4: 弥次郎 :2020/03/27(金) 21:53:12 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
大日本企業連合が史実世界にログインしたようです 幕間「留守居役」






 メガリス。
 海上を移動し続けるラインアークは、それだけで完結したバイオスフィア、あるいは循環系を持っている。
 だが、かと言って外部からの援助もなしに活動が続けられるわけもない。その一例に現代の生活において不可欠な電力がある。
ラインアーク自体が潮力発電、風力、太陽光、水素燃料発電など多様な発電手段を備えているのであるが、いずれもラインアークに備え付けの物。
万が一のことがあれば使えなくなる可能性があるし、その収容能力や生産能力に伴う電力需要は高く、どれもがラインアークの維持のために必須だ。
だからこそ、地上に、大陸へと設置されているバックアップのための大規模発電設備こそが、メガリスである。
 故に、ラインアークを直接襲撃する以外でラインアークに害するにはまたとないターゲットとなりうる施設である。

 そんなことは百も承知であるラインアークは、駐留部隊と共に周囲に配置した対空砲による防衛網を構築している。
 だが、それが攻略不可能というわけではないし、ネクストがV.O.B.で強行突破すれば強引にでも破壊は出来たことだろう。
それでも、ラインアークに突っかける勢力筆頭であるオーメル・サイエンスはリンクスの投入を惜しんだ。

 確かにリンクスを---リザイアにせよ、ダリオ・エンピオにせよ、相応の実力者であり、それを投入することは簡単である。
 しかし現状、オーメルはトップランカーであるオッツダルヴァを失い、アスピナの被検体も多数失っていた。
万全に近く、尚且つ警戒が高まっているラインアークの要衝にリンクスを送り込んで無事である保証は低い。
 さらに、最近デビューしたばかりという日企連の新人リンクス---しかも、鳴り物入りで日企連の次世代を担うと噂されるリンクスを、惜しげもなくそこに配置しているとの情報まで届いているとあっては、流石のオーメルも手をこまねくしかなかった。

 そのリンクス、アマツミカボシは既にデビュー戦は果たされており、その情報は各企業の諜報の格好の的となっていた。
そして、その新人リンクスの実力は、控えめに言っても強いと判断された。有効企業同士の親善試合、という名目で行われた、カラードの中位リンクスであるメイ・グリーンフィールドとのカラードマッチは一方的とまでは行かなくとも、その機動性を十分に生かして翻弄しきったアマツミカボシの勝利に終わり、デビュー戦であるミッション---大規模なミグラントの殲滅は、ミグラントが何処から仕入れたのか不明だが大型兵器の投入という予想外の事態にもかかわらず、ほぼ完璧に遂行された。
 そして注目を集めたのはその戦闘スタイルだ。
 銃火器を二丁持っての高機動戦闘を基本とするが、最も目を引いたのは背部武装に据えられた得物だった。
 それは、一言でいえば鈍器であった。あるいは中世ヨーロッパにおいて使用されたポールウェポンを想起したかもしれない。
 二丁の銃火器によって削り、隙を見て持ち替え、その鈍器を振るう。PAもネクストそのものの防御も強引に無視し、圧倒的な質量と内蔵されたパイルバンカーで強引にぶち破る。ネクストのパワーで振り回されるそれの威力はおのずと察せられる。
 兎も角、それを用いたあまりにも暴力的で破壊的な格闘戦は、異色などというレベルではなく、目を引くものだ。
 無論オーメルも政治的な圧力をかけてラインアークのメガリスからこのリンクスを引きはがそうと画策したのだが、あまりにも時期が悪かった。ラインアークはオーメルに対し強い敵意を抱いている状況であり、日企連も同様である。
ラインアークにオッツダルヴァを送り込んだ際は、ラインアークにクレイドルの要衝アルテリア襲撃犯との関係があるという嫌疑をかけて、カラードにも圧力をかけて日企連のリンクスがラインアークに加担しないようにできたのだが、今となってはそれも通用しない。
だからこそ平然とラインアークは日企連のリンクスに依頼をだして防衛を任せており、あるいはオーメルへの報復攻撃の依頼をカラードに出している有様だ。
 かと言って、ラインアークからの報復にやられっぱなしというのもオーメルのプライドが許さない。
 あれこれと悩んだオーメル首脳部が選んだのは、威力偵察という名の折衷案であった。

5: 弥次郎 :2020/03/27(金) 21:54:06 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

 日企連の新人リンクス アマツミカボシの姿は戦場にあった。
 メガリスを目指して飛行するオーメルの飛行部隊への強襲という依頼をカラードを通じて受諾し、出場している。
AFであるイクリプスまでも投入したそれは、ラインアークに対する嫌がらせとしてはやや大掛かりで、かと言って見過ごせないものだ。

(この数は…流石に面倒だな!)

 マシンガンとアサルトライフルの二丁で飛行型ノーマルや航空機を叩き落としつつ、アマツミカボシはレーダーに映る機影の数にうんざりする。
 一騎当千のネクストといえども、数十機から弾幕を浴びせかけられれば、いくらかはダメージが貫通する。
迂闊に包囲されるとただの的にされかねない。だから、動き回って回避するしかない。

『堕ちろ…!』

 そう簡単に包囲されてやるほどアマツミカボシは弱くない。
 メインブースターに光がともり、QBの連続が機体を音速越えの境地へいざなう。
 正確に落とすために速度を自重していたが、やはり面倒だ。一気に速度を上げて駆逐する。空中という立体空間を自在に飛び回り、人型という姿勢制御のしやすい利点を生かし、効率的に潰す。
 メインカメラとAMSを通じて敵機の位置情報や相対速度などが脳内に直接送り込まれてくるのを受け止めつつ、本能的にも近い反射で、アマツミカボシは機体を制御する。それはコントローラーなどを介するよりもより自分の反応に追いつく、ある種生物染みた脊髄反射。反撃も襲って来るが、空戦が得意な軽量二脚を相手には遅すぎる。
 音と反撃の弾を置き去りに、アマツミカボシの愛機「ノース・セブンス」が猛禽類のように襲い掛かる。
 獰猛で、しかし理性的に。高機動戦闘をしながらの射撃戦は、嘗てのランク1 オッツダルヴァを彷彿させるものであり、あるいはオッツダルヴァを意識したかのようでもある。カウンター、あるいは同じようなリンクスを用意することによる抑止力。
見る者によっては、アマツミカボシのスタイルにそういった意図を感じさせただろう。

 戦闘開始から20分と経たず、イクリプスを取り巻く防空隊は多くが撃ち落とされ、丸裸にされつつあった。
 元よりオーメルもこの攻撃が上手くいくとは思ってはいないのか、すでに撤退へと部隊の行動をシフトしつつあった。
 母艦でもあるイクリプスは艦載機を収容しつつ急速に進路を変更し、近づこうとするノース・セブンスに弾幕を張って防御を行っていた。
 艦載機や護衛機との共同で行われるその防御は見事というほかなく、一時アマツミカボシも距離をとった。
 乱れた呼吸を整えつつ、コンディションをチェック。そろそろライフルとマシンガンの残弾が心もとなくなっているが、APについては余裕がある。左背部に持ってきた「武装」も落っことすことなく健在。ならば、肉薄できればこのイクリプスは撃破できるだろう。

(だが問題は……)

 肝心のAFがいまだに損傷軽微で、このままでは下部にあるレーザーキャノンの射程にメガリスかメガリス周辺の施設が収まってしまうこと。
相手も何の成果もなしに変えるということはほぼありえない。特にオーメルはプライドが高い傾向にある企業だ。
自社への報復を続けるラインアーク相手に一矢報いた、という事実は特に必要なのだろう。
 だからこそ、退避方向に動きつつも、艦載機で遅滞防御に努め、攻撃のチャンスを窺っているといったところか。
 その時、眼下のメガリス管制局からの通信が入る。どうやら状況が気になって通信してきたようだ。

『…はい、こちらアマツミカボシ。あー…はい、大丈夫です。どうやら撤退するようです、はい。
 僕の方で止めは刺しますので、はい』

 眼下では、ラインアークが敷設した対空レーザー砲台が一定間隔で並び、砲撃を送り続けている。
 だが、流石のインテリオル製とあってレーザー兵器への耐久度は高いらしく、イクリプスは悠然と飛行している。
転生者にとっては手軽な獲物であるAFのイクリプスだが、それでもAFらしく脅威であることに変わりはない。
飛ばしやすくするために軽量化されているとはいえ通常戦力では貫通が難しい装甲に、その巨体の持つダメコン能力。
 ならばそれを強引に打ち破るか、それを上回る一撃を与えてやればよい。
 その為に、ノース・セブンスはOBを起動し、一気に上昇を始めた。

6: 弥次郎 :2020/03/27(金) 21:54:51 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

 イクリプスの艦橋では、急上昇し、こちらへの突撃を敢行して来るノース・セブンスへの対処のために声であふれていた。
 これまで損害軽微で収まっていたのだが、どうやらネクストは近接戦に移行し、こちらに取りついてダメージを与えるつもりだとわかったためだ。
残念ながらイクリプス自体の近接防御能力は低い。だからこその随伴機や護衛機によって補っているのだが、これまでの攻撃でそれなりに落とされてしまった。
もしこのまま取りつかれれば大損害は免れない。しかも相手は新鋭の若手リンクスであるアマツミカボシ。
 既にインテリオルやオーメルにもその戦闘スタイルについての情報は伝わっており、対大型兵器・AFと思われる大型ウェポンの存在も、既に知るところとなっている。だからこそ、今自分達の直上から急降下して来るネクストがいかに危険であるかがわかる。
 オペレーターたちは艦載機や護衛機の誘導で何とか時間を稼ごうとし、操舵手は戦闘領域からの離脱を優先して速力を増大させている。
 だが、それでも。

「足りないか…!」

 イクリプスの艦長は器用にポールウェポンでインターセプトを撃墜し、襲い掛かって来るネクストを振り切れないと判断した。
どうにもネクストは止められないし、イクリプスの武装及び防御における死角である直上をとられている。それなりにイクリプスも速いのだが、ネクストを相手にした場合では流石に分が悪すぎた。

「ここまでだな、総員退艦用意!あとは自動操縦に任せる!シフトを変更!急げ!」

 艦長からの命令に従い、各ブロックやブリッジから所定の作業と高高度からの落下に備えた装備の装着を終えた人員は退避を急ぐ。
なんだかんだ言っても、AFという超大型兵器を運用する凡人はリンクスよりは安いかもしれないが、それでもそれなりに値は張る。
使い捨てにすることもあるが、今回は幸運にも人員は退避が許可されていた。いそぎで脱出を図る中で、艦長は最後にモニターに映るネクストを見上げる。

「喧伝されていた新人リンクス、伊達ではなかったか……!」

 ネクストに変わり、AFが企業の主力・象徴となったのは偏にAFが並大抵のリンクスを跳ね除けるほどの性能を得ているからに他ならない。
だが、逆に言えば、AFに駆逐されるようなリンクスは淘汰され、ジャイアントキリングを成し遂げるようなリンクスが生まれたということでもある。
 そして、今まさにそのジャイアントキリングが可能なリンクスだということが証明されようとしていた。

『そろそろ止めだ…!』

 ノース・セブンスがイクリプスに至近距離取りついてから数分も経たぬうちに、イクリプスはそのエンジン部などを破壊されて墜落。
元々注目を集めていたリンクスがAF狩りを成し遂げたという事実はカラードや各企業に改めてその大物新人への興味を誘い、あるいは企業の今後の戦略にどう影響を及ぼすのかを計算し、思案し始めることとなった。それゆえにだろうか、各企業は日企連の密かな動きから目をそらされてしまい、水面下の動きを見過ごしてしまうことになる。全て、日企連が描いていた思惑の通りに。

7: 弥次郎 :2020/03/27(金) 21:55:59 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
久しぶりに筆がのったので幕間を一つ。
大陸クロススレにかかりきりでしたが、こちらでもできる範疇で投下していこうと思いますのでよろしくです。

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最終更新:2020年04月04日 12:46