴ世界編SS「Zone Of Twilight」5
タケミカヅチはブリーフィングルームに並ぶ人員を見て、大半がいつもの面子であることにある種の安心感を覚えていた。
大洋連合からはMSパイロットの中でも歴戦にしてMS黎明期からのパイロットでありベテランのランバ・ラル中佐、AC部隊の指揮官を押し付けられている自分。大西洋連邦からは歴戦のMS隊「ムーン・ハンターズ」隊のウィリアム・“オールド”・ハンター中佐と、その副官であるクラーラ・“プライベート”・ユノー中尉。聞いたところによれば、東アジア共和国からは孫春栄少佐、ユーラシアからは「ロート・フライシュッツ」中隊のロートス・リング大佐が来ているとか。彼等二人は今ここにはまだいないが、ロンド・ベルへの出向などで轡を並べていたり、あるいはいくつかの戦場で共に戦ったパイロット達が集まっている。
つまるところ、顔なじみのパイロット達が集合というわけである。
「ハンター中佐、またお会いしましたな」
「ラル中佐もご壮健そうでなによりです」
「お久しぶりです、ラル中佐」
「おお、ユノー中尉。一段と美しく成長されたようだ」
「まあ、御上手で」
気心の知れた仲だ、砕けた言葉を交わし、笑い合うのも当然。
(すごい……)
そんな彼らが朗らかに談笑しているのを一歩引いた位置から眺めているのは唯衣だった。
彼らの放つオーラというか、強者の気迫というか、風格というものを感じ取ってしまい、気後れしてしまった。
トヨアシハラから同道しているタケミカヅチもそうなのだが、彼等は自然体でさえ強さを分からせるようなものがある。
自分とそれほど年齢が変わっていないように見えるユノー中尉さえも、こちらがハッとするようなたたずまいだ。
唯衣の知る人物では巌谷中佐を思わせるような雰囲気だ。あるいは自分の教官を思わせるような、そんな逞しさを感じる。
(流石はあの激戦をくぐり抜けた猛者たち……)
自分も帝都防衛戦から訓練と戦いを経てきた、と自負してはいるのだが、彼等から見ればまだまだと感じてしまう。
事実、トヨアシハラで閲覧した彼らの経験した戦いは、BETAとの戦いなどよりも濃密で、もっと危険で、容赦のないものだった。
彼等にすこし、羨ましいような、嫉妬のような感情を覚えてしまう。自分に彼らのような力があれば、と。
無論自分が出せるベストは出してあの結果なのだからしょうがないと今は納得はしているのだが、少しばかり未練はある。
客観的に見れば、唯衣の低い自己評価癖がでてしまったのだが、まあ比べる相手が悪すぎるというか。
「ひゃい?!」
「ほら、篁中尉。せっかく連合のエースたちが揃っているんだから挨拶などしておいた方がいいぞ」
そんな唯衣の背を軽く叩き、タケミカヅチは戸惑う彼女を押してその輪の中に入っていく。かわいらしく抵抗するが、タケミカヅチはそんなことなどお構いなしだ。これから先、この程度で委縮されては困る。場数を踏んで肝を太くしてもらわねば。
「皆さん、彼女のことも忘れてあげないでください」
「おお、君が…」
「て、大日本帝国斯衛軍中央評価試験部隊『ホワイトファング』を預かります、篁唯衣中尉であります…!
今回はみ、皆様のご指導ご鞭撻をよろしくお願いいたします…!」
好奇の視線を受けながらも、何とか自己紹介をする。すこし恨みがましい視線でタケミカヅチを見てしまうが、彼は何処の吹く風と受け流してしまう。
「うむ、よろしく頼む。若いがその若さが武器となるな」
「ラル中佐もまだまだお若いですよ」
「わしも年だが、彼女の様な若い人間が成長してもらわねばおちおち引退もできんのさ」
ははは、と愉快そうに笑うラルだが、唯衣には少々きつかった。虎が笑っているかのような、そんな圧を感じる。
他のパイロット達も興味深げに唯衣に声をかけてきた。
397: 弥次郎 :2020/01/16(木) 22:16:09 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
「大西洋連邦のウィリアム・ハンター中佐だ。ムーン・ハンターズ隊を率いている。今回はフェニックス構想の件で世話になるな」
「大西洋連邦の……は、はい、こちらこそお世話になります!」
「ウチの技術供与は最前線国家向けでもあるから、是非とも契約をとってほしいと頼まれているのでな。
操縦技術の面でもそうだが、簡単に導入出来ておまけに安価な戦術機の技術ならウチに任せてほしい」
「ハンター中佐、日企連だって負けていませんよ?」
「おっと、そうだったな。だが、マーケットのニーズと現状に合わせた物を売るのもまた重要だ。
今ある機体をアップデートして技術力を高めて次世代につなぐ。重要だ」
それに、とハンターは続けた。
「死の八分などというのは正直腹が立つ。あんなものなど過去の概念にしてやるさ」
そういえば、と唯衣は大西洋連邦の完成させたXF-15V、大日本帝国における陽炎改について思い出す。
世界的に見て配備数が多く派生形の多いF-15を進化させるという構想で作られた戦術機のアップデートキットは、安価で、尚且つ技術的に見ても無理が無く、尚且つ現場の状況に合致した衛士の生存性を追求した戦術機となっていた。
「死の八分」とされる対BETA戦の初陣における生存の壁は、人的資源の大きな
アメリカを母体とする大西洋連邦でも問題視されたようだ。
だからこそ、攻勢なだけでなく、防御的な面での攻撃力を追求していたところが見受けられていて、唯衣としても感心するところがあった。
巌谷中佐をはじめとした帝国技術廠もその合理的な設計に対してはうなるしかなかったと聞く。
「……ありがとうございます。ですが、まずは我々ホワイトファングが導入し、試験を行い、より良い形として帝国に持ち帰らせていただきたく」
「うん、そうするといい。それに篁中尉もまだまだ若いパイロットだ。我々からさらに技術を盗んで帰って、学びを獲得してほしい」
「はい!」
うまいことマーケティングされたな、とタケミカヅチは苦笑いだ。まあ、フェニックス構想担当は大西洋連邦が行うことがほぼ決まっているので、その実働部隊であるハンター中佐が売り込みをかけるのも当然だ。ただ、ハンター中佐も慣れないことをしている自覚もあるのであろう。
タケミカヅチの抗議の視線をハンターは苦笑いで受け流した。
「まあ、大日本帝国に関しては大洋連合のラル中佐やタケミカヅチ君に任せるとしよう。なあ、中尉?」
「はい、ハンター中佐。我々の主任務はフェニックス構想への協力です。そちらに集中するのがよろしいかと」
一つ頷いたハンターは話し相手を他のパイロット達に譲る。ちょっとした争いになる程度には、唯衣は人気が出てしまった。
無理もない。彼らの様なベテランパイロット達にとって、若い後進のパイロットというのはとてもかわいらしいものである。
しかも彼女は若いながらもロイヤルガード、王族の警護を任されるいわゆるエリートで、尚且つテストパイロットを任される腕前を持つということ。
これには期待できる---彼等、地球連合のエースたちの認識は一致していた。彼等も彼等で戦い慣れしてしまっており、こういうところにも喜びを見出してしまうのだった。
(も、もう、なんでこんなことにー!)
好奇の視線にさらされ、質問攻めにされる唯衣は正直涙目だ。何が悲しくてこんな歴戦の勇士たちに囲まれてインタビューなど受けなくてはならないのか。
抗議の意味も込めてタケミカヅチに助けを求める視線を送るが、件のタケミカヅチはにこにこと笑ってこちらを眺めているだけだ。
結果、唯衣は暫くの間エースパイロット達に可愛がられてしまうことになった。
398: 弥次郎 :2020/01/16(木) 22:16:47 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
「ふぅ……やっと解放された……」
暫くおもちゃにされてしまった唯衣だったが、ミーティングの開始時刻が迫ったことをタケミカヅチが告げたことで解放された。
なんだかミーティングの前にすでに疲弊しきってしまったような、そんな気がする。体力というか精神が使い果たされてしまったようだ。
悪ふざけもしながらも話をしていた連合のパイロット達は各々席について資料をめくるなどしており、先程までの楽しげな空気は霧散し、至極真面目な、まさに軍人といった空気をまとって席についていた。
「緊張はほぐれたかな、篁中尉?」
「はい、タケミカヅチ殿。皆様にこうして歓迎していただけるとは恐縮の限りです…」
「それはよかった。
さて、事前のミーティングで通達してある通り、主体としては地球連合が戦技や技術を供与・提示し、それを各国からの派遣部隊がテストするという形になる。
今回のミーティングはそれの確認と担当する国の打ち合わせ、そして今回の計画の参加者の顔合わせ的な意味がある。
篁中尉も他国のパイロット達と交流して、情報や操縦技術などを積極的に学ぶためにもここでつながりを作っておくといい」
「……はい。私もまだまだ未熟。帝国の未来のためにも、多くをここで得ていきたいと思います」
「その意気だ。ついでに、仕事だけでなく篁唯衣個人としても親しくなれる人を探しておいた方が円滑に仕事ができるぞ。
個人の感情や組織の決め事を無理に押し付けず、自然体に接するといい」
そんなアドバイスに、唯衣は目をしばたたかせる。
「個人的に、ですか?」
「何も仕事一辺倒になる必要などない。適度に肩の力を抜いて、素の自分をちょっとでも見せてやればいい。我を張るのだけが全てじゃない。
……過干渉はするのもされるのも嫌いだが、君の後見を巌谷中佐には任されているからな、これくらいはアドバイスなりなんなりさせてほしい」
「はい…」
仕事だけではなく、プライベートでも信頼し合える中にまで。これは原作を知るタケミカヅチなりのアドバイスだった。
原作においては、首席開発衛士であるユウヤとの間で、様々な要因があったとはいえディスコミュニケーションでかなりギスギスしていた。
実際のところは同族嫌悪というか、似た者同士故の噛み合いの悪さというか、意外と頑固で理想主義的な面が悪い意味でぶつかり合ってしまった結果だった。
その後は様々なことを経て背中を任せ共に脅威に立ち向かえるほどにまで信頼し合う仲となったのだが、それへの一助となればと思っている。
何しろ彼女は原作以上の重責を背負っていた。ホワイトファングという一部隊を率いて、供与された技術のテストを行い、他国の戦術機に対する知見も深めるという多くの任務を遂行しなければならない。それが悪影響を及ぼすことを巌谷は懸念し、タケミカヅチに個人的に頼んでフォローをするよう依頼していた。そんな彼女が余裕を以てユウヤと対することができるか。
(面倒ごとではあるが……やるだけの価値はあるな)
まあ、なるようになれ、だ。
そう結論付けた時、ミーティングルームにアラスカ・ユーコン基地側の人員が入って来るのが見えた。
姿勢を正し、意識を切り替える。いよいよお仕事の時間だ。タケミカヅチもまたタブレット端末でミーティングの資料を呼び出した。
これより始まるのは唯衣とユウヤのファーストコンタクト。両者のすれ違いが露骨に表れていたイベントだ。果たしてどうなるか。
399: 弥次郎 :2020/01/16(木) 22:17:30 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
ミーティングルームに入って感じたのは、うっと息が詰まるような緊張感だった。
広いミーティングルーム、もはや巨大なオフィスの会議室といってもいい広さのそこは、そんな緊張感を漂わせた多くの軍人たちによって占められていた。
着任したユーコンの試験小隊---アルゴス小隊とその他関係者達十数名のスペースが片隅にしかならなくなる程度には、彼らは多くいた。
見たことが無い軍服、しかも複数の種類があることから、地球連合とやらの衛士たちなのだろうと察する。
パッと見たところ、人種は様々だ。アジア系、欧州系、中東系、ロシア系、出身は分からないが浅黒い肌の衛士もおり、統一性があまりない。
(なんだよ、こいつら……)
だが、そんな彼等からは、まるで自分達が主役の様な、あるいは主役となるのはお前たちではないと言っているかのような疎外感さえ覚える。
こちらに向けてくる視線は容赦なく興味深げで、鋭い視線を送って来る者もいる。負けじと視線を鋭くするが全く応えていないようだ。
むしろ、面白そうに受け止めて見返してくる衛士までいる。
この感覚を、ユウヤは直近に経験しているということに思い至る。このアラスカに到着する寸前、自分の乗る輸送機に対して、アルゴス小隊とF-15・ACTVとソ連のSu-37UBの戦術機2機が「偶然」接近し接触しかけた「事故」。その時にソ連のSu-37UBから感じた“凄み”のようなもの。
暫しそれに圧されていたが、やがて慣れるものだ。そして割り当てられている席へと腰かける。そこでようやく、ユウヤは多種多様な軍人たちに混じる人種に気が付いた。
(……チッ!)
日本人だ。自分達の隣の集団には、アジア系の中でも日本人が混じっていたのだ。
努めて表情には出さない。だが、内心舌打ちをし、また苛立ちを覚える。こんなへき地にいるはずがないと思っていたが、そうでもなかったらしい。
一人は女性で、紙の資料を真剣に読みふけっているようでこちらに全く見向きもしない、まるで日本人形のようであった。
もう一人ユウヤの目についたのはリラックスした様子で自分だけを観察して来る男だった。近くにいる女性とは違う軍服を纏っている。
自然体で、緊張も何もないかのようなそんな自由な雰囲気だ。それがなぜかユウヤにとっては腹立しかった。
同じアルゴス小隊のVGのようにおちゃらけているというわけではなく、ふざけているわけでもない。当たり前のようにそこにいて、何の気負いもないかのように振る舞っているのだ。こちらはミーティングルームに入った時から緊張しているというのに。
(緊張……?)
そこでユウヤはようやく自分が緊張して委縮しているのだと理解した。
何を馬鹿な、と否定しようとするが、委縮しているのは紛れもない事実であった。
(くそ、焼きが回ったか…?)
苛立ちはさらに募る。ほかならぬ自分のことだ、間違いではないと思う。
だが、こんな程度で緊張するなど、そこら辺のガキでもあるまいしありえないと否定したかった。
こういうところは、口や心情としてはあれこれと思うところがあっても結局は真面目に取り組もうと前向きになるあたり、そして真面目に考えてしまうが故に過度な緊張をしてしまうところは、どこのだれとは言わないが非常によく似ていた。
そして、ミーティングが始まる。
まず、参加する国の部隊とその部隊長などをユーコン基地側と地球連合側で簡潔に紹介し合う。
その次にやったことは今回のユーコン基地アルゴス小隊が担当することになるフェニックス構想の戦術機についての紹介と確認であった。
元々配備されて試験が行われていたのはチョビ---タリサ・マナンダル少尉も乗っていたF-15・ACTVであったが、
地球連合の大西洋連邦側からフェニックス構想に基づいて開発された試作機XF-15V「ヴァリアブル・イーグル」を加えて、F-15をベースとした戦術機同士で比較試験を行うことになると発表された。
400: 弥次郎 :2020/01/16(木) 22:18:11 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
また、それとは別系統で地球連合の大洋連合が持ち込んだ戦術機PUF-94S「蜃気楼」を交えた技術検証及び戦技研究が並行して実施され、技術的な物だけでなく、衛士の操縦技術に関しての教導及び研修が行われるということが告げられる。
そして、それらはアルゴス小隊だけでなく、大日本帝国から派遣されてきた「ホワイト・ファング」小隊でも実施され、収集されたデータをアルゴス小隊のそれと比較検証することで次の開発段階に向けた判断材料とし、さらなる発展を目指すとのこと。
(馬鹿馬鹿しいな……茶番か出来レースじゃなねぇか)
ここまで聞いた時点で、ユウヤのやる気は、もともと低い状態であったが、さらに削がれていた。
まず忌々しい日本人と共に仕事をこなさなければならない点。
ついで、この計画が予定通りに進むであろうことを完全に見越したうえで次の段階まで進むことを考慮している点。
一つ目に関してはまだ我慢できる。直接顔を合わせることは多くはないだろうから、アルゴス小隊内部でデータ収集をやればいいだけの話だ。
だが、二つ目に関しては癪に障った。本来、こうした綿密な計画は現場でテストを行う衛士たちからのフィードバックも交えて適宜修正し、場合によっては方向性を変えたりスケジュールを調整するなどして進めるものだ。だが、これでは最初から出る結果が分かり切っているようではないか。
だとするならば自分がわざわざ試験する必要が無いのではないか---そんな邪推さえ浮かんでくる。
加えて言うならば、実力がよく分かっていない地球連合の連中が教導を行うというのが癪に障る。開発衛士としてキャリアを積んだユウヤは、言うなれば選び抜かれたエリートだ。実戦経験こそないのだが、それでも最新鋭機であるF-22の開発を任される腕前はある。
そんな自分に対して上から教導できるほど腕前があるのかどうか---もしなかったとしたならば、自分としては我慢ならない。
さらに、だ。地球連合からの派遣組には、企業の囲い込む傭兵が混じっていたのだ。
ここで解説するが、C.E.世界やマクロス世界ほど企業が発展して私設軍事組織や自社防衛軍を保有していたり、あるいは傭兵や傭兵を多数擁するPMCが大いに発展している世界というのは融合惑星においては例があまりなかった。
アマルガムやミスリルのような組織があるα世界はまだいい。だが、β世界などは正規軍の維持だけでも手一杯であり、企業がそんなことをするとすればテストパイロットなどを少数抱える程度で、大規模な軍事組織を抱えるなどあり得なかった。
加えて、社会的な信用度や普及度でいえば傭兵というのは正規軍より一歩劣るものというのが相場が決まっていた。
そんな常識のユウヤからすれば、たかだが企業が抱えている傭兵が自分達への教導などできるのかと疑っており、
わざわざ傭兵を呼んで仕事を依頼した地球連合の正気を疑ってしまった。それが追い打ちとなってモチベーションを下げていた。
だから、ミーティングが終了した時点で思わずため息が漏れてしまったのだ。あまり大きくしないようには注意していたのだが、生憎とそれを見逃してくれるものではなかったらしい。
「不服そうだな、ブリッジス少尉」
そんな声が、机を飛び越えてユウヤの耳に届いた。
台詞とっちまった、と内心焦りながらも、案の定ふてくされているユウヤに対してタケミカヅチはそんな言葉を投げかけていた。
思わず口を台詞がついて出てしまったのだ。まあ、悪くない。事実、ユウヤは不服というか不満を抱えていた。
大方、元々左遷だと思っていたところに、日本人である唯衣と共に仕事をすることになったのがいやだったのだろう。
加えていえば、地球連合の連中が大きな顔をしているのが腹立たしいと予測できた。
401: 弥次郎 :2020/01/16(木) 22:18:45 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
まあ、この程度のすれ違いだとかちょっとしたトラブルなどよくあることだ、とタケミカヅチは別段おかしいとは思っていない。
本来ならばこの後色々とイベントをこなして唯衣とユウヤは互いの間にある壁を乗り越えて相互理解をしていくのであるが、生憎と今回はそうもいっていられない。アルゴス小隊の中で完結した話ではなく、ユウヤが持つ連合への隔意を砕いておく必要があるのだ。
……などと言い訳がましく言っているが、要するにタケミカヅチとしては口を出してしまったことへのフォローに追われていたのであった。
割と人が残っている段階でユウヤのため息を拾ってしまい、それに言及したので、人の目が集まっているのもある。
「いいえ、不服はありません。少佐殿」
わざわざ少佐のところを強調して来るとは、煽りの技術はあるらしい、と知らずのうちにタケミカヅチは笑みを浮かべてしまう。
今回タケミカヅチは所属元である大日本企業連合のムラクモ・ミレニアムから大洋連合に雇われた傭兵という形でここにおり、その際には大洋連合の少佐相当官という地位を与えられている。役目としてはAC部隊の管轄を行う部隊長といった体裁だ。
だが、正規の軍人という体裁はあっても傭兵は傭兵。傭兵というものがあまり地位や信頼を得ていないβ世界の人間らしく、ユウヤは何らかの不満ややっかみを感じているのだろう。あるいは、なめてかかっているのか。
「そんな顔で言われても説得力に欠けるぞ、少尉。顔に書いてある」
ついでに言えば地の文にも、と少々メタなことを考えてしまい、タケミカヅチはまた笑みが深くなってしまった。
それをあざけりか、揶揄いと受け取ったのか、ユウヤの機嫌は明らかに悪化した。
「不満はありません、少佐殿。これほど綿密に事前の情報を提供していただいておりますので」
「ふむ、確かにスケジュールや今後のプランについては十分な情報を与えていると思っている。
だが、少尉が不満だと思っているのはそこではないようだな」
ありません、というユウヤの否定を敢えて無視して断言し、ついでに指摘してやる。煽られたので煽り返してやる。
どちらが先に我慢できなくるかのチキンレースだ。気分は断崖絶壁目がけ突っ走る車に乗っているような感じ。
「貴官は…そうだな、色々と思うところは多くあるのだろうが、例えば我々の誰かと仕事をするのが嫌だ、と反射的に思ってしまっているのだろう?」
「……ッ!」
敢えて、誰とは言わない。間違いなく同じ日系人や日本人との共同任務というのを嫌っているのは分かり切っている。
反応を見て図星か、とタケミカヅチは頷いた。まあ、事前の資料で少なからずわかっていたことであるし、原作を知る身としてはなおさらいえることだ。
日系の血という、どうしようもないモノに対して、それに苦しめられたユウヤは折り合いをつけることが出来ずにいるのだ。
壮絶な過去の経験がユウヤにはあるのだ。それを安易にわかったようなことを言うのは煽りを抜きにして失礼にあたるだろう。
だが、そんなことなど知ったことではない。円滑にこのユーコンでの仕事をこなすにはそこらへんも砕いてやらねばらならないと考えている。
目を背けず、言い訳せず、過去と向き合うこと。そうでなければ何時まで経っても過去の奴隷だ。
402: 弥次郎 :2020/01/16(木) 22:19:35 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
「それとも、別件だろうか?そういえば、米軍では近接格闘戦闘をあまり用いていないと聞いているが、その近接格闘戦闘を前提に戦術機のドクトリンを構築している大日本帝国が気に入らないか?格闘戦が身を救うこともあるのだぞ?
サムライだとかニンジャだとか、早々に馬鹿にしたものではないのだからな。前時代的というわけでもないぞ」
「いえ、そういうわけでは……ッ!」
タケミカヅチはユウヤの心情をずばり言い当ててやった。口では否定しているが、その態度や物言いからどう思っていたかは明白だ。
こういう時に原作を知っていると強いのだ、殊更煽り合いになった時には。そんなことをおくびにも出さず、追撃を繰り出す。
「私情があるのは察するが、それを公的な場にまで押し出されてはこちらが迷惑でな。兵士としての義務(コールオブデューティー)を遂行してほしい」
ぐっとユウヤが歯を食いしばった。こりゃ相当キてるな、と他人事のようにタケミカヅチは思う。
ともあれ、言い合いは、煽り合いともいうが、こちらの優勢状態だ。
「私が言うべきは以上だ。あとは大西洋連邦のハンター中佐にお任せしようか」
「タケミ、そこまでしておいてこっちに振るのか!?」
「お任せしましたよ、中佐。同じアメリカ系同士仲良くしてやってください」
あえて、アメリカ系と言ってやる。煽り合戦はこれで勝ちだ。何がとは言わないが、ともかく勝った、と思う。
受け流すことが出来なくなって我慢の限界を超え、プッツンした方の負けなのだ、煽り合いというのは。
一方、ユウヤ・ブリッジスは激怒した---とまでは行かないが、ユウヤは怒りが沸点を超えるのを感じ取っていた。
だが、それを抑えるなどできはしなかった。辛うじて上官たちのいる手前堪えているが、それでも怒りが表情に出てしまった。
元はといえばユウヤが慇懃無礼に煽ったことを契機としているのだが、そんなことを冷静に考えるなどできはしない。
この偽名野郎め、とユウヤは内心毒づいた。自分のことをどれほど知っているか分からないが、癪に障る。
言い返してやりたいところだが、本当ならば罵詈雑言をあらん限りぶつける所だったが、上官の手前それを堪える。
というかドーゥル中尉は先程からやり取りを聞いているので、ここで言う言葉を間違えれば、自分が叱責を受けかねなかった。
頭に血は登っていたが、それを判断するくらいの冷静さは残っていた。
話を振られたハンターは少し困った顔をしていたが、やがてこう提案した。
403: 弥次郎 :2020/01/16(木) 22:21:00 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
「……そうだな、今後のために軽く模擬戦でもやっておこうか、ブリッジス少尉」
「は?」
「貴官にもテストしてもらうことになるXF-15V…ヴァリアブル・イーグルについての資料は事前に閲覧しているだろうが、まだどういった物かはよく知らないだろう?ならば、こういった場ならではの方法で理解してもらおうと思ってな」
こういう場。なるほど、こういう開発の場での方法といえば一つしかない。
「ドーゥル中尉、少しばかり演習場をお借りできますか?あとは戦術機とブリッジス少尉を。
あとは……ああ、確かCASE:47においてはエレメントを組んで行うのでしたな?よろしければその人員も」
そうきたか、とユウヤは息をのむ。CASE:47とは「戦術機を用いるテロリストとの戦闘」を想定したカリキュラムの一つだ。
所謂対人戦闘(AH)となる。もっぱら、実際の戦場の状況を想定し、最小単位である2機1個小隊のエレメントで行うのが通例だ。
上官のドーゥルはと見れば、少し考え込んでいたが、やがて了承を示した。
「良いでしょう。丁度アルゴス小隊の歓迎のための“演習”の件もありましたので…」
「ありがとうございます。では、我々は準備に取り掛かります」
好都合だ、とユウヤは内心ほくそ笑む。
この傭兵もそうだが、自分達への教導を担当し、さらに戦術機を持ち込んでテストさせるという大西洋連邦の連中も気に入っていなかった。
実力もよく分かっていない、それどころか大西洋連邦というのがどういった国であるのかすら曖昧な、わけのわからない連中。
そんな連中が大きな顔をしているのが、そして他国の計画にずけずけと乗り込んでいることが、どうしてもおかしく感じる。
ごく当たり前に受け入れている連中の気が知れない。騙されているんじゃないかとさえ、ユウヤは疑っていた。
「良き勝負としよう、ブリッジス少尉」
「はい。そうなるように願いましょう」
皮肉交じりの返答に、しかしハンターは朗らかに笑うばかりで気にした様子はない。
ただ、ハンターの副官として控えるユノーはユウヤの意図するところを察したのか、その双眸を鋭くし、ユウヤをけん制した。
だが、そんな反応など分かり切っていたユウヤは気にも留めず薄い笑みを浮かべて冷たく見返した。こんな程度で反応するなどそこが知れるというものだ。
404: 弥次郎 :2020/01/16(木) 22:21:53 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
「それと……一つ具申をよろしいでしょうか?」
「構わん」
「そちらの、大洋連合の傭兵のタケミカヅチ少佐殿との模擬戦を希望します」
「ほう、一対一の戦闘をお望みかな?」
首肯したユウヤをみて、タケミカヅチの実力を知る唯衣は一周回って顔を真っ青にした。こいつは正気か、と。
ユウヤのプロフィールや簡単な経歴を知る唯衣であったが、どう考えてもその経歴があったとしてもタケミカヅチに勝てる未来が考えられなかった。
事実として近衛の衛士達が同じ戦術機に乗っているというのに簡単にあしらわれてしまい、また、かつて経験した戦いを追体験してどれだけの技量かを知った。
確かにユウヤの腕は決して悪くはないのだろう。だが、あまりにも分が悪すぎる相手だと判断せざるを得ない。
(やめておいた方がいいぞ、ブリッジス少尉……!)
思わず同情の視線を送るが、ユウヤは気にも留めない。
明らかに日本人、少なくとも日系人の偽名傭兵、タケミカヅチとかいったか、あの男だけは一発入れて分からせてやらなくてはと考えていた。
何が格闘戦が役に立つ、だ。前時代的な古い妄執につき合う暇などない。傭兵風情がしゃしゃり出てくる必要などない。
ただでさえ苛立ちを覚えていたところにタケミカヅチに煽られて、それに乗ってしまったのだ。この行動も自然の帰結であった。
「ではこちらも、大西洋連邦に倣って蜃気楼を出すとしよう」
「少佐殿、しかしあれは…!」
「問題ない、篁中尉。遅かれ早かれお披露目することになっていたのだから、演習で動きを見せてどのような戦術機かを知ってもらう方がいいはずだ。
貴官も動きもしない人形を見せられるよりマシだろう、少尉?」
「は、傭兵という職の少佐殿がどのように見せてくださるのか見ものであります」
明らかに嘲りと挑発がその言葉にはあった。
「ブリッジス少尉、貴様…!」
「はっ、失礼いたしました」
ドーゥルの怒声がユウヤを襲うが、特に気にせず形ばかりの謝罪をする。
先程のハンターへの言動と言い、喧嘩を売っていることはどう見ても明らかだ。
言外に自分達の方が優れており、お前など相手にならないとユウヤは言っているのだ。仮にも階級が上位の相手に言うことではない。
だが、肝心のタケミカヅチはフッと鼻で笑って受け流す。激高しかけたドーゥルをタケミカヅチは名前を呼んで制する。
タケミカヅチは特にこの程度の発言など気にしていない。というより、ユウヤが勝手に自分の退路を断って自滅に突っ走っていることに、哀れみと同情さえ覚えている。正しく蟷螂の斧。こちらのことをよく理解もせず、自分の価値観だけで判断して突っ走る。
まあ、これも若さというものだろうかとタケミカヅチは納得する。若さとは良いものだ。自分は精神年齢的に年を食い過ぎていて、そういった若さゆえの勢いだとか過ちだとかをさっぱり経験しなくなって久しい。
(いいなぁ、若さってのは)
ともあれ、これでこの後のスケジュールは決まった、とタケミカヅチは楽しげに思う。
アルゴス小隊と、地球連合側のエースたちの交流のための余興としての模擬戦闘演習。原作とは少し違う流れだが、楽しめることだろう。
ユーコン基地に衝撃を与えることとなる演習開始まで、あと2時間余りとなった時の事であった。
405: 弥次郎 :2020/01/16(木) 22:22:52 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
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なんかめっちゃ長くなりました…が、まだ足りていない所もあるので、補足の話を書こうかなと思います。
各々の陣営でどんな反応があったかとか、ですねぇ。
ZOT、どれくらい長くなるかなぁ…まあ、御付き合いよろしくお願いいたします。
最終更新:2020年01月20日 21:19