601: 弥次郎 :2020/01/27(月) 22:19:04 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
憂鬱SRW IF マブラヴ世界編SS「Zone Of Twilight」短編集
Part.1 月の狩人達
- 大西洋連邦所属 サンダーバード級空中輸送機「ホークス」機内 格納庫
ウィリアム・“オールド”・ハンターはメカニック班の古参であるトム・ヴィンセンス少尉に説教を受けていた。
彼らの背後では大西洋連邦が開発した戦術機であるXF-15V2機がメンテナンスベットに固定された状態から解放され、演習前の各種チェックと模擬弾を搭載した火器への換装作業が突貫で行われていた。その作業の音はかなりあるのだが、ヴィンセンスの声はそれを容易く超えてハンターの耳を貫いていた。
「あのですねぇ、中佐!いきなり喧嘩を買って来るって何なんですか!?こっちは運んできたMSとかの点検を順次やって行こうかって計画してたのに、顔合わせの後にいきなりやってきて『急遽演習をやることになったから2機分の調整とメンテナンスをやってくれ、突貫でな』とか、ふざけてます?」
「俺は悪くない……」
「そういう問題じゃないんですよぉ!こっちに持ち込んだ兵器は多いから整備は慎重を期さなきゃいけない上に、今回はやたら警備がついているからやりにくいったらありゃしない!そんな中で急な仕事を放り込まれた気持ちわかりますぅ?」
ヴィンセンスの怒りはもっともだ、とハンターはしゅんとするしかない。
ハンターとて、整備班の都合については把握していた。だが、こういう「交流」というのも、この研究・開発を進めるユーコン基地らしいと思っていたし、舌戦で決まってしまうのはパイロットしては些か不満が残る決着方法だ。ならば、腕前を競い合うことで決着するのが双方納得する方法で、尚且つ「らしい」ではないか。だが、そんな理屈もあまり通用しないらしい。
「……すまない」
「まあ、中佐を始めとしてパイロットの皆さんはそれでいいと判断したんでしょうから、整備班としてはそれに答えるだけですけどねぇ」
ヴィンセンスは諦め顔だ。吐き出すだけ吐き出せば、少しは冷静さが戻って来る。
話を聞いた限りでは、ユーコン側の衛士の売った喧嘩を流れで買い取り、こちらの実力などを教えてやろうという判断をしたのだという。
ハンターからすればこの手の跳ねっ返りのパイロットなど戦闘機のパイロットの頃から見慣れているものであるし、相手がアメリカ合衆国の最新鋭戦術機の開発を任されるような衛士、つまり相当な腕前のパイロットであるということで、その実力が気になってしまったのもあるのだろうとヴィンセンスは長い付き合いだからこそ理解できた。これはある種の本能だ。
互いの力量をぶつけ合いたいという、戦士だからこその欲求なのだ。理性による理解もそうだが感情の納得も必要。
その為だとするならば安いものだ、と思うしかない。とりあえず言いたいことは言い切ったヴィンセンスは、コクピットに上がるよう促した。
602: 弥次郎 :2020/01/27(月) 22:19:38 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
『中佐、聞こえますね?』
「ああ、感度良好だ」
キャットウォークからコクピットへと滑り込み、外のヴィンセンスとの通信をつないだハンターは機体設定の画面を呼び出す。
『では、中佐。機体の調整なんですが、実のところは大体終わってます』
「ああ。必要なのは個人の操縦傾向に合わせた微調整だけのようだな」
ハンターの指摘にヴィンセンスは頷く。
大西洋連邦のユーコン出向部隊はあらかじめ持ち込んだ戦術機のOSとCPUにパーソナルデータを登録しており、パイロットが変わる際には誰がのるかの調整を行い、機体側にちゃんと反映されているのかを確認するだけで乗り換えができるようにしてあった。
ハンターも事前にこの戦術機---XF-15Vでの慣熟訓練を行っており、すでに十二分にデータ蓄積は完了していたのだ。
ことさら、ハンターの反応性や総合的な操縦技術は「ルナ・ハンターズ」内部でも飛びぬけており、ヴィンセンスをして、「伊達や酔狂ではない」と言わしめるほどこの戦術機の限界を飛び越えるものだった。
『ええ。調整と言いますが、実際には中佐が機体を壊さないようにリミットを定めてあるので、それを確認してもらう作業です』
「最初はうっかり壊し過ぎたからな…」
『中佐はまだましな方ですよ。黎明期のMSに触れているんですから』
「個人的にはダガーよりさらに技術的に未熟な兵器だぞ、コイツは…」
そりゃあ他のパイロットは苦労するわけだ、とヴィンセンスは頷きながらもハンターがコクピットで行う微調整の数値を確認し、OSやCPUに入力し、ご主人様(パイロット)に従順になるように機体を躾てやる。今回行う調整は本来なら操縦系において、操縦を円滑に行えるように一定程度設ける「遊び」を、反応が鋭いハンターに合わせてかなり大きくセットするものだ。
これによってパイロットの反応に忠実に追従する操縦が出来なくなる代わりに、機体が追従できずに逝かれるのを防ぐことができる。
反応が鈍くなることで当然いつもの操縦と勝手は異なるのだが、そこはハンターがマニュアルで合わせることになる。
まあ、そのマニュアル操作をミスすると最悪の場合空中分解などを起こしてしまいかねないので、過信は禁物だ。
ともあれ、操縦で壊してしまって事故を起こさないようにセーフティーをかける必要がある。それが今回の調整だ。
『中佐もよくもまあ、こんなのを動かす気になりましたねぇ』
「たまにはいいものだぞ。昔を思い出す」
ハンターは機動兵器黎明期、即ち地球連邦との交流の中において機動兵器の研究を行った先駆者の一人でもある。
今のようにOSやハードウェアなどが十分に発達しておらず、パイロットの能力に多くを依存した、全く未知の兵器を動かし続けた男。
ある意味では、ハンターにとってこの戦術機というのは温故知新というか、原点回帰に近いのかもしれない。
『中佐、どうですか?』
「うーん……と、よし、もう少しここを弄って……OKだ」
『……だいぶギリギリを責めていますね?』
「相手がアメリカ軍のエリートと聞いているからな。こちらもできる限り全力で行かないと失礼だ」
ですなぁとヴィンセンスは肯定する。相手となるのはアメリカ陸軍において開発衛士を務めていた日系アメリカ人と、グルカ族の血を引く女性…というか少女といってもいい外見の衛士の二人だ。片方は言うに及ばず、もう片方は、最前線での経験が豊富なパイロット。
ハンターからすれば、両方の立場を経験しているがために、どちらの衛士も「期待できる」というわけだ。
『はい、完了です。自分はユノー中尉の方に移りますので、後はよろしくお願いします』
「了解だ」
演習開始まであと1時間余り。ハンターは湧き上がる興奮を抑えきれずにいたのであった。
603: 弥次郎 :2020/01/27(月) 22:20:21 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
Part.2 青天の霹靂をもたらすもの
「あ、あの、タケミカヅチ殿……」
「どうした、中尉?」
「やはり蜃気楼は出すのでしょうか…?」
「そりゃあ、まあ、出すといった手前、ひっこめるわけにもいかない」
タケミカヅチの言葉に、唯衣はがっくりとうなだれた。
富嶽級の機内にあるハンガーで最終調整を受ける蜃気楼を前に、唯衣はタケミカヅチと話をしていた。話題となっているのは、やはりこの後に実施される演習についてであった。異色の一対一の対人戦闘演習。唯衣も経験はあるのだが、こうした試験部隊でやるのは例がない。
というのも、そもそもCASE:47自体が各国が暗黙の了解で行っている訓練であり、起こりうる状況としては最小単位であるエレメントを組んでいるのが普通だ。
それを抜きにしての一対一の戦闘など、実践的な演習を行うことでデータ収集などを図る実験部隊では無駄な演習と言わざるを得ない。
ありえなくはない状況想定だが、その可能性はごくごく低い。優先度が他の状況想定より低すぎる。
加えて、唯衣は戦術機「蜃気楼」は、不知火の皮を被った全くの別次元の戦術機であると知っている人間だ。
設計自体は94式不知火を踏襲しているとのことであるが、その実情は全く違う。それだけ連合の技術が優れているということであり、如何に彼我の技術世代格差があるかを如実に示していた。そんな戦術機を使って一対一をやればどちらが勝つかなど目に見えている。
「しかし、それでは公平性に欠けています。互いの実力を知るための『親善』とはいえ…」
「だからこそ、という面があるのさ、中尉」
「はい?」
うーん、と両腕を上に伸ばしてストレッチを軽くするタケミカヅチは、若干のやるせなさを覚えながらも唯衣に教えてやる。
「勝つことなど簡単なことだ。こういった演習では全力をぶつけ合うのも礼儀と言える。
だが、勝ち方にも気を遣わなくてはならない。殊更こっちが勝てる時にはそうであるし、今後のことを考えれば大人げない勝ち方など避けるべきだ」
わかるかい?と問われ、唯衣はしばし考えたが首を横に振る。
「申し訳ありません……私にはあまり」
「まあ、これも一種の世渡りの手法なのさ」
唯衣にとってはあまり縁がない駆け引きだろうとタケミカヅチは当たりを付けていた。
「ブリッジス少尉の態度を見る限り、仮に演習でこちらが勝とうが負けようがよりややこしい事態になることは目に見えている。
だとするならば、相手に言い訳の余地のある敗北を与えてやればいいのさ」
「言い訳の余地がある…?」
「そう、あれは不公平で、どうやっても負けてしまってもしょうがなかったのだ、という言い訳が彼には必要な状況なんだ。
彼とて一角の衛士だ。プライドもあれば面子もある、あの場にいた人間の前で大口を叩いたという事情を背負い込んでいる」
言うなれば、背水の陣、というわけだ。負けてしまえば誹りは避け得ない。
「もしここであっけなく負ければ、彼にとっては致命的な敗北になってしまう。面目丸つぶれな上に、今後のスケジュールにも影響するだろう」
だから、とタケミカヅチは格納庫内を移動して武装を運んできた搬送車両の方を見る。
つられて唯衣もその搬送車両の方を見やる。並んでいる武装は、普段唯衣が見慣れている武装ばかりだ。ある一点を除けば、だが。
まさか、と唯衣はタケミカヅチが演習で一体何をやろうとしているのかを、「気づかい」として何をしようとしているのかを察した。
「だから、こんな方法で勝つ。こんなところで終わってもらっては困るからな」
獰猛な笑いに、再び唯衣はユウヤに同情してしまう。
こんな相手に挑むなど、無謀だったのだ。誰がこんなことをやろうと考えて、本当に実行して、「気遣い」とすると考えるだろうか。
タケミカヅチをはじめとした連合が色々と規格外なのか、それとも自分達の規格が小さすぎて比較にならないのか。
そんなことを考えながらも、唯衣はユウヤの無事を祈らざるを得なかった。
604: 弥次郎 :2020/01/27(月) 22:22:34 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
Part.3 On the Borderland
- β世界主観西暦2001年5月3日 国連太平洋方面第3軍ユーコン陸軍基地 格納庫
ブリーフィング終了後、ドーゥルからキツイ「修正」を喰らったユウヤであったが、痛みが引くより早くユウヤの興味は組まれた演習に移っていた。
演習でのエレメントの相手がチョビ---タリサであったことは少々不満があるというか、連携などに不安が残る決定ではあった。
ユーコン基地に着任して、アルゴス小隊の隊長であったイブラヒム・ドーゥルに代わりアルゴス1として登録されたユウヤであったが、残念ながら隊のメンバーについては軽い顔合わせとあいさつ程度しか終わらせておらず、その実力のほどは全くの未知数であった。
辛うじてタリサが「偶発」的な「事故」でユウヤの直近で、というかユウヤの乗るムリーヤのすぐ近くで三次元飛行を見せており、また不時着させる際に機体にダメージが響かないように調整してのけるという技量があることだけは把握していた。
最も、タリサ自身はユウヤがアルゴス小隊のトップ、アルゴス1となったことを快く思っておらず、その事を隠しもしておらず、連携を行うにあたってはネガティブと言わざるを得ない要素を含んでいた。まったく知らない相手よりはマシではあるが、相手がこちらを一方的に敵視しているということは連携も何も期待できたものではない。
(ともなれば、ぶっつけでやるしかねぇか)
エレメントと言いつつ、実質一人で二人を相手取るようなものだ。状況によっては一対一に持ち込める可能性もあるので、そこについては極端に問題視はしていない。加えて演習開始までの時間はたっぷりとあったために、ヴィンセントと共に割り当てられた戦術機、
ユウヤが米軍時代に散々乗りこなしたF-15Eの調整を行うことは余裕でできた。ヴィンセントの絶妙な調整によって、アルゴス小隊に配備されていたストライク・イーグルは、米軍においてユウヤがのっていたものと同等の動きを得て、演習に向けた準備を着々と進めつつあった。一方で、ユウヤとエレメントを組むタリサも、F-15・ACTVのコクピットで調整に余念がなかった。
本来ならばドーゥルがのっていたF-15・ACTVがユウヤの乗機となるところであったが、慣れていないということでユウヤは譲ることにしていた。
タリサの方もタリサの方で大西洋連邦の、というか地球連合からの出向者たちにはあまり良い印象を抱いていないのか鼻息は荒い。
まあ、やる気がある分にはユウヤもやりやすくはなるものだ。これでやる気が無く、戦意が無ければ味方という名の敵機を抱えての戦闘となるのだ。
それはネガティブどころではないので、こっちから願い下げというところだ。
605: 弥次郎 :2020/01/27(月) 22:23:05 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
数値の確認を終えれば、調整が一段落だ。シートのバックレストに身をゆだねて一息つく。
『なあ、ユウヤ』
「どうした、ヴィンセント?」
調整が完了したヴィンセントの声がレシーバーから届き、ユウヤは
『お前から見て大西洋連邦の持ち込んだXF-15Vはどう見える?」
「どう見えるって……F-15Eの劣化コピーも良いところだろ、あれは」
カタログスペック、武装、改修要項などは一通り閲覧したが、いずれの項目もF-15Eを大きく凌駕している点はない、とユウヤは判断していた。
最高速などは上回っているがあくまでも第二世代戦術機の範疇を超えられてはいない。固定火器として機銃などが足されていることは気になったが、BETAとの戦闘においてあそこまで心配性になって武装をつけ足す必要などあるのだろうか、というのがユウヤの感想だった。
対小型種迎撃という目的らしいが、そんな事態など立ち回りでどうとでもなりそうなものだ。
『そうか?OS周りの改修でかなり変わったらしいんだけど』
「OS、ねぇ……」
そしてもう一つ気になる点。それがOSの改良であった。
動作の硬直の解消、操縦の簡便性、慣熟期間の短縮などなど、多岐にわたる項目で改良がされている、と謳っていた。
ユウヤはこれにも正直なところ懐疑的であった。OSのアップデート程度でそこまで極端に変わるものだろうかと考えていた。
これについては、ユウヤを責めることはできない。何しろ、誰も思いつきもしなかったことなのだから。
最もOSの支給元であるマーキン・ベルガーはOSにバックドアを仕込んでいたり、原作ではアフターにおいて無人機がすぐさま開発されていたことを考えれば、意図的に性能を落としたものを高値で売りつけて殿様商売()を気取っていた可能性が0ではなく、OSに疑問を抱かないように、世論や風潮を操作していた可能性も否定はできていない。一応はOSの管制ソフトなどの更新はされていたようであるが、抜本的な性能向上に寄与する様なものではなかったことを考慮するとやはり根本は変わっていないのだろう。
「衛士の腕で何とでもなるだろ、これくらい」
『だといいけどな。あ、それと賭けは2対2だからな?』
「あん?」
『お前と大西洋連邦の中佐との模擬戦の勝敗だよ。俺はお前に賭けたんだから、簡単に負けてくれるなよ?』
またか、とユウヤは吐息した。整備士という連中は何処にいてもなんでも賭け事の対象にしてしまう。国連軍でも変わらないのか、と。
しかし、実力もよく分かっていない相手に賭ける奴がいるのか、と少なからず憤りを覚える。そこまで自分は弱いわけではないというのに。
(……ふん)
まあ、どちらにせよ自分が勝てばいいだけの話だ。
「お前に勝たせてやるからな、ヴィンセント。俺に感謝しておけ」
『お、言うじゃないか』
演習開始まで、残り78分であった。
606: 弥次郎 :2020/01/27(月) 22:24:06 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
とりあえず3つの視点から書いてみました。
あとはユーラシアとかモノケロス隊とかの様子を書こうと思います。
そしたらいよいよ演習ですな。お楽しみに。
最終更新:2020年01月30日 10:53