189: 弥次郎 :2020/02/25(火) 11:50:31 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

憂鬱SRW IF マブラヴ世界編SS「Zone Of Twilight」短編集5


Part.11 赤兎馬の駆け抜けた後



「なんでよぉーーーー!」

 崔 亦菲はハンガーで固定されている、というよりは、ハンガーに寄りかからせるようにして形を維持している愛機の殲撃10型を前に嘆きをあらわにしていた。
模擬戦が終了した後の殲撃10型は、実弾を使用せずペイント弾を用いたためにペイント弾が付着していた。それはいいだろう。
だが、各部のフレームが明らかにあらぬ方向にねじれたり破損していたりと、どう考えても尋常な戦いをしたようには思えない。
一部には腕や四肢の一部が完全に吹っ飛んでいる殲撃10型も見えるなど、無事に四肢が揃っている機体など見えない。
 整備士たちが群がって機体の状態の確認などをしているが、どの顔も明らかに優れていない。当然だろう、実弾を使わない模擬戦でこうなるのだ、それを成してしまった東アジア共和国のMSであるティエレン・ホンに恐怖を抱いても仕方あるまい。

「暫くは整備…というか修理が必要です。オーバーホールどころの話ではありません」
「そんなのは分かってるわよ!こんなにひどいならもういっそ新しいのが必要なくらいだわ!」
「ですよね…」
(だから言ったんだ、無謀だって…)

 そんな言葉を飲み込んだのは、東アジア共和国からの出向者である馬少佐だった。
 馬は先程まで小隊を率いて、同じく小隊を率いた崔との模擬戦を行った。ハンデとして、赤兎隊のみペイント弾と模擬刀を使用して挑んだのだが、その判断は賢明そのものだった。実弾を用いた暴風小隊は結局ティエレンにまともな傷を一つも与えることが出来ず、果敢にも格闘戦を挑んだ---崔もその一人だが---衛士の戦術機はティエレンの重装甲と戦術機とは比較にならないパワーによって逆に機体の方が破壊される始末。
ティエレンの見た目によらない機動性と運動性など差も存在していたのだが、ともかく結果として、全損に近い被害を受けるに至った。
 馬達は予め彼我の性能差などを把握していたので、最低でも衛士を殺さないように慎重に立ち回ったのだが、それでもこの結果。
まともにやり合えば模擬戦で肉塊入りのスクラップのような何かを量産していたことは間違いないだろう。

「どうしてくれるのよ!」
「どうしてくれるんだと言われても、そちらがそう要望したからこうなったんだろう?
 こちらは事前に警告したし、うっかり殺さないように注意を払ったんだから、むしろ礼を言ってほしいくらいなんだが…」

 そう宥めつつも、それで崔の気が晴れないことは分かっている。手加減しなければ事故死していたのは間違いないのだが、感情の方が納得しないのだ。

「まさかあんなに差があるとは思わなかったのよ!」
「……八つ当たりされても困るんだが。ほら、この通り誓約書ももらっていることだし」
「うぐっ」

 馬が差し出すのは模擬戦の前に描いてもらって誓約書だ。
 どれほどのダメージを受けようとも、東アジア共和国側に責任はなく、統一中華戦線暴風小隊の責任と認めることを誓約したもの。

「……まあ、いいわ」

 諦めと共に、崔はため息を吐き出す。それを出されては文句が言えない。
 こうなることは予想は出来なかったが、言ったことを引っ込めることなどできないし、上官たちは被害に頭を抱えつつも、東アジア側の主張に根負けせざるを得なかった。少なくとも、殲撃10型を手加減しまくってもなお一方的にスクラップにできる性能と分かったのだから。

190: 弥次郎 :2020/02/25(火) 11:51:23 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp


「でも、実際問題どうするワケ?実機が殆ど修理…っていうかもうスクラップ寸前にしちゃったから、これじゃあ実機試験が出来ないんだけど」
「それについては何とでもなる。こちらで戦術機のアテはある」
「へぇー、それはあの鉄人かしら?」
「残念ながら、いきなりティエレンに乗せることはできない。乗れないこともないだろうが、使われている技術が違い過ぎて、下手な衛士がのった場合、戦術機操縦に支障をきたすからな」

 TC-OSなどのOSも吸収したMSの操縦系やOSならば、彼女らでも問題なく動かすことができるだろう。
 しかし、あまりにも彼我の性能差が違い過ぎて、今度は戦術機の不便さにぶち当たってしまい、その後の操縦に問題が生まれるだろう。
自由度が高すぎる、性能が高すぎるとは、時に障害となる。殊更、楽な方へと人間は流れやすいのだから。

「殲撃10型がF-16の派生機というのは聞いているからな、似た傾向のXF-15Vを大西洋連邦から借り受けることになる」
「美国(アメリカ)の戦術機を…?」
「不満が?」
「そうじゃないけど……」
「そうふてくされるものでもない。XF-15VはF-15をアップデートした第2.5世代機…性能的にはもう第3世代に足を突っ込んだ良作機だ」

 東アジアは今回独自の改修機を持ち込んではいない。だから必然的に戦術機の用意が無いため、他国から融通してもらうことになる。
作る暇がなかったと言わけではないし、統一中華からサンプルとして提供され、解析に回された戦術機もあったことはあったが、ドクトリンなどが殆ど大日本帝国と同じであったため、無理に作らずとも良いだろうと判断された結果だ。

「美国にまたライセンスを握られるのはあんまり好かないのよ…」
「ああ…そういうことか…」

 世界初の戦術機F-4 ファントムを始め、アメリカは各国に対し戦術機の輸出やライセンス契約などを行っている。
後背国であり、地球上でも随一の技術力と資源と資金を有する国だからこそできる、安全の輸入を行っている。
その見返りに多くの最前線国家を支えているのだが、やはりそこには持てる者と持たざる者との差が存在している。
この世界でのアメリカの外交的態度やその振る舞いがよろしくないことは馬でも把握していることだ。だとするならば、いらぬ借りを作ることを統一中華は忌避しているのだろうか。この惑星、融合惑星にいくつもの世界が転移してきた元凶と思われるG弾の使用以降、アメリカはハイヴ攻略完遂を盾にして国際的な発言力を強化しつつあるという。それを考えれば、アメリカへの悪感情があってもおかしくない。
次のG弾が投下されるのは、順を追っていくならば日本列島、そして彼女らの故郷だった中華大陸なのだから。

「一時的に借りるだけだから問題はない。それに、XF-15Vに使われている技術のライセンス契約は東アジアと統一中華の間で交わされることになる。
 それをそのまま既存の戦術機に組み込めばよいから、この世界のアメリカが関与することはできない」
「……つまり、美国は文句を付けられないってことね?」
「そうなる。技術供与についてはここを経由して各国の間で直接契約が交わされる。欧州などには先行して提供が始まっているからな、
 統一中華に関しても時間の問題だ」

 暫しうなったが、最終的に崔は馬に告げる。

「生半可な戦術機だったら許さないわよ?」
「期待してくれても構わないぞ」

 その挑発的な言動を、馬は好意的に受け取った。
 こういう意気軒高ならば、鍛えがいのあるというものだ。

191: 弥次郎 :2020/02/25(火) 11:52:17 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
Part.12 歌姫の羽ばたき




 地球連合がユーコンに到着してからしばらく後、ヴァレリオ・ジアコーザ少尉のここ最近の楽しみはPXにあった。
何が目的か、と言われればPXで楽しめるアルコールなどであったが、ここ最近はそれだけではない。連合のおいていった音楽再生機に用事がある。
連合のスタッフが配置していったポスターと音楽再生機は、連日衛士やスタッフが詰めかける人気スポットとなっていた。

「お、今日は早くこれたみたいだな…」

 ヴァレリオの視線の先、試聴スペースにはまだ人の姿はまばらで、ヘッドホンは空いている状態だった。
 そのポスターとレコーダーに納められた楽曲が誰のものかは言うまでもない、SMSを伴ってこのユーコン基地でのツアーを行うシェリル・ノームのものだ。
この世界においても音楽というのは史実に乗っ取り発展をしてきた。だが、対BETA戦争はその余裕を地球の国家の大半から奪い、また意図的にばら撒かれた偏向たんぱく質がそういった贅沢や欲望を抑え込むなど、あらゆる面から娯楽の衰退がはじまっていた。
BETAに対するランカ・アタックが失敗したのと同じくして、β世界の人間に対してもランカ・アタックは通用していないという驚愕すべき事態だったのだ。
 そんな裏背景を、残念ながらもヴァレリオは知らない。知りえない。だがそれでも、音楽を楽しむということはできる。
よく出自は分からなくとも、美人のアイドルがツアーに訪れるというのはヴァレリオにとっては歓迎すべきことであったし、歌自体もそこらの歌手がまねごとに見えるくらいうまい。少なくとも、連日この視聴スペースを訪れる衛士やスタッフたちが途絶えないことから、
既にシェリルの歌はユーコン基地の面々の心を捉えつつあったことは間違いない。

「さて、と…」

 用意されたソファーに腰を下ろし、ヴァレリオはヘッドホンを装着した。
 曲目を選択すれば、連動して目の前の小型テレビにはMVが表示される。普段むさくるしい軍服姿の人間ばかり見ているので、とても目の保養になる。
無論軍服越しでもスタイルのいい女性はちらほら見かけられるのだが、それはそれ、これはこれだ。

(いい女だよなぁ…)

 この手の映像が見栄えが良くなるように調整やメイクをしてあるとわかっている。だが、それを差し引きしたとしても、極上の美女だった。
 イタリア人男性としても、ヴァレリオ個人としても、是非ともお近づきになりたい。生で見る彼女は一体どれほどなのだろうか。
胸の高鳴りは止まりそうもない。流行る気持ちを抑えながらも、ヴァレリオはヘッドホンから流れてくる歌声に身を任せた。
 彼はまだ知らない。シェリル・ノームがただのアイドルどころか、銀河を救った歌姫だということを。
 彼はまだ知らない。シェリル・ノームには既に意中の相手がいることを。
 彼はまだ知らない。同じようにシェリル・ノームに魅了された男性衛士(一部女性衛士やスタッフ)が多数おり、対BETA戦並の競争になることを。
 まあ、知らないということはある種のやさしさであるかもしれない。アイドルとは偶像、ファンの中に存在する虚像集まりなのだから。

192: 弥次郎 :2020/02/25(火) 11:53:38 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
以上wiki転載はご自由に。
短いですが、ガチでMSとぶつかった暴風小隊でした…
暴風はより大きな暴風にかき消される、是非もないよネ!

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最終更新:2020年02月29日 16:05