312: 弥次郎 :2020/02/08(土) 23:17:10 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
憂鬱SRW IF マブラヴ世界編SS「Zone Of Twilight」短編集3


Part.6 驚愕の巨人たち



「圧倒的、だな」
「……ええ」
「こうなったか……まったく、少尉……」

 ヴァレリオ、ステラ、ドーゥルのアルゴス小隊に属する衛士3名は演習の終了が告げられて元の位置に戻る戦術機たちを見ながらも、思わず声を漏らすしかなかった。それは驚きであり、感嘆の声だった。同じF-15を土台とした戦術機同士の演習の結果は、同型機をベースとしているとは信じ難いほどの一方的な展開に終わってしまった。衛士の腕の差という面もあったのかもしれないが、それでも単純に結果を比較するならばF-15EとACTVはXF-15Vに完敗したということになるのだ。
 これが衛士の策略だとか奇策を用いたものであるならば一考の余地はあるかもしれないが、見た限りではそういったものはなく、あくまでも通常の対人戦闘に使われる装備と技術で戦闘が行われて、結果が生じたのだ。

「なあ、ステラ。勝敗の差はやっぱり改修の差って奴だと思うか?」
「……そうね。カタログによれば、OSや手を加えて、駆動系を換装することで性能を向上させているとあるけれど、あそこまで違うのかしら?」

 普段のおちゃらけた、あるいは飄々とした態度を引っ込めているヴァレリオ、ユウヤが彫刻と渾名した変化に乏しい顔を興奮で少し赤くしながらも、普段以上に饒舌になってしまうステラ。両者ともに開発衛士として、また最前線で戦った経験を持つ衛士として、勝敗を分けた原因を冷静に分析していた。
アルゴス小隊から出場したユウヤとタリサの腕前が悪くないことはわかる。タリサに関してはこれまでともに開発に関わっていたので尚更だ。

「タリサのACTVは間違いなく後方危険円錐域をとっていた。普通なら前進して回避するのが手一杯だろうな」
「でも、ユノー中尉の15V(ヴァリアブル)は煙幕を展張して1秒足らずで前進・反転・照準の動作をこなしているわ。
 寸分の狂いもないタイミングと操縦……衛士の反応が良かったのもあるけれど、戦術機の側がそれに追従できたということね」
「となると、大西洋連邦が行った改修ってのは……案外やるかもしれねぇな」

 改めて衛士二人の目はブリーフィングで配られた資料へと、比較検証を行うことになるXF-15Vの項目へと移った。
一体あの演習で示された差は一体どこから生まれ、どのように発生し、結果へとつながったのだろうか。二人の興味はそこにあった。
 他方、ユウヤの着任に伴い彼等アルゴス小隊を指揮官として率いる立場になったドーゥルは結果もさることながら、連合からの出向者に対してあれほどの大口と非礼を働いておいてこの体たらくとは。

「ブリッジス少尉にしてもマナンダル少尉にしても……まったく、これでは擁護できんぞ!」

 言い訳のしようが無くなった以上、上官として責任を果たさねばならない。それはそれとして、部下たちの態度については一言いう必要があったのだ。

313: 弥次郎 :2020/02/08(土) 23:17:51 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

「まあまあ、ドーゥル中尉、落ち着いて」

 技術屋として出向してきたフランク・ハイネマンはようやく映像を移したモニターから目を上げ、激高しかけるドーゥルをなだめる。

「改修でどの程度の差が出るか不明で、尚且つ我々技術者でなければ判別しにくい情報も多く含まれております。
 そんな状態であるならば、マナンダル少尉やブリッジス少尉のような反応を示してもおかしくありません」
「しかし……」
「彼等でなくとも、誰かが同じように身を以て経験することになったでしょう。たまたま当事者になっただけの彼らをそう責めるのは酷というものです」

 それより、とハイネマンの興味はやはりXF-15Vにあった。

「大西洋連邦の持ち込んだ近代化改修キットによる性能向上は予想以上のものですね。
 ドーゥル中尉もご自分でACTVに乗っていたのですから、比較なさって興味があるのでは?」
「むっ、それはそうですが……」
「ACTVはモジュールとアビオニクスの換装による機体性能の向上を安価に行うというフェニックス構想によるもの。
 基本的な概念や考え方に関しては、大西洋連邦も同じアプローチからヴァリアブル・イーグルを生み出しているようです。ですが…」

 そこで言葉を切ったハイネマンの目は、モニターで再生され続けているヴァリアブル・イーグルの動きに着目する。

「ヴァリアブル・イーグルは、どこか違う。確かに素のF-15に付け足しを行っているのは確かでしょう。
 ですが、ブレーメル少尉やヴァレリオ少尉のおっしゃる通り、OSや駆動系そのものに手を加えることで、上昇したカタログスペックを現実のものとして反映しやすくしているような…理論値を現実値にできるようにしたような…そんな印象を覚えますな」
「……というと?」
「いえ、これはまだ私個人の憶測に過ぎないことで。
 ただ、マクダエル・ドグラムに大西洋連邦から納入された初期型のテスト結果は、F-15Eを超える完成度といってよいというものでした。
 これは機体そのものだけでなく、OSも含めての評価だとか。つまり、両者の差を生み出しているのはOSとそれに付随する機構であり、ACTVなどではまだ強化や改修の余地がある部分によるのではということです」
「ふむ……」

 アプローチは同じでも、違うところを教化したことで、F-15EやACTVを超えるスペックを実現したのではないか。
ハイネマンの予想はそれだった。そうでなければ、納得がいかない。まったく新しい戦術機を作ったのではないというならば、だが。
いや、改修キットならばともかくとして、戦術機をあまりにも短い期間で作り上げることなど本当に可能なのか?と疑うところもあった。
だが、ハイネマンはそれを口にはしなかった。完全な憶測だ。今は連合が明かしてくれるのを待つ方がいいだろう。

「それについては今後の技術情報の開示などで明らかになることでしょう。
 しかし……それはそれでよいとして、まるで我々に謎を突きつけてくるようです」
「謎、ですか」
「ええ、いずれは明かしてくれるのかもしれません。ですが、我々はただ技術を受け取るだけを良しとはしません。
 連合の持つ技術を吸収するという目的もあるのですから、こちらから挑むような気概でなくては」

 楽しげに笑うハイネマンの感覚は理解は難しい。だが、開発衛士としてのドーゥルはそれに同意した。
 演習場からは演習を終えたF-15の派生機たちが引き上げ始めている。ユウヤの乗るF-15Eは続けての演習なので補給を真っ先に受けに向かう。
それを見ながらも、次なる演習が一体どのようなものになるのか---高まる興奮を抑えられないのは誰しもが同じであった。

314: 弥次郎 :2020/02/08(土) 23:18:29 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp


Part.7 胃袋を握るもの/彼我の距離を語るもの


「というか、このお菓子、総天然もの…?」
「うまいよな、これ」
「確かにおいしいですね」
「認めざるを得ないな…」

 暫くして口火を切ったのはステラだった。
 彼女は早々と自分の分のスイーツを食し終えていたのだが、気を利かせたスタッフがおかわりを持ってきていたのだ。
 彼女だけではなく、ヴァレリオも、ハイネマンも、そしてドーゥルさえもうならざるを得ないおいしさだった。それもそのはずだ。
何しろ彼女らの前にあるのは天然食品---正確には自然環境を再現し、高い収穫率を誇るコロニーで生産された食品を使ったものであるが、ともかくそういうものだ。

「はい、こちらの菓子は総天然食品で合成品などは使用しておりませんね。
 調理に関しても衛生管理に気を遣い、全自動調理器を用いて作成しております。何でしたら、お持ち帰りできるものもご用意いたしますので」
「嬉しいねぇ」

 舌鼓をうっていたヴァレリオは早速それを注文し、しかし、驚愕で固まる。他の面々も同じだ。

「如何しました…?」
「え、ちょっと待って頂戴…」

 代表して、ステラがたどたどしく尋ねる。

「あなた、全自動調理器(オートメーション・クッカー)とか言ったわよね…?
「はい、そうですが?」
「これは人の手で作ったものではないというの…?」
「はい。材料を入れてやれば、後は機械が自動的に焼き、盛り付け、飾りつけ、味付けをしてくれる機械です。
 下手に人の手で調理するよりも時間を短く、おまけにおいしく作り上げることができますよ」

 それが何か?と尋ねる連合のスタッフに、その場のユーコン基地の面々は言葉を失う。
 自動調理器などという言葉は初めて聞いたが、要するに人が行う作業を完全に機械が代行している、ということなのだろう。
言葉の通り受け取るならば、そういう機械を使って作られたものを自分達は人が作ったものだと信じて食べたことになる。
味に変なところはないし、合成食特有の不味さや不自然な味は殆どなかった。天然食品であるということはここでは置いておこう。
 問題なのはそこだ、人の手を介することなく、指示を出す必要はあるのだろうが、こんなにおいしいものを料理できる機械。
まるでSFに登場するかのような、そんな装置を連合は現実のものとしているというのか。アメリカでもそんな話は聞いたことが無い。
いや、アメリカでもほぼありえないであろう。複雑な工程を経て作られるはずの菓子を、機械が作り上げる。
確かに戦術機をはじめとした工業製品はオートメーションで作られるものもあると聞くが、それとこれは話が違い過ぎる。
戦術機の開発技術が優れていることは、今の演習やハイネマンの証言で分かった。だが、それ以外でも圧倒するほどの、こちらが考えもしないようなものを現実にしているとは考えもしなかった。

      • もしかしたら、連合はとんでもない組織なのかもしれない。

 今さらなのかもしれないが、彼らは背筋にひんやりと冷たいものを感じざるを得なかった。

315: 弥次郎 :2020/02/08(土) 23:19:05 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

以上、wiki転載はご自由に。
戦闘だけ書いていても詰まらんので、ちょっと衝撃を受ける彼らの姿をば…
風呂入ってきます!そしたら返信します。

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最終更新:2020年02月09日 12:53