286: 弥次郎 :2020/03/02(月) 00:30:35 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
憂鬱SRW IF マブラヴ世界編SS「Zone Of Twilight」短編集6
Part.13 ファースト・インパクト
意気込んで大西洋連邦の持ち込んだ戦術機やMSたちの説明を聞き始めたユウヤであったが、それは最初からいきなり挫けることになった。
(核融合炉エンジンの搭載に光学兵器の標準装備…!?装甲の耐久性を向上させるためのナノサイズの機械での修繕!?なんだそれ!?)
GAT-04RP ウィンダム・パルサーについて軽く説明が始まったのだが、その段階でも既に劇物だらけだった。
ユウヤのイメージする原子炉とは大雑把ではあるがとてつもなく巨大な建造物の中にあるもので、決して戦術機サイズに納まるものではない。
つまりウィンダムは膨大な電力を発電しながら戦っているということで、直結のためにパワーは従来機の比ではないと説明された。
この時点で、紹介を受けたアルゴス小隊はメカニックも含めて思考が追いつかなくなりそうだった。
まあ次だ、と紹介されたのが、今度は光学兵器。つまり簡単に言えばレーザーやビームを攻撃に転用した兵器だった。
光線級などと同じ原理の其れをウィンダムは標準装備しており、射撃兵装にも格闘兵装にも用いているとか。どういう原理だ。
さあ次だ、と混乱と驚きでぐったりしている面々を前に次に説明が飛ぶ。それは、戦術機と根本的に異なる設計---内骨格設計だった。
通常、戦術機は外骨格(モノコック)構造を採用している。身近な生物で言えば虫や甲殻類のように内部が筋肉や臓器で埋められ、外側の硬い外皮で以て体全体を支えるという構造だ。これによって戦術機開発当初では小型化が難しかった各種計器類やセンサー、あるいは戦術機の駆動のために必要な内装パーツを無理なくまとめて入れることができ、開発に大いに貢献した設計である。
だが、連合のMSの設計は違っていた。黎明期あるいは第一世代のMSがセミモノコック構造であったのに対し、その後の世代のMSは内骨格へと転回したのだ。
その効果により、内装をより小さくすることを求められた分、極めて人体に近い柔軟な動きが可能となり---
「いかんな、これはちょっと情報過多になっている……」
そこで説明をしていたアウグストが言葉を切ったのは良い判断であった。まともについていけていたのはハイネマンやヴィンセントくらいで、残りのメンバーに関してはもうすでにスタミナが尽きようとしていた。まあ、無理もない。ついていけるメンバーの促しで説明していたのだが、そのほかのメンバーはもはやついていく気力さえ湧いてこなくなってしまったようだ。
「仕方がないな…切り上げて休憩にしよう…マイア大尉、手配を」
「はい、かしこまりました」
「次のグループが来たらもっと簡単にしてやらんと駄目だな…」
そうため息をついたアウグストは、無気力感にとらわれたアルゴス小隊に内心謝るしかなかった。
287: 弥次郎 :2020/03/02(月) 00:31:54 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
ユウヤはそんな言葉が頭に浮かんできた。
いや、何というか、もう驚き疲れてしまって、体力を使い果たしてしまったような錯覚を覚える。一応後から見直せるようにと紙媒体の資料は貰っている。
だが、現状それを振り返るのは体力的に無理であるし、脳味噌の方がこれ以上の情報を受け取るのを拒否しているので無理だ。
ユウヤだけではなく、アルゴス小隊のほとんどが案内された休憩スペースで説明を切り上げて休息をとっていた。
「大丈夫か、ユウヤ……」
「ああ……休んだら少しマシになったぜ」
同じく休息スペースでぐったりとしていたヴァレリオの声に、何とか返事を返す。
用意されていたドリンクを流し込みながら、情報過多で痛む頭を何とか休める。
「連合って眉唾な連中だと思っていたが……やべーぞ」
「だな……」
ともかく、連合がこちらのグレードに合わせているということは分かった。それだけ相手は手加減していたわけだ。
「なあ、トップガン」
「……やめてくれ、それは大西洋連邦の中佐に使えよ」
「……ああいうのを、俺達は作れると思うか?」
いつになく真剣なヴァレリオの言葉に、ユウヤは言葉に詰まる。
顔を枕にした腕にうずめながらも、ヴァレリオは続ける。
「お前が着任する前からさ、F-15・ACTVを俺達はテストしていたんだよ」
「……ああ、そう聞いている」
「ところがどうだよ?後発のXF-15Vなんてのが出てきて、あっけなくACTVを追い抜いていっちまった…」
ため息が一つ、重たく吐き出された。
「俺は悔しいよ…」
「……」
「あの演習と、この資料で大体分かっちまうよ。XF-15Vは強いって。俺達が苦心した分の努力が、一瞬でパーになっちまった気分だ」
その気持ちは、痛いほどにわかる。だが、それを口に出すことは憚られる。
F-15・ACTVを育てていたヴァレリオ達は、F-22の開発衛士をやっていたユウヤと境遇は似ている。
自分とて、自分がテストして育て上げたF-22が他の戦術機にあっさり負けてしまったら同じように強いショックを受ける自信がある。
その開発の場から離れることになってしまった経緯はいまだに尾を引いているにしても、だ。
「ヴァリアブルはな、たった数週間で設計も開発もテストも完了しちまったんだとさ」
相槌を打つユウヤに、ポロリとヴァレリオは漏らす。
「もしもって思っちまったよ。あの時に、こういうのがあればってな……」
あの時。一体いつの事だろうか。ヴァレリオはイタリア軍所属。既に国土は失陥し、BETAの支配地域に置かれている。
欧州を支える作戦には米軍も参加していたと聞くが、結局どうなったかは現在の世界地図が教えてくれる。
もっと端的に分かりやすく言えば、リヨンとブダペストに構築されたハイヴがその証拠だ。
欧州を失陥した時、一体ヴァレリオは、あるいはステラは、、ドーゥルは、何を思ったのか。推測しかできない。
あるいは、同じく故郷を失ったタリサは、連合のMSの圧倒的な力を前に何を思ったのか。
「……もっと早く連合が助けに来てくれたら、なんて思っちまったよ。情けないよなぁ」
「……」
「俺達はあれに負けない物を創らなきゃならないのに、もう負けちまって、立ち上がれそうにないし、おまけに、な…」
かける言葉はなかった。見つけられない。自分はアメリカ人だ。後方で安穏としていた衛士に過ぎない。
まだ失っていないのは幸運だ。けれど、逆に言えばそういった境遇の人々を見ているしかできなかった国の人間でもある。
ユウヤも思わず下を、机の上を分けもなく見て考えてしまう。自分は、何ができるのかと。一体この先、自分は何をしていけるのだろうかと。
それがなにに対してなのか。何のために感じているのか。ユウヤはそれを判別することは出来ずにいた。
ただ、胸中に絡まった感情の渦が一つ出来上がったことは確かだった。
288: 弥次郎 :2020/03/02(月) 00:32:27 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
Part.14 白き牙、学びを重ね
衛士たちの驚きや驚愕の嵐が吹き荒れながらも、展覧会は順調に進みつつあった。
当初の予想以上にβ世界の衛士たちが衝撃を受けてしまったために説明などを簡略化し、情報をあまり一気にぶつけないようにと取り計らうことで、スムーズなスケジュール進行が可能になったのだ。アルゴス小隊にしても、最初の衝撃を受けてから時間を減ると慣れてきて、あるいは感覚がマヒし始めたことで、多少の事では驚いたりはしなくなっていった。
だが、当初から耐性を十分に持っていた帝国近衛軍のホワイト・ファング試験小隊は積極的に議論を交わし、他の世界で著しく発展をした機動兵器に関する知識をどん欲に求め、吸収していった。トヨアシハラで先んじてもまれてきた彼女らにとって、このユーコンでの驚きなど微々たるものに過ぎない。まだ常識の範疇に納まっているモノしかないからだ。
(やはり連合でも各国ごとに微妙なドクトリンや機動兵器の開発の傾向は国情に合わせて微妙に違っている…)
戦術機を例に見るまでもないが、同じような技術を発展させている連合内でも、そのMSやAC、MTに至るまで運用には違いがある。
戦訓の反映が逐次行われ、各国ごとの解釈や分析が行われ、議論が交わされ、改良されて新たに機動兵器へと取り込まれていく。
そのペースはすさまじいの一言に尽きる。まあ、人間の代わりに休みなく計算と演算を続けるコンピューターの支援もあってのことだが、それは戦術機の開発にあたっても同じようにやってきたことばかり。BETAの適応力が低いのと同時に、人類側の適応も比較すれば遅いと断じるしかない。
つまり、戦術機の開発に今後必要なのは基礎的な技術もそうであるが、それを柔軟に組み合わせていく支援体制ということになるのだ。
「……まだまだ学ばねばならんか」
連合は遥か高みにいる。だが、決して距離を詰められないわけではない。その差を埋めるためにも自分はここに赴いてきているのだ。
それを改めてかみしめながらも、唯衣は小隊員たちと共に少しでも多くの情報を集めようと行動し続ける。それが帝国の為、未来のため、そしてこれまで自分達を活かすために散っていった多くの英霊たちに報いるのだと信じて。
289: 弥次郎 :2020/03/02(月) 00:33:00 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
欧州連合やソビエト連邦を担当しているユーラシア連邦のブースを出た唯衣たちは、張りつめていた緊張の糸をほぐすように大きく深呼吸をしていた。
ユーラシア連邦のMSで学ぶことはあったが、それ以上にソビエト連邦の戦術機についての知見を深めることが出来たのは大きかった。
大日本帝国からすれば仮想敵として警戒されているソ連ではあるが、BETAとの戦いにおける最前線国家であることやそのドクトリンには同じものがある。
故にこそ、これまではなかった散弾銃---ショットガンの実用化や機体の剛性を高めることによる格闘戦への適応力を高めるなど、大日本帝国の戦術機も積極的に導入すべき新要素が多数見受けられていて、大いに学ぶべき点だと驚嘆したものだ。
「ソ連も侮りがたし、だな」
「はい」
資料の束をまとめて袋に詰めながら、副隊長の雨宮と頷き合う。
「それに私としては、ユーラシア連邦や企業連が欧州に持ち込んだという補助飛行艇(SFS)に興味が湧いております」
「うむ。私も同感だ……」
二人の話題に上がるのは、企業連を通じてユーラシアと大洋連合が欧州連合に対して提示した新たな支援戦闘兵器であるサブフライトシステムだった。
戦術機が跳躍ユニットによって飛翔が可能なことは二人とも良く知っている。だから最初はなぜ他の飛行機に乗って移動するのかと疑問に思っていた。
だが、担当者の説明やそのスペックから、すぐさまその意図に気が付くことが出来た。
「単独行動半径の拡張…跳躍ユニットをコントロールするよりもはるかに衛士の負担が小さいこと…それに、手軽な輸送機といての運用。
どれも戦術機が長距離侵攻を行うには必要なものばかりだ。帝国領度では兎も角、大陸ではそもそもハイヴに近づくのにも一苦労だからな」
「怖いものは光線級ですが……これは臨界半透膜によって防護されているから問題なし、ですか。
これまでのドクトリンが大きく変わってしまいますね」
頷くしかない。そもそも臨界半透膜の搭載でレーザー級が全く怖くなくなってしまうのだ。これで航空支援が受けられるようになるし、レーザー級を警戒して飛行高度を低く保つ必要性も大きく減じてしまう。そうすれば撃ち降ろしで一方的にBETAを駆逐することさえ可能だ。
「しかし、衛士の負担が一つ増えることにもなるな…」
「あ、確かに…」
そう。SFSは確かに便利ではあるが、今度はSFSを戦術機で駆って戦う必要があるということになる。
そうなった場合、運用する衛士はこれについて一から訓練を積み重ねなければならないのだ。連合が手本を示してくれるだろうが、それでも衛士が学ぶべきことが増えてしまう。また、前線だけでなく後方支援体制においても大きく変化を強いられるだろう。
その労力にあうだけの価値があるのかどうか、きちんと評価しなくてはならない。
「それについても我々が先んじて評価しなくてはならない…ふ、ここに来てからやることは増えていて飽きないな」
「はい。頑張りましょう、小隊長」
だが、帝国から派遣されてきた彼女らは意気軒高だった。
少なくとも、ホワイト・ファング試験小隊は未来に希望を見出していた。国土の半分を失陥している状態ではあるが、泥中に眠る蓮がやがて可憐な花を咲かせるように、いつか努力の結晶が芽吹くと信じているから。その思いを胸に、彼女達は次なるブースへと向かうのであった。
290: 弥次郎 :2020/03/02(月) 00:34:08 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
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即落ち二コマ。撃沈されたよユウヤ君!(白目
まあ、世界が違えば当然の如く常識が違うからしょうがないね。
次はソ連とユーラシアの様子でも書こうかなぁ…
あとはNT部隊の様子とか、Zのお披露目とか、ビーム兵器のお披露目とか…
劇物ばっかりですな!
最終更新:2020年03月05日 14:51