203: 弥次郎 :2020/03/29(日) 20:00:02 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
憂鬱SRW IF マブラヴ世界編SS「Zone Of Twilight」短編集8
Part.17 享楽
- アシハラノナカツクニ級AF5番艦「トヨアシハラ」 居住区画 歓楽街
ユーコンへの出発を凡そ半月後に控え、トヨアシハラで事前訓練に励むホワイト・ファング試験小隊および再編前のホワイト・ファングは、β世界のそれまでの機動戦を超える、連合における機動戦闘技術の習熟に励んでいた。BETA相手に使えるのかと言われれば、それはYesと答えるだろう。
そも、β世界の機動兵器である戦術機の運用方法や実際の衛士たちの動きは、機動兵器であるという強みを殺している節があり、それを衛士たちに教え、どのように操縦すべきなのかを叩き込む必要があった。例えばであるが、射撃を行う際に衛士の多くは立ち止まって発砲している。
これをまずタケミカヅチは危険だと伝えた。戦術機の旧来のOSでは、射撃を行っている最中には急な動作の入力が不可能という欠点を抱えているので、不意に攻撃を受けた際、対応が間に合わないのである。また、パイロットの側も射撃ばかりに集中してしまう節があり、視野狭窄に陥っていると判断していた。つまり、衛士の死亡の原因はパイロットの意識と機体のOSや構造の二つの面に存在しているということになるのだ。
転生者として、また
夢幻会のメンバーからどれほどの動きが戦術機において本来できるかをしっている教官役のタケミカヅチは、自らの経験と教訓も合わせてホワイト・ファングの面々にそれを教えている。新型のOSと改良された戦術機を生かすも殺すも、衛士が生き残れるのかどうかも含め、やはりパイロットの腕が物を言うのだった。
しかし、タケミカヅチはロンド・ベル隊に招聘されるほどのリンクスであり、日企連世界を含め、過去の経験が圧倒的に積み重なっている人物である。
そんな彼の求める動きは自然とβ世界の人々にとってはハイレベルなものとなっており、彼女達は苛烈な訓練に必死に食いついていく日々が続いていた。
さりとて、タケミカヅチとて鬼ではなく、また教導の経験も深いことから、ただ無茶を強いているというわけではない。
休む時は休ませ、滋養強壮に良い食事をとらせ、反復と積み重ねで体へとしみこませる。それだけのことを可能とする手腕もあるし、それだけの設備がトヨアシハラには充実している。与えられた権限はフルに使って、ホワイト・ファングの少女たちを鍛える算段だった。
さて、今日は訓練が休みとなっている休日である。
教導官として忙しいタケミカヅチが報告書の作成にうんうんと唸りながらも必死に取り組んでいるころ、篁唯衣以下ホワイト・ファングの面々は、トヨアシハラの甲板上に広がる居住区画の中でも良い立地にある歓楽街を訪れていた。もとより連合の人員の居住地として使われるここは、海の上に浮かぶ巨大都市であると言っても過言ではなく、全てが艦内で完結しているのである。
「だから、こういうところもあるのよ」
もう一人の教官役である黒子御前に案内された彼女らは、巨大な建造物---わかりやすく言えばシネマコンプレックスを訪れていた。
映画館に始まり、およその娯楽施設やレストランなどもそろい、一日をここで楽しく過ごすことが出来る巨大な施設だった。
「お、おっきい……」
「これが全部?」
「そ、ここにはたくさんの娯楽施設が集まっているのよ。みんな最近頑張っているみたいだから、今日はここでパーッと楽しみましょう!」
204: 弥次郎 :2020/03/29(日) 20:01:07 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
当然のことながら、こういった娯楽というものをあまり体験していない帝国近衛軍ホワイト・ファング試験中隊-現在は選抜中だが-は目を白黒させるしかない。
史実と異なり、BETA戦に国家のリソースのほとんどを費やし、歪な技術の発展を遂げているこのβ世界においては、こういった娯楽の発達は停滞して久しい。否、下手をうたなくとも衰退しつつあり、さらに国民が指向性たんぱく質によりこういったものを忘却しているという、
文化の存亡そのものといった状況に知らず知らずのうちに瀕していたのだから、正直なところ恐ろしい限りであった。
幸いにして、彼女らはここに着任した直後に指向性たんぱく質や大量の薬物の除去とメンタルケアなどを行っており、こういった娯楽を思い出しつつある段階にあったので、楽しむ余地はしっかりと有していた。
「しかし、黒子教官…我々はここでの滞在費をもらってはおりますが、使うのは…」
「大丈夫。ちゃんとこれも経費で落ちるから」
「け、経費で…?遊びに経費が落ちるなんて…」
「遊びじゃないわ。雨宮中尉、これもまたお仕事。ちゃんと遊んで、休んで、普段溜まっているストレスをぱーっと発散するの」
「は、はぁ…」
「ユーコンに派遣される試験小隊への再編は選抜制。でも、今後の任務を考えるとこういう娯楽で息抜きできないと潰れちゃうわよ?
今後の帝国軍の戦術機運用に関する重要な研究なんだから、重責は途轍もない物……実感がわかないかもしれないけど、本当に大変なのよ?
だから、息抜きができるようになるための訓練みたいなもの……ま、それは建前だから、思いっきり遊びなさいな」
引率を任された黒子御前の手にはそのためのカードがあった。経費の範疇ではあるが、自由に使うことが許されている。
彼女達を思いっきり楽しませるには十分すぎる額がちゃんとカードと連動した口座には振り込まれている。
「じゃあ、いきましょう」
「「「「はい!」」」」
ひとまずのルートというか、予定は黒子御前が立てていた。
まずは映画館での映画鑑賞、ついで映画が終わった後は買い物に行き、ユーコンに行く際の必需品の購入を行う。
それが終われば、今度は私服や小物など年頃の彼女らに似つかわしいものを選んで買っていく。その合間合間には、ゲームセンターでクレーンゲームやUFOキャッチャーなどをしたり、あるいはガンシューティングゲームで黒子御前がハイスコアランクを塗り替えたり、BETAとの戦争などないかのような、平和な時間を過ごした。そう、平和な、平穏な時間をである。
そして、そんなことをしている間に時間は瞬く間に過ぎ去り、昼食の時間となった。
少し奮発していいレストランへと入った黒子御前達は各々食べたいものを注文し、先程見た映画の感想を語り合ったり、あるいはこの後行くことになるアミューズメント施設に思いをはせたりと、思い思いにはしゃいでいた。
「ふぅ……」
一方で唯衣のように疲れを感じている者もいた。無理もない。刺激という点においてはこういった娯楽は、戦闘訓練などとは別ベクトル。
まして彼女らはごく最近まで指向性たんぱく質によりこういった娯楽に関する欲求をマスキングすることで生活してきたのだ。
そこに刺激がまとまって襲い掛かってくれば、疲れを見せてもおかしくはない。
205: 弥次郎 :2020/03/29(日) 20:01:38 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
まあ、彼女達が歓楽街で楽しむのは実のところ今日が初めてではない。交代で引率されて休みの日に繰り出した隊員もいる。
一方で、唯衣のような真面目な隊員は休日も復習に時間を割いて、買い物なども宿舎の近場で済ませてしまうので、慣れていない隊員はとことん慣れていないのだ。
「あの、黒子御前…タケミカヅチ殿は…」
「タケミ君は今頃書類と格闘しているわよ。あ、来たわ。はい飲み物」
「そう、ですか……」
ウェイターから受け取った炭酸飲料を傾け、少しむせながらも独特ののど越しと炭酸を味わう。サイダーなどよりもややきつい炭酸だが、香りと味付けはまるで果実をそのまま圧縮したかのようなもの。味は強烈で炭酸に決して負けていない。
「まじめねぇ…唯衣ちゃんはタケミ君とそっくりなところがあるわね」
「え?」
「大方、タケミ君を差し置いて遊びに来ているのが後ろめたいってところかしら?」
「それは…」
「うふ、隠さなくてもいいのよ。真面目でいい子ね、唯衣ちゃんは。
ああ見えてタケミ君も仕事をしていないと落ち着かない悪い癖がついちゃっているから、そっくりだわ」
ワーカーホリックねぇと黒子御前は笑って言う。
タケミカヅチも休養の大切さを理解している人間だが、一方で、精鋭部隊に招聘される人材として自己鍛錬は決して怠っていない。
むしろ、自分が才能や才覚に乏しいと理解しているからこそ、自分を磨くことに全力を注いでいるのだ。
黒子御前からすれば、そういった努力を続けて成果を上げられることこそ、タケミカヅチの持つ才能だと思っているのだが。
(ま、タケミ君が必死になっちゃうのも分からなくもないけどねぇ…)
タケミカヅチだけではない。地球連合という組織自体、まだ見ぬ侵略者に半ば怯えて備えを続けているのだから。
この融合惑星に手を突っ込んでいるのも、自分達の惑星への橋頭保にされてはたまらないという懸念からだ。
そして、この世界においてはあろうことか人類に敵対的な異星生命体がおり、すでにユーラシアを飲み込んでいるのだという。
(そして、それは融合惑星の他の世界や地球にさえ展開してくるかもしれない……かもしれないだけど、怖いものね)
黒子御前の目から見ても、この世界の人間でBETAに対抗しきれるかと聞かれたら、NOと答えるだろう。
彼女らでさえ、特殊なたんぱく質や薬物の使用によって意識や判断能力に支障があると推測されるレベルにあり、さらには肉体は病気の数歩手前の状況。
機体関係は言うまでもなく技術的に歪であり、このまま戦っても徒に消耗を重ねるだけであろうことは間違いない。
何よりも、もはや何もかもを擲って戦いに挑む国体そのものが危うい。仮に勝利しようが敗北しようが、銃後がもはや危うい。
未来を質に入れた戦いを、この国はやりすぎているのだ。あと一押し何か致命的なことが起きれば、もはやおしまいだろう。
そういった境遇であり、同じ日本を主軸とする国家ということもあり、大洋連合はこの大日本帝国を中心にテコ入れを行っている。
(はぁー…やだやだ、戦っていて悲壮感を覚える姿ってドラマの中だけにしてほしいわ)
ため息が漏れそうになるが、ぐっとこらえる。ここで彼女らに愚痴ったところでどうにもならないのだ。
206: 弥次郎 :2020/03/29(日) 20:02:10 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
そういえば、とふと思い出したことがあり、黒子御前は唯衣の名を呼んだ。
「そうそう唯衣ちゃん、過度な倹約は時として失礼にあたるわよ」
「え…?」
「前線将兵が戦っているのは、後方にいる人たちが苦しむことなく生活してほしいからこそ…よ。
その思いを無視して苦しい生活をしても、必ずしも喜ぶとは限らないとは思わない?」
「……し、しかし、総力戦の中でそのような…」
「余裕はない、かしら?一理あるわね。でも、貴方が仮に一日の娯楽を全て我慢しても、前線で一日分の娯楽が増えるわけではないわ。
ここにある炭酸飲料だって、前線でも飲まれているかもしれないけど、ここにあるものは唯衣ちゃんが責任もって飲まないと無駄になっちゃう。
むしろ、楽しみもなくずっとずっとつらい思いをして、何の楽しみもなく戦うなんて、悲しいと思わない?」
「あ……」
唯衣は自分の手にあるグラスをふと見つめてしまう。ここにあるものは誰でもなく自分の物。自分が注文し、対価を払って得たものだ。
自分が飲むことがむしろ義務といっても良い。そうでなければ無駄になり、捨てられる運命にあるだろう。
そして、黒子御前が指摘した通り、これを飲むのを我慢したところで、誰かが飲めるとは限らないのだ。
「唯衣ちゃんがこれまで戦えていたのは、決して訓練だけが全てじゃない。守るべきものがあると思ったからこそ、戦えるの。
楽しかったこと、嬉しかったこと、大切だと思ったこと…そういうものがあるからこそ、いざというときに踏ん張りがきくこともあるのよ」
「そう、ですか…」
「私も旦那と子供のことがあるから踏ん張れたわねー…ELS迎撃戦の時は特に辛かったわ」
ELS迎撃戦、と聞いた唯衣の体は思わず固くなる。戦力比1対5000という地獄、敵がこちらの兵器を模倣うして押し潰してくる煉獄。
戦術機とBETAの数の比率を考えると少ない方であるが、ELSの模倣能力を考えればとんでもない数だ。BETAの構成の多くは小型種で、戦術機が手古摺るような大型種の割合は多くはない。問題なのはその膨大な数くらいである。だが、それはELSには通用しない。
極端なことを言えば、自分達が乗る不知火や武御雷との戦闘で例えるならば、相手側は自分達の5000倍以上も数の戦術機を繰り出してくるようなもの。
そんな激戦を、生半可な覚悟や気力だけで乗り越えられたとは思えない。彼女が言う通り、家族を守るという意思が力を与えたのだろう。
(そうか…)
視野狭窄。教導を受ける中で幾度となく聞いた言葉が、改めて身に染みる。
どこかの視点から見て正しいと思える行動でも、どこかの視点からでは間違って見える。質素倹約を旨とする武家の動きは正しくはあるのだろうが、別の視点からでは、いらぬ努力を重ねていたり、そうしなければならないという強迫観念にとらわれているというふうにも見える、ということ。
同時に、納得も行く。タケミカヅチや黒子御前は、こうした物の見方を、一方だけでなく多方向からも見通せるのだと。
つまり、物事の俯瞰ということだ。だから一歩引いたような、それでいて冷静で無駄のない判断や言動ができる。
「とまあ、偉そうなことを言ったけれど、唯衣ちゃんの考えも行動も悪いものじゃないわ。
少しでも苦労を分かち合って結束を高めるというのも重要なんだしね」
まあ、企業出身としては消費を進めてほしいわね、と黒子御前は〆る。
そして、手にしたコップを傾けて一気に飲み干した。
207: 弥次郎 :2020/03/29(日) 20:02:49 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
Part.18 オーバー・ザ・フェンス・コミュニケーション
ユウヤ・ブリッジスは、一言で簡潔に言うならば、問い詰められていた。
誰に、と言われれば、クリスカ・ビャーチャノワによってであった。
「答えろ、ユウヤ・ブリッジス…」
有無を言わせぬ気迫で迫るクリスカに、ユウヤは冷や汗を流すしかない。
「何故だ。何故、イーニァは貴様に懐いている?」
それは怒りによる恫喝というよりは、困惑と疑問に端を発した、端的に言えば「嫉妬」から生じたものであった。
事の発端は、イーニァとユウヤが友達になったということをクリスカが知ったことであった。
ただでさえアナという見知らぬ人間が自分達の関係に入ってきたというのに、さらにはアメリカ人のユウヤが入ってきたのは、元より警戒心が高まっていたクリスカにとってはある種の衝撃でさえあった。
その出自から、閉鎖的かつ限られたコミュニティの中で生活してきたクリスカにとっては、イーニァとは家族同然であり、ともすれば自分自身の一部とさえ言える存在だった。二人で一人のような、一心同体。人生の多くを共にしてきたのだ。
そんな彼女が、自分の知らぬところで、自分と知らぬ相手と信頼関係を作っていることが許せなかったのだ。
故にこそ、クリスカは問わねばならなかった。連合の区画の中の休息スペースの片隅であろうと、この男に。
他方、問われた側のユウヤとしては困惑しかなかった。
「何故って……そういわれてもな」
「ごまかすな、答えろ」
駄目だこりゃ、と有無を言わせぬ態度のクリスカにユウヤはたじろいだ。
アルゴス小隊の面々が興味深そうにこちらを見てくるが、出来れば助けてほしいところだった。
「どうしてもなにも、友達になってくれと頼まれて、それに俺が応じただけだ。それ以上のことはない」
「ではなぜイーニァは貴様を選んだ?一体どこに理由がある?」
「理由って…」
208: 弥次郎 :2020/03/29(日) 20:03:36 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
そう、困惑する理由は、自分がどうしてイーニァに気に入られて、友達になってくれと頼まれたのかユウヤ自身にも分からないことだった。
一緒にいたアナはなにやら訳を知っているようだったがこちらには明確には教えてもらえず、ただ流されるままに承諾していたにすぎないのだ。
まあ、別に西東の隔意があるわけでもないし、属するところが違うのであまり会うこともないだろうから仕事に支障は北さないだろうと判断はしていた。
それに、悪意も何も感じなかったので承諾してもいいだろうという個人的な情も関わっているが、ともかくユウヤはなんとなくOKを出したに過ぎない。
「そんなの、俺だって知りたいぜ」
「……心当たりはないのか」
「まったく。なんだか知らんが、俺は気に入られて、友達になってと頼まれたんだ。
ここに来るまでにあったこともないし、名前だって知らなかったんだぞ?」
有無を言わせぬ気迫を、あの時のチェルミナートルの様な「凄み」を感じるが、何とか我慢して、偽りなく答える。
じっとこちらをにらみつけてたが、やがてクリスカはため息をついて眼光を緩める。
「嘘ではないようだな…」
「当たり前だ。というかだ、そんなに気になるなら…そのイーニァに聞いてみればいいじゃないか?わざわざ俺に聞く必要はないだろ?」
「あの子がどうして貴様を気に入ったのか、私自身の目で確かめる必要があると判断したからだ。
いったい何故…?衛士として優れているからか?それとも、特別な何かがあるのか?」
「こっちが知りたいっつの…」
本気で心当たりのないユウヤとしては先程の答えを繰り返すしかない。疑い深く見られたところで、どうにもならない。
「それに、俺より優秀な衛士なら連合にいくらかいるから、そっちにいくだろ…」
ハンター中佐とかタケミカヅチ少佐とかな、とユウヤは模擬戦をした猛者を思い出す。
今思い出してもぞっとするほどだ。強い衛士の定義は色々あるだろうが、あれは間違いなく強い衛士だろう。
ハンターは実戦をこれでもかと経験し、開発衛士としてもキャリアが長い軍人。タケミカヅチは傭兵に甘んじているのがおかしいほどの腕。
どちらにも共通するのはこれまでのメソッドなどにとらわれない発想力と、それを実現する能力。悔しいことに、自分にはない力だ。
「タケミカヅチ……」
「ん、どうした?」
「いや、貴様が気にすることではない」
心なしか、タケミカヅチの名前を聞いたとき顔色が悪くなったように見えたが、クリスカはすぐに踵を返してしまった。
「お、おい」
「邪魔をしたな。一つ警告しておくが……あの子に害をなせば私は容赦しない」
いうだけ言うと、さっさとクリスカは立ち去ってしまった。
嵐のような女だな、とユウヤはどっと沸いて来た冷や汗をぬぐいながらも、クリスカを見送るしかない。
なぜ彼女がイーニァに入れ込んでいるのかはわからないが、頼まれなくても危害を加えるような真似をする気はなかった。
そういう趣味の人間ならばともかくとして、ユウヤ自身は至ってノーマルだと自負しているし、そんな軍律に触れるようなことは禁止されている。
(ま、殺されたらたまらないし注意だけはしとくか…)
かくして、ユウヤとクリスカのファーストコンタクト---という名の一方通行な会話は終わりを告げた。
だが、こんな初顔合わせをした相手と、BETA戦の比ではない戦いに巻き込まれることになることをユウヤはまだ知らずにいたのであった。
209: 弥次郎 :2020/03/29(日) 20:04:16 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
時系列的にはユーコン出発の前を描いたPart.17、そしてユウヤとクリスカのファーストコンタクトになったPart.18でした。
最終更新:2020年04月04日 12:27