435: 弥次郎 :2020/03/12(木) 00:03:57 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
憂鬱SRW IF マブラヴ世界編SS「Zone Of Twilight」外伝「水の精霊の息吹が巻き起こしたモノ」
ソ連 極東カムチャツカ戦線は、H26エヴェンスクハイヴに対し、ヴランゲリ基地、要塞都市アナディリ、ティギリ、そしてペトロパブロフスク・カムチャツキー基地という要衝によって構成され、ソ連のユーラシア大陸側の領土の北東において最終防衛ラインを引いていた。
1999年の横浜ハイヴ攻略戦時のG弾の効果は、ソ連の抱える最前線にいきなりハイヴが出現するという事態を引き起こしていて、主観的にはいきなりハイヴが2つも構築されていたというわけである。とはいえ、現地に同じく出現していた主観時間2000年から2001年の衛士たち、そして主観時間を同じくする構築されていた防衛ラインでの踏ん張りもあって前線は何とか維持され、以て極東ロシア地域は、危ういながらも未だに人類の版図の内側にある最前線として機能していた。
さりとて、昨今起きた大変化については、流石のソ連も、そして最前線の歴戦の衛士たちも戸惑いを以て対応するしかなかった。
すなわち、エヴェンスクハイヴの攻略---というより同ハイヴの消滅---による大幅な戦線の前進であった。
そう、これまでBETAの物量に押され、消耗を重ねて嘗ての様な反撃作戦に打って出る能力を失い、ひたすらに後退していた状況が一転、同じくG弾の炸裂後に出現していたH24ヴェルホヤンスクハイヴ付近にまで防衛ラインが大きく「前進」したのである。
H25の消滅後、衛星は大量のBETAの群れがH24へと一斉に退避していくのを捉えていたし、最前線の衛士たちは暇を持て余すことになった。
これに慌てたのはソ連上層部だった。言い方は悪いのだが、BETA戦の開始以来消耗する一方の戦力にとって戦線が縮小するのはありがたいことであった。
それだけ戦線を狭く維持するということは兵力を分散させず集中できるということであり、負担を抑えることにもつながっていたのだ。
だが、ここにきてH25の陥落はある種均衡を保っていたソ連の防衛戦を大きく拡張する必要性というものを生み出してしまったのである。
そう、前進するということは、それだけ広い範囲を防衛する必要に迫られるということでもあるのだ。
ここでソ連にはいくつかの選択肢が存在していた。
一つ目に、国連軍を呼び込むことであった。流石にソ連単独で広がった防衛圏を維持しきるのは厳しい。ならば兵力の余裕があるところから借りてくるというもの。
二つ目に、戦線の押上げをある程度諦め、現状の維持に徹するというもの。確かにハイヴ消滅はありがたいが、それ以上が体力的に敵わない。
ならばいっそ戦線を極端に拡大させることなく無理のない範疇で拡張を図るべきというものであった。
三つめが、これはソ連に提示された案であったが、ユーラシア連邦の戦力がソ連領内で活動する、というものであった。
このどれを選択するのかをめぐって、ソ連上層部は紛糾した。1は確かに手軽ではあるが、国連=
アメリカの出先という認識から反対が根強い。
下手をすれば戦後にも治安維持のためなどと国連の名を借りて占拠を続けるかもしれない。せっかく奪還した土地だ、できるなら自力で守りたい。
2は押し込まれる状態が長く続いていたのだから、せめて防衛ラインを再構築したいという意見だった。一見合理的に見えるのだが、せっかくの大戦果(ただし他国の援助100%)を生かさないで一体どうするのだという反対意見がありこちらも異論が相次いでいる。
そもそも最前線の戦力がすり減っているのに攻勢に出るとかあほだろというのはNGである。そして3つ目の意見は、賛成も反対もどちらも一定数あり、宙ぶらりんの状態になっているものであった。1のように国連の介入がないというのはありだし、うまくいけば連合から技術を巻き上げ……学んで吸収することができる。それに最前線は自分たちが出るとしても、足りない兵力を連合から供出してもらえば今のうちに戦力を更新したり立て直しを図るだけの余裕を生かすことが出来る。
ついでにいえば、前線押上げという戦果を誇示することにもつながるだろう。さらに、ユーラシアは無事な極東ロシアの地下資源を、これまでとこれから行う支援の見返りとして求めてきたという事実が後押ししていた。つまり、資源というエサで釣って、戦力を供出させる良い機会だということだ。
436: 弥次郎 :2020/03/12(木) 00:04:51 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
だが、一方で反対意見もある。そもそも連合 ユーラシアに対して国土に大規模に立ち入りを許していいのかという声がある。
領土の割譲を求めてくる可能性は0ではないのだし、せっかく国内にある資源を連合にみすみす持っていかれるのはソ連としてはうまみが少ない。
戦後になって国家再建の土台ともなり得る地下資源は、できれば自分たちの手で独占しておきたいのだ。
また、国防という重要なものを他国に、共産主義でもない国に完全に委託してしまうなど論外だ。
喧々諤々の議論は進むが、若かれども結論はなかなかに出ない。もし連合がこの議論を聞いていたら、戦後を考えすぎだとあきれていたかもしれないが。
そんな上層部とは裏腹に、最前線では比較的穏やかな時間が過ぎようとしていた。
エヴェンスクハイヴ消滅に伴い、周辺で活動していたBETAは一斉に西側へと遁走。たまに来るBETAの群れを撃退すればよく、これまでハイヴが目と鼻の先に存在していた時に比べればはるかに頻度は落ちていたし、群れ自体も小規模なものばかりであった。
そうなると、自然と前線においては戦力の再編が行われ、消耗していた幾つかの部隊が統廃合を行い、あるいは配置換えを行ったりした。
また、こちらの方が本命であったが、最前線の兵士たちは愛用の戦術機の更新やそれに慣れるための訓練に明け暮れていた。
そう、訓練である。ロシア人以外を積極的に最前線に、年端もいかない子供さえも放り込むことで民族問題の解決を進めたソ連の思惑を外れ、最前線においてはユーラシアからの派遣パイロットたちが衛士の育成や教導任務に就いており、改良された戦術機であるSu-27DやMig-27F、あるいはMig系列向けのアップデートキットを導入した戦術機の運用指南を行い、あるいは新型OSによる新たな機動戦闘技術を叩き込んでいた。
さらには、この教導任務にかこつける形でユーラシアは各地の基地に物資の直接提供を行っており、潤沢な物資の蓄積を行いつつあった。
ユーラシアにしてみれば、稼がれた時間を浪費するのも惜しいのだ。この時間の間に新型機や新型OSへの慣熟を進め、前線の消耗を抑える体制を作らなければ。
ソ連がBETAとの戦いよりも、政治的な争いに力を入れることはSu-27DやMig-27Fの件ですでに懲りており、そこら辺の抜かりはなかったのだ。
そして、本来ならば「英雄」として戦死するはずだったフィカーツィア・ラトロワ中佐と彼女率いるジャール大隊も同じように訓練に放り込まれていたのであった。
「くっ…はぁ…」
休憩時間を知らせるベルが鳴ったことに、思わず安どの息が漏れてしまった。
彼女は愛機であるSu-37M2ではなく、Su-27Dでのシミュレーションを繰り返し行い、新型OSや武装に慣れる訓練を重ねていた。
だが、歴戦の彼女をして新型のSu-27Dの性能は非常に高く、おまけにOSによる自由度の高さは時として彼女の制御を超えるような動きさえも出来た。
ゆえにこそ、シミュレーションであったとしても彼女の体力と集中力は容赦なく失われていくのであった。
(だが……悪くはないか……)
だが、それに文句をつけるほどラトロワは子供ではなかった。部下たちの一部には反発する者もいたのだが、これらの訓練は確実に実力を底上げしている。
もともと消耗前提で最低限の訓練で放り込まれ、実践の中で技術を磨いてきたジャール大隊であったが、それゆえにポテンシャルは大きく、また、正規の訓練を改めて受けることで、実践だけでは身につかない理論的な技術を学ぶことが出来ていたし、部隊内の風紀の改善にも役立っていた。
以前は部隊内での些細な喧嘩や言い争いなどがあったのだが、それはかなり減っていたし、態度などもかなり改善していたのを実感している。
少なくとも、連合は、ユーラシア連邦は本国よりも真剣に前線に力を貸してくれている---最初こそ疑っていたラトロワもそれを認めるしかなかった。
そんなことを考えていると、戦術機のコクピットブロックを模したシミュレーターの扉が開き、ユーラシアからの派遣教官が顔をのぞかせる。
「中佐殿、休憩としましょう」
「了解だ。次のカリキュラムは?」
「30分後に開始の予定です。やはり中佐殿の動きはほかの衛士を超えていますね、いいデータがとれますよ」
「誉め言葉として受け取っておこう」
437: 弥次郎 :2020/03/12(木) 00:05:47 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
決して愛想がいい方ではないことを自覚しているが、せめて真剣に自分たちと向き合ってくれる教官には言葉だけではない礼儀を。
部隊員に、というかラトロワも含まれていたが、つっけんどんな態度をとられようとも、あるいは敵視を受けようとも、決して妥協せずに向き合ってくれたことには感謝しかない。少なくとも、部下たちを、そして自分を必死に助けるという任務に忠実だということは確かだからだ。
(まったく、前線の方がぜいたくな暮らしをしているかもしれないな…)
目の前に並ぶ甘味を眺め、思わずラトロワはため息を漏らしてしまう。休息スペースにはいくつかの種類が用意され、お茶までも用意されていた。
そのどれもが天然食品。まずい合成品を食べる機会はユーラシアからの支援物資が届くようになってからはめっきり減ってしまった。
今では懲罰を受ける兵士が食べるものにまで扱いが落ちており、本国からの支給品はほとんど食べられていない。
最初こそ自分たちへの篭絡を仕掛けてきたか、と警戒したり、「お客様」の気配りかと一蹴していたが、やはり体の要求には抗えなかった。
それに、天然食品を食べるようになってから何となくではあるが体調がよくなったような気がするのだ。ユーラシアの軍医の助言もあってのことだろうが、肌の艶や潤いがまし、適当にしていた髪も荒れていたものが改善しているとのことだ。また、部下の何人かは軍医が見過ごしていた病気を指摘され、治療のためと暫く連れていかれて、元気になって戻ってきたことも覚えている。そんな部下たちは、訓練の合間の休憩だからか、甘味料を奪い合うようにして食べているのが見える。最前線だから尉佐官の区別はあまりないので、こうして直接見れる、というわけだ。
「中佐、どうなさいました?」
「いや何でもないさ、ターシャ…」
副官のナスターシャ・イヴァノワの問いかけに、ラトロワは何でもないと答える。
だが、自分でも自覚はあるが、自分は微笑んでいたのかもしれない。部下たちの、年相応の振る舞いを見て。
「ふふっ、中佐のそういう表情は私は好きですよ」
「大人を揶揄うんじゃないぞ、ターシャ」
はいはい、というナスターシャは、しかしこちらを見てにこにこと笑っている。ナスターシャも最近は笑みが増えているような気がする。
聞いたところによれば、自分もまた同じように楽しげに笑っているのをよく見るようになったのだという。
良くも悪くも、連合は大きく情勢を塗り替えてしまったようだ。あるいは、自分自身さえも。
「ところで中佐、ユーラシア連邦が新しく戦車部隊向けに新型兵器を導入しないかと打診しているそうですよ」
「戦車部隊に、か?戦術機ではなく?」
ラトロワは部下の持ってきた情報に首を傾げた。これまでは戦術機部隊を中心に支援を行っていたユーラシアが、今度は現状の戦力でも満足している戦車部隊に対して何を提供しようというのか。皆目見当がつかない。
確かにBETAと直接戦うのは不利があるが、それでも火力支援で戦車は活躍している。殊更このロシアにおいては使えるものは何でも使う主義であるし。
「詳しいことは中佐に話を通してからだそうですよ」
「そうか。まあ少しは期待できそうだな」
それよりも、とラトロワは自分用に盛り付けられた甘味料---ロシアのお菓子の一種であるチーズケーキバーのスィロークに手を伸ばす。
この後も過酷な訓練が待っているのだ、これくらいの贅沢は許されるだろう。そう思いながら、思いっきりほおばった。
438: 弥次郎 :2020/03/12(木) 00:07:15 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
ソ連の現状についてちょっと書いてみましたよ、と。
次は書きあがったものから投下しますのでご容赦を…
最終更新:2024年06月01日 18:48