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銀河連合日本×神崎島 ネタ 民俗学者が見た神崎島その三


雑誌『民間傅承』 現代の異界、神崎島 ヨミノウミ その三


夜海ノ海、筆者はそれを夜海の水や夜海の一部という表現をしたが実際にはそれがどの様な存在なのか知る術は我々には存在しない。
もう彼岸船、深海棲艦が鎮まったのだから海はもう安全ではないかと言う方もいるかもしれないが考えて欲しい、
神崎島の現世への帰還、則ち日本へ帰属して以降も禍津陽のある海へ出ることを現世の日本の漁師は戒められた。
そこには深海棲艦以外の何かが禁忌として存在するのであろう。
そしてそれが我々生者にとって悪しき物であることに疑い用はない。

我々日本人の神話を紐解けばかの太母の鎮まる黄泉は死と穢れが溢れる地であり、その地の食物、黄泉戸喫を食せば黄泉の住人となる。
その姿は太母を例に取れば腐乱して蛆がたかり蛇の姿をした雷神が全身を覆うという異形の姿である。

生と死、穢れと禊ぎ、陰と陽、男と女即ち黄泉こと夜海は生者の世界である現世と対となる存在なのであろう。

"世界が反転している"彼女たちの歌からの引用であるが正に言葉の通りなのではないだろうか。

しかしこれも神代のあったかもしれない事実の断片からの想像に過ぎない。
我々には想像は出来ても事実確認などは出来はしない。
伝承を元に考察すれば我々生者は夜海そのものに渡るのはもとより境である夜海ノ海を航海することすら不可能だからだ。


しかしながら断片的であるが夜海ノ海に関する情報を得ることが出来た。
それは口伝を教えてくれた友人の知人の漁師の神崎島でのある体験を直接聞くことが出来たからだ。



「島のオオジイサマ曰く血のように赤い夕日の海には黄泉の世界が広がっとるそうじゃ。そこへ行けば生者は夜海に濡れ生きたまま亡者となり果て世に災いを齎すと言うとった。」


この漁師の言葉から始まった。
漁師の言うオオジイサマとは漁師の仲間の老人に口伝を伝えた老人の祖父のことだ。

生者が亡者となる、筆者には一つの考えが浮かんだ。
深海棲艦化、あるいは深海堕ちとも言われる現象だ。
現実の神崎島では艦娘が深海棲艦となること、また深海棲艦が艦娘になることも否定されている。
だが艦娘以外が深海棲艦、彼岸の存在と同種の存在となることは否定されてはいない。
むしろ伝統的な死生観、異界観に照らし合わせてみれば夜海で生者が亡者となることに疑問はあまり感じない、むしろ腑に落ちる気もする。

漁師の体験であるが、漁師の仲間が夜海ノ海へ出てしまった時の話である。
漁師の仲間は金に眩み密航者を神崎島へ運ぶために夜海ノ海に出たそうだ。



ある時漁師の仲間の若者一人が禁を破り禍津陽が現れた大禍時の海へと出た。
若者の名前ここではAとしよう。
漁師たちがAが海に出たのに気づいたのは既に出港してしまった後であった。
血相を変えた漁師たちは漁師仲間の老人の祖父(以下祖父)へ報告し若者を探そうと海へと出ようとした。
しかし祖父に海に出ることがきつく戒められた、その言葉に怒りを覚えた漁師たちであったが祖父に諭された。

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「禍津陽沈む夜海ノ海さ渡ることが出来るのは御船さん(艦娘)や彼岸船だけじゃけえ。幸い今村に御船さんがおられるけ皆で頼み申し上げに行くでねえか。」


自分らは夜海ノ海を渡れないがが艦娘なら渡れるという祖父の言葉、そして祖父らと共に艦娘へとAの救助を願い出た。
村に滞在していた艦娘は村人や漁師たちの頼みを快諾してくれたがが最悪の事態を想定し準備するように指示をした。
漁師達は救急車や病院の手配かと思ったが老人達はなんとなく察したそうだ。ケガレの類かと。

老人達の考え通り、村長の指示で常世神宮や神崎富士山麓に鎮座する浅間社へ使いが出され、漁師や仲間の若者は村社にてなんらかの儀式の準備に駆り出された。
そして夜も夜半が過ぎようとする頃に神官と共に常世神宮より白無垢の様な真っ白な巫女服を着た巫女が、浅間社より忌火と梓弓を携えた巫女が到着した。
両社の巫女は美しかったが、特に浅間社の巫女は左右の目の色が違うことが印象に残ったそうだ。

そして艦娘より発見の報が入ったがA以外にも乗り込んでいた者がいたらしくAが乗せた密航者ではないかとのことであった。
そして他の者は命を落としていたが幸いにもAと思しき人物は生存していたという話に漁師達は安堵したが村人達は報を受けた祖父の一言に凍りついたようであった。


「夜海濡れだそうじゃ…。」



艦の姿となった艦娘が村の港の沖に停泊、Aの友人が本人確認の為に乗艦することとなったのだが、
不思議な事にAの友人は忌火が灯された村社にて行水を行い潔斎をし、白装束を着てから乗艦することとなった。
それから下艦し漁師たちの元へと戻ってきたのだが、その顔は死相に見えるほど真っ青であった。
漁師たちがAの友人に質問を浴びせるが心ここにあらずといった様子で聞く耳を持たなかった。


それから夜になりAと複数の遺体は艦から陸揚げされた。
Aは直ぐにどこかへと運ばれ、遺体は村社へと一時的に安置されることとなった。
その際、夜にも関わらず村の明かりという明かりは全て消され、住民たちは忌篭り、漁師たちも宿へと押し込められた。
村社への道はいくつもの忌火が煌々と灯され、梓弓を持つ浅間社の巫女が弓の弦を鳴らし先頭に立ち、遺体は黒い箱に入れられ運ばれるのを雨戸の間から仲間が盗み見たそうだ。

そして幾分時間が過ぎた頃若者数名が連れ立ってトイレに立った。
しかし十分が過ぎ、三十分が過ぎても帰って来ない。
流石におかしいと感じた漁師達は宿の主や女将達とともに宿を隈なく探すがどこにもいない。
その時探していた若者の一人の絶叫が村社の方から聞こえた。
若者達は好奇心に負け村社へ行ってしまったのだ。

居ても立っても居られず漁師たちは宿の主の制止を無視して宿を飛び出し村社に向かった。
そして村社の鳥居に差し掛かり、常世神宮の巫女がおり若者の一人が鳥居の脇に座り震えていた。
若者に声を掛け手を触れようとする常世神宮の巫女に止められた、若者は少々夜海濡れているので触れれば移ると。

そして助けを求める声がして鳥居の向こうを見れば遠くで若者の一人が這いずりこちらへ向かうとしている。
助けに向かおうとしたが漁師達の足は止まった、若者の足が"死体"のような腕に掴まれていたからだ。
若者はこちらに助けを求める様に必死な形相をしそのまま物陰に引き摺り込まれて行った。

息を呑む漁師たち、そんな漁師たちの上を飛び越えていく影、艦娘であった。
浅間社の巫女を従え参道を駆けて行き、島の常世の闇に消えていった。
そして断続的に響く炸裂音、獣の断末魔の様な声が聞こえた。
あまりの事態について行けない漁師たちは呆然と棒立ちとなった。

その後真っ赤な顔をして村社へとやって来た祖父らに叩きのめされ、気がつけば宿に放り込まれていたそうだ。

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以上が筆者が聞いた全てである。
その後、A氏や村社へ行った若者達はもう日本へ戻ることはないだろうと発言した。
島へ渡ろうとした者の遺体については島で処理をしたという話だ。

何故日本へ帰らない、あるいは帰れないのか遺体は荼毘に付したのか色々聞きたいことはあったが聞ける様子ではなかった。
恐らくそれらは禁忌なのであろう、だが漁師の様子を見るに島の伝承としてよりも人として口にしてはならないと口を噤んでいるように感じた。
そして最後に一言"夜海濡れた死者は夜海にしずめられた"と漁師は語った。

ここで漁師の最初の言葉が思い出される。
その死者とは恐らく亡者と成り果てた者のことであり、亡者と成り果てた要因は"夜海濡れ"、夜海の水を取り込み夜海、異界の存在となってしまったからだろう。
異界の物を取り込むことでその世界の存在となることは国内の太母やギリシャのペルセポネなど比較的良く知られた話である。
それが深海堕ち、"夜海濡れ"なのだろう。

そうして異界の者となったものは現世に災いを齎すことも多い。
"夜海濡れ"した亡者は水上にある物を妬みと憎悪を持って夜海へと引き込もうとし、そして定めの軛に従い夜海に消えていく存在と化しているのだろう。

"夜海濡れ"とは正に禁忌であり、現世にあってはならないことなのだ。
そして"夜海濡れ"を引き起す夜海とはどれ程の厄災をその内に秘めているのだろうか。

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以上になります。
このネタを持ちまして銀河連合日本×神崎島 ネタ 民俗学者が見た神崎島シリーズを転載OKとします。
さて次は民俗学者が見た神崎島・艦娘編を書くか。

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最終更新:2020年02月19日 21:43