885: 弥次郎 :2020/03/06(金) 22:03:55 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
憂鬱SRW IF マブラヴ世界編SS「Zone Of Twilight」短編集7
Part.15 少女、二人。そしてもう一人。
イェジー・サンダーク中尉…否、現状では臨時大尉は憂鬱な気分であった。
連合の区画に入るというのは上層部が命じていた諜報活動において絶好の機会であったのだが、やはり無謀が過ぎていた。
まず、連合が有するESP能力者が常に監視の目を送ってきていること---これはクリスカの報告だった---がリーディングを抑止していた。
迂闊にここで誰かにリーディングを試みようものならば、反撃されてしまうことは火を見るより明らかであった。
リーディングに対する連合のものと思われる報復は既にアラスカのソ連領各所に行われており、次は自分の命さえも危ういのだ。
また、イーダル試験小隊以外の諜報班も動かしていたのだが、正規の手順以外では敷地へ足を踏み入れることは愚か、近寄れもしないらしい。
それだけ連合の警備陣のチェックは厳しかったのだ。いくつもあるセキュリティーゲートは想像以上に堅い守りらしい。
止めに、イーニァと仲良く交信をしていた連合のESP能力者のアナ・マキサカが大洋連合のブースに到着した途端現れ、クリスカ共々どこかへと連れて行ってしまったのだ。あくまで彼女達は衛士という体であるので、大洋連合のブースでの説明は、他の衛士や自分達で聞いてしまえばことたりるし、オープンソースの真偽をわざわざリーディングで確かめる必要もない。
それに、明らかに上官と思われる軍人がアナに対して場を離れることに許可を出していたことも、リーディングを警戒されている証とさえいえた。
ここまでされてなおじたばたするほど、サンダークは往生際が悪いわけではない。大人しく説明を聞くことに徹することにした。
(連合に対するアプローチはもはや正規の手段によるしかない、か……)
一縷の望みを上層部としては賭けているのだろうが、П計画もろともそれはもはや中身のないスカスカの状態。
これ以上何を仕掛けたところで徒労以外の何物でもないだろうし、報復がこれ以上苛烈になる事は間違いない。
報告に関しては当たり障りのないものを出すしかないだろう。どうせ上の人員も成果が出るとは考えていないのかもしれないのだし。
(後の心配事は…アナ・マキサカ少尉か)
イーニァと連れだってどこかに行ってしまい、それを追いかけてクリスカもいなくなってしまった。
まあ、連合が拉致などしてくることもないだろう。ソ連との間にトラブルなど起こしては連合もこの後の動きに差しさわりもあるだろうし。
というかそんな面倒ごとはソ連に利があるとしても御免こうむりたいところだ。
(いかん、疲れている…)
一度にあれこれと考えたせいなのか、身体を徒労感が襲う。П計画の実質的な最高責任者となってしまい、さらに連合への対処を任されることになり、元々あったイーダル試験小隊の任務も合わさってサンダークの負担は大きかった。
責任と仕事ばかりが拡大し、心労も増える。流石のサンダークも堪えていた。ともあれ、今日という日が無事に終わることを祈るしかない。
もうこれ以上の面倒ごとは御免だと、いつになく真剣に願いながら。
886: 弥次郎 :2020/03/06(金) 22:04:35 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
二人と一人の組み合わせ---アナとイーニァ、そしてそれを追いかけるクリスカ---は自由に散策をしていた。
あちらこちらのブースを見て回ったり、配られているサービスのドリンクを飲み比べたり、たわいもないことを話したり、互いの家族の話をしたりと和気藹々としていた。クリスカはサンダークの命令もあって警戒心をほどいてはいないのだが、イーニァは待ちに待ったアナとの直接会うことが出来た機会で警戒などない。実際に言葉を交わして、足りないところはプロジェクションで補って、無邪気に笑い合って。年相応の、彼女らが平和な世の中であれば享受していたであろう光景が繰り広げられていた。
彼女らはもともと交信を交わして仲を深めていたことに加え、互いの心を覗き合うことで純粋にコミュニケーションがとれているのだから、打ち解けるのが速いのもごく自然なことであった。
他方、それを見守るクリスカとしては複雑な心境であった。正直なところ、アナというESP能力者のことは今一信用ならない。
上司であるサンダークから監視を任されているからというのもあるから、個人的にもイーニァに対して危害を加えないか危惧している。
だが一方で、自分の半身ともいえるイーニァがあそこまで誰かになつくのは初めて見たのも事実だ。ひょっとすると自分以上に、かもしれない。
(イーニァ、一体どうして…)
クリスカにはイーニァがどうしてアナに心を赦しているのか、理解できない。いや、理解したくないというべきか。
クリスカの感情を正しくとらえるならば、イーニァへの心配というよりは、アナへの嫉妬であった。家族のように心を赦すのが自分だけであったものから、他の人間へと、自分以外の、自分がよく知らない未知の相手とも親しくしていることが、無意識のうちにクリスカにその感情を抱かせていた。
クリスカ本人としては任務であるとか、資本主義の国への対抗心などが理由だと思いたがっているが、実際はそうではない。
なまじ他人の感情に敏感になってしまうESP能力者ゆえに、またその境遇が一般人とはかけ離れているがために、自身の感情の客観視が出来ずにいたのだ。
そんな渦巻く感情にとらわれていたクリスカが、集中してイーニァとアナの尾行ができるはずもなく、また二人がクリスカに気が付いたことも把握できるはずもなかった。
「ねぇ、クリスカ」
「!?」
名前を呼ばれてふと目の前を見れば、そこにはにこにこと笑うアナの姿があった。傍らには同じくイーニァの姿もあった。
「クリスカだよね?」
「なっ…」
「クリスカもいっしょにアナとおはなししよ?」
「な、なぜ貴様などと…!」
監視に気が付かれていて、それは咎められず、輪に加わるように促されてしまった。
何らかの拒否が来ると思っていたクリスカの予想は大きく裏切られることになり、ますます混乱を生み出していた。
何故ここまで親しげに接して来るのか、なぜ拒否しないのか、なぜ---そんな益体もない疑問が渦巻き、クリスカは思わずフリーズしてしまう。
「クリスカもお話したいのかなって思ったんだよ。イーニァもそうしたいって言うし、私もそうしたいから」
本心からの言葉。疑ってかかってしまうが、それさえもアナは笑って許した。
「ほら、覗いても大丈夫だよ?」
すっと手を掴まれるようなイメージがクリスカを襲う。咄嗟に弾こうとするが、それは強引というよりは優しい手だった。
戸惑いながらもアナの色を見ると、それはとても澄んだ、安らぎさえ感じる緑色だった。大洋連合のブースで見かけた、どす黒く血と硝煙の臭いがむせ返るほど漂うような色をした男---たしか資料では日企連とか言う組織の傭兵だったが、その男とは対極の様な色だった。
「ね、嘘じゃないでしょ?」
「クリスカもいっしょにおはなししよ、ね?」
「くっ…」
こうまでされて、拒否できるはずもなかった。正直、クリスカは戸惑いを感じていた。
それはアナから向けられてくる感情だ。イーニァの様な依存でも、上官の命令に伴う冷徹さでも、まして敵意でもない感情。
それは、ある種の親愛の情、人を受け入れる、分かり合うために必要な感情だった。そんな感情を抱えながら二人についていくことを選ぶのであった。
何故、ここまで安心するのか、何故リーディングを平然と受け入れたのか。多くのことに疑問とある種の恐怖を覚えながらも。
887: 弥次郎 :2020/03/06(金) 22:05:11 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
Part.16 世界を超えて
昼の休憩時間に入った時、アルゴス小隊は死屍累々と言った有様であった。
連合の主力機動兵器であるMS、可変機であるTMSおよびTMA、核融合炉、光学兵器、MTやACといった別のカテゴリーの兵器、さらには戦闘を支援するための幾多の兵器達。それらを4か国分も一気に見せられれば、その疲労感は4倍以上に上る。
「頭が痛いわ……」
ぐったりとしながら頭を抑えるステラの言葉にほぼ全員が同意した。
アルゴス小隊だけではない。アフリカのドゥーマ小隊、豪州のネッド・ケリー小隊、中東連合のアズライール小隊もまた、昼食休憩のために案内されたスペースでぐったりと倒れ込んだり、あるいは体を休めていた。彼らの心情は一致している、お腹いっぱい、だ。
昼食がそれだけ多かったというわけではない。確かに潤沢に昼食は用意され、中東連合のためにハラールフードも用意されていた。
だが、根本的にはそれだけ多くの情報が突き付けられたということで、自分達の常識を如何に飛び越えているのかを突きつけられていたのであった。
「でもみろよステラ…」
「何かしら…?」
「あいつらはまだ元気だぜ?」
欧州連合第一のスウェーデンのスレイプニル試験小隊、欧州連合第二のF-5EトーネードADVとF-5Eの新型を有するラムレイ試験小隊、さらには統一中華の暴風試験小隊や大日本帝国のホワイト・ファング試験小隊らは情報の嵐を受けてもなおも健在だった。
それぞれが割り当てられたテーブルを囲んで資料を広げ、盛んに議論を交わしている。というか欧州連合と大日本帝国からの小隊は、同じテーブルで議論を戦わせているようで、その声は断片的ながらも届いてきている。
「変ね…まるであれだけの情報について最初から知っていたみたいに平然としているわ。開示されている情報に差があるのかしら…?」
「ステラはスウェーデン出身だろ?何か聞いていないのかよ?」
ヴァレリオの指摘に、しかしステラは首を振る。
「私はユーコンでの任務が長いから、本国での詳しい動きはよく知らないわ…。
けど、聞いている限りでは、本国やイギリスで連合との接触があったというのを聞いているわ」
「ふーん…」
「VGはどうなのさ?」
「俺も同じだ。大したことは聞かされていないぜ」
「ただ、なんで欧州連合と大日本帝国の小隊が、と思うわ。彼らの間に何かつながりがあったのかしら?」
「さぁねぇ…俺達衛士には明かされていない、上の事情って奴かもしれないぞ」
それよりも、とタリサはこの後のスケジュールを思い出す。
「そんなことは別にいいんだけど、午後からは実機演習を見せられるんだし、アタシとしてはそっちに興味がある」
888: 弥次郎 :2020/03/06(金) 22:05:45 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
午後からの実機演習。それは、映像や資料で見せられた連合のMSなどの兵器の実演の場であった。
今回技術及び実機が供与される予定の戦術機も含まれているが、やはりというか各国の注目はMSであった。
書類上のカタログスペックなどは簡単にごまかせはする。だが、実機を実際に見るというのは誤魔化しのきかない、より体感を以てスペックや使われている技術のレベルについて理解するのに適した形だ。
本来ならば戦術機とMSでの模擬戦も計画されていたらしいのだが、それは主に連合から、そして統一中華の暴風試験小隊から、それは絶対に避けた方がいいと進言があり没となっていた。ハルトウィックらは不満をあらわにしていたが、連合や暴風試験小隊も譲らない。
結局は連合に根負けしたことで現在に至っている、ということらしい。
「でもまあ、分からなくもないわな。あれだけの技術が使われているんだってんなら、戦術機との間に性能差があってもおかしくない」
「そうね…光学兵器なんて当たったらお終いだわ…」
「で、でもAL弾の重金属雲で…」
タリサの進言を、ステラは資料をかざしてばっさり切り捨てる。
「資料によれば、連合の光学兵器は重金属雲程度では減衰しないそうよ。物理的な作用も持つ粒子砲だから、多少の妨害でも突き抜けてくるらしいわ」
「なんじゃそりゃ…?」
「インチキも大概にしてくれよ…」
「連合に言わせれば、レーザー級のレーザーは低出力も良いところらしいわ……聞いてなかったの?」
「むしろあの情報の山を聞き分けていたのかよ、ステラは…」
「何とかね…」
ともあれ、と、未だに連合のスタッフと話を続けているハイネマンやヴィンセントの様なメカニックたちを眺めながらも、ステラは手元にあった資料をまとめながらもアルゴス小隊の衛士たちに告げた。
「ちゃんと食べて、午後からの予定に備えましょう」
「うむ、そうだな…」
そこに戻ってきたのは、疲労をにじませたドーゥルだった。指揮官クラスの人員との交流が長引いていたのか、ようやく合流できたようだった。
アルゴス小隊の集まるテーブルを見渡したドーゥルは、しかし首を傾げた。
「それにしても、ブリッジス少尉は何処に行ったんだ?知らないか?」
「いえ、途中でいつの間にかいなくなってしまいまして…」
「集団行動もできんのか…?」
「たしか大洋連合のブースを見終わったあたりで見なくなったような…?ヴィンセント曹長に後で確認してみます」
「頼んだ…」
どっかりと椅子に身を沈めるドーゥルもまた、疲労が濃い。いつもの覇気が減退しているようであった。
さしもの歴戦の衛士も、いやむしろ歴戦だからこそ、これまでの常識をぶち壊す展示内容には驚き疲れてしまったようだった。
ともあれ、そんな彼らは順調に予定をこなしつつあり、波乱の午後の演習を迎えることとなる。
889: 弥次郎 :2020/03/06(金) 22:06:21 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
とりあえず短編を二つばかり。
オーストラリアの小隊と欧州第二小隊は原作でも名前が出てなかったのでこちらで便宜上の名前を付けました。
さて、ユウヤ君は一体どこに…?
894: 弥次郎 :2020/03/06(金) 22:38:43 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
修正です
888
×今回技術及び実機が供与される予定の戦術機も含まれているが、やはりというか各国の注目は
〇今回技術及び実機が供与される予定の戦術機も含まれているが、やはりというか各国の注目はMSであった。
最終更新:2020年03月15日 17:35