526: 加賀 :2020/03/07(土) 18:39:01 HOST:softbank126209030131.bbtec.net
「『長門』の事?えぇ、知っているわ。話せば長いけどね。知っている?戦艦は三つに分けられるのよ。戦艦の強さを求める奴、戦艦のプライドに生きる奴、戦況を読める奴。この三つよ。『長門』はーー」

 彼女は『南雲機動部隊の生き残り』であり日本国防海軍航空母艦『瑞鶴』

 『長門』の相棒だった艦娘である。そして彼女は語りだす。あの日、あの時、何が起きて何を決断したのか。

「あれは夏も終わって秋まっしぐらの最中の日だったわ」






「報告!!三宅島の雄山付近で小規模な地震活動が確認されたとの事です」
「………」

 日本国防海軍の戦艦『長門』は横須賀基地の第一艦隊に所属していた。その艦娘である『長門』は防空指揮所にて『長門』を護衛する駆逐艦からの報告を受けていた。

「駄目じゃない『長門』。ちゃんと報告を受けたらありがとうくらい言いなさいよ」
「……『瑞鶴』か」

 第一艦隊はこの時、第一輸送隊と共に三宅島沖を航行していた。時に1983年10月3日1200頃である。

「前日からの小規模な噴火兆候……まさかとは思うが爆発すると思ってる?」
「思ってるからこそ橋本国防海軍元帥は第一艦隊と第一輸送隊の出動を許可したのだろう」

 『長門』達は橋本達の正体は知るよしもない。だが、第一艦隊と第一輸送隊は出動した。三宅島の住民を避難させるために。

「与野党も大分揉めてるみたいじゃない」
「避難ごときで艦隊を出動させるのか……とな。決断が遅ければ遅い程後悔はするぞ。私達みたいにな」
「だよね……」

 そう言う二人だったが不意に『長門』の速度が遅くなる。

「また?」
「あぁ、機関は仕方ない。いくら米国の機関を改装で積んでも長く使用していたら古くなるのは当たり前だ」

 『長門』は機関不調で徐々に速度が落ち始めていた。艦隊も『長門』の速度に合わせて航行をする。

「三宅島まで後30分……」

 艦隊は無事に三宅島に到着し港に接岸した第一輸送隊は到着を待っていた三宅島の島民達が次々と乗船していく。事態が動いたのは1523頃だった。

「噴火!?雄山の南西山腹の割れ目から噴火よ!?」

 『瑞鶴』のS-61が雄山が噴火したのを報告してきた。そして割れ目火口かは列を成して高さ100m以上に吹き出た溶岩は火口西方にある阿古方面、南西にある錆ヶ浜方面、南南西の栗辺方面の三つに分かれて流れる事になる。

「このままだと……阿古方面のは阿古地区の民家を飲み込むわ!?」

 瞬時に計算した『瑞鶴』は机をドンと叩く。避難は終わってはいるが民家に残された生活用品や家族のアルバム等々、それらを残して住民達は避難してきたのだ。

「……私が行こう」

 自艦の艦首に座っていた『長門』は立ち上がる。

「でも『長門』、今の速度じゃあ……」
「あぁ。だから巡洋艦に曳航してもらう。『妙高』?」
「はい、準備は整っていますよ」

 『長門』に言われた『妙高』はニコニコと曳航作業をしている乗員を見つつそう答えた。

「でも自殺行為に近い……」
「それでも行くんだ!!」

 不意に『長門』は叫ぶ。

「沖縄沖で機関故障のため生き延びていたのは何の為か!? 『大和』が!! 『陸奥』が!! 皆が、何の為に散っていった!! そうだ、国民を!! 日本国民を、日本国を守るために散っていった!! たかが小島、然れど小島。だがその小島には人が生きるための、生きた証の思い出があるんだ!!」

 そして『長門』は一艦隊全員を見渡す。

「例え溶岩に溶かされようと、私が守り通した者は助かるんだ!!」
「曳けェェェェェ!! 敵、溶岩はこの『長門』が相手する!!」

 斯くして『妙高』に曳航されつつ『長門』は溶岩流に向けて砲身ーー41サンチ連装砲四基を旋回させ照準する。

「目標、阿古地区へ流れる溶岩流!! 撃ちぃ方始めェ!!」
「撃ェェェェェ!!」

 一瞬の間、間を置いて『長門』は溶岩流の流れを変えるべく三宅島に砲撃を開始したのである。
 『長門』は六斉射を敢行、阿古地区への流れを止め叩きつけた陥没場所から海に溶岩流は流れていったのである。

527: 加賀 :2020/03/07(土) 18:47:37 HOST:softbank126209030131.bbtec.net







「『長門』は見せつけたわ。私達が本当に守る物は何かをってね」

 話を終えた『瑞鶴』は愛弓の整備に戻る。

「あぁそういえば、これって撮ってるんでしょ?」

 『瑞鶴』の問いにカメラを回す艦娘は頷く。

「私も『長門』も解体するかもって話だから今のうちに『長門』に伝えておこうかなってね」

 カメラを回す艦娘は笑顔で頷いた。それを見た『瑞鶴』はカメラに視線を向ける。

「『私達』は『あの海戦』から生き残ったわ。艦だから生きるも沈むのも運次第だけど、私達は確かに生き残った。だから私も強く生きてこの世を満喫するの。私達は兵器かもしれない、兵器を通して私達は生きる人間の意思を確かめているかもしれない。意思はもしかしたら日本を世界を変えるかもしれない。信じてたら憎悪なんて物は生まれないかもね。でもそれが出来ないのも人であり私達兵器も共通しているわ。意思って何の意味かしらね? 私達には何も無いかもしれない。だけど、確かめてほしい。人間の意思を……答えは無いかもしれない。でも、皆は探してみて。そう、今はそれでいいと思う。ね、『長門』?」

 『瑞鶴』はにこやかに笑う。

「よぅ『相棒』。まだ生きている? ありがとう『長門』、またね」





『日本の誇り』



 大東亜戦争・朝鮮戦争を駆け抜け、畏怖と敬意の狭間で活躍した戦艦。『彼女』は数十年間、海に存在していた。その後は呉にて余生を静かに送っている。
 遂にその人間性までは迫る事が出来なかった。ただ、『彼女』の話をする時、皆は少し嬉しそうな顔をしていた。


 それが答えなのかもしれない。

528: 加賀 :2020/03/07(土) 18:49:19 HOST:softbank126209030131.bbtec.net
久しぶりにエスコンZEROを見てたらつい書いてしまった……(白装束
後、ふれでぃさんの『長門』で妄想しつつ三宅島噴火の溶岩流を吹き飛ばしてみた(ヒェ

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最終更新:2020年03月15日 18:37