726: 弥次郎 :2020/06/09(火) 22:54:52 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
日本大陸SS 漆黒アメリカルート 「南北対立、そして南西和解へ」




 南北戦争、アメリカ合衆国の言うところのCivil War、アメリカ連合国の言うWar for Southern Independenceが終結し、アメリカという一つの国家は、北部州を中心としたアメリカ合衆国とアメリカ連合国の二つへと分断された。
 様々な要因こそあれども、奴隷解放を宣言し、これまでの在り方から独立して独自路線を歩み始めた南部アメリカ
 これまでの在り方を維持し、建国初期のころから続く戦争経済---そしてそれに絡む幾多の非道を引き継いだ北部アメリカ。
これまでの「一つのアメリカ」という前提が大きく崩れ、袂を分かったことで情勢は大きく変化していた。

 アメリカ連合国が独立と奴隷解放を掲げた理由の一つが、西進に伴う戦争経済の負担に耐え切れないと判断したことに由来する。
元々南部州は奴隷を労働力として用いることで産業を回し、貿易によって栄えてきた過去を持つ。即ち、奴隷とはあくまでも商品であり、労働力であり、重要な資産と言えるものであった。扱いこそ悪かろうが、一定以上の価値は見出していたのである。
 他方、北部アメリカにとっては、西進における労働力であると同時に、奴隷兵士、つまり使い捨ての弾除けという面を持っていた。
初期に正規軍兵士も民兵もことごとくを打倒されたことで、穴埋めに奴隷は兵士として投入され、そして必然的に弾除けのように使われたのだ。
北部は南部のように労働力としての奴隷を欲しているとは言い難く、実際比率的には南部の方が大きかった。
そんな北部が抱える奴隷がいなくなれば、当然あるところから持ってこようと考えるモノ。そして目がつけられたのが、南部州が抱えている奴隷たちであった。元より西部遠征における兵士の死亡率は高かった。インフラなぞ存在しない道をひたすらに進み、野獣や自然と戦いながらひたすらに数カ月をかけて大陸を横断し、そして戦闘を行う。途中で病気にかかることもあれば、荒くれものとかちあう可能性もある。そもそも西部との技術差やユニットの能力差から生じる差は東部側に多数の死傷者を出すことで如実に表れていた。
最初こそ融通していた南部であったが、やがてその扱いの低さに拒否を示すようになった。

 前も言ったが、南部において奴隷とは労働力であり、言ってみれば財産でもある。金を出して買ったものであり、元を取る以上の働きをしてもらわなければ困るし、その為ならばある程度の待遇は用意するものであった。代替可能であるからと言って、決して使い捨てにしてよいものではなかったのである。また専門職にまで経験を積んだ奴隷というのはもはや換金不可能なものであり、主人にとってそういった奴隷を抱えているということは一種のステータスでさえあったほどだった。
故にこそ、兵役に押しこんで使い捨てにする北部へは反発が起きようというもの。
 だが、さらに北部の要求は拡大する。戦争経済に染まりその循環を回すことを覚えたことで、無意識のうちに要求を募らせたのだ。
次に要求されたのは南部州において牧畜されていた馬や牛の徴発であった。これも南部にとっては死活事項だ。
開拓とは、土地を切り開き、畑を作り、住処を作る必要がある。その時の重要な労働力が牛や馬である。これがないと全てが人力。たまったものではない。
斯くして不満は南部州の上から下までの、白人から黒人奴隷たちまでの共通のものとなって蓄積したのである。

727: 弥次郎 :2020/06/09(火) 22:55:42 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

 さて、南北戦争後に南部アメリカ---独立したアメリカ連合国が真っ先にやったことはいくつかあったが、そのうちの一つが加州および大日本帝国との間での和平であった。もとより戦争経済をやめるために独立した節もある南部だ、当然と言えた。
加州としても、大日本帝国としても、これまで合衆国の侵攻の下支えをしていた南部が独立して離脱するというのは歓迎するものであり、捕虜の受け入れや賠償金などを条件に速やかに受諾。合わせて友好通商条約と安全保障条約を結び、急速に対合衆国の体制を作り上げた。
心情的に見てまだアメリカ連合国(以下米連と呼称)に対して良い印象を抱いてはいない大日本帝国ではあったが、このまま北米大陸で二カ国もの仮想敵を抱えるのは良くないだろうという判断であり、また、米連を味方に引き込めれば、合衆国に対して常に二方面からの圧力をかけることができるという大きな軍事的メリットを得られることが締結を後押しした。

 これらの条約が締結後、米連に流れ込んだのは、加州が抱えていた膨大な富であった。
 即ち、発生していたゴールドラッシュによって蓄積していた大日本帝国の資金の一角。経済・工業基盤の弱い南部にとって垂涎の的となるものであった。
投資の先は、いくらでもあった。というのも工業基盤がまだ弱いということは投資する先がたくさんあるということであるし、同時に投資をすればリターンが見込めるということである。まだ未発達だからこそ、いくらでも育てられるというわけだ。
さらに元々の産業---綿花をはじめとしたプランテーションなど---もこれまで以上の資本の投入が行われることになった。
伊達や酔狂で綿花を作っていたわけではない。それが売れるからこそ南部は大量に奴隷を動員してでも作っていたのだ。
当然であるが、こちらも加州において需要が存在していたし、少々遠くなるが日本大陸においても需要は存在した。つまり、売れる、というわけだ。

 さらに投資の受け皿となったのが、テキサスにおいて発見された大油田帯であった。資源の算出というのは即ち工業に直結する。
今でこそ蒸気機関というものが主流であるが、いずれは石油をはじめとした資源を消費する内燃機関というものが大勢を占めることになる。
夢幻会からしてみれば、早いうちからガソリンや石油に関する研究を他国由来の資源でできるというのは万々歳であった。
 当然のことながら、これらの投資は戦争で疲弊して失速していた米連の経済を一気に再加速させるだけの燃料であった。
奴隷解放ということは、一応労働者として扱うということであり、給与の支払いなどが生じるのだが、それを補って余りある資本がなだれ込んできたのである。
そういうわけで、元奴隷現労働者を多数抱えていた現雇用者達は案外すんなりと奴隷解放を受け入れることになった。
 斯くして、南北戦争の終結と米連の独立後の北アメリカは、戦災復興を兼ねた未曽有の特需と経済成長期に突入。
これまで北部に後れを取っていた分野を補うため、猛烈な勢いで成長を開始していった。

728: 弥次郎 :2020/06/09(火) 22:57:46 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

 ところが、そううまい話ばかりではない。
 米連の独立と発展は、裏を返せば合衆国にとっての消費財の供給地と金のなる木を失ったに等しいものであった。
元より戦争経済をしていた合衆国にとっては南北戦争の勃発自体は歓迎するものではあったが、まさかそれが思いもよらぬ結末となり、おまけに奴隷を多数抱えて国家の支えとしていた南部州の方が解放を宣言してしまうという事態を引き起こしたのは計算外過ぎた。
その為か、戦争終結直後は経済低迷が発生、時の大統領であったリンカーンも史実と異なりさっさと大統領の席を譲り渡す羽目になっていた。

 だが、そう悲観のままでいるわけにもいかなかったし、そもそも戦争経済に慣れっこになっていた合衆国はすぐさま次なる投資先を見つけることになった。
 即ち、南部方面への進出の検討と、その為の軍事増強であった。これまで西部方面主体だったものを南部へも振り分ける必要が出来た、つまり、それだけの需要が発生しているということで、むしろこれまでよりも敵国との接する国境が長くなったことで拡大していたのである。
 さらに、供給されなくなった奴隷については国内で増やすか、あるいは低賃金の「労働者」としてアフリカから仕入れることも出来た。
大量の戦死者が出たということは、これ以降の戦いはより命を消費する戦争が行われるということ。つまり、奴隷の需要は高まるばかり、というわけだ。
この頃になれば既に奴隷---現状ではすでに労働者ではあるが---その「消費財」の生産についても板がついて来た。
犯罪者、孤児、黒人、非白人、ネイティブ・アメリカンなどの少数派や社会からの脱落者などを集め、多産を行わせ、「出荷」する。
人間牧場も各地で拡大して体系化しつつあったし、それが一般化していくだけの時間は十分に過ぎていた。
 そして、北部もまた、戦争に伴う新たな技術発展による特需を迎えていた。新兵器がいくつも登場したということは、それをさらに発展させ、量産し、配備するというプロセスが存在するわけで、これもまた国家経済の循環をもたらすものであったのだ。

 そして量産された兵器や消費財は米連との国境線---北緯36度30分のレッドライン---に配置され、西部「進出」の焼き直しが行われることになった。
 合衆国側も当然であるが米連の発展の噂や情報については獲得していた。新しい資源、膨大な労働力、拡大する市場。
それらすべてが垂涎のものと映ったのである。当然欲しがるわけであるし、実際に得ようとする動きは留まることを知らない。
お題目として掲げられるのは「北米統一」「合衆国の再統一」「分裂した母国の再興」。それが、全て北部州、合衆国にとって都合が良いものであることは、そのお題目やら何やらを見た南部州や加州、そして大日本帝国の目から見れば、火を見るよりも明らかであった。
 斯くして、南部の米連と北部の合衆国は南北戦争からほどなくして紛争状態へと突入。西部紛争と同じく、長らく続くことになる。
 北米は、時代は、まだまだ流血に飢えているかのようであった。

729: 弥次郎 :2020/06/09(火) 22:58:38 HOST:p2580066-ipngn200609tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
米連と加州は和平を結び、南北対立が発生して、再び紛争を呼び込む…
人間の愚かさが表れているかのようですな…

次はちょっと用語解説とかを投下しようかと思います
時間は頂くことになりそうです…

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2020年06月13日 14:19