65: 弥次郎 :2020/02/29(土) 23:38:36 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
憂鬱SRW IF マブラヴ世界編SS「Zone Of Twilight」9
その日のユウヤは、ユウヤらしくもなく自分で目を覚ますのではなく、ヴィンセントにたたき起こされるという朝を迎えた。
朝を迎えたユウヤは、驚きのあまり叫んでしまったのだがご愛嬌といったところか。
(……らしくもねぇな、畜生)
正直なところ、演習後からどうやってデブリーフィングを終え、配布された資料を受け取り、夕食を食べ、寝床に入ったのかユウヤはよく覚えていない。
だから、主観的に見ると演習が終了したら、気が付いたら次の日の朝になっていたのだ。これで驚いて叫ぶのもしょうがないだろう。
だが、ヴィンセントは手慣れたようにユウヤを正装へと着替えさせると、この後のスケジュールについて簡単に説明してのけた。
女房役はそういう意味じゃないだろ、と思いつつも、時間が押していたことでユウヤは素直に従わざるを得なかった。
「いそげ、もう出すぞ!」
「おう!」
朝食を半ば飲み込むように食べたユウヤは、ヴィンセントに急かされながらも軍用車両に乗り込む。
今日は訓練などはなく、連合の出向群がユーコンに到着し、正式に任務が開始されたことを公表する式典の開催が予定されていた。
そんなわけで、ユウヤは気もそぞろで覚えてはいなかったが、アルゴス小隊は時間をあわせて向かうことになっており、集合場所にユウヤが駆け込んだのは時間ぎりぎりに差し迫ったころであった。
「遅れましてもうしわけありません、中尉」
「ふむ、間に合ったようだなブリッジス少尉。まあ、昨日の今日だ、多少は大目に見てやる」
「ありがとうございます…」
敬礼し、改めて服装を確認する。今回のユウヤたちの服装は普段の軍服の中でも正装、式典などに出席する際に着用する正式なものだ。
こういった最前線においてはあまり似合わないものであるが、それを着て出席せよという命令が下ったならばしょうがない。
見れば、ヴィンセントだけでなくヴァレリオ、ステラ、タリサら衛士やハイネマンら後方スタッフたちもそろっている。
「よろしい。では移動を開始するぞ。続け」
66: 弥次郎 :2020/02/29(土) 23:39:14 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
走り出したバスに揺られること20分ほどで、地球連合に割り当てられた区画は目に見えてきて、その周囲の状況が目視できるようになった。
真っ先に目に飛び込んできたのは、悠然と闊歩している二足歩行の物体であった。
「あれは……」
「戦術機ってわけじゃなさそうだな……二本足で歩くロボットってところか?」
二足歩行のロボット、連合が持ち込んできたMTだ。式典の警護用に稼働するそれらは、しかし、ユーコン基地側のスタッフや衛士たちにとっては、間近で見るのが初めての、あるいは見ることもはじめてな存在だ。無機質なセンサーアイが衛士たちを睥睨し、にらみを利かせる。
巨大なダチョウと相対したらこんな気分だろうかとユウヤは思う。
「見た感じ、BETAと戦うっていうよりは対人向けかもな…」
「BETA相手じゃなく人間相手に使われているってことか?」
「ああ。大きさ的に見ても要撃級とどっこいってところだけど、跳躍ユニットみたいなのもないし、あれじゃあカモにになるだろ。
それに見ろよ、機体の下部に馬鹿みたいにデカい機銃が見えるし、戦車みたいなスモークディスチャージャーもある」
「おお。なるほどな…対人でトップアタックをとれば優位をとれるってわけか」
「多分な。しっかし、同じ基地の内部だってのに厳重すぎるんじゃねえか?」
ヴィンセントの指摘はもっともだ。そもそも連合が借り受けているのはユーコン基地が多数有する演習場の一つ、建造物を模した障害物などが少ない平野の演習場だ。そこに着陸した連合の輸送機群はそこからまるでもう一つの基地を作るかの如く、連合は周囲を囲み、こうして警備用と思われる機体を多数展開している。遠くに見える出入り口もそうだ。
まるで陣地かの如く重厚な作りになっている。まだまだ距離があるというのにわかるくらいには厳重に作られている。
ここまでユーコン基地の内部で防備を固めているのは何か理由があるのだろうか。まさかBETAの襲撃などある筈もないというのに。
ユウヤの知識でも、アラスカが
アメリカ本土でもBETAとの戦線に近いことは分かる。だが、カムチャツカのあたりでソ連軍が防衛線が引いており、さらにはベーリング海峡を挟んでようやくアラスカ州が存在しているのだ。つまり、最前線には近いが、直近というわけでもない。
それらがまとめて抜かれるような事態にはならないと思うのだが、連合は違うのだろうか?
しかし、そんなことを悠長に考えている暇はない様だった。車列の前方が動き始め、ユウヤたちの乗る車両も移動を開始したのだ。
連合の警備の人員に見られながらも、ユーコンの車両は門扉をくぐって内部へと入っていく。果たしてその扉は、地獄への入り口か、はたまた希望に満ちた新天地への門なのか。それはまだ、分からなかった。
67: 弥次郎 :2020/02/29(土) 23:39:54 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
門の内部、会場はさほど広くは取られていなかった。連合が持ち込んだ輸送機群とは少し離れた区画に設けられており、4か国のMSや戦術機あるいは兵器群が整然と並べられている。また、隣接する演習区画では実機を動かしているらしく、駆動音が遠くから聞こえてくる。
「博覧会だな、こりゃあ」
ざっと見渡した限りでは、確かにヴィンセントの言うように博覧会状態だ。各国のブースが設けられ、資料やパネルが展示されている。
そして、メインである機動兵器はそれらに囲まれ、外部に運び出されたキャットウォークに囲まれて鎮座している。
そのラインナップは、控えめに言っても豪華であった。
大洋連合からは陸戦型サザビー、ザクⅢ改、Zガンダム、ドーベンウルフ、ガンタンクなど。さらにAC部隊の構成機としてJPH-033T SAIUN、UNACであるJPAC-091-UN HAKUROなど数種類が並べられている。
東アジア共和国のスペースは他よりも狭く、ティエレン・ホンとテイエレン系列のバリエーション機が並べられている。
ユーラシア連邦からはゲルググⅡ、ギャン・クリーガーβ。さらに持ち込まれた戦術機としてSu-27DやMig-27Fの姿が。
大西洋連邦からはウィンダム・パルサーと4脚型の支援機であるフェレグ・スタンダム、さらにユウヤたちが見たXF-15Vも並べられている。
そのほかにも、リニアガンタンク、61式戦車、マゼラアタック、各種MT、ファットアンクルやワッパ、AS-12 AVES、Sz11 SPEERなどなど、企業連合や連合各国が運用する兵器もこれでもかと並べられており、戦術機やMSの支援を担当する戦闘兵器の類まで整然と並べられていた。
「すげぇな一日中ここで過ごせそうだぜ!」
「……スケジュールだと今日はほぼここで費やすことになっているってことは、それなりに時間がかかりそうだな」
これだけの兵器が並んでいるなら、ヴィンセントのような人間は大喜びだな、とユウヤは思う。
ユーコン基地に到着した際に戦術機は---ユーコンのものであれ、連合のものであれ---遠目に見ることは出来ていたが、こうして地上に降り立ってみるとよりはっきりと、リアルな外見と大きさを感じ取ることが出来た。
これだけ多種多様な兵器を持ち込んでいるのは、戦術機の開発だけではないのかもしれない。
聞きかじった程度ではあるが、ユウヤも実戦での戦術機の運用が他の兵科との連携で行われているのは知っている。
火力支援に戦車が使われ、対地攻撃にヘリが活躍し、時には砲兵や艦砲射撃などを以てBETAを効率的に叩く。
それに乗っ取るならば、開発している戦術機をその戦術に合わせてテストすることも一つの仕事なのかもしれない。そんなふうにユウヤは解釈した。
まあ、実際のところは兵器の売り込みという面もあったのだが、彼の領分ではないのでここでは割愛するとしよう。
ドーゥルからの指示されたアルゴス小隊のスケジュールはシンプルなものだった。午前中は時間ごとのローテーションでブースを回り、午後からは各衛士ごとに自由行動というもの。そのアルゴス小隊は最初の見学ブースである大西洋連邦のブースへと向かった。
ここが真っ先に選ばれたのは、ユウヤにとってはある種不幸であった。というのも、昨日の顔合わせでさんざん大口をたたいておきながらも、演習で叩きのめされたハンターの所属先がここであり、今後のアルゴス小隊の当面の課題---F-15・ACTVの開発にあたって、比較検証を行う機体であるXF-15Vを持ち込んだのが大西洋連邦なのだ。
68: 弥次郎 :2020/02/29(土) 23:40:35 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
昨日の今日で顔を合わせるのは、ユウヤとしては正直なところ憂鬱であった。どういう面をぶら下げて会えばいいのか見当がつかないし、なんとなく拒否感のようなものが湧いてくる。それに、昨日の演習でぶつけられた凄み---殺意と言い換えてもいいが---がいまだに尾を引いていた。
実践の場を経験していないユウヤと踏んだ場数が違い過ぎるハンターを比較するだけ酷な話なのであるが、それだけのものをぶつけられたのだ。
その後に手加減していたとはいえタケミカヅチとも戦ったことを考えれば、こうやって精神的に不安定にならずに済んでいるのはある種強いとさえいえた。
「あれが……大西洋連邦の戦術機」
眼前に並べられたそれは、戦術機と同じくらいの全高と、戦術機よりもさらに人間らしい外見の機動兵器だった。
「ふーん、あれは防御用のシールドか?それにしてはスマートでこう…シュッとした機体だな」
早速目を輝かせて観察するヴィンセントにつられ、ユウヤも固定されている戦術機---正確にはMS---に視線を送る。
「確かにスマートだな。無駄がない…」
開発衛士として、また整備士としてユウヤとヴィンセントは多くの戦術機を資料や実物で見てきた。
だが、そのどれも徒は違う意匠や形状を持ち、より人らしい骨格を持っているのが窺える。
「でもなんか、違うよな…」
「何がだ?」
「なんというかな…装備が戦術機にしては…」
目に見える武装や形状などを戦術機と比較していたユウヤだが、その言葉は途中で止めざるを得なかった。
明らかに連合の、しかもその正装の上等さからみて上位階級の人間がアルゴス小隊の前に現れたためだった。
「アルゴス小隊の皆さん、ようこそ、大西洋連邦のブースへ。
ルナ・ハンターズ指揮官のヨハン・M・アウグストです。僭越ながらも案内役を務めさせていただきます」
「指揮官自らとは恐縮であります…アルゴス小隊を預かるイブラヒム・ドーゥル中尉であります」
「これはご丁寧に。
指揮官といってもここではほとんどが書類仕事ばかりでしてな。こうでもなければオフィスに缶詰にされてしまいますので。
その点では歴戦の衛士でありテストパイロットでもおられるドーゥル中尉が羨ましいものです」
「お戯れを…」
「でしたな。では、改めてではありますが我が大西洋連邦のルナ・ハンターズのパイロット達を紹介いたしましょうか。
今回は実演も担当してくれることになっておりますので、午後からは是非見て行ってください」
「ええ、是非とも」
アウグストの紹介の通り、ルナ・ハンターズのパイロット達がアルゴス小隊らと同じように正装で現れる。
だが、所属する軍の違い以上に、決定的にアルゴス小隊とは違うところが存在していた。
「ハ、ハンター中佐殿、その勲章は……」
「ああ、これですか……数だけは貰った勲章ですよ。正装の度にこれを付けなくてはならなくてはなりませんで、正直面倒な代物です…」
69: 弥次郎 :2020/02/29(土) 23:41:12 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
ハンターの胸には、というか正装には膨大な数の勲章やらメダルやらが鈴なりになっている。比喩でもなんでもない。
確かに正装の際にはそういったものも個人の武勇を称えるものとしてつけられるのが通例だが、見る限りでは10個以上もつけられている。
うんざりだという感じにため息をつくハンターに対し、アルゴス小隊はかけるだけの言葉を持たなかった。
この手の勲章は、一兵士ならば相当な戦果を挙げるか、極めて献身的な行為を行ったか、あるいはそれに類する行いが必要だ。
まして、戦死者に送られるのではなく存命者、尚且つ現役の兵士に送られるとなれば、その条件はさらに厳しくなっている。
これを見て、ハンターに関する唯衣の話が誇張ではなかったとアルゴス小隊の面々は納得せざるを得なかった。
「おいおいおいおい…昨日聞いた話はマジだってことかよ」
「ハンター中佐の属する大西洋連邦は大雑把に言えばイギリスとアメリカ合衆国と南米の合邦国家と資料にあったわね。
だとすると、あのデザインは……ひょっとすると騎士(サー)の称号も持っているのかしら…?」
「く、勲章だけが全部じゃないし…」
「あら、そうかしらタリサ?あなたを打ち負かしたユノー中尉も結構貰っているみたいだけど?」
「うげっ…」
さりげなくハンターの傍に控えるユノーもまた、ハンターにこそ劣っているがそれなりの勲章を受けていることが窺える。
アルゴス小隊の他のメンバーが小声で会話をするのを聞きながらも、ユウヤもまたその勲章やメダルの数々に目を剥いていた。
どんな戦いを経てきたのか知らないことが多いが、改めて相手がとんでもない衛士なのだという証拠を突きつけられたのだ。
あれが全てではないと知ってはいる。だが明確な証拠にはなるものだ。
(なんだよ…何が違うっていうんだ…あんな……)
隔絶した、圧倒的な差。戦術機での模擬戦でも感じたあの違和感。まるで、相手はこちらを眼中にせず、別なことに集中していたような、そんな気配。
まるで巨大な壁にひたすらに体当たりを繰り返して、動かそうとしているかのような、絶望的な差。超えられない壁。
自分といったい何が違うのだろうか。実戦経験の差か。それとも何か根本的な違いか。
(くそっ……)
知らず、ユウヤは手を強く握りしめていた。
ここユーコン基地に来て以来、自分の衛士としての矜持やプライドといったものは既にガタガタであった。
これまで自分が積み上げていたものが、米軍で培ったものが、ガラガラと音を立てて崩れている感覚がする。昨日は特にそれがひどかった。
これまでの常識や考えが通用せず、いいように自分がもてあそばれているかのような、そんな感触。
一体連合とはいったい何者なのか、何をさせようとしているのか、何を考えているのか---それらがすべて不明だ。
絶対に突き止めてやる、何が何でも。
そう固くユウヤは決意した。長い長い一日の始まりの、そんな一幕であった。
だが、ユウヤはまだ底も見えない連合をのぞき込むには早すぎたかもしれないし、彼では理解しきれない面があることも考慮すべきだったかもしれない。
あるいは、遠い極東ロシアで戦う、本来の歴史ならば邂逅する大隊の指揮官ならば「己の領分を弁えろ」と警告していたかもしれない。
しかし、今のユウヤにそんな引き留める人間などいない。好奇心と苛立ち---あるいは根底にある恐怖---が突き動かすのみ。
- 深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ
せめて、かのニーチェが残した言葉を、ユウヤは知っておくべきだったのかもしれない。
70: 弥次郎 :2020/02/29(土) 23:42:24 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
あんまり話が進んでいねぇ!(白目
でもコツコツやるしかないね!
この後の話はちょっと予定より大幅にカットしてお送りする予定です。
幕間やら短編も交えて、いろいろな様相を見せるユーコンの様子をお送りできればなと思います。
次回もお楽しみに。
最後に一言、男の娘は、いいぞ…
最終更新:2020年03月05日 14:36