874: 弥次郎 :2020/03/15(日) 22:35:20 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
憂鬱SRW IF マブラヴ世界編SS「Zone Of Twilight」10



「失礼いたします、ユウヤ・ブリッジス少尉」

 大洋連合のブースにアルゴス小隊が三々五々向かう途中、比較的後ろを歩いていたユウヤは静かにその名前を呼ばれる。
振り返ってみれば、そこにはユノーの姿があった。何時の間に回り込んでいたのか、すこしユウヤはその気配の無さに戦く。
が、顔には出さず用件を尋ねた。

「はい、なんでしょうか、ええっと…ユノー中尉殿?」
「は。ハンター中佐の方からブリッジス少尉をお呼びするようにと命じられておりますお忙しいところと存じますが、お時間を頂けますでしょうか?」
「は。では上司に少し連絡を…」
「至急とのことですので。アルゴス小隊のドーゥル中尉の方にはハイネマン技師を通じて連絡を入れますので、問題ございません」
「は、感謝します」
「ではこちらへどうぞ」

 極めて事務的で、唯衣とは別なベクトルで人形のようなユノーに少しユウヤは調子を狂わされていた。
この手の人間にあったことが無いというわけではないのだが、こうまで機械的だと戸惑いが出るというもの。
 そして、ユウヤの中に一つ疑問が浮かび上がる。何故ここでハイネマンが出てくるのか、ということだ。最初の顔合わせで、ハイネマンはボーニング社からの出向人員で、技術顧問的な立ち位置でアルゴス小隊のフェニックス構想に基づくF-15・ACTVの試験に関わっていたはず。
それがなぜ、連合の大西洋連邦の人間といつの間にか親しくなっていたのか。そして、なぜ自分だけが呼び出しを受けることになるのか。
XF-15Vに関わることなのだろうか?しかし、これについてはF-15EやACTVとの間で比較検証試験を行うということで話が合ったし、そのように細かいスケジュールが組まれているというのは既にユウヤも知るところだ。だから、呼び出すならむしろ指揮官のドーゥルだろう。
先任のアルゴス1であるわけだし、アルゴス小隊全体に関わることならば彼が適切であるはず。

(わざわざ俺でないといけない理由でもあるのか…?)

 そんなことを考えるユウヤを引き連れ、ユノーはユーコンの衛士たちが立ち入りを禁じられている区画へと足を踏み入れていく。
警備の人間がなにやら確認していたようだが、すぐにユウヤも通過するように合図された。ブースのバックステージを抜け、さらにその先へ。
既に会場の外に出ているがユノーの足は止まらない。一直線に待機している車両の方へと向かい、乗るように促した。
 ユウヤの乗った車はユノーの操るままに連合の区画の中を走り抜け、一直線に着陸している大型輸送機のサンダーバード級の格納庫内へと滑り込む。

「ああ、そうでした。こちらを身に付けておいてください」

 すっと差し出されたのは、ユウヤの顔写真入りの身分証であった。

「連合区画内でそれを持たずにうろちょろしますと、最悪その場で射殺されますのでなくさないようにお願いいたします」
「射殺…!?」
「この区画は連合の治外法権が認められております。ここはアメリカのアラスカの中の、国連基地の、そのまた内側の連合領土と思っていただければ」
「な、なんでそこまで…」
「軍機に関わりますし、政治の話になります。お聞きになりますか?」

 じろり、とユノーの冷たい視線がユウヤを貫いた。
 問答無用なその目に、もの言いたげだったユウヤは無言に戻るしかなかった。

875: 弥次郎 :2020/03/15(日) 22:35:55 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

 殺されてはたまらないと早速身分証を身に付けたユウヤは、促されて車を降りる。
 格納庫内は遠目から見た時もわかっていたが、とてつもなく大きなものだった。戦術機が直立してなお余裕がある大きさがあり、さらに輸送コンテナと思われる物資が大量に積み込まれている。戦術機や傍らのMSと比較しても決して小さくないとはどれほどの量が入っているのか、そして、この輸送機がどれだけの積載量を持っているというのか---ユウヤは背筋に詰めたいものを感じざるを得なかった。

「来たか、ブリッジス少尉」

 待ち受けていたのはハンターだった。その背後には件の戦術機であるXF-15Vもハンガーに固定された状態で控えており、明らかに自分を待ち受けていた。

「さて、時間もないので巻いていこう。ここから話すことはアメリカ軍の軍機に該当する。アルゴス小隊の面々にも話してはならないし、他の人間の前で話すことも禁ずる。それを決して忘れないでほしい」
「は、はい」

 問答無用な物言いだ。だが、一つ引っかかる。なぜアメリカ軍の軍機に関わる情報を、大西洋連邦のハンターが把握しているのか、だ。

「アルゴス小隊にブリッジス少尉が派遣された理由とも絡むが、本来の任務についてそろそろ情報開示を行うつもりだ」
「本来の任務…?」

 一体どういうことだ、とユウヤは訝しむしかない。アルゴス小隊の任務は昨日の顔合わせで説明されたように、アルゴス小隊に配備されているF-15EとF-15・ACTVおよびXF-15Vの比較検証試験が主任務の筈だ。帝国のホワイト・ファング試験小隊も絡むが、少なくともユウヤが認識している範疇ではそれが任務としてこのアラスカ ユーコン基地に配属になったはずだった。
だが、ハンターの物言いではまるで別の目的があるかのようではないか。

「うむ、本来の任務だ。中尉、ファイルを」
「はい」

 ユノーが差し出したファイルを開くと、そこには予想外の文字が躍っていた。

「F-15V開発計画…!?」

 書かれていたのは、XF-15Vを制式化するにあたって行われる数々の試験と検証実験の項目、さらに今後行う予定のアップデートのタイムスケジュールだった。
それらは綿密に組み上げられており、合間合間にカリキュラムや衛士への教導と研修が挟まってるというもの。どこかで見た覚えがあると思えば、それは最初に開示されていたアルゴス小隊のスケジュールを酷似していたのだ。

「現状、XF-15Vは機体そのものは出来上がっている戦術機ではあるが、まだアメリカにおいては正式採用に至ってはいない。
 評価はある程度進んではいるが、まだ足りていないし、他の戦術機との比較でどのようなメリット・デメリットがあるか、あるいは機体そのものにどのような不備や改善点があり、どのように改良していくかが決まっていない戦術機だ」
「つまり……未完成?」
「ある意味では、な。完熟しきっていない未熟な戦術機ということだ。あるいは運用する側の意見をあまり取り入れていない、粗削りなものと言っていい。
 そして、ユウヤ・ブリッジス少尉にはアルゴス小隊での訓練と並行し、この戦術機の試験を行い、ブラッシュアップを行ってもらう」

877: 弥次郎 :2020/03/15(日) 22:36:31 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

 しかし、ユウヤの疑問は尽きない。

「XF-15Vは、大西洋連邦で開発とテストを完了しているはずでは…?」
「まあな。俺達の側ではとっくに完了している。だが、こちらとそちらでは常識が違う。BETAとの戦いを長く経験しているのはそちら側だ。
 いくら大西洋連邦が評価を行って太鼓判を押したところで、アメリカ合衆国やボーニングが納得しなければ量産も不可能だ」
「ですが、既にXF-15Vは量産されているのでは?」
「それはあくまでも試作量産……各種試験や耐久実験などを行うために制作された試作型にすぎんよ。
 本当の、完成したF-15Vなどまだこの世に一機たりとも存在はしていない。ブリッジス少尉がテストを行って初めて完成することになる」

 促されて手元のファイルを見ると、これはれっきとした米軍からの命令であるということ、自分をテストパイロットとして指名していることが分かった。
その為の教導を受け、訓練を受け、教育を受けた上で、XF-15Vの欠点や改良点を見つけ出し、随時修正し、完成系にまで持ち込む。
緻密に組み立てられていたスケジュールは、すでに事前の下準備が整っているからこそできたことだった。
 つまり、衛士の意見を逐次反映させることは最初から入っていない事項であり、テストをするというよりは確認を行い、再現実験を行う意味合いが強いということ。その再現実験においては一々衛士の意見を聞くというのは時間のロスにしかならないということだ。
そしてそれは、総じてユウヤが懸念していたスケジュール調整も何もない茶番というのは全く正しくない認識だったということだった。

「嘘だろ…おいおい……」

 混乱を隠せないユウヤに、畳みかけるようにハンターは説明を重ねていく。

「ただし、アメリカが採用するかどうかを決める以上、他国や国連軍でテストパイロットを募って動かしても意味がない。
 アメリカ軍の戦術機運用に詳しく、またそれをこなした経験のある人間こそが、F-15Vの完成には必要だということだ。その理由は言わずともわかるだろう?」
アメリカの…戦術機になるから…」
「そういうことだ」

 確かに、自国の生産し配備する戦術機の評価を他国の兵士に任せるなどあり得ない。アメリカにはアメリカのドクトリンがあり、戦術機はそのドクトリンに合わせて設計・開発・改良を加えているのだ。他国に任せきりにするなどあり得ないことで、そういう意味ではユウヤが着任する前のアルゴス小隊の面々では決してかなえられないことであった。

「アルゴス小隊に少尉が配属されたのは、フェニックス構想の戦術機と比較することによる評価も含めてのことで、開発元であるボーニングからの要望でもある。F-15Eと比較して完成度は高く性能も向上していると判断されたからこそ、今度は別な定規が必要になった…それがACTVというわけだ」

 そこまで言い切ったハンターは、すでに資料に目が釘付けになっているユウヤの様子ににやりと笑う。

「ブリッジス少尉の腕前については……まあ、はっきり言ってしまえばまだまだだ。だが、ここからいくらでも鍛えることができる。
 そう考えて、昨日見てもらったスケジュールは組まれていた」
「なるほど…」
「とまれ、詳しいところはそのファイルの内容をよく読んでくれ。明日から早速訓練になる。
 身を以て体感していると思うが、XF-15VをF-15系列と甘く見ると痛い目を見る。気を抜かないでくれ」

 話は以上だ、と切り上げたハンターは、最後に笑みを浮かべて激励した。

「期待しているぞ、ブリッジス少尉」

878: 弥次郎 :2020/03/15(日) 22:37:14 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

 ファイルを他の資料と共に鍵付きのアタッシュケースに入れて渡されたユウヤは、再びユノーの操る車に乗せられて展示会場へと戻っていく。
そんな車内で、ユウヤは深く吐息を吐き出していた。思った以上に、このアラスカへの派遣は大きなことが絡んでいたということらしい。
少なくとも、単に左遷というわけではなさそうだ。ユウヤはそう認識を改めざるを得なかった。

(俺が…か)

 正直、にわかには信じがたい話だ。
 だが、話が本当であるならば、とんでもない任務を任されているということになる。アメリカ軍とボーニングの意図も絡んだ、途轍もなく重要度の高い任務。
フェニックス構想という単なる旧世代機のアップデートだけでなく、それ以上の意味合い---新型戦術機の開発にも似た重責を背負ったということだ。

(ナイーブになっている場合じゃ、ないよな…)
「何か気になるところがありますか、少尉?」

 考えに沈み込んでいたユウヤの意識を引っ張り上げたのは、ユノーの問いかけだった。

「はい。少し、いえ、かなり戸惑いが大きいです…」
「なるほど。それもしょうがないことです。ですが…」

 キュ、と音を立て、車が止まる。

「くれぐれもお間違えの無いように。ブリッジス少尉の任務はあくまでもXF-15Vの試験にあります。
 大西洋連邦について知りたいというのでしたら適宜資料などをお渡ししますが、それが任務とは外れていることというのをお忘れなく」
「そ、それについては…」
「問題が無い、と言い切れますか?大西洋連邦のあれこれについて知りたがる衛士は、本日の展覧会で多いことが分かりました。
 ブリッジス少尉、貴方もその一人ではないかと思っております」

 言葉に詰まる。それは事実だったからだ。興味が無いわけがない。誰だって気になるだろう。
大西洋連邦をはじめとした地球連合について知りたがるのは自然とさえいえた。

「ですが、時として興味は害をなすものです。己の領分を弁えられなければ、痛い目を見ることになります」
「己の、領分…」
「はい。ブリッジス少尉には実感など湧かないでしょうが、これは政治も絡む大きな話です。
 一尉官が興味本位でのぞき込んで良いものではないのです。中佐も仰っていましたが、少尉がそこでできることなど何もありはしません」

 淡々とユノーは言葉の釘を刺していく。それはユウヤがこれまで感じたことのない鋭さを持っていた。

「ハンター中佐の部下として、ルナ・ハンターズの副官として少尉に求めることは多くはありません。
 ですが、己の領分を弁えて行動していただきたいのです。少尉はF-22の開発衛士も務めていたエリートなのでしょう?
 でしたら、求めることがなにかはお分かりかと思います」
「任務に集中しろ、と?」

 肯定が返ってきた。

「多少は目を瞑りましょう。ですが、手を煩わせるようなことは避けていただきたく思います」
「は、了解いたしました」

 実感は未だに湧いてはいない。だが、自分には責務がある。その事だけははっきりしていた。
 だが、まだユウヤの一日はまだ半分も終わっていない。これがほんの序章に過ぎないことを、ユウヤはまだ知らずにいたのだった。

879: 弥次郎 :2020/03/15(日) 22:37:57 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
さてさて、ようやく種明かしですね。
ユウヤ君でなければこなせない任務…しかも重責ってわけですよ。
国連の小隊でやることじゃない?なーに、原作でも不知火弐型を作っていたしヘーキヘーキ。

さて、まだユウヤ君のターンは終わりません。イベント目白押しですからね…
例えば紅の姉妹とか、例えば夜にあるシェリルのライブとか…いつになったら一日が終わるんだろう…(白目

887: 弥次郎 :2020/03/15(日) 23:04:49 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
修正ぃ!

×「ですが、時として興味は害をなすものです。己の領分を弁えられなければ、

〇「ですが、時として興味は害をなすものです。己の領分を弁えられなければ、痛い目を見ることになります」

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最終更新:2020年03月20日 20:18