592: 弥次郎 :2020/06/07(日) 20:45:01 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
大陸SEEDネタ
支援SS 狼はアフリカに吠えた【リメイク】
地上の王者とはなんであるか。陸上での戦争が始まって以来、その問いかけは常に答えを追い求められてきた。
あるものは戦車であるというし、あるものは歩兵であると答える。はたまた、地上を蹂躙する攻撃機と答える者もいるかもしれない。
C.E.にはいってからは、そこに陸上を往く艦艇…陸上艦艇が加わり、あるいは新技術を導入した戦車も登場していた。
時代の変遷は戦争の変遷と直結しており、さらに進化を遂げた戦争が行われた。
そして、C.E.70において、新たな転換点が生まれた。
血のバレンタインを契機とする地球連合と独立国家プラントを称するコーディネーター達の戦争はまさに新時代の幕開けとなるものとなったのだ。
旧来の兵器の根底を成す通信機能やレーダーなどを妨害するNJの投入。そして、有視界戦闘において既存兵器を凌駕する機動兵器、即ちMSの実戦投入であった。
宇宙での戦闘において初めて投入されたMSとNJの組み合わせは、艦艇の数の優位を持つはず連合の戦術の根底を圧し折り、ザフトの勝利を演出した。
無論ザフト側も抵抗を受けて被害を受けてはいたが、キルレシオを考えれば上々といえる結果を出していたのであった。
そうして、新たな時代の戦争は幕を開けることになったのであった。
MSの特徴はその普遍性・汎用性にあった。人型をそのまま拡大したということは、人間ができることがおよそできるということ。
故にこそ、地上にも、水中にも、宇宙にも、場合によっては空へも適合することができ、その脅威は既存兵器の多くを凌駕した。
また、MSは人型の域にとどまることもなかった。戦車の延長といった形のザウート、動物の様な四足のMSであるバクゥ。
有視界戦闘に適合したそれらの兵器は既存の陸上兵器の多くを蹂躙してのけたのである。無論、リニアガンダンクや戦車、あるいはミサイルなどが完全に無意味となったわけではない。しかしながらも、その装甲や機動力を生かした戦闘は、数の有利を持つ連合を一方的に押していくことができる程度には強かったのもまた事実であった。
さりとて、そんな状況で指をくわえて静観するほど、連合の地上軍も無能だったわけではない。
彼等とて危機感を抱いていたし、対MS戦闘メソッドやドクトリンの構築に力を注いでいた。
そして、その努力は時にコーディネーター達の予想さえも上回っていた。
593: 弥次郎 :2020/06/07(日) 20:45:37 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
アフリカの大地を、太陽が情け容赦なく照らす。
もはや焼き尽くさんばかりのその熱量は、迂闊に外に出る人間を無差別に襲っていた。
空に太陽光を遮る雲はほとんど見られず、大地を見渡しても多少の岩や礫が転がる砂漠が広がっており、逃げ込める場所など存在しない。
レオ・ウォーリーはそんな地球とは思えない過酷な世界を、MSのコクピットにあるモニター越しに眺めていた。
このコクピットハッチ一枚隔てた先はまさに灼熱地獄だ。耐環境服も兼ねるパイロットスーツを着込み、コクピット内の空調などを効かせても、身体はどことなく不快な感覚があると訴えてくる。このアフリカにおいて服務規程を、ことさらに服装に関する規定を杓子定規に守る人間は少なかった。
まともに守っているのはよほど後方の充実した設備で引きこもっていられる白服くらいで、残りのザフト兵の多くは通気性に優れた素材に変更した制服を着用し、あるいは着崩すことで何とか暑さと戦っていた。どうあがいても戦いとなれば日光の元に姿を出さなければならず、動けば汗をかき、水が欲しくなる。コーディネーターであろうとも、そういった生理的欲求からは逃れられないのだ。
『まだ復帰は出来ないのか?』
『ええ。スケイルモーターに異常があることは分かっていますが……原因不明です……』
『……引き続き、調査を頼む』
『了解』
ウォーリー隊の母艦であり、ザフト保有の陸上艦艇ピートリー級が擱座してから既に3時間以上が経過していた。
原因は推進機関であるスケイルモーターはさっぱり動かなくなってしまったことで、その巨体は二進も三進もいかなくなったのである。
ではスケイルモーターが動かなくなってしまった理由は何か、と問われても答えられる人間は今のところいなかった。
メカニックやエンジニアたちがあれこれと調査をしているのだが、状況は芳しくはない。一応長距離通信で連絡を取ってはいるのだが、生憎と救援に回せる部隊がいないらしく、時間はかかっても良いから自力で何とかせよ、と命令が出ていた。
『参ったな……あと少しで防衛圏に入れるのに』
『隊長、やはりここは母艦を捨てるべきでは?』
『駄目だ。陸上艦艇はかなり貴重なんだ。例えピートリー級であろうともな……』
周辺の警戒を行うレオは部下の進言を切って捨てる。
『この地球での戦線では艦艇一つがかなり重要なんだぞ?何時でもホイホイと建造できるわけでも、整備できるわけでもない。
ともかく、これでようやく連戦続きの状態から解放されるんだ。もう少し付き合え』
事実、レオの率いるウォーリー隊はゲリラ戦を仕掛ける連合、というよりユーラシア連邦軍や南アフリカ軍の掃討のために駆けずり回っていたのだ。
漸く休みを取ることができる。コーディネーターは確かに肉体的にナチュラルに対して優勢であるが、かと言って休みが要らないわけではない。
レオはその事を地上に降下して以来身をもって理解していた。だから、小隊のメンバーが愚痴るのも仕方がないと思う。
(戦線は拡大する一方。だが、俺達は疲れてもそれを維持しなくてはいけない……)
レオはどことなく不安を覚えていた。いけいけおせおせと勢力圏を広げていくザフトだが、比例するように自分達への負荷は増すばかり。
果たしてどこまで行けるのか、言葉にはしていないが不安だった。今回の出撃にしても、予定外の行軍であったし、救援要請が途中から入ったこともあって予定が大幅に遅れていた。そんなのが続いているから、ザフトアフリカ方面軍は疲弊していた。
まだ致命的ではない。だが、いつか致命的になるのではと懸念もしている。
594: 弥次郎 :2020/06/07(日) 20:46:19 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
ふと、側面を映すモニターを見たとき、何かが動いた。と思った次の瞬間、レオはとっさの判断で叫んでいた。
『っ!?光った!?』
その次瞬間、バクゥ3機が一気に爆ぜた。いや、爆ぜたというより消し飛んだと言った方が良い。
辛うじてコクピット直撃は回避されているようだが、それでも四肢を失うか背部の武装が誘爆し、巨大な火柱となる。
何が起こったのかは瞬時に理解できる。狙撃。しかも、とてつもない大口径砲による射撃だ。
『伏せろぉ!』
レオは叫びながら、機体を飛んできた方向から見て死角となる稜線の影に飛ばす。
実戦経験のあるパイロットばかりであったことが幸いし、次の弾丸が飛んでくる前にジンは残らず地面に伏せた。
しかし、代わりのように、ピートリー級のブリッジが砲撃により消し飛ぶ。冗談のように巨大な爆発が起こって、パラパラと部品の雨が降ってきた。
『……ははは、隊長。母艦は放棄でいいですね!』
『冗談を言っている場合か!』
レオは部下を叱咤し、状況を確認する。今の狙撃でバクゥは全滅。ザウートも消し飛んでいる。MSは展開していた内の4機が一瞬で撃破された。
そして第二撃。時間差で撃ち込まれた砲撃はピートリー級の艦橋と砲塔を正確に狙い、破壊してのけた。
伏せてからしばらく、遠くから音が二波に渡って轟いた。それは衝撃と振動を伴っていて、機体や地面を軽く揺らした。
『……今、音がようやく届いた。となると10kmかそこらは狙撃可能か』
『しかし隊長、今の音、レセップス級の砲と同じくらいの音ですよ!しかも複数!』
『ああ……』
部下の報告と同時に、音響データが送信されてくる。
確かに音そのものは若干劣るが、レセップス級の大口径実弾砲にも匹敵する。
分析にかければ、音は最低でも3つか4つ重なっており、同時に発射されたことが窺えた。
統制射撃、しかも、同時段着を狙ったアンブッシュだ。
『ということは、だ。敵は俺達をつけていたか、網を張っていたってわけだ』
『そんな…』
部下の声に、しかしレオは冷静に判断を下す。
『おそらくだが、奴らにとってもピートリー級の足が止まったのは偶然だろうな。俺たちは60km以上を行軍してきたんだ。
アンブッシュに適した地形が無かったわけはなかった。だが、このタイミングで、友軍の支配地域が近い地点でわざわざ攻撃してきたのは、そうじゃなきゃ攻撃できないからだ』
『そういえば…確かに』
『つまり……相手はそれだけ動きづらいってことですか?』
『ああ』
確信を込めて、レオは頷いた。
『俺の予想だが、敵は巨大な自走砲か何かだ。MSを破壊できるだけの、しかもこの距離を狙い撃てるような奴だろう。
いいか?よく考えれば狙われたのは、止まっていたバクゥとザウートばかり。つまり、それだけ慎重に狙う必要があるわけだ。
俺達ジンに乗っていたのが無事だったのは、止まってはいたが動けばすぐに回避できるからだろうな』
『なら動き回って回避するしかない、ですか』
『ああ。そして奴らが次に取るのは一つしかない』
空気を切り裂いて、何かが飛んでくる音を外部マイクが拾う。そして、空を見上げればそれが見える。
レオは舌打ちしながらも操縦桿を操作した。
『そら、来たぞ!曲射榴弾だ!転がってでもいい、回避しろ!死ぬぞ!』
595: 弥次郎 :2020/06/07(日) 20:46:56 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
「はっ、ジンが無様に寝っ転がっているぜ。こうなれば無様なもんだな」
エドモンド・デュグロ大尉は車長の座席で痛快だと言わんばかりに笑っていた。
はるか上空からの偵察を行う偵察機による弾着観測のおかげで、ヒルドルブは順調な射撃を続けていた。
だが、最初こそ効果はあったが相手もアンブッシュからは回避に徹しているのか、効果は上がりにくくなっている。
このままひたすらに打ち込んでやってもいいのだが、このままでは弾薬の無駄になりかねないし、ピートリー級からの救援要請で敵の増援が来るかもしれない。
ならば、選択するべきは一つしか存在していない。
「大尉、そろそろ榴弾の使用も控えた方が」
「ああ、そうだな。全車に通達。撃ち方やめ。これより近接戦に入るぞ。ケイル、準備はいいな?」
「何時でもいけますよ!」
操縦士のケイル・バードリー少尉が答える。
「レイエス、砲の準備は?」
「ぶっ放す用意できてます」
火器管制のレイエス・バーン軍曹が砲を操作する操縦桿を微調整しながら頷いた。
「ウルフ1よりフライング1へ、ピートリー級は止まったか?」
『こちらフライング1、ピートリー級はほぼ停止。総員退艦している模様』
ノイズ交じりだが、何とか届く声で上空の偵察機から連絡が入る。
「よーし、全車傾注。これより掃討戦に入る。奴らはおびえて動けねぇ。このまま一気に食い破るぞ」
『ウルフ2了解!』
『ウルフ3、待ってましたぜ!』
『こちらウルフ4、武器の準備は出来ている。何時でもぶっ放せる!』
部隊からの返信に、エドモンドはさらに笑みを深くする。
「よーし、全車、パンツァーフォー!」
4頭の砂漠の狼が、猛然と距離を詰め始めた。
『クソ!やっぱりだ!』
『隊長?』
榴弾を避けていたウォーリー隊は、その数を何とか維持していた。
立ち上がれないまでも、地面を横に転がることで砲弾を回避していた。何機かは余波でダメージを受けていたが、それでもまだ戦えた。
だが、レオはそれで終わりとは端から考えていなかった。曲射榴弾の着弾時の射角と、音響センサーからの情報、そして勘。
その3つから相手がとる手段は想像できた。
『音響センサーを見ろ!複数の音源が高速で接近……時速80km以上!?自走砲が前に出てくるだと!?』
『どうするんです!?』
『落ち着け!立ち上がれる奴は迎撃用意!立ち上がれない奴は機体を放棄して逃げろ!最低でもピートリー級の人員が逃げる時間を稼ぐんだ!』
指示を出しながらも、レオは転がっていた重突撃銃を何とか掴ませる。
ステータスチェックを行えばマガジンに弾丸は十分ある。これならば戦える。
『奴らは最初からこれが狙いだ!いいか!時間稼ぎだ!』
『りょ、了解!』
596: 弥次郎 :2020/06/07(日) 20:47:55 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
ジン・オーカー数機が何とか武器を手に取っていつでも立ち上がれるようにする。
何時しか曲射榴弾は散発的に鳴り、やがて終わった。代わりのように、徐々に音源が近づいてくる。
それは以上に長く、そして耳障りに感じる。徐々に徐々に、恐怖の権現が近寄って来るのを感じる。
ごくりと、つばを飲み込む音が大きく聞こえる。
(さあ……こい……返り討ちにしてやる!)
闘志を滾らせるレオは、距離を示すレーダーを睨みながら待つ。
そして、それが近づいてきた。
『ランディー、少し状況を確認しろ…』
『了解…』
ランディーは慎重に操縦桿を引き、機体を地面這わせるようにして動かし、稜線から頭をわずかにのぞかせる。
砂と石ころなどで埋め尽くされていた視界が急速に広がり、迫ってきたものが見えた。
『!?』
そこにいたのは、自走砲の様な、それでいてMSの上半身を無理やりくっつけた戦車の様な何か。
『な、なんだあr……』
そこから先は言葉をつむげなかった。
それを捉えた次の瞬間には、その戦車のような何かの砲塔の一つが咆哮していたのだ。
『ランディー……!?』
消し飛んだ。文字通り。破片が、繋がる先を失った腕や手にしていた無反動砲が面白いように空を飛び、地面に落ちる。
稜線からわずかに顔を出しただけなのに、それを目安に直接照準で狙い撃った。とんでもない巨砲で。
見れば、ランディーのジンのいた周囲の地形は大きく吹っ飛ばされていた。こちらの残りの戦力は残りジン・オーカー5機。まずい状況だ。
『くそ!全機散開!稜線をあまりあてにするな、足を止めるなよ!』
彼我の距離はまだあり、こちらの武器の有効射程内ではない。相手はこちらに対して一方的に射撃を浴びせながら、近距離戦闘に持ち込もうとしている。
いかにそれまで被弾を抑えるか、それが問題だ。ウォーリー小隊は的を絞られないように散開し、必死に銃口から逃れようとする。
しかし、ジンの疾走は猛然と距離を詰めてくるヒルドルブには叶わない。ならば、闘牛士が牛をいなすように、うまく立ち回るしかないのだ。
597: 弥次郎 :2020/06/07(日) 20:48:40 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
「ち、直接照準じゃあやはり咄嗟の回避に対応できねぇな…」
エドモンドは疾走しながらのこちらの射撃をうまく回避していくジンをモニターで確認し、舌打ちを一つした。
アンブッシュでバクゥやザウート、そしてピートリー級を優先して狙ったのは、ヒルドルブ---ケンタウロス突撃砲にとって脅威となり得るからだった。
それに、ジンならば至近弾でも致命傷に近いダメージを与えられると判断して後回しにしていたのだが、予想以上に相手の動きがいい。
「けど、よ。こっちにも武器があるんだぜ!近接火器用意!近距離戦闘に入るぞ!」
『了解!』
ヒルドルブの突進がマシンガンの銃撃と共に迫る。だが分かりやすい。回避できる。
『おっと!』
『隊長、そっちにもう1両!』
レオは部下の言葉を信じて大きくジャンプ。立っていた場所にレールガンの弾丸が突き刺さる。
衝撃と舞い上がる地面でバランスが崩れかけるが、それをマニュアルでうまく調節。着地した。
『捉えた!』
そして、冷静に側面から狙い撃つ。しかし、その銃撃は弾かれていく。側面に設けられた追加装甲がしっかりと守っている。
その射撃に気がついたか、そのMAのような何かは、驚くべきことに上半身をこちらに向けてきた。自走砲かと思いきや、どうやら戦車らしい。しかも砲塔部分がMSの上半身のようになっているときた。
(厄介だな……くっ!?)
こちらに腕を向けるモーションを見た瞬間、レオは咄嗟の判断で横にジャンプする。果たしてそれは正解だった。
『拡散弾!?腕の武器は選択できるってことかよ!?』
驚愕しながらも、レオは操作をやめない。着地を最小限にしてさらに横にステップ。
大口径砲が吠え、レオのジン・オーカーを衝撃が揺らす。砲弾を回避は出来たが、その着弾の振動は正しく地面が揺れるようだった。
すぐ近くを巨体が通り過ぎた。すごい勢いだ。そしてそいつは滑らかにターンを決めると折り返して再び接近してくる。
しかし態勢を立て直し、今度は慎重に狙いを定めた。
『落ちろ!』
『この野郎……!』
レオの重突撃銃と僚機のスチムソンの放った無反動砲が襲い掛かる。
『やったか!?』
『いや、まだだ!なんて硬さだよ!?』
無反動砲は確かに直撃したが、それは側面と若干耐久性に劣る本体の装甲をカバーするモジュール装甲が防ぎ切った。
だが、レオは攻撃の手を緩めない。狙うのは輪帯だ。破壊すれば足は確実に止まる。それが常識だ。
しかし、その必死の射撃をデカブツは速力で振り切ってしまう。追撃を掛けようとしたが、その前に警告(アラート)。
後方から敵機が迫ってきていた。レオは咄嗟に操縦桿を倒し、ジンは地面を転がるようにして左に避けた。
そして一瞬前までジンがいた位置を30センチ砲弾が通過した。ギリギリだ。冷や汗を感じるまもなく、追撃の120mmマシンガンが襲ってきた。
2丁構えられたそれは圧倒的な弾幕でおいかけてくる。装甲に当たり、ひびが入り、砕けていく音がコクピット内部にも響く。
(なんて威力だ)
そう歯噛みをしたとき、ちらりと後部カメラに何かが映った。破片と粉々になっていくMSのボディ。それは見慣れたジンの物。
598: 弥次郎 :2020/06/07(日) 20:49:39 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
『!?ハリマン!』
後方から回り込んできたタンクに相対していた僚機の姿が見えた。
凄まじい金属音の後に、部下のハリマンの乗っていたジンが錐揉みしながら地面に叩きつけられた。
よく見れば、MAはまるで重機のようなショベルアームが振り抜いた状態だった。それで殴られたのだろう。
単純な重量による打撃は、時として銃器をも凌駕する。その端的な例だ。
その時、レーダーにはもはや動く友軍がいないことに気がついた。カメラを動かせば、スチムソンのジンも倒れた。
『くそ!クソ!』
徐々に包囲網が狭まっていく。確認されたMAは4機だが1機少ない。
恐らく、ピートリー級の始末に向かったのだろう。
そして包囲されているのは自分1機。残りは、全滅だ。
『畜生……!なんで俺は……!』
そして、砲撃がジン・オーカーを襲った。悪態が、彼の最期の言葉になった。
「これであらかた片付いたか?」
エドモンドはふう、とため息をつきながらも状況を確認する。
装甲が分厚く、近接戦闘においてもMSの主兵装でも簡単に抜かれないとわかっていても被弾するのは中々心臓に悪い。
しかもMSとの彼我の距離が狭い状況での戦闘だ。戦車乗りとしては、些か慣れていない距離だった。
『こちらウルフ4、残党はあらかた始末した。機体の破壊は十分行った』
「ウルフ1了解。ピートリー級は入念に破壊しろよ」
残るヒルドルブも機体の破壊に移っていた。パーツを粉々にしてしまえば、回収できても修復できなくなる。
銃火器を使わなくても、ヒルドルブの重量で押し潰せばそれだけでパーツは歪められる。エドモンドもそれに加わるように指示を出そうとして、鳴り響いた警告に咄嗟に身を起こした。
「何!?」
吹き飛ばしたはずのジン・オーカーの一機が立ち上がり、重斬刀を振り上げていた。至近距離に倒れて動かないでいたのでノーマークだった。
『こ、この、距離ならぁ……!』
片腕を失い、頭部を損傷し、もはや満身創痍の状態。それでも、何とか立ち上がっていた。
動きは既にガタガタ。しかし、その重斬刀はまっすぐにヒルドルブを狙っていた。
コクピット内部のスチムソンも、割れたモニターや機器類が体中に突き刺さり、満身創痍。だが、それでも動かした。
『死ね……ナチュラル!』
「退h……!」
599: 弥次郎 :2020/06/07(日) 20:50:43 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
エドモンドが叫ぶより早く、何かが、ジン・オーカーに止めを刺す。
30センチAPFSDS。それが、ジン・オーカーの装甲を食い破り、貫通するというよりは斬り飛ばした。
発砲音からするに凡そ18kmは離れている。そして、回線で声が届いた。
『ウルフヘッドよりウルフ全車。油断し過ぎだぜ』
独特の、そしてヒルドルブ訓練の最中に何度も叱咤された声の主を、彼らは知っていた。
『ソンネン少佐……』
オリジナルのヒルドルブをたった一人で十全に運用してのける生粋の戦車兵 デメジエール・ソンネン少佐。
ムンゾから派遣されてきた古強者は厳しい言葉を送って来た。
『油断するなって言っただろ?敵は一発で仕留めろ。それで十分だ』
その言葉に、ウルフ小隊全員がはっとする。
浮かれ過ぎていたのだ。このヒルドルブの持つ性能の高さに。MSさえも凌駕しえる、強力な陸上の王者。
コーディネーターを打ちのめせる狼に、酔っ払ってしまった。それは戦車兵としてあるべきではない姿だ。
『だが、全員よくやった』
しばし悔やんでいたウルフ小隊に、予想外の言葉が掛けられた。
『最後でしくったが、それまではほぼミスなしだ。良い腕だ。急いでずらかるぞ。ザフトの奴らが来る』
「りょ、了解。ウルフヘッド、援護を感謝します」
『後で奢れよ?ウルフヘッド、アウト』
しばし茫然としていたが、エドモンドは切り替えて通達する。
「ウルフ1より各車。急いでずらかるぞ!ぼさっとするな!一番遅い車両の奴が少佐に奢ることにする。いいな!」
『ウルフ3了解!』
『ウルフ2ラジャー!』
『ウルフ4了解。高いやつは避けてほしいもんですね!』
苦笑しながらもエドモンドは撤退を指示する。
この戦闘で量産型ヒルドルブ(ユーラシア呼称ケンタウロス突撃砲)4機、否4両はジンを主力とするMS部隊を全滅に追い込み、また貴重な陸上艦艇のピートリー級1隻をほぼ破壊しつくし、ザフトの重要な戦力を破壊せしめるという働きを見せた。
このウルフ小隊の活躍を聞いた他のヒルドルブ小隊をより奮起させたのであるがそれはまた別な話であった。
600: 弥次郎 :2020/06/07(日) 20:51:21 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
基地に帰投したケンタウロス突撃砲を迎えたのはたくさんの整備士だった。
大型兵器故にケンタウロス突撃砲は整備に時間を食い、パーツもかなり必要となる。まだ配備されて間もないころということもあり、当然のことながら慎重な整備が求められていた。
「ええ……やはりここには負荷がかかります。ええ、やはり消耗品はすぐに変えた方が十全に使えるかと」
「やはり消耗が激しいですね……オリジナルのヒルドルブよりもかなり質は向上しましたが、見積もりが甘かったでしょうか?」
「砂漠は一見同じに見えても、結構違いますからねぇ。オーストラリアでのテストと多少違ってもおかしくありませんぜ」
「分かりました。報告にも上げておきますね」
整備士や技術者と話をしていたオリヴァー・マイ技術中尉は、帰投してきたケンタウロス突撃砲より一回り大きいヒルドルブを見て嘆息した。
「やっぱり出ていた……」
車体をすっぽり治める専用格納ハンガー収まったヒルドルブから、一人の日焼けした男が顔を出す。
「よう、中尉。帰って来たぜ」
「……御無事で何よりです、ソンネン少佐」
一応敬礼して迎える。たとえそれが、勝手な出撃であってもだ。
「そんな怖い顔をするなよ、中尉。あいつらの命を救ったんだから」
「……はぁ、仕方ありませんね。今回は大目に見ますよ」
降参した技術中尉にソンネンは屈託なく笑う。
「ウルフ小隊の奴らが奢ってくれるぜ、今夜も付き合えよ?
で、ケンタウロス突撃砲はどうだ?」
「現場の兵からもかなり好評です。ケンタウロス突撃砲じゃなくて、ヒルドルブって呼ばれてますね。
ユーラシア連邦もかなり乗り気になってます。国土的要素から大洋連合よりも陸上戦力への注力が大きいためでしょう。
アフリカの大反抗作戦に間に合うようにとせっつかれてます」
「へぇ……」
「他人事じゃないですよ、少佐。教官役が必要なので少佐にも頑張ってもらう必要がありますからね」
「ああ、もっと戦車兵を鍛えろってことだろ?任せとけ」
「期待していますよ」
そこまで言ったとき、エドモンド・デュグロ率いるウルフ小隊がやってくる。
誰もが、今日上げたスコアに喜びを隠していない。
「少佐ー!先ほどはありがとうござましたー!」
「ウルフ3の奴らの奢りですよ!思いっきり騒ぎましょう!」
「ようし、明日は非番なんだから思いっきり飲もうぜ!」
気の置けない戦車兵同士の姿は、まるで家族のようですらあった。マイは、困りながらもつられるように笑った。
しばしの休暇が彼らを待っていた。今日は生き延びることができた。だからそれを喜ぼう。
地獄のようなアフリカ戦線で、彼らは必死に生きていた。そして祈る。明日も、生き延びられるように、と。
601: 弥次郎 :2020/06/07(日) 20:52:23 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
【キャラ&メカニック紹介】
〇デメジエール・ソンネン 階級:少佐
大洋連合 ムンゾ出身の戦車兵。
MS IGLOOに出演したデメジエール・ソンネンの同位体的存在。
コロニーという閉鎖環境でありながらも決して戦車を見捨てることなく、自らの道を貫く生粋の戦車乗り。
MSに対して既存兵器でどこまで抗えるかを研究するために地球に招聘され、ヒルドルブの開発に携わった。
本来ならば複数人で運用するヒルドルブをAIの補助も受けながらとは言え単独で十全に扱うなど、その腕前と技量はエース級。
原作と比較すればヒルドルブをはじめとした戦車への固執がなく、MSに対してもそこまで敵視していない。
どちらかといえば、二足歩行という戦車に比較すれば不安定な陸上兵器の導入に対する警戒心の方が強い。
本作においてはヒルドルブ導入を検討するユーラシア連邦の戦車兵への教導官として登場。
〇オリヴァー・マイ 階級:中尉(技術中尉)
大洋連合 ムンゾ出身の技術者。
MS IGLOOに出演したオリヴァー・マイの同位体的存在。
ヒルドルブ開発にも少し関与しており、その関係でソンネンとは知己となっている。
現在はアフリカ戦線においてヒルドルブの問題点の洗い出しと技術的なデータ収集を行っているほか、ゴブリンなどの大洋連合の販売した兵器の情報を集め、フィードバックをもたらす分析官としても活動。
〇レオ・ウォーリー 階級:-
プラント ザフトのMS隊隊長。
オリジナルは存在しない架空の人物。名もなきモブ。
地上戦線に投入された生粋のコーディネーターであったが、現実と理想の違いを目の当たりにし、絶望しつつも、泥臭くてもいいから生き延びようとする兵士。生存や戦略性を重視する指揮でこれまで何度も死地を抜けてきた。
しかし、母艦のピートリー級のエンジントラブルによってヒルドルブに狙われ、戦死。
〇エドモンド・デュグロ 階級:大尉 コールサイン:ウルフ1
地球連合陸軍の戦車兵。現在はアフリカ戦線でヒルドルブの運用を行う小隊に属している。
元ネタ的には機動戦士ガンダムSEED C.E.73 STARGAZERに登場した男性である。原作においては第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦後に退役している。
〇レイエス・バーン 階級:軍曹
地球連合陸軍の戦車兵。ウルフ1のヒルドルブの火器管制を担当する。
実はこのキャラも機動戦士ガンダムSEED C.E.73 STARGAZERに登場していた。
第一話において嘗ての上官であったエドモンド・デュグロと共にリニアガンタンクを操り、至近距離からレールガンを浴びせてジン タイプ インサージェントを撃破した。エドモンドは死亡したが、
漫画版においてはレイエスは負傷しながらも生存した。
YMT-05 / GMT-05 ヒルドルブ
全長:32.2m
全幅:14.3m
全高:6.5m(モビル形態時:12.3m)
全重量:205t
動力:大洋連合製熱核融合炉
最大速力:120km/h
乗員(YMT-05):1名
乗員(GMT-05):4名以上(車長 火器管制 通信管制 操縦士)
標準武装:
30センチ主砲×1門
120mmマシンガン×2丁
スモークディスチャージャー×4
格納式20mm近接機関砲×4門
概要:
大洋連合が開発した陸上用MA(区分上はモビルタンク)。
30センチという大口径火力と最高時速120km、さらにジンの重突撃銃さえも容易く弾く装甲を兼ね備えた陸上戦艦。
オリジナルとなったヒルドルブとほぼ同じではあるが、武装面での改良がおこなわれ、武装の搭載スペースが確保されているため、多連装ロケットやビーム兵器の搭載さえも可能となっている。しかし、その性能と引き換えに原作同様にインフラに負荷をかけている。
試作段階ではほぼオリジナルのヒルドルブと同じものも作られたのだが、パイロットが一名ということによる操縦の煩雑化と視野の狭さ、長期的な戦闘における運用の難しさという課題は残った。そこでオリジナルにちかいヒルドルブと、より簡便且つスケールダウンされた量産型ヒルドルブの生産へと切り替わった。
602: 弥次郎 :2020/06/07(日) 20:53:09 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
GMT-105 量産型ヒルドルブ(105ヒルドルブ)/ケンタウロス突撃砲(ユーラシア呼称名)
全長:27.4m
全幅:14.2m
全高:5.52m(モビル形態時:10.3m)
基本重量:187t
最大速力:120km/h
動力:大洋連合製熱核融合炉(バッテリーに換装したマイナーチェンジ機もあり)
乗員:3名若しくは4名(火器管制 操縦士 通信手 車長)
標準武装:
30センチ主砲×1門
スモークディスチャージャー×4
格納式20mm近接防御機関砲×2門
サブマニュピレーター×2
搭載砲弾:
通常榴弾(HE弾) 対戦車榴弾(HEAT弾)
対戦車焼夷榴弾(HEAT/I弾) 粘着榴弾(HESH弾) 徹甲弾(AP弾)
装弾筒型徹甲弾(APDS弾) 弾筒型翼安定徹甲弾(APFSDS弾) 対空用榴散弾(type3)
概要:
大洋連合が開発したヒルドルブの改良型。
全体的に機構の簡略化とサイズのダウンが行われ、より簡易に、より多くの兵に扱えるように改良がなされている。
オリジナルのヒルドルブの段階で提案されていたものがほぼ流用されており、開発自体はYMT-05試作型ヒルドルブを経てかなり短期間で完了した。
開発そのものはどちらかといえば肥大化した機構のサイズダウンばかりであったことも短期間での開発につながっている。
武装面では引き続き30センチ砲が搭載された。オリジナルと比較すればより簡易な変形機構によって整備性が向上しているほか、全高が低く抑えられているためにオリジナルのようにモビル形態で側面をむいて主砲を発射してもそこまで車体が傾くことはなくなった。
変形機構については採用するかどうかも議論されたのだが、変形機構によって射角を一定程度は保つべきとの判断から残されている。
また複雑な作業を行えなくなるかわりに低コスト化を図るためマニュピレーターを廃して武器を一体化させた腕部に置換されている。
この腕部型武器にはバリエーションがいくらか存在し、120mmマシンガン、ビームカービン、ビームマシンガン、ガトリング、対MS重ショットガンなどを選択して搭載可能となっている。近接戦闘用の武装についても検討されたのだが、護衛機(あるいは随伴するMS)との連携が前提であるために積極的な採用は行われなかった。
しかし作業用ショベルアームが引き続き採用されているため、格闘戦が不可能というわけではない。
防御面において、オリジナルよりも装甲は薄くなっているがあくまで数値上の話であり、大口径砲を想定した複合装甲によって、むしろ実弾系への耐久性を高めている。これはMSをMSが保有する火器の射程に入る前に主砲で先に撃破するという運用方針が採用されたためで、あくまでもMSを安全な距離で撃破するための自走砲としての面が強化されたことも絡む。
砂漠のようなビーム兵器が減衰しやすい環境ではビーム兵器が使われにくいことを利用しTPS装甲をバイタルパートに採用したモデルもある。
乗員は3名~4名。車長 火器管制 操縦士 通信管制となっている。自動化をかなり進めているために、カタログ上では、熟練したパイロットが2名いれば十分な性能が発揮できるが、運用の難しさや煩雑性を考えて基本的に3名以上での運用が強く推奨されている。
総合的に見れば、オリジナル以上の性能を示しており、量産型ヒルドルブは地上での運用に限って言えばMSを凌駕する仕上がりとなっている。
要求されるMS適性の低さと戦車と変わらない操縦性から戦車兵にはまさに理想形と言えるMAであり、MSに蹂躙されてばかりで鬱憤をためていた戦車兵たちにとっては正しく救世主のような存在となった。
ユーラシア連邦ではこれを一部センサーやC4Iの拡張を行ったマイナーチェンジモデル『ケンタウロス突撃砲』を運用している。
しかし、現場の兵はオリジナルとなったMTにあやかってヒルドルブという呼称を使い続けている。
603: 弥次郎 :2020/06/07(日) 20:54:43 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
以上となります。wiki転載はご自由に。
改訂版というか、思いっきりリメイクしたバージョンですな。
差し替えは不要なので、リメイク前も残したまま、転載していただければ幸いです。
時風氏の作品に刺激されてちょっとリメイクしてみました。
久しぶりに自分の作品を見直すと、まだまだ勢い任せだったなぁと思うことしきりです…
最終更新:2020年06月13日 11:48