761: 弥次郎 :2020/02/05(水) 19:15:47 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

憂鬱SRW IF マブラヴ世界編SS「Zone Of Twilight」7


        • ユーコン陸軍基地 テストサイト18 第2演習区画 E102演習場




 市街地戦闘を意識した演習場は、ノイズとジャミングに満ちていた。
 展開されているノイズメーカーによる音響センサーの欺瞞、そして、想定状況をくみ上げるためのECM。この二つが、この市街地演習場をセンサー類が余り頼りにならない、有視界戦闘の世界へと再構築をしていた。
これはただでさえネガティブ要素の大きな市街地戦闘をさらに危険なものへと変えるものだった。建造物による視界の圧迫、地下施設の崩落、密集する建物によるセンサー系統の穴の発生、機体制御の不自由さの増大などなど、平野部の戦闘より状況は悪い。
 強いて言うならば、遮蔽物を利用することで射線を切り、あるいは機体を隠すことができるというメリットも存在しているのだが、前述の様なデメリットの方がはるかに大きい。そもそも、飛行も可能な戦術機がこんな窮屈なフィールドで戦うというのは元来不向きなのだ。
そんなことは、短いながらも戦術機に触れている二人にとっては既に身についている常識であり、市街地向けのACというMSの代替兵器を浮かべるものだった。

『中尉、状況は?』
『今だに変化なしです、中佐。ノイズメーカーにより、音響索敵は頼りになっておりませんね。光学視認も未だにヒットなしです』
『相手も同じ状況だ……と言いたいが、大胆に破ってくるかもしれん、注意を忘れるなよ』
『はい』

 クリアリングを済ませながらも前進するのはルナ1のハンター機。後衛としてやや距離を置いて追従しているのはルナ2のユノー機だ。
隊長機はハンターが務め、随伴機がユノーが務める形となっている。演習開始からはやくも5分近くが過ぎようとしていた。
まだ互いの位置をどちらも掴んでいない状況、先手を打てるかどうかは大きな要素の一つであるので、未だにハンターとユノーは動きを静かにしていた。
戦術機の厄介なことの一つが、静音モードになるといざというときの機体の反応性が大きく落ちてしまうというものがある。
無論MSにおいても、そういったステルスモードは機体出力が落ちてしまうのだが、ただでさえ反応が鈍い戦術機ではそれが致命的になってしまう。
平常時でさえギリギリ追従しているのに、いざという時の反応に追従できなくなってしまうのだ。静音モードからの復帰が遅いのも致命的すぎる。
 だが、自分が納得がいく戦術機を創ろうとすると結局MSに行きついてしまうわけで、ついでに言えばMSなどこの世界ではまだ開発できないわけで、ハンターとしては大きな枷をはめられていることを受け入れてこの戦術機を動かすしかないのである。

『……』

 幾度目かの交差点をくぐり抜ける。
 仕掛けるならば急に視界が広がり、認識すべき領域が広がるここがかなり優良なポイントだ。だが、角に身を隠しながらも予兆が無いか探るが、未だに何もない。
ふむ、とハンターはユウヤやタリサの評価を上向きに修正する。市街地戦闘のメソッドにおいて、自機の位置を絞られないようにするのは基本だ。
仮に動くとしても常に動き回ることで特定を難しくさせることも必要だし、今のように静かに行動するのもまた必要となる。
だが、焦れて下手に仕掛ければ何が起こるかは明白なので、慎重な行動と忍耐力が求められる。その意味では、彼らは未だに忍耐強くこちらを待ち受けている。
てっきり焦れて襲い掛かって来ると思ったが、流石に過小評価が過ぎたか。

『中佐、水平噴射跳躍の音を捉えました』
『こちらでも確認した。相手もこちらを朧げだが捕らえたな・・・』

 センサーがいくつかの反響音を捉えたことを伝えるフリップが立ち上がってからしばらくして、ユノーから報告が上がる。
静音性を捨て、大胆にも戦術機が跳躍ユニットを利用した水平飛行をした音がビルの合間を通ってこちらへと届いた。
その後、着地した音を最後にして、音はすぐさま消える。これは明らかに、こちらを誘い込む罠だ。
派手に動いたと見せて、その後の動きをくらませている。これに乗せられてはまずいというのは共通見解だ。

762: 弥次郎 :2020/02/05(水) 19:17:19 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

『……中尉、もし中尉ならば、つり出した相手にどういう手を取る?』
『予測される敵機の進路上に発煙筒などを撒きます。ブラインド状態でのこういった市街地での制御は難しく、一つ間違えば衝突を起こし機体が大破しかねない危険が伴うものとなります』
『ふむ』

 誘い込んでトラップに引っ掛ける、よくある手だが、好意的に見ればエラーの無い確実な手を取ってきた。

『そして、ブラインド状態になったところに攻撃を仕掛けます。ポジショニングとしては遮蔽物の影にカバーしている形かと』
『ということは、相手はトラップを敷いたところを見通せる位置に潜んでいる可能性があるわけだ』
『はい。ですが、僚機の動向は相変わらず不明です。罠につられてきたところを回り込んで僚機が仕留めにかかってくる可能性が高いかと』
『俺も同意見だな』

 如何しますか、というユノーの言葉の前に、ハンターは大胆に機体を前進させた。

『後方を警戒しつつ上空監視を。攻撃の判断は任せる』
『了解』

 罠に飛び込んでいく、しかも隊長機が、だ。大胆だが、相手の大胆さに押し切られないためにはこれくらい必要という判断だ。
ユノーはそれを理解すると、ハンターの上空を中心とした射界を確保できる位置まで静かに後退、狙撃態勢に入った。
無論相手がつられて出てこないという可能性もあるが、出てくるかもしれない。だが、やってみなければわからないのだ。
箱の中の猫を確定するには、箱を開けねば始まらないのだから。

《…!いきなり来やがった!》

 ユウヤが捉えたのは、大胆にも前進してきたXF-15V---IFFからすればウィリアム・ハンター中佐の乗るヴァリアブル・イーグルだった。
ちょっとした陽動をかけてみたが、いきなり本命が罠があるかもしれない所に踏み込んでくるという予想以上の効果があった。
 だが、ユウヤはいきなり発砲することはなく落ち着いて遠隔式発煙筒のスイッチを押しこむ。水平噴射跳躍中にこの狭い市街地で視界を奪われれば危険だ。
たとえそれがほぼ直進の道路だったとしても、平衡感覚や左右の距離感を見失えば激突は避け得ない。
 さあどうなる、と見た先、ヴァリアブル・イーグルは素早く逆噴射で急制動、牽制射撃をばら撒きつつ、素早く煙と建物の合間に隠れていく。
ブラインドマニューバくらいはできるか、とユウヤは次なる一手を打とうとし---自機の直上を飛び越えていく友軍機---タリサのF-15・ACTVの姿に瞠目した。

《何やってんだ、チョビ!》
《アタシの獲物だ、手ェ出すんじゃないよ!》

 叫び、タリサは突撃砲をXF-15Vの予想進路上に放っていく。確かに追撃するという手もなくもないが、ここで逆に釣られると狙撃されかねない。
そのリスクがあるからこそユウヤは静観しようとしたのだが、こうなってはユウヤも前進せざるを得なくなってしまう。
エレメントが孤立した挙句撃破されては、こちらが後々に不利になりかねない。

(これだからよくわかっていない相手と組んでの演習ってのは…!)

 武装は突撃砲を選択、タリサの後を追いかけるように水平噴射跳躍を開始する。
 他方のタリサは、乗機のF-15・ACTVの高い推進力を利用した三次元機動で巧みにハンター機の牽制射撃を回避しながら距離を詰めていく。
上手く建造物の屋上を足場にして飛び回ることで射線を一本に絞らせず、尚且つ優位なポジショニングをとっていた。
 だが、ハンター機はそれに驚くふうでもなく淡々と対応する。こちらも発煙筒をばら撒きながら後退して、煙の中へと隠れ、的確に牽制射撃を入れ---直撃狙いではなく、相手の動きを制限するように的確にはぽうすることで弾薬消費を抑えつつ、タリサを自陣地側へと引き込むように機動していく。

《くそ、何で当たらないんだ‥‥!》

 タリサはわずかな誤差、機体の乗り換え時にどうしても残ってしまう微調整の差でずれる射撃に苛立ちつつも、建造物も利用した三角飛びの要領で追いかける。

《戻れ、チョビ!引き込まれてるぞ!》

 ユウヤも前進を選んでいるが、その速度はどうしても遅い。推力に差があり、また、スタートのタイミングがタリサの方が速いためだった。

763: 弥次郎 :2020/02/05(水) 19:18:19 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

 その叫びと、一向に追いつけないXF-15Vがさらに発煙筒とセンサージャマーをばら撒いたキリングゾーンを作り上げたことに気が付いたタリサは、跳躍ユニットを逆噴射して強引に制動をかけ、停止をかけた。一気呵成に攻めるつもりだったが、こうなっては攻めきれないし、攻めると危険だ。
それくらいの分別はタリサにあった。というか、ある一定ラインを超えたあたりからタリサの衛士としての直感が警告を発したのだ、危険だ、と。

《ちっ、センサーが……!》

 そのまま急速に離脱を試みるが、すぐ直近にペイント弾の着弾。狙撃だ。周到に待ち受けられていたということらしい。
機体を左右に振りつつの牽制射撃をばら撒いていくが、どこまで通用するのか。

(というか、動きが案外良かったんだけど…!)

 ばら撒かれた弾丸を交わすのは案外難しい。まして狭い道路上で交わすのは、特にだ。
 にもかかわらず、XF-15Vは狭い道路を一杯に使い、左右に細かく機体を振り、的を絞らせない動きで後退していった。
自分でもできないことはない、という自負はある。だが、センサー系が不調のコンディションでどこまで同じことができるかは未知数だ。
しかも相手は牽制射撃をしながらも、後ろに目があるかのように的確に、しかも空中であるかのように三次元的に動いていた。
 ということは、改修でそこを改善しているのか。タリサの開発衛士としての予測は中らずと雖も遠からずであったが、それを検証している暇はない。次なるペイント弾が、恐らくは120mm滑腔砲が至近で着弾したのを見て、いよいよヤバくなったとタリサは跳躍ユニットの出力を上げる。同時に、網膜投影に新たな警告フリップが立ち上がる。

(っ!音響センサーに反応…左!)

 建造物越しだが、確かに戦術機サイズの大型物体が左側を移動していった。

《トップガン!左だ!》

 自分では間に合わないと判断し、ユウヤに警告を飛ばす。
 踏み込んだ自分を狙うと見せかけ、安全地帯にいると思い込んでいる後衛を狙うつもりだ。こちらをうまく分断を図ろうとしているわけだ。
自分はといえば、音響センサーが新たにとらえた音源が自分を追尾していることを確認する。これで一対一が二カ所で発生する。
それを悟り、知らず笑みが浮かぶ。やはりよくわかっていない相手と組むよりも、こうした方が自由にできる。

《……ふん、大西洋だか何だか知らないけどさぁ》

 背部のガンラックを含め、突撃砲を展開し、タリサは前進を選んだ。
 音響センサーは、複雑な跳躍を繰り返して接近して来る敵機を捉えていた。

《F-15E(ストライク)に毛が生えた程度の戦術機でACTVに勝てると思うなよ!》

 そして、発砲と突撃は同時に発生した。4門の36mmチェーンガンと120mm滑腔砲の弾幕形成は、的確にユノー機の逃げ場を潰していた。
 だが、この程度の弾幕でユノーは怯むほど肝は細くはない。素早く機体をスライドさせるように左右に振ると、素早くビルの影へと滑り込んで弾幕を躱す。

『……っ!機体が追いついてこない…!もっと合わせないと…!』

 タリサもそうであったように、ユノーもまた機体とのずれに悩まされていた。
 事前の調整で壊さない程度にクッションを挟み、反応を意図的に遅らせることで機体保護を行っているのだが、
それだけ機体がユノーの反応と操縦に対して思い通りに動かないということでもあった。普通ならもう十を超える回数撃墜されている、と内心舌打ちする。
 ビルを大きく回り込むようにして逃げるXF-15Vは、しかしそれでも優れた機動性と運動性を発揮しており、タリサの狙いを絞らせずにいた。
背部ガンラックは的確な射撃でビルの上を跳躍しながら迫るタリサのF-15・ACTVの動きを抑制しており、決定打を決して許していなかった。

《逃げるのが上手い…!》

 タリサも、ユノーの動きには感嘆せざるを得なかった。一定のラインから先に接近を許さずに、かと言って振り切らずにこちらを追従させている。

《けど…!》

 弾幕形成もいつまでも続くわけではない。相手は無駄撃ちを避ける性分なのか、タリサ機との間に遮蔽物が入ると照準を調整し、一定以上隠れた場合は射撃を中断するという傾向がみられていた。正確すぎる分だけ予測がたやすい。タリサは追撃をしながらも、周辺のマップデータから丁度良い高さと大きさの建物を検索してマッピング、同時に距離などを計算しておく。仕掛け時だ。

765: 弥次郎 :2020/02/05(水) 19:19:25 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

 タリサ機の動きが加速したのを、ユノーはきちんと把握していた。遮蔽物をうまく間に挟んで無駄撃ちを誘い、あるいは隠れることで射撃のタイミングをずらして弾幕からうまく逃れるように立ちまわっているのだ。
戦術機は主兵装の36mmチェーンガンがまともに直撃すればダメージは免れない脆い設計。だからこそ、一発あてられるのを回避するのが鉄則。
そういう意味では、タリサは旧式のOSを用いているのにもかかわらず動きの硬直をうまく潰しながら操縦できている熟練パイロットだ。

(来ましたか…)

 そして、タリサの動きにユノーは気が付いた。
 こちらの背後に回り込むような跳躍でこちらの動きを誘導し、射撃で逃げ場を限定させ、明らかに追い込みを図っている。
ユノーの操縦傾向としては敵機を自分のレンジに誘い込んで迎撃するという「受け」のスタイルを得意としているのでタリサの動きはそれなりに予想がつく。

(こちらの反応を超えて…一気に攻めてくる!)

 36mmと120mmの弾丸がACTVを狙い---しかし、搭載されている4発のプラッツ&ウィットニー114wdが瞬間的に加速を叩きこみ、その射線をユノーの予想を超えて飛び越えた。落ち着いて照準を合わせるユノーだが、その動きを呼んでいた---そして、「足場」を見つけていたタリサは、空中で機体をひねって脚部をうまく使って壁面を蹴ることでさらに加速、あわされた照準をさらに振り切って動いていた。
そして、一気に噴射降下!

《遅いんだよぉ!》

 タリサ機は突撃砲を投げ捨て、膝部のナイフシースからナイフを抜刀。急速にダイブしながら振り下ろした。

『ええ---あなたはもっと遅いですが』

 そんな冷徹な声がしたと思った次の瞬間、タリサの視界はスモークに塗れた。

(発煙筒を直接点火した!?)

 だが、いまさら点火したところで遅すぎる。あと1秒とかからずにナイフは相手の機体にヒットする。その確信がタリサの行動を後押しした。
 それが、ユノーの予想と狙いにピタリとはまっていることに気が付きもせず。

《いっ!?》

 ナイフはそのまま地面にヒットし、圧し折れた。
 まるで雲か霞のようにユノーのXF-15Vの姿は消え去り、タリサの必殺の一撃は空を切った。その振動が機体を走り抜ける間に、コクピットにピシャリピシャリというペイント弾特有の着弾の音と振動が襲い掛かった。

『良い動きでした。ですが、予想はしやすいものでしたね』
《な、な、なーーーーー!》
「アルゴス2胸部コクピット部被弾、大破と判定!」

 煙が晴れると、そこにはいつの間にか数メートル先で振り向いていたヴァリアブル・イーグルがおり、突撃砲をタリサ機に照準を合わせていた。
タリサ機の胸部にへばりついたペイント弾は、紛れもなくユノー機のそれから放たれたものに間違いはなかった。
 そして、わけもわからずに叫ぶタリサの声にかぶさるようにして、ドーゥルの判定が下った。
 タリサとユノーの激突は、あっけなくユノーの勝利に終わったのであった。
 タリサ機の撃墜判定が下ったことは、当然ながらXF-15Vハンター機と戦闘を続けるユウヤの元にも届いていた。
この演習における勝利条件はリーダー機の撃墜---つまり、ハンターかユウヤのどちらかが撃墜されたと判定されれば勝利であり、逆に言えば僚機が撃墜されようが勝利には直接絡まない。まあ、通常なら撃墜された側が1対2になるので数的不利を強いられるので、僚機の勝敗もこの演習の流れにおいては大きく影響することは間違いなかった。

766: 弥次郎 :2020/02/05(水) 19:21:28 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

《クソ、チョビがやられたか…!》

 ハンター機との戦闘---というよりは、ハンター機の執拗ともいえる攻撃を必死にさばいている状態のユウヤにとっては悪夢のような宣告だった。
現状、ユウヤは必死にハンターの攻撃を避けつづけており、ぎりぎり持ちこたえている状況だった。つまり防戦一方であり、攻勢に転じることが出来ないままズルズルと流されているのである。もしタリサがここに増援として参戦すれば流れは変わったかもしれない。

《畜生…!》

 ハンターの攻撃は、ユウヤの消耗を誘う極めて攻撃的なものだった。
 的を絞らせず、上下左右、高低差も自在に変化させて、時には120mmで狙撃を挟んだり、弾幕を張っての哨戒なども恐れずに使って来る。
最初こそ対応は出来ていたのだが、徐々に徐々にと相手の動きに追従できなくなっていったのだ。とにかく、相手の動きに無駄がない。
 知らずのうちに、ユウヤの息は大きく乱れていた。ハンターが放つプレッシャー、短い時間に激しい戦闘挙動を強いられ、おまけに次にどう攻撃されるかわからない恐怖。レーダーなどの情報を元に必死に相手の位置を探ろうとするが、それらが追従しきれていない。
紛れもないじり貧---ユウヤは知らずに焦りを覚え、苛立ちを募らせており、戦闘においてネガティブ要素を貯めこんでいた。
時計はと見れば、エンゲージから5分と経っていない。それだけ綿密な攻撃にさらされているのだ。
 そして、音響センサーに反応。ビルを迂回するようにして敵機がこちらに接近してくるのが分かった。
 だが、相手の機動はセンサーを容易く振り切る。極論、視界に入るまでセンサーなどはあてにしない方がいい可能性もあるのだ。
 そして、2機で連携してこないということは、ユウヤのプライドを著しく傷つけていた。無論そうなるとユウヤも不利を強いられるのだが、そうするまでもないと言外に宣告されているようで、腹立たしさを加速させた。

《!?》

 レーダー反応と音響センサーが急激な動きを探知。相手は直上方向へと飛び上がった。
 咄嗟に突撃砲で対空射撃を放つが、相手はそれを読んだかのように低空の跳躍で抑え、地面方向へ急降下。
スライドするようにして建物の影に逃げ込んで行ってしまう。追撃しようとするが、煙幕が視界を遮って躊躇させる。

《ハァッ……!ハァッ……!ハァッ……!》

 限界だった。攻めることが出来ず、一方的に攻撃にさらされ、相手をまともに補足することさえできない。
 罠があろうがなんだろうが、こうなったらくらいついてやるしかない。ユウヤは腹をくくって操縦桿を押しこむ。
ストライク・イーグルは突撃砲を構えて一気に水平噴射跳躍。予想される敵機のポイントへと大胆に踏み込んだ。
突撃砲を四方に向けて死角を潰し、踏み込んでいく。一つ、二つと角を通り抜けるたび、安どと同時にひどい冷や汗が流れる。

《っ!また直上!》

 そして、急にハンター機は襲い掛かった。ガンラックも含め、装備していた突撃砲が水平方向ばかりを向いてしまい、知らずのうちにユウヤの意識も水平方向ばかりに向いてしまったこの状況は、ユウヤの初歩的すぎるミスであった。
否、それを犯してしまうほどにユウヤが精神的にもハンターに追い詰められてしまっていた、ということでもあろうか。
咄嗟の射撃がハンター機を襲うが、それを見越してハンターは機体を操作していた。円を描くようにして狙いを絞らせず、立体的に動いて弾を回避してのける。滑らかな動きは、ツバメの旋回にも似ていた。そんな動きをしながらもハンターは射撃でガンラックを潰し、さらに腰部の跳躍地雷発射管から地雷をを発射して、ユウヤ機の手持ちの突撃砲にダメージを与えて使えなくさせてしまう。

『粋がるな、小僧が』
《っち!》

 F-15Eのコンピューターが使い物にならなくなったと判断した突撃砲をオートでパージ。
 その刹那にユウヤは残った武装---ナイフを引き抜いた。もはやそれしか武装はなく、ユウヤは決死の覚悟で繰り出す。
 だが、無情にもハンターの動きはそれを容易く上回った。突き出されたナイフを持つ腕を、XF-15Vの腕が突撃砲を持ったまま受け止め、そのままF-15Eの腕をナイフごと思いっきりかち上げた。これによってナイフを突きだした前傾姿勢のまま、しかし腕が上に振り上げられたことで、一気にバランスが崩れていく。腕を真上に上げた状態で前のめりに倒れ込んでいくようなものだ。当然ながら、オート制御も合わせて咄嗟に姿勢を立て直そうとするユウヤだが、そんなことをしている間はいっそ間抜けなほどに隙だらけだった。
次の瞬間、コクピットブロック周辺にペイント弾の嵐が襲い掛かり、無情にも撃墜判定が下された。

「状況終了!各機、作戦開始位置まで後退せよ!」

 ドーゥルの宣告をどこか遠いものと感じながら、ユウヤは茫然と結果を受け止めるしかなかった。

767: 弥次郎 :2020/02/05(水) 19:22:29 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由にどうぞ。
何とか終わりました…是非もないよね、この結果。
次はタケミーとユウヤ君です。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2020年02月09日 11:35